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回想

佑花の独白。実はこんなことを思ってました。

 日本にいた頃、私は所謂「どこにでもいる子」だった。

 勉強が得意なわけでも苦手なわけでもなく、運動も同じく。

 特別美人でもないけど卑下するほどでもない。

 リーダー格でもなければ根暗なわけでもない。

 つまり普通。

 普通の、普通よりも少しお菓子作りが好きなだけの他に取り柄もない女の子。

 それが私だった。



 あまり着飾ることはなかったけど可愛いものは好きだし、お年頃だから恋愛にだって興味はある。

 人懐っこい性格が幸いして友達は多い方だった。

 誰かと付き合った経験はないけど、男友達もそれなりにいた。


 家族だって、娘が成人近くなっても変わらず仲が良く、私は一人娘だったからとても大切に育ててくれた。

 休日には三人で出掛けることがほとんどで、私が友達と遊ぶ時はパパとママはデートしたりしてたね。


 そんな優しい両親だから、私が都市部の製菓専門学校に行きたいって言った時は反対こそしなかったものの、すごく寂しがられた。

 私も家を出ることに悩まなかったわけじゃないけど、家から通える範囲に学校がなかったし、どうしてもパティシエになるって夢は捨てられなかったから無理を言って一人暮らしを始めた。

 家を出ても長期休みなら帰って来れるって思って家を出たんだけど、実際は課題にバイトに家事にでとにかく忙しくて、なかなか帰れなくてごめんねってよく電話してた。



 そんな慌ただしい生活も一年が経ち、一人暮らしにも学校にもバイトにも少し慣れたこともあってバイトの時間を増やした。

 バイト先からの要望があったからっていうのもあるけど、バイト先がデパ地下の洋菓子店で、パティシエ希望だと話したら時間のある時に色々教えてもらえるようになったからっていうのが大きい。

 専門学校は短いから学べる時間は多くないし、できるだけ現場に触れてプロの技を見たい。

 そう思って五月からシフトを増やした。

 すごく充実してたけど毎日フラフラで、だんだん両親に電話する余裕もなくなって。


 そんな時にこの国に喚ばれたのだった。





「今年は成人だから、早めに成人式の着物選ばないとね」

「佑花が成人したら一緒にお酒が飲めるなぁ」


 こっちに来て早数日。

 何となく環境にも慣れてきて精神的に落ち着きを取り戻すと、最後にした両親との会話が脳裏に蘇ってくる。

 今年の誕生日で成人を迎える私を喜んでくれてたなぁ…

 思い出すと寂しく感じてしまうのは仕方ないよね。


 パパ、ママのことは気になるけど、きっと二人は私がどこにいるかよりも元気でいるかを気にすると思う。

 だから私はどこにいたって元気でいる。

 それが私に出来る親孝行だと思うから。





 そうやって前向きに頑張ってきたけど、そんなのは不安を誤魔化すため。


 ふらついた一瞬で誰一人知り合いのいない、見たことも無い場所に飛ばされて、どうやって帰れるのかもわからないし、誰を頼って何をしたらいいかもわからない。

 お菓子を作ることしかできない私に何ができるっていうんだろう。


 そんなの不安しかないよ。

 怖いし、寂しいし、日本に帰りたい。

 パパとママに会いたい。

 夢なら早く覚めて欲しい。


 だけど、こうして喚ばれてここにいるのは現実で。

 泣いて喚いたってどうにもならないことくらいわかってる。

 召喚なんて今でもまだ信じられないけど、飛ばされた時に持っていた荷物に入っていたスマホはいつになっても繋がらなくて、その内充電も切れてしまった。



 そして、唯一の連絡手段が途絶えてしまった時、私は現実から目を背けることをやめた。


 現状が変えられないのなら今できることをやるしかない。

 正直今も不安だらけだけど、この国で会った人は皆優しくて少しだけ気が楽になった。

 だから大丈夫。

 そう思っていたのに。



 何とか細く張っていた一本の糸は、まさかともいえるアルバート様によって優しく切られてしまった。



 この国に来てから皆優しくしてくれるけど、あんな風に言ってくれたのはアルバート様だけだった。

 アルバート様としては、自分が私を保護したからその後を気にかけてくれてたんだろう。

 それからもたまに市街や詰所で顔を合わせるくらいだったけど、知ってる顔に会えるというのはどこか心強かった。


 私にとってこっちで知り合いと呼べるのが国王様や宰相様を抜いたらツァーリ様、騎士団の団長さん、アルバート様、ラミィ、ファーラくらいしかいない。

 もちろん他にもご挨拶させてもらったり、声掛けてくれる人もいるけど、そのくらい。



 そんな数少ない知り合いであるアルバート様に友人と言ってもらえて嬉しくないわけが無い。

 私はやっとこの国で居場所ができたような気がした。










 部屋のベッドに腰を下ろしてこれまでのことを思い返してみた。


 今は部屋に一人。

 もう寝るからと侍女さん達には退室してもらっている。



 日本にいた時のこと、この国に来てからのこと、出会った人達のこと。


「もう十日も経つのかぁ…」


 ぼすんと音を立てて勢いのままベッドに倒れ込む。

 この国に来て十日。

 喚ばれた当初に比べると随分色んなことに慣れた気がする。


 例えば挨拶。

 こっちでは毎回カーテシーが必須なのでひたすらやっていたら、まだまだぎごちないながらもいつの間にか自然にその形を取るようになっていた。

 日本みたいに「おはよー」で済ませられないのはちょっと面倒だけど仕方ない。


 あとは紅茶。

 こっちではストレートで混むのが当たり前。

 元々ストレートが苦手なわけではないけどいつもミルクティーを好んで飲んでいたし、どちらかというとコーヒー派だったけど、朝も昼も夜も紅茶を出されるから否応なしに慣れたよね。

 コーヒーはマイキッチンで淹れられるからいいや。


 それから街並み。

 こっちはヨーロッパみたいな街並みが広がっていて、王宮を中心に貴族の館が並び、その向こうに市民街である市井がある。

 日本でいう東京、関東、地方って感じ。

 ようやく見慣れてきたけど、道を覚えたかと言われればそれは別の話。

 未だに王宮内すら案内をつけてもらってます。



 逆に慣れないのが、まず貴族の暮らしね。

 身支度どころかお風呂まで手伝われそうになったから、全て全力でお断りした。

 ドレスを着る必要がある時はお願いするけど。


 それに食事。

 どれだけ菓子パン好きなのってくらい毎食甘々なパンが出てくるのはちょっとキツイ。

 お米なんて贅沢なことは言わないから、せめてお惣菜パンを挟んでほしい。

 あと付け合わせの組み合わせが相変わらずなのも。

 スープの種類とかはいつか増やしたいと企んでるけど、今はお菓子を広めることが優先だからね。


 あとは騎士さん達の大きな声。

 気のいい人達で悪気がないことはわかってるんだけど、至近距離の大声は勘弁して下さい。

 そういう意味で、アルバート様とアルター様は別枠である。

 あの二人は普通のトーンで話してくれるのでとても貴重な存在なんです。



 そういえばアルター様はアルバート様と仲が良さそうに見えたけど、年齢が近いのかな?

 というか、アルバート様っておいくつ?

 聞いた事ないからわからないけど、私より上だってことはわかる。

 そんなに上でもないと思うんだけど……これは聞いても失礼じゃないのかなぁ?

 それに、アルター様とは昔からの付き合いとか?

 二人ともモテそうなお顔に、騎士さんだから体もガッシリしてて貴族様で優良物件っぽいけど彼女とか………あ、そういえばアルバート様はあんまりご令嬢に靡かないってラミィが言ってたっけ。

 アルター様はどうなんだろう。

 お相手いてもおかしくないけど。

 年上の友人なんて日本にはいなかったからどこまで踏み込んでいいのかわからないし。


「今度お会いしたら年齢だけでも聞いてみよう…」


 他に聞くことはないのかと自分でもツッコミ入れたくなるけど、まずは一つずつ相手を知ることにする。


「友人、か…」


 初めてできたこの国の友人。

 思い出すとついニヤけてしまう。

 友達ができるってこんなに嬉しいことだったんだね。



 私は緩む顔をそのままに布団に潜り込んだ。

読んで下さってありがとうございます!

佑花の話はどこかに入れたかったので書けてよかったです。

本人は「普通」と言ってますが、周りからはそう思われていなかったんじゃないかな。常に周りに人がいるタイプの子です。

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