成長
ツァーリ視点です。
聖女様を伴っての第二騎士団との討伐は難しいものではありませんでした。
第一にフォクシーアの森という場所が広さも程々、現れる魔物のLvもそう強いものはおりません。
炎を吐き出す魔物がいるため魔道士の帯同は必須ですが、討伐だけでしたら第二騎士団のみで余りあるでしょう。
ですから、敢えてその討伐に聖女様を参加させるよう手筈を整えました。
第四騎士団との訓練のみの状態で、初めから危険な所に行かせる訳には参りません。
私が余裕を持って補助出来る所からでなければ。
更に今回は人数の都合上、魔道士団の中でも攻撃魔法に特化したバーダック殿もおりましたので、私も楽をさせていただきました。
ですが、討伐の実態を見て頂かなくては意味がありません。
そのため、私は聖女様に指示をして魔法を使わせるのではなく普段自身が討伐に出ている際の振る舞いを致しました。
その中で聖女様がどう動かれるのかを見たかったのです。
初日は私達に圧倒されていたようですが、防御壁等はご自分で考えて発動されておりましたね。
個々を守る壁と全体を守る壁を使い分けておられたり、討伐の終わりの方ではご自分から攻撃に転じたりと考えて動かれている様は、これまでの訓練が身を結んでいるのだと私も嬉しくなったものです。
そして翌日。
私は攻撃の手を加減して、聖女様が手を出せる余地を残して様子見を致しました。
バーダック殿は魔物を見ると考えるよりも先に攻撃魔法が出てしまう人ですから、言っても無駄なので好きにさせましたが。
更に翌日。
此度の討伐は問題が無ければ三日間を予定しておりましたので、最終日ですね。
最深部にいる魔物の頭と呼ばれるものを討伐しなければならなかったため、この時は私も攻守共に手を抜かず参戦しております。
そんな中、聖女様は飲み込みが早いのか討伐の空気に少し慣れられたのか、徐々に敵に合った攻撃をされるようになり、また良い所で防御壁を上手く起動させることが出来ていたのです。
特に最終日は素晴らしかったですね。
バーダック殿と私の攻撃の合間を狙って繰り出される魔法は、相手の反撃を許さない程に的確でした。
まだ討伐に対する恐怖は大きいようですし、それは当然のことと思いますが、その中でこれだけ動けたら十分でしょう。
今回の討伐に聖女様をお連れした意味はあったと、宰相閣下に良い御報告が出来そうです。
三日間の討伐を終え、予定通り翌日は休息、翌々日に帰還の流れになりました。
私は戻り次第、魔道士団団長であるマティアスに帰還報告をし、その足で宰相閣下にご報告へと参上致しました。
「ユークレスト・フォン・ツァーリにございます。宰相閣下におかれましてはご機嫌麗しゅうございます」
「おぉ、ツァーリ副団長か。此度の討伐も滞りなく帰還したと先程フォルティス団長から報告がありましたぞ」
「左様でございますか」
「して、聖女様はどうでしたかな?」
宰相閣下に討伐での聖女様の働き、成長、それに伴う私見をお伝えしたところ、既に以降の討伐の予定も組み始めているということですので、まだ当面は忙しくなりそうですね。
恐らく宰相閣下は、いずれ行われる大規模討伐に向けて聖女様のご成長を望まれていたはず。
となると、早ければ一年以内に動きがあるかもしれません。
何にしても陛下の御心の上に動いておられる宰相閣下ですから、それだけ陛下が早期の大規模討伐を望まれているということ。
そこに応えるのは国民として異論ありません。
ですが、聖女様への負荷があまりに大きすぎます。
どうしたものでしょう。
私個人としましては、せめて聖女様がご自分の全魔力を扱えるようになってからでもと思うのですが。
第二騎士団、第三騎士団との討伐は徐々に増やしても良い思われますが、大規模討伐となると話は別ですので。
私の杞憂なら良いのですが、この件に関しては高確率で当たっていると思うのですよ。
「ふむ…」
「どうした? ユークレスト」
「ああ、マティアスですか」
「宰相閣下の所へ行くと言っていなかったか?」
「ええ。そちらは済ませました」
「ならどうしたんだ?」
「いえ、聖女様のこの先の話で少し気にかかることがありまして…」
「お前は前々から気にしていたな」
「ミライズ団長殿、ツァーリ副団長殿」
魔道士団にある執務室へ戻る途中、団長殿に声を掛けられたので話しながら歩いていると、不意に後ろから呼び止める声が聞こえてきました。
振り返ってみれば、そこには珍しいお客人が。
ここでお会いするのはいつぶりでしょうか。
「アルター殿ではありませんか」
「ご無沙汰しております」
「どうされた? 貴殿が魔道士団に来られるのは珍しいな」
「所要で第三騎士団に行ったのですが、そこで団長殿に使いを頼まれまして」
「第一騎士団の騎士に使いをさせるとは」
「第三騎士団所属時にお世話になっておりますので…」
「それは災難でしたね」
ディガー・フォン・アルター殿は第一騎士団所属の騎士殿で、確かクライス殿の同期でしたか。
よく共にいるのをお見かけしますので、懇意にされているのでしょう。
そのためか、アルター殿は聖女様とも居られますね。
……なかなかアルター殿と話す機会もありませんし、少しご意見を頂いてみましょうか。
託されたという書類をマティアスに渡しているアルター殿にこの後の予定を尋ねると、本日は早番でもう勤務は終わりなのだそうで。
だから第三騎士団の団長殿に頼まれてしまったのだと苦笑されています。
「時間がおありでしたら、少し相談に乗っていただくことは可能でしょうか?」
「私が、ですか?」
「ええ。聖女様の件で」
「先程の話か?」
「ええ」
「ならば私も同席しよう」
「…何か、あったのですか?」
アルター殿は察しが良いようですね。
私達の様子からあまり良くない兆候の話だと察して下さったようです。
快く承諾して下さったので、私達はそのまま私の執務室で話をすることに致しました。
執務室に入ると、お二人には応接間に掛けていただいて早速本題に入ることに。
私は先程の宰相閣下との話の内容に私見を織り交ぜて懸念事項をお伝えし、お二人の反応を見ておりました。
マティアスはある程度の予測はついていたようで顔を顰めてはいるものの、動揺を見せるようなことはありませんでした。
アルター殿は私の話に驚かれていましたが、聖女様の討伐への参加には思う所がある様子ですね。
「成程……正直に申しますと、今の討伐間隔と聖女様への討伐参加のご意向を考えますと、ツァーリ副団長のお考えに同意せざるを得ませんね」
「やはりアルター殿もそう思われますか」
「ええ。ミライズ団長殿はどのように?」
「残念ながら私も同意見だな」
「となると、このままでは聖女様に無理を強いてしまうことになりかねませんね…」
私の考えはお二人にも同意されたことから、どうやら杞憂で済まされそうにないことは確定したようです。
ですが、困りました。
私達は聖女様に負担にならないよう助力したいと思っているのですが、宰相閣下のご命令に背く訳にもいかず、活路を見い出せずにいます。
「今の私達に出来ることといえば、討伐に出る聖女様の補助くらいのものでしょうか…」
「私達第一騎士団は大規模討伐でもなければそれもお役に立てませんね…」
「討伐への参加頻度を少し落とすよう調整出来れば良いのだが…」
三人が一様に頭を抱える様は見せられたものではありませんね。
何とも情けない話です。
何か策が見つからないものかと私達は暫く頭を捻っておりましたが、その場ではこれといった対処法も思い当たらず。
「…このまま聖女様にご無理を承知でお願いする他ないのでしょうか…」
「それは心が痛むところだな…」
「聖女様は心優しい御方ですから、尚更無理強いするような真似はしたくないのですが…」
「近年魔物が増えているのは確かですが、まだ我々で抑えられています。陛下や宰相閣下の焦りもごもっともですけれども」
「ええ。その為に聖女様を召喚されたのですからね」
「ああ、聖女様も納得されているかは別として、理解されていたはずだ」
「だからこそ余計な無理をしてしまわないか心配なのですよ」
これはもう少し考える必要がありそうですね。
広く人に助力を求める方が良いのでしょうか。
ですが、あまり大きく事を荒立てる訳にも参りません。
となると、人物を特定して………
「………この件、アルバートに話してみても良いでしょうか?」
……と思いましたが、どうやら早速候補が見つかったようですね。
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