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観察

ツァーリ様視点です。

 私が彼女に初めてお会いしたのは、召喚の儀の翌々日のことでした。


 召喚の儀で召喚したはずの聖女様は姿を現さず、慌てて皆で捜索したものです。

 実際は微妙に魔力の流れが乱れ、予測値とズレが生じてしまったことで、王宮にお喚びするはずが貴族街の広場になってしまったようでしたが。

 当時其処の巡回担当だったクライス卿が発見し、速やかに保護して下さったため事なきを得ましたが、報せを受けた時の安堵は今でも忘れられません。


 そんな彼女を初めてお見かけしたのは召喚の儀の翌日、謁見の間でした。

 ええ、お会いしたのではなく、お見かけしたのです。

 何故なら御挨拶を交わしておりませんからね。

 此度の召喚の儀には我が魔道士団の面々が主となって執り行われました。

 魔道士団団長は勿論のこと、副団長である私、ユークレスト・フォン・ツァーリも儀に携わっております。


 謁見の間でお見かけした彼女は、我が国ではまず見ない見事な黒髪と黒い目をしていて、すぐに異国から来たとわかるような変わった服装をされていました。

 そこに帯びる豊麗な魔力は、明らかに私達の魔力とは一線を画するもの。

 これこそが召喚の儀の際に感じ取った魔力なのだと確信致しました。



 その翌日、宰相閣下より呼び出しを受けた団長からの命で、私が彼女の魔法指導を行うことになりました。

 魔法を学びたいとは彼女の方からの申し出だったようです。

 突然見知らぬ国に喚ばれたというのに、何とも真面目な方ですね。

 私にも仕事がありますが、そんなものはお断りする理由にはなりません。

 何より、彼女の魔力は私も興味がありますからね。


 魔法を知らない彼女に基礎から教えていくのですから、突然時間がかかります。

 魔道士団の方を空けてしまう事も多くなるでしょう。

 ですが、私を指名してきたということはその辺りは団長を頼りにして良いということなのでしょうね。

 副団長とはいえ、私はどちらかというと研究者気質が強い方ですから有難く拝命させていただきました。


 そして更に翌日になると、早速魔法指導を始める段取りが組まれておりましたので、私は王宮の一室に彼女をお呼びしました。

 そこで初めてお会いしたというわけです。



「初めまして。私はユークレクト・フォン・ツァーリと申します。王宮魔道士団の副団長を務めております。本日より魔法についてお教えさせていただきますので、よろしくお願い致します」

「は、初めまして。ユウカ・シマザキと申します。よろしくお願い致します」


 どこかぎこちないカーテシーに、緊張しきりの彼女は、それでもしっかり御挨拶をして下さいました。


 それからまずは魔法について説明をし、半分は講義、半分は実践という形で魔法そのものに慣れていただくことから始めることに致しました。




 結論から言いますと、聖女様は大変筋が良く規格外です。

 魔法の存在しない国で生まれ育ったと伺っておりますが、そうとは思えない飲み込みの良さにこちらが目を見張りました。


 魔法というものは火、水、風、土、光、闇の六属性から成り立ち、勿論属性を多く持っているのに越したことはありませんが、一般的には一つあれば上等、或いは二つあれば魔道士団として戦力に入ります。

 私は火、風、光属性を持っておりますが、魔道士団でも三属性以上を持っているのは私と団長くらいでしょう。

 そして光と闇ですが、こちらは対となる属性で相反することから両属性を持ち合わせるものはおりません。

 それどころか、どちらかだけでも属している者は数える程しかいないくらい貴重な魔法なのです。


 ですが、聖女様はそれを平然と有していらっしゃいます。

 謁見の際に拝見したステータスには驚きましたね。

 皆はMP値やスキルの異常に気を取られていたようですが、そもそも根本からおかしなステータスだったのです。


 そんな聖女様は元いた故郷の風習もあるのかもしれませんが、非常に想像力に優れたお方でした。

 魔法を使う際にはイメージが特に大事になります。

 自分の魔力をコントロールすることで初めてイメージ通りに魔法を発動することができますから。

 イメージするというのは、つまりコントロールする事に繋がるのですよ。


 そのため私は基礎についてはきちんとお教えしましたが、応用の場面では最小限しか口にしていません。

 というのに、彼女は何度となく失敗していく中でしっかりと答えを導き出して私の予想以上のものを見せて下さいました。


 中でも、光の初球魔法『ライト』の応用の時に見せて下さった無数の光の粒はとても幻想的でしたね。

 私は複数の光の塊を作って下さいと言っただけで、幾つ作るかは指定していないのです。

 二つ作れたら素晴らしい。

 作れなかったとしても、現過程では何の問題もありませんでした。


 ところが彼女は数え切れない程の小さな光を生み出したのですから、驚くどころの話ではありません。





 そんなある日、彼女は異国の食べ物を作ってきて下さいました。

 くっきー、と言いましたか。

 それは一口で摘める程のもので、サクサクとした食感が楽しく大変美味しくいただきました。


 ですがそれは“普通の”食べ物ではなかったようです。

 一時間程すると、何故か体内の魔力量が少し増えているように感じてステータスを開くとMP最大値が上がっておりました。


 そこで私が思い出したのは彼女のスキル。


 彼女は珍しいスキルを、それも四つも保持されています。

 スキルも属性と同じく、一つ持っていたら賞賛に値するものです。

 それを四つも、しかもどれも一般的に有り得ないスキルですから拝見した時に皆が目を疑ったのも致し方ありません。


 その内の一つである『魔力付与』は、国内でもほんのひと握りしか持っていないスキルであり、大変貴重なものです。

 ですが、このスキルは人によって発動条件や対象、効果が大きく分かれます。

 従って、魔力付与によってくっきーという食べ物に何らかの効果が付属されたことまではわかるのですが、それ以上のことはわからないのです。


 また、魔力付与は一定の効果の付与のはずですが、聖女様がくっきーを渡しに行くと仰っていた騎士団団長を訪ねてみると、彼はHPの最大値が上昇していると言うではありませんか。

 それが本当ならば彼女は複数の魔力付与か可能ということになります。



 私は宰相閣下に報告と、聖女様の魔力やスキルについて研究させて頂きたく申し出致しました。


 有難いことにご快諾をいただけましたので、それからの私は魔法指導は予定通り行い、聖女様にご予定のないそれ以外の時間を使ってまずは魔力付与について調べております。

 ほとんど魔道士団に顔を出しておりませんが、そこは団長が何とかして下さるでしょう。




 彼女は話をしてみると優しく、とても素直な方でした。

 規格外なことも多々ありますが、ご本人は無自覚のことが殆どです。


 そのため研究としては足掛かりが少なく大変難儀なところではありますが、私個人としましてはこの方と居ると退屈とは無縁なのではないかと少しばかり日々の忙しさに楽しみを見出しております。

 現に、彼女が召喚されてからというもの、退屈などと感じる間も無かったですからね。




 さて、今日はどんな発見を下さるのでしょうか。



 私はこれまでの解析分に目を通し、次の実験への期待を膨らませるでした。

読んで下さってありがとうございます!

ツァーリ様はものすごく書きやすいです(笑)

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