対象
検証の続きです。
あれから数日、私はいつも通り思いつく限りのお菓子を作り、ツァーリ様をはじめ騎士さん、魔道士さん達に検証をしてもらっていた。
「ユーカ様、そろそろ次の対象にいってみましょうか」
皆さんが帰った後で片付けをしていると、それまで黙々と今日の検証結果をまとめていたツァーリ様が口を開く。
次は何に試すんだろう。
というか、結局どれだけ作っても私からの魔力の流れは一度も感じたことがないとツァーリ様は言ってたけど、それはもういいんだろうか。
「次、ですか?」
「ええ。どうやって貴女の魔法付与が行われているのかは不明のままですが、これまで作っていただいたものには効果の差はあれど全て付与がされていました」
そうなのよね、私は魔法付与とか何も考えずに作ってるんだけど、驚くことに全部何かしらの効果がついていたみたいで。
「ですので、次は魔力を帯びた物、無機物、食材で試してみようと思います」
「あの、魔力を帯びた物って何ですか?」
「魔力を動源として動く物、もしくはその核ですね」
「核?」
いまいちよく分からなかったけど、魔力を動源として動く物とは日本でいう電化製品とか、そういう物らしい。
無機物は全く動かない、電気も通さないもの。
ベッドやテーブルセット、食器とか。
核は電気の素になるもので、魔力を動源として動く物に付けることで電化製品として使うことができるんだとか。
確かにコンセントないのにどうやってオーブン動いてるんだろうって思ってたんだよね。
「我が国では火、水、電気といった生活に使うものは全て核の力で動いているのですよ」
核は触れることで反応し、操作できるという。
そういえば、お水出したい時も蛇口に手を当てたらいいってラミィに教えてもらったっけ。
日本でのことを思うとそこまでの微調整はできないけど、ある程度なら火も水も調整できるんだからすごいよね。
納得した所で、まずは魔力を動源として動く物から試してみることに。
このキッチンにある電化製品……ポットでいいかな。
私はちょうど近くにあったポットを手に取り、魔力を手のひらからポットに流すイメージで集中する。
まずは体内の魔力の流れを感じ取って、それをゆっくり手のひらに集めていく。
集まったのがわかったら、ポットに魔力を送る。
「…あれ?」
結論だけ言うと、手応えはあった。
ちゃんと付与出来ているかは別として、ポットの核に反応した気はする。
……んだけど、何か急にポットが重くなったのは何故?
「どうされましたか?」
「えぇと……」
ツァーリ様に手応えはあったこと、急にポットが重くなったことを伝えるとキョトンとされてしまった。
「それは付与ではないかもしれませんね」
じゃあ何が起こったのか。
とにかくポットの中を見てみようと蓋を開けてみると、空だったはずのポットには水がたっぷり入っていた。
……何で?
ポットはお水を温めるための火の核が付いてるから、核に反応するとしたらお水が溜まるんじゃなくて熱くなるはずなんだけど。
「…水魔法が発動していますね」
「へ?」
「ユーカ様、ステータスを」
「あ、はい。『ステータス オープン』」
島崎佑花 Lv 45
属性 : 光 闇 水
HP 1820/2000
MP 6950/8700
スキル : 属性魔法無効化 状態異常無効化 迎撃(中) 魔法付与
状態 : 健康
「相変わらずおかしなステータスですねぇ」
「何かすみません…」
「いえ、凄いことなのですよ」
魔法の練習は続けてるけど、それにしてもレベルの上がり方が異常なんだよね。
それ以外はお菓子作ってただけなんだけど。
もしかしてお菓子作りも経験値入るのかな?
「属性が増えていますね」
「え? あ、本当ですね」
「……本当に規格外な方だ」
言われてよく見ると属性に水が追加されている。
これがポットに水が溜まった原因のようだ。
ツァーリ様がステータスを見て苦笑しているのでどうしたのか尋ねてみると、どうやら途中で属性が増えることは前例がないらしい。
調べることが増えたと苦笑していたそうだ。
「先程ポットに魔力を送る際、何か考えていましたか?」
「いえ。魔力の流れを手のひらに集めて、それを流すイメージしか」
「付与については?」
「どうやったら付与できるのかわからないので、特に考えてません」
そうですか、と少し考える素振りを見せると、ツァーリ様はグラスを持ってきてポットの水を少し入れ、そのままポットを私に手渡した。
「今度は魔力を流す際に付与……つまり、ポットに魔力を置いてくるようにイメージしてみて下さい」
「置いてくる……魔力をあげるって感じですか?」
「ええ、それで結構です」
さっきはポットに魔力を満たすイメージだったから、それをそのまま残しておくイメージって事だよね。
シュークリームにクリームを入れ続けるんじゃなくて、適切量入れてそっと外すような。
うん、シュークリームの例えはいいかもしれない。
適切量はわからないけど。
再びポットを手に集中する。
手のひらに魔力を集めて送るところまでは同じ。
そこからはその魔力をポットの内部にまとめて切り離すイメージで。
……うん、できたと思う。
目を開けてポットを見ると、見た目も重さも変わりない。
ツァーリ様はいつの間に呼んでいたのか、ちょっと前まで検証に付き合ってくれていた魔道士さん達にさっきの水と今の水を飲んでステータスの変化がないか探るよう指示を出していた。
その結果は明日聞くことにして魔道士さんは再び帰っていき、今度は無機物へ。
私はテーブルの上のティーカップを手に取り、同じように魔力を置いてくるイメージで流していく。
「………また水ですね」
「あれ?」
目を開けたら、ティーカップの中は水で満たされていた。
水魔法使おうとした訳じゃないのに何で?
よくわからないからそのまま核も試してみようと、ツァーリ様が用意して下さった核を手の中に包み込み、やっぱり同じように魔力を流す。
「何も起こりませんね」
「どうなっているんでしょう…?」
「わかりませんが、恐らくどれも魔法付与はされていない感じがします」
魔力の流れについてはツァーリ様が見てくれていて、その時は確かに流れていたけれど、お菓子の時と違って私が手を離すともう魔力はそこに残っていなかったと言っていた。
その後も食材等いくつか手近なもので試してみだけれど、どれも結果は同じ。
時々水魔法が発動してしまうくらいで付与は出来ていなかった。
「では次は人物で試してみましょう。私に魔力を流してみて下さい」
「は、はい」
「肩の力を抜いて下さいね」
この相手に魔力を送るやり方はツァーリ様に魔法を教えてもらうようになってから何度か経験しているので勝手はわかる。
ただ、これやる度に思うけど、パパ以外の男性と手を握ることなんて人生の中でほとんどなかった私にとって緊張するなって方が無理なんです。
しかもツァーリ様はアルバート様やアルター様とはまた違ったタイプの美形さんで、なのにこっちの人は皆さん妙に物理的距離が近いから心臓に悪いんですよ!
…なんて言えないので、私は差し出されたツァーリ様の手を取り、深呼吸をして何とか魔力を集中させる。
それをツァーリ様の手に渡すようにそっと自分の魔力を切り離して目を開けた。
目の前のツァーリ様は自分のステータスを確認している。
「確かに私の中に貴女の魔力を感じました。置いてくる感覚も良いと思います」
「よかった…」
「ですが、やはり付与にはならないようですね」
「ステータスも変わりないんですか?」
「ええ、特に。念の為明日は魔道士団と騎士団に行って何人か試させていただきましょう」
「わかりました」
明日もお迎えに来ると言ってくれたけど、二度手間になってしまうからと私が魔道士団の詰所を訪ねるということで話はまとまったので、そのまま私を部屋の前まで送ってツァーリ様は帰って行った。
お菓子は何を作っても何らかの効果が付与されていたのに、他の物に付与しようとしたら何故か水属性魔法が追加されて、なのに付与はできていない、と。
今日の内容を頭の中でまとめながら、ラミィの淹れてくれた紅茶をいただく。
ツァーリ様にも魔力操作は問題ないって言ってもらえたから、きっと物や人は私の魔法付与の対象じゃないってことなんだろう。
だとすると、お菓子に関わらず自分の手で作るものが対象って可能性もあるのかな。
その辺も明日ツァーリ様に聞いてみようと決めて、私はゆっくりとカップを傾けた。
読んで下さってありがとうございます!
検証進めるとツァーリ様しか出ないことが増えますね…他の人も出したいのに…
 




