実験④
またお菓子作ってます~
ロールケーキ用のスポンジが焼けた所で、用意していたガトーショコラとチーズケーキの生地をオーブンに入れる。
部屋にはすでに甘い匂いが充満していて、作りながら食べたい衝動に駆られるけど今は我慢我慢。
粗熱が取れたスポンジを冷蔵庫に入れ、それまで冷やしていたスポンジを一つ取り出した。
うん、ちゃんと冷えてる。
冷えてないとクリームの馴染みもそうだけど、まずクリームが変に溶けちゃうからダメなんだよね。
ショートケーキにも色々あるけど、最初だし王道の簡単なものでいいかとスポンジを横半分にスライスする。
スパチュラがなかったからヘラで断面にクリームを塗ってイチゴを並べて。
同じようにクリームを塗った残りのスポンジを重ねて、上と横もしっかりクリームを塗って。
絞り袋もないので、スプーンで形を整えながらピンポン玉くらいのクリームを周りに並べていき、側面はフォークで模様を付ける。
最後にイチゴを飾って、完成!
「出来ました!」
「「「おー!!!」」」
「これは何という食べ物なんですか?」
「ショートケーキです」
見たことないお菓子に興味津々の騎士さん&魔道士さんと、メモする気満々の安定のツァーリ様。
えぇと、騎士さん五人に魔道士さん五人、それにツァーリ様と私で十二等分か。
あ、違う、半分はフルーツケーキの方を食べてもらうことになるから六等分でいいんだっけ。
専用の包丁でもないし、切り分けるのがなかなか難しいな…
苦戦しながらも何とか切り分け、一つずつお皿に乗せて配る。
この時点でショートケーキから魔力を感じられるとツァーリ様が言っていたので、魔法付与がされていることは確実。
但し、効果が出るまでにどのくらいかかるかわからないので皆さんには普通に食べていただいた。
そして私も食べる。
うーん、久しぶりのショートケーキ美味しい~!
すぐに食べ終わっちゃったけど、次を作らないといけないからモタモタしている時間はない。
今度はイチゴ以外のフルーツをたっぷり詰め込んだフルーツケーキを仕上げる。
味はショートケーキとそんなに変わらないけど、これはこれで美味しいんだよね。
最後のフルーツを真ん中一面に敷き詰めていると、アルバート様とアルター様が横から覗き込んできた。
「とても華やかで美しいですね」
「果物がたくさん乗っていて美味しそうです」
「さっきのケーキと同じようなものですが、このフルーツケーキも美味しいんですよ」
「先程のしょーとけーきはふわふわしていて美味しかったです」
アルバート様はすでにショートケーキを食べられたらしい。
アルター様はフルーツケーキ待ちのようなので、すぐに切り分けて差し出した。
因みに私は魔法付与とか関係なく全部食べますよ。
当たり前です。
途中でロールケーキ二種類も出来上がったため、騎士さんと魔道士さんは二人ずつ効果を上書きしてそれぞれのロールケーキを食べ、効果の確認が出来た人が次のチーズケーキ、ガトーショコラへと。
皆さん美味しいって言ってくれるけど、実験って思うと味わからなくならないかな…
そしてその内に作る時間と効果の検証の時間を考えるとこれ以上は難しくなったため、私のケーキバイキングは六種類で終了となった。
「このけーきはそれぞれ効果が違うようですね」
「ロールケーキもですか?」
「ろーるけーきは攻撃か防御かの違いだけでした」
どうやらショートケーキは俊敏スキル付与、フルーツケーキは器用さスキル付与。
ツァーリ様の言うようにロールケーキは攻撃力上昇、チョコロールケーキは防御力上昇でどちらもステータス上昇。
それからチーズケーキは毒耐性、ガトーショコラは魔法耐性の付与がついていたという。
ロールケーキは味は違うけど、元が同じロールケーキだから効果の内容も似てたのかな?
今回は同じケーキでも効果にバラつきが多くてよくわからないけど、どのケーキにも魔法付与がついたことで誰かに手伝ってもらっても問題ないことは判明したし。
それから、効果が発動するまでの時間はやっぱり個人によって違うが大体三十分~半日くらい。
効果の持続時間は、クッキーと同じく三時間。
こうやって考えてみると、発動までの時間と持続時間は今まで作ったどれも同じなのね。
そこまで話が終わったところでさすがに疲れて軽く伸びをしていると、今日はもう遅いし、ケーキの検証も済んだから終了ということになり皆さんそれぞれ帰っていった。
いつもなら残って明日のことを話しているツァーリ様も、今日は魔道士団の団長さんに呼ばれているとかで戻られたのでここには私一人。
ラミィのお迎えもまだ来てないし、コーヒーを淹れて少しだけ休憩してようかな。
お迎えが来たらラミィと一緒にちょっと一服するのもいいかもしれない。
それなら軽く摘むものがほしいよね。
甘いものは散々食べたから塩気のあるものがいいなぁ。
ポテチとか。
でもここには材料がないし、取りに行くのにも迷う予感しかしない。
あ、そうだ、ティラミスなら甘すぎないからいいんじゃない?
飲み物をコーヒーじゃなくてミルクにすればいいし、さっきのケーキの端っこのスポンジがまだ残ってたから、それにコーヒーシロップを漬ければいいよね。
そうと決まったらササッと作っちゃおう。
確か余ったホイップも冷凍してあったはず。
ティラミスは冷ます工程に時間がかかるだけで作業自体はすぐに終わる。
幸い、こちらではチーズの種類が多いみたいでマスカルポーネではないけどそれに近いものが見つかったからその内作ろうと思っていた。
…これ、本当はメレンゲを作るんだけど、今日はもう簡単なやつでいいや。
シロップにスポンジを漬け、チーズと砂糖を滑らかに混ぜた所にホイップを加えてクリームを作る。
あとは冷やして重ねるだけの所まで終えたところでノックの音が聞こえてきた。
ラミィかな?
もうちょっと冷やしたら完成だから、少し中で待っていてもらおう。
そう思って扉を開けると、そこにはラミィではなくアルバート様がいた。
「あれ? アルバート様?」
何か忘れ物でもしたんだろうか。
「どうされたんですか?」
「侍女殿の代理です」
「は?」
どういうこと? と私がキョトンとしていると、アルバート様は「中に入っても?」とお伺いを立てて来たので慌てて横に避けて入口を大きく開ける。
アルバート様はそのまま中に入ると、私が何か作っていたことに気付いて作業台へと歩いていった。
「何を作られていたんですか?」
「ティラミスです」
「てぃ…?」
「コーヒーとチーズクリームのお菓子なんですよ」
「ああ、どこかで嗅いだことのある香りだと思ったら珈琲でしたか」
この国にはコーヒーもあるけど、一般的に飲まれているのが紅茶のようで人によっては馴染みがないらしい。
アルバート様の言葉からも普段飲まないんだろうなってことは伝わってきた。
何で騎士団に帰ったはずのアルバート様がこの部屋に戻ってきたのかはわからないけど、せっかくだからアルバート様にもティラミスを食べてもらいたいなぁ。
でもまだ冷やし足りないからもう少し時間がかかる。
冷えてないティラミスなんて美味しくないし…
お忙しい騎士さんに待ってて下さいなんて言えないしなぁ。
かといって、お土産に渡して向こうで冷やして食べてくださいって言っても、量がないから他の人に見つかるとまずいだろうし……
諦めて今度作って渡すしかないか。
そこまで考えてアルバート様の元に近づくと、ティラミスが気になるのか作業台に無造作に置かれている土台のスポンジの入った器と横に置かれているシロップをじっと見ている。
うぅ…そんなに気になってるなら食べさせてあげたい…
それに、用事があって戻ってきたにしては急いでる様子も無さそうだし、小一時間くらいならダメかな…
いや、でも騎士さんとはいえ貴族様だし!
貴族って所作が優雅なイメージがあるから、急いでてもそう見せない振る舞いが身についているのかも…
え、どうしよう…
私は悩みに悩んだ。
そして考えすぎた結果、私の悪い癖が出た。
読んで下さってありがとうありがとうございます!
佑花は多分その内ポテチも作ってるんでしょうね。




