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拡散

プレオープンまであと少し。

 騎士団で団長さんにプレオープンの話をして大広間に行くと、入口でライオット様とバッタリ鉢合わせた。



「聖女様?」

「あ、ライオット様!」

「アルバートに御用事ですか?」

「いえ、団長さんに用事があってお話してきた所なんです」

「左様でしたか。アルバートももう来るでしょうから、ゆっくりしていって下さい」

「ありがとうございます」


 もはや私が騎士団に来る=アルバート様って思われてるのが恥ずかしくもありながら、自分から言わなくても察してもらえるのは有難かったりするという、何とも複雑な気分だ。


 でもアルバート様が終わるのを待つつもりだったのは間違いないので、お言葉に甘えて大広間の窓側の席に腰を下ろしてラミィと話しながらのんびり待つことにした。



「ユーカ様とクライス様のご関係も随分周知されましたね」

「そうみたいね。私が一番実感ないくらいだよ」

「まぁ」


 クライス領に旅行に行って、そこで正式にアルバート様の婚約者になった。

 それを王都に戻って言い触らしていた訳じゃないけど、気付いたら会う人会う人が知っていて私の方が驚いたよ。

 宰相様とか、侍女さんとか、ツァーリ様とか、伝えておいた方が良いと思う人にしか報告してないはずなんだけど。

 そこから広まったのか………いや、でもあからさまなアルバート様の態度から察した人もいそうよね。

 アルバート様が好意を寄せてくれてからただでさえ甘かった私への態度が、婚約者になってからは更に甘くなってるんだもの。


「こんなに簡単に婚約の噂って広まるものなんだねぇ」

「あら、そんなことはございませんわ」

「え? 違うの?」

「えぇ。多少は人伝に広まるでしょうけれど、ここまで広く、そしてこの早さで広まるのは異例ですわ」

「えぇ?」


 私はてっきりそんなものなのだと思っていたけれど、どうやら違うらしい。

 普通はここまで早くこんなに噂が広まるものじゃないっていうなら、何故今こんなに広まってるの?


 私が理解出来ず疑問符を浮かべていると、ラミィは私にもわかるように説明してくれた。


「一つは御二方が日頃から注目を集める人物ということですわね」

「私が聖女って言われてるから?」

「えぇ。そしてクライス様は特に女性関係において憧れとされてきました」

「憧れ…なるほど。確かに誰の誘いにも靡かないって言われてたね」


 私に関しては立場が放っておいてくれないし、召喚した以上は国としても責任を負わないといけない。

 そういう意味でも私に関心が集まってしまうのは仕方ないと理解してる。


 そしてアルバート様は剣にしか興味がなかったことで、どれだけ女性が言いよろうとも躱し続けられてきたことが影響しているらしい。

 そういえばアルバート様が婚約者もいないって聞いた時は、顔良し、家柄良し、頭の回転も早いし、第一騎士団の中でも注目される剣の腕前で、紳士だし人当たりもいいのに何でだろうって思った記憶あるなぁ。

 結局の所、関心がなかっただけだったけど。

 それでもダメ元で狙ってるご令嬢が多かったっていうから、その人達の中で噂が広がっていったのかも。



「そして、クライス様ご本人が触れ回っていらっしゃることでしょうね」

「ふーん、アルバート様が…………って、…ん? え、どういうこと!?」

「牽制ですわね」

「な、何のために!?」

「以前、聖女様との繋がりを求める者が増えていることはお伝えしましたでしょう? そういった者に、聖女様との繋がりを得たくばクライス様を通すようにと暗に触れておられるのです」



 そっか、だから思ったよりもずっと私達の関係は広く知れ渡ってるんだ。

 それも意図的に。


 納得はしたけど、その内情を知ってしまうと一層恥ずかしくなる。


 こんな顔、アルバート様に見られたら問い詰められること間違いなしだわ……

 出来れば今日は遅く来て欲しい。

 せめて私の顔の火照りが治まってからで……






「ユーカ!」


 って思うのに、そういう時に限って来るんだよね!

 お約束なのかって思うくらいタイミング悪い!!

 ちょっと空気読んで、アルバート様!

 ……いや、空気を読んだからこそなの?

 何でもいいけど、とりあえず顔は見ないでほしい。


 なんて、無理なのはわかってるけど。


「わざわざ詰所まで来てくれた……ん? 顔が赤いな。何かあったのか?」

「なっ、何でもない!」

「しかし、何でもないという顔では…」

「何でもないったら何でもないの! あ、ラミィありがとね!」

「ああ、侍女殿、いつもすまないな」

「とんでもないお言葉にございます」


 それでは失礼致しますとラミィは先に王宮へ戻っていく。

 私はこれで誤魔化せたかなとソワソワしながら、とにかく顔の熱が引くのを待つしかない。

 そんな私を追及することは諦めたのか、アルバート様は苦笑を落としつつ向かいの席に腰を下ろした。


「それで、今日はどうしたんだ? 終わってから其方に向かうつもりでいたから驚いたよ」

「うん、待つつもりだったんだけど、団長さんに用事が出来たから」

「何かあったのか? また討伐予定が? ああ、いや、討伐ならば第一騎士団は関係しないか」

「討伐予定はまだ入ってないよ。今日はお店のことで来たの」

「お店というと、ユーカが始める予定の?」

「そう。本格的に始める前に一度お試しでやってみようかなって」


 まだレイアウトもこれからだし、一週間でやらなきゃいけないことはたくさんあるけど、いざ話し始めてみると自分でもわくわくが止まらなくて。

 話せば話すほど自分が前のめりになっていくのがわかる。


 あ、姿勢の話じゃないよ!

 気持ちが前のめりってこと。


 はしゃぎすぎなのはわかってるけど、パティシエを目指すようになってからずっと夢見てた自分のお店をまさかこんなに早く持つことができるようになるなんて思ってなかったんだから仕方ないと思うの。


 でもアルバート様はそんな私の話を微笑ましいとでも言わんばかりの穏やかな笑顔で一つ一つ頷きながら聞いてくれている。

 それが嬉しくて更に止まらなくなるんだけどね。








「それで、お試しの日はもう決まっているのか?」

「あ、うん!」


 私が一通り話し終わってちょっと落ち着いた頃、アルバート様が変わらず笑顔のまま聞いてきた。


 どうやら、勢い余りすぎて日程すら伝えていなかったらしい。

 慌ててちょうど一週間後だと話すと、何やら考え込まれてしまった。


「どうしたの?」

「いや、その日は確か早番だったから一番に行けそうにないなと思ってね」

「来てくれるだけで嬉しいからそんなの気にしないで!」

「それなら私が代わりに一番に行ってこようか」

「ん?」

「あ、アルター様!」


 顎に手を当てて悩むアルバート様の後ろから顔を覗かせるアルター様。


「その日はちょうど非番だからね」

「む」

「私も夜番明けだからディガーと共に行こうかな」

「ライオット……」


 とてもいい笑顔をアルバート様に向けているアルター様の横から、更にライオット様が。


 その奥に目を向けると、他にも騎士さん達が「私も非番だ!」とか「私は夜番だから、朝なら行けるな!」とか口々に話している。

 もしかしたら私のテンションが高すぎて皆にも聞こえていたのかな?

 団長さんから広めてもらえたらって思ってさっきお願いに行ってきたのに、意味がなくなってしまったようだ。


 あちこちから楽しみにしていると声をかけてもらって、私は尚更早く段取りを整えないといけないと気持ちを新たに引き締めた。








 …アルバート様は最後まで不服そうだったけどね。



「せめて夜番ならば…」

「まだ言ってるのか」

「日番となると難しいだろうが、早番なら終わってから行けば良いだろう」

「それは勿論だが、出来ることなら非番で一日付き添いたかった…」

「…お前、そんなに愛が重い奴だったんだな」

「もはや聖女様の父親のようだな」

「何とでも言え」



 確かに。

 心配性が過ぎるパパみたいな所あるわ。


 アルター様の言葉に、私は心の中で大きく頷いていた。

読んで下さってありがとうございます!

アルバートはどこへ向かっているんでしょうね(笑)

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