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騎士

閑話休題。同僚騎士視点です。

 私は第一騎士団所属のディガー・フォン・アルター。

 アルター子爵家の三男だ。


 騎士団というのは実力さえあれば誰でも入ることができる。

 逆に言えば、実力がなければどんなに爵位があろうとも入ることはできない。


 私は三男ということで家や領地は長兄、次兄に任せられるため、幼少より騎士団に入るため剣の稽古を続けてきた。

 そして十五で入団し、もう八年になるだろうか。


 騎士団の部隊は第五まで連なる。

 入団当初の騎士達の訓練や市井の巡回を主とする第五騎士団を経て、市井の巡回に加え近隣の討伐を担う第四騎士団へ。

 そこまでは正直、騎士見習いの扱いだ。

 第三騎士団以上に配属されれば一人前とされている。

 とはいえ、第三騎士団~第一騎士団の間に大きく差があるわけではない。

 第三騎士団は遠方の討伐を多く受けるため人数が多く、第二騎士団は各地の要請に駆り出されることが多いため、やはり配属人数も多い。

 対して第一騎士団は少数精鋭と言われている狭き門で、基本的には王都巡回が主だが何かあれば真っ先に動くことになっている部隊のため、騎士ならば第一騎士団を目指すのが暗黙の了解だ。


 つまり、第一騎士団に入れたとしてもすぐに蹴落とされる可能性だってあるということ。

 だからこそ日々の鍛錬は欠かすことなく常に切磋琢磨しあっているのだが…


「おう、ディガー! 今から巡回か!?」

「ああ」

「今日は誰と組むんだ!?」

「アルバートとライオットだよ」

「そうか! 気をつけてな!」

「ああ、ありがとう」


 第一騎士団の皆は本当に気のいい奴ばかりで、私が配属された当初から分け隔てなく気さくに接してくれる。

 それはとても有り難い。

 有り難いが、何故一様に声が大きいんだ。

 しかも距離感も近いため間近で大きな声を出されるものだから、配属当初はよく顔を顰めてしまったものだ。

 まぁ皆悪気がないことはわかっているし、今では慣れたものだけどな。


「………行くぞ、ディガー」

「アルバート」


 そういえば未だに慣れてない奴がここにいた。


 アルバート・フォン・クライス。

 クライス伯爵家の次男で私と同い年。

 そして同じ十五で入団した同期だ。


 アルバートは昔から才に溢れていて、入団当初は鬼才が現れたとすら言われていた。

 歳も同じで見目も良く、剣技にも優れたこのアルバートという人物がいたおかげで、私の負けず嫌いが遺憾無く発揮され今に至ると言っても過言ではない。


 いつだって私の先を行くアルバート。

 入団は同期だったというのに、この男は騎士団史上最速の三年という短期間で第一騎士団まで上り詰めた。

 噂ではその当時王宮内警護を担当する近衛騎士団からの勧誘もあったと聞くが、彼は今も第一騎士団に留まっている。

 近衛騎士団は王族警護も担うことから騎士団よりも上とされているのに何故、とは思うものの本人が決めたのなら口を出すことでもないだろう。


 いつだって才に驕らず、鍛錬を欠かさなかった彼だからこそ私は憧れ、そして負けたくないと思えた。

 二年遅れで第一騎士団に配属になった時も偉ぶることもなく共に喜んでくれるようなこの友人の隣に立てることは、私にとって何より喜ばしいことになっていた。


 そんなアルバートは同僚にも分け隔てなく、淑女には紳士でとにかく人気がある。

 …声が大きすぎる同僚達に冷めた目線を送っていることはあるが。


 ご令嬢方から言い寄られている所も度々見かけるし、マメな男なのでもらった手紙の返事もきちんとしているようだ。

 貴族として当然のことかもしれないが、騎士の仕事をこなしながらなんて私には無理だろうな。


 しかし残念なことに、このアルバートという男はこれだけ言い寄られていても浮いた噂の一つもない。

 歳を同じくする私が言うのも何だが、私達くらいの歳ではすでに結婚しているのが一般的であり、子がいてもおかしくない。

 現に私も婚姻こそ結んでいないが婚約はしているし、遠くない将来結婚するつもりでいる。

 私のように婚約者はいるが結婚はしていないという騎士も多くいる中、アルバートは婚約者すらいないと言うのだから首を傾げる話だよな。

 どう考えても優良物件だ。

 世の女性達が放っておくはずもない。

 だからこそ言い寄るご令嬢が多いのだろうが、アルバートは一向に靡かない。


 一度不思議に思い、不躾ながら聞いてみたことがある。

 すると彼は少し困惑した顔をして「興味が持てないんだ」と笑った。

 長男であれば政略結婚でも割り切れるし、次男でも必要があるのなら政略結婚をしても構わない。

 だが、クライス伯爵家はその歴史も長く、領土も安定した広さを持つ。

 対立する家名もない中立の立場のため、政略結婚をする理由もない。

 現にクライス伯爵家長男のシェナード様はご自分で決められたお相手と婚姻を結ばれたというし、そうなるとアルバートとしてはわざわざ興味のない相手と結婚するよりも今のまま自由に生き、共に居たいと思える相手を見つけた時にその先を考えようとしているのかもしれない。


「ディガー? どうした?」

「いや…」


 ついアルバートをまじまじと見ながら物思いに耽ってしまったようだ。


 何でもないと首を振って歩き出す。

 アルバートが首を傾げていたのは見なくてもわかったが、何を考えていたのかなんて聞かれても返答に困るから気付かなかったことにした。


「それならいいが…」

「ライオットはどうしたんだ?」

「ああ、ライオットは先に巡回報告に行ってくれている。入口で待っていれば来るだろう」

「わかった」


 連れ立って騎士団入口まで行き、ライオットの戻りを待とうとしたら彼はすぐにやって来た。


「待たせたな」

「いや、ありがとう」

「それじゃ、行こうか」


 今日は市街地の担当のため、大通りから逸れた路地を行く。

 近道なんだよな、この道。

 通る人も少なく、担当区まで早く着けるためよく通っている。


 次の路地を左だったか。

 道順を頭の中で確認していると、隣を歩くライオットがふと何かを思い出したように声を上げた。


「どうした?」

「そういえば、さっき団長に明日は聖女様の所に行くように言われたんだった」

「ユーカ殿の所に?」

「それはお前だけか?」

「いや、アルバートとディガーもだ。あとクラインとスティングも」

「五人か」


 確かに、以前聖女様から戴いたくっきーという食べ物が魔法付与されていたとかで、騎士団と魔道士団で調査の手伝いをすることになったと団長が言っていたな。

 それのことだろうか。


 と、そこまで考えてふと違和感に気づいた。


「アルバート。お前、聖女様のことを何と呼んでいる?」

「何だ、急に」

「あ、確かに」


 ライオットは私が言わんとしていることに気がついたようだ。


「いいから」

「…ユーカ殿だろう?」

「…お前がご令嬢を名前で呼ぶなんて珍しいな」


 そう、アルバートは淑女を名前で呼ばない。

 私がアルバートと出会ってからの八年間、誰一人として例外はいなかった。

 だというのに、聖女様のことは最初から名前で呼んでいたのだから、それは驚くだろう。


 そう言って理由を聞くと、異国から来た彼女の故郷ではこの国と違って家名が先に来るのだという。

 それを知らず名前を呼んだのが始まりで、判明した時点で家名呼びに変えようとしたが堅苦しいのは苦手だという彼女に頼まれてそのままにしたのだそうだ。


「でも聖女様もお前をアルバートって呼ぶよな? 教えなかったのか?」

「いや、教えたが別にいいかと思って。というか、お前達にまでそんなに気にされるとは思っていなかった」

「お前はもう少し風評を気にするべきだと思うよ」


 ライオットも呆れたように笑う。

 アルバートは異性に興味がないのは有名だが、風評にも興味がないらしく、誰に何を言われていても気にならないのだと昔から言っていた。


「早くお前が剣以外に興味を持てるようになることを友人として願ってるわ」

「私も願っといてやるよ」

「ハハッ、それは有難いな」


 そう笑うアルバートの横顔からは、本気で有難いと思っているのかそうでないのかはわからなかった。






 でもな、私は本当にそう願ってるぞ。

 それこそ、聖女様相手だろうとな。

読んで下さってありがとうございます!

少し前のアルバート視点の際に登場したディガーくんから見たアルバートの話でした。

ディガーはアルバートが佑花に興味を持っていることを知りません。ただ、唯一名前で呼び、名前で呼ばせている女性ということで進展があるといいなとだけ思っています。

そしてディガーとライオットは騎士団の中で大声を出さない人なので、アルバートはよく二人と一緒にいます。

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