小豆
大変ご無沙汰しておりますm(*_ _)m
多忙のため投稿を止めておりましたが、ひと段落つきましたのでぼちぼち再開出来ればと思います。
またお付き合いいただけましたら幸いです。
ある日の昼下がり、私はキッチンでひたすら鍋を掻き回していた。
えぇ、お察しの通り小豆を煮ています。
それも寸胴で。
キッチンに寸胴があることに感動を覚えたのは初めてだよ。
「これは豆か?」
「そうだよ」
そして隣にはアルバート様がいます。
夜番明けの。
いや、あの、寸胴覗き込まなくていいから寝て欲しいんだけど…
何でこうなったかというと、本来の約束としてはアルバート様が元々今日が非番のはずだったので市井に行こうというものだった。
けれど、訓練中に夜番予定の騎士さんが負傷してしまったことで急な勤務変更があって夜番明けのお休みになってしまったところから始まる。
普段からアルバート様は時間があればこちらに顔を出してくれていて、それは夜番明けの時も同じだからそこまで気にすることじゃないのかもしれない。
でも、いつもは夜番のみだから先に仮眠してあるって言ってたこともあって会っていたのに、今回は本来の自分の勤務の日勤をこなした上でそのまま夜番だって言うじゃない!
合間で少し寝たとは言ってたけど、そんなの本当に少しなんだろうし、そんな無理して出掛ける必要はないからと約束をキャンセルしようとしたら「出掛けなければいいんだな?」と念を押されて今に至る、という訳で。
アルバート様が寝ている間、私は何をする予定なのかと聞かれたから、それならキッチンで小豆を煮ようかなって言っただけなんだけど。
相も変わらずキッチンまでの道に迷う私を送り届けてくれて、そのまま戻って寝るのかと思いきや中に入ってきてしまった。
「ねぇ、本当に寝なくて大丈夫?」
「ああ。今は眠気を感じていないし、せっかくユーカと居られる時間だというのに寝てしまうのは勿体ないからね」
「いや、ちゃんと寝て……!」
「ふふっ、眠くなったら奥のソファで休ませてもらうよ」
ソファよりもベッドでちゃんと寝てほしいけど、何気に頑固なアルバート様が聞くとは思えないので大人しく口を噤む。
小豆を煮るのは単純作業だから見ていてもすぐ飽きるだろうし、そうしたら眠気もやってくるかも。
むしろそれを期待して私はひたすらに寸胴を混ぜ続けた。
「それにしてもすごい量だね?」
まだまだ煮詰めるのに時間のかかる小豆達はただの水と小豆。あと砂糖。
豆が水を吸って柔らかくなって初めて変化が出てくるから当分先の話ね。
しかも強火で煮るとすぐに焦げちゃうから、弱火でコトコト煮るしかない。
その内やろうと思っていたことではあるけど、本当に時間のかかる作業だわ。
「どうせなら一気に作っておこうかと思って」
多かろうが少なかろうが煮る手間は変わらないし、それなら時間のある時に一気に作って小分けして冷凍しておけばいいかなって。
そうだ。大福用にこしあんと、ぜんざい用に粒あんに分けなくちゃ!
大福にも粒あん要るかなぁ…?
私は大福はこしあん派だけど、日本でも粒あん派とこしあん派といたようにこの国でも好みが別れるかもしれないよね。
そう思うと、和菓子の良さを広めるためにも選択肢は多い方がいいのかも…?
あ、でもお団子に乗せる餡子は絶対こしあん!
私が脳内でこの小豆の出来上がりをどう使うか考えていると、どうやら考えすぎて眉間に皺が寄っていたらしい。
アルバート様が小さく笑いながら私の眉間に指を当てていた。
「何をそんなに考え込んでいるんだ?」
「えぇと……その、…この小豆を、ですね…」
疚しいことはないはずなのに、何に粒あんを使って何にこしあんを使うとかを真剣に考えすぎていた自分が少し恥ずかしくてつい吃ってしまう。
でも、そんな私をお見通しなのがアルバート様なのよね。
「ユーカのことだから、この小豆をどう使うか考えていたんじゃない?」
「う……」
「当たり?」
「はい……」
そんなにわかりやすいかなぁ…?
確かに大抵お菓子のことばっかり考えてる気がするのは否めないけど。
それは日本にいた時からそうだったけど、特にこの国に来てからひどくなってる自覚はある。
お菓子という文化がない国にお菓子を広めようなんて考えるくらいだから、マナーとか魔法とかやらないといけないことに集中している時以外はほとんどお菓子のことを考えてるって言っても過言じゃない。
……もう少し周りを見た方がいいかもしれない…?
何となく、自分が周りの人達からどう見られているのか不安になった。
「でもユーカらしいね」
「それは褒めてる?」
「勿論。好きなことにまっすぐなユーカは見ていて楽しそうで見ていて飽きないよ」
アルバート様のキラキラした笑みが眩しくて見れない。
寸胴混ぜながらお菓子のことばっかり考えてる女にそんな風に思うのは貴方だけだと思います。
生温かなその視線に少し恥ずかしくなりながら、私は手を休めることなく動かし続けた。
「そろそろいいかな…?」
あれからどれくらい時間が経っただろう。
寸胴の中の小豆はしっかり水分を吸ってぽってりと重量を増している。
一口味見をしてみたけれど、甘さ控えめで口の中で解ける食感。
そろそろ完成で良いかと軽く塩を入れて大きく掻き混ぜ、火から下ろした。
因みにアルバート様は奥のソファで寝てます。
単純作業を見せ続けた効果があったのか、あの後30分もしない内に眠そうに欠伸をしていたからソファに行ってもらったのだ。
普段の睡眠時間と比べると全然足りないけど、少しでも寝てくれてよかった。
ここからは作業するのにどうしても音が出るから起こしてしまうかもしれない。
なるべく静かにやるつもりではあるけど、アルバート様は職業柄耳がいいから少しの物音でも起きてしまうだろうことは予想できる。
それならせめて目覚ましに優しい甘さのお団子を出してあげよう。
そんなことを思いながら先日と同じように白玉粉でお団子を作り始めた。
アルバート様が目を覚ましたのは、私がお団子のこしあん用に餡子を濾していた頃だった。
「……?」
「あ、起こしちゃった?」
「いや……何の音だ?」
「これ? 餡子を濾してる音」
「こしている…?」
どうやらアルバート様は聞き慣れない音が気になって目が覚めたらしい。
ボウルとかのガチャガチャした音とか、お団子茹でる時の水音じゃなかったわ。
確かにこの国で何かを濾して使うようなものは見たことがないから、聞き覚えがないのも無理はない。
せっかく起きたのだから、こしあんと粒あんの違いを食べてみてもらおうかなぁ。
その好みに合わせてお団子に乗せる餡子を変えてもいいし。
「これ食べてみて」
「これは……見た目は違うようだが、どちらも小豆か…?」
「そうだよ!」
「煮込むと随分柔らかくなるものだな」
小皿に粒あんとこしあんを一口ずつ乗せて手渡す。
アルバート様は興味深そうにそれを見た後、ゆっくりスプーンを口元に運んでいた。
「美味いな…それにこんなに舌触りが違うものなのか…!」
餡子自体が初めてらしいけど、味は大丈夫そうだね。
寝起きとは思えないほど目をパッチリ開いてもう一度食感の違いを試している姿は、どこか無邪気な子どものようにも見えてつい微笑ましく見守ってしまう。
そんな視線に気づいてか気づかずか、アルバート様は片方のお皿を私に戻してきた。
「どちらも美味いが、私はこちらが好みだな」
「あ! アルバート様もこしあん派!? 一緒だね!」
「こし……? ユーカもこちらの方が好みなのか?」
「うん、舌触りがいいから好き」
「ああ、わかる」
食べ応えがあるから粒あんが好きって人の気持ちもわかるんだけどね。
まぁ好みは人それぞれだし。
アルバート様はちょうど私と好みが一緒だったからお団子もこしあんにしちゃったけど、どうせなら粒あんの方も出してあげよう。
お団子入りで食べ比べてみるのも楽しいよね!
さて、外を見るともう夕の鐘が鳴りそうな薄暗い空が広がっているけれど、私達は少し遅めのおやつにしましょうか。
今度は食べやすいように市井に串を探しに行こうと考えながら、出来上がったお団子をテーブルへと運んでいった。
読んで下さってありがとうございます!
今回は小豆を煮ているだけでした笑
急に投稿を停止してしまい申し訳ございません。
最近になって少し時間に余裕が出てきましたので、今後は不定期で投稿できる時にしていけたらと思っております。
また、誤字脱字のご指摘ありがとうございました!
確認が遅くなってしまいましたが、ご指摘いただいた分は訂正させていただいておりますm(*_ _)m




