表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/113

宿場

到着しました。

 ツァーリ様に教えてもらった風属性魔法のクッションは、実際に馬車が走り出すとすぐに効果を体感した。

 そのおかげで最後に休憩した街からサンレーヌ領までの道中は身体を痛めることもなく、穏やかに到着出来たんだから魔法って本当にすごいよね。




 サンレーヌ領では領主であるサンレーヌ侯爵夫妻がお出迎えをしてくれて、簡単にご挨拶をしてから用意された宿へと向かった。


 部屋は騎士さんや魔道士さん達は相部屋だけど、団長さんとツァーリ様、私はそれぞれ一人部屋をもらっている。


 自分に宛てがわれた部屋に入り、ベッドにダイブするとそのまま眠ってしまいそうなくらい一気に睡魔が襲ってきて目を開けていられない。

 慣れない馬車移動の上、本討伐ということで無意識に気を張りすぎていたのかもしれない。


 ああ、もうこのまま寝ちゃおうかなぁ…

 明日は軽く下見をするけれど、私は同行しなくて良いと言われているからゆっくりさせてもらおう。

 出来ればお風呂に入ってから寝たいところだけど、そこまで起きていられるだろうか。

 でももう眠くて動く気力もない…



 微睡む意識の中、ぼんやりと考えていると、扉の向こうからコンコンとノックの音が響いた。


「はぁい………」

「失礼致します、ユーカ様。夕餉はどうなさいますか?」

「あ、ツァーリ様……」

「おや、お疲れのようですね。食事は運ばせましょう。今はゆっくり休んで下さい」

「でも…」

「休むことも大切なことですよ」


 何とか体を起こして半ば夢現に会話をしていると、ツァーリ様は苦笑しながら私をベッドにそっと押して寝かせ、そのまま少し冷たい手で私の目を塞いでくる。


 荷物を置いて少し休憩したら皆で集まって夕食にしようって話だったのに、私だけ行かなかったらきっと心配かけちゃう。

 疲れてるのは皆一緒なのに。

 そう思って何とか身体を起こそうと思ったのに、ツァーリ様に目を覆われるとその一瞬で落ちてしまったようだ。



 そこからの記憶はなくて、次に目が覚めたのは朝日が昇ってからだった。



 え、何時間寝た!?

 身体は軽くなったし、お腹も空いたけど、こんなにガッツリ寝ると思ってなかったからめちゃくちゃビックリした。

 これだけ寝たのはいつぶりだろう…


 昨夜は結局そのまま寝落ちてしまったため、シャワーを浴びて着替えを済ませ、あまりにもお腹が空いたため、用意しておいてくれたらしい夕食を少し摘んでから階下に下りる。


 昨夜、ツァーリ様が声を掛けてくれたことは朧気に覚えているので、寝ちゃってごめんなさいって言わないと。

 外から騎士さん達の賑やかな声がする所を見るともう起きてると思うし、捜してみよう。





 …と、思った矢先にツァーリ様はすぐに見つかった。

 何故なら階段の下で待ち構えていたから。


 待ち構えていたって言うと語弊があるかな?

 たまたまなのかわからないけど、下りたら居た。



「おはようございます、ツァーリ様」

「おはようございます。よく眠れましたか?」

「朝までぐっすりでした……昨夜はすみませんでした…」

「謝ることはありませんよ」


 遠征に慣れていないのだから疲れが出るのは当然だと言ってくれて、実際その通りだったので謝るのはやめて素直に頷いた。


「ところで、ユーカ様は本日はどのようなご予定で?」

「予定ですか? 下見は騎士さん達だけでいいと言われましたし、少しゆっくりして街中でも散策して来ようかと」

「ではその時は私にお声掛け下さい」

「え?」

「見知らぬ土地にお一人で出歩かせる訳には参りませんからね」

「あ、そっか…」


 よく忘れるけど、極度の方向音痴だからそもそも一人で出歩いちゃダメなんだった。

 ツァーリ様が言ってるのは聖女だからって意味なんだろうけど、私としては方向音痴の方が大きい。

 日本なら迷っても携帯ナビとか、迷ったって助け求めたりとかできるけど、この国にはまず電話がないから迷ったらアウトだ。


 そこら辺はまだ日本にいた時の感覚が抜けてないんだなぁ…

 こっちに来て随分経つのにね。

 日本では一人暮らししてたから、どこ行くにも携帯ナビで一人で動くのが当たり前だった。

 だからか、自分が方向音痴ってわかってるのについ一人で動こうとしちゃう。


 いちいち付き添ってもらうよりも、迷子になった方が逆に迷惑をかけるってわかってるのに。



 ツァーリ様には了承の返事をして、私は部屋に引き返した。

 朝食はさっきも少し摘んだ昨日の夕食で十分だから、戻って食べて、少し休憩して、それから出よう。


 どこに行っても毎食菓子パンが出てくる習慣に少し慣れてきた私は、夕食に食べるにはカロリー過多なクリームたっぷりの菓子パンを口に運んだ。




 のんびりすると言っても日本みたいに娯楽がある訳でもないし、宿屋にお菓子が作れる環境がある訳でもない。

 かといって、昨夜ガッツリ寝たので今更ゴロゴロしようとも思わない。


 詰まるところ、することが無くて暇になった。



 どうしよう、もう出掛けようか…

 紅茶を飲んで一息ついたまでは良かったけど、これ以上時間が潰せない。

 どうしたものか……ツァーリ様には少しゆっくりしてからって言ったのに、あれからきっと一時間も経ってないよ。

 さすがに早すぎるから、いっそ魔法の練習でもする?


 グダグダ考えてみても結局やることは思いつかなくて、再びベッドにごろんと横になる。



 それとも、お菓子のレシピでも考えようか。

 そういえば各地で特産品が違うって聞いた事あるし、サンレーヌ領の特産が食材だったらお菓子に使えるかも…?

 王都でそれなりの物は揃うから作れるレシピも増えたけど、増やせるならもっと増やしたい。

 私はパティシエ志望だけど、お菓子全般作るのは好きなのでそろそろ和菓子も作りたいんだよね。

 今の所片栗粉でお団子くらいしか作れてないから色々探してるんだけど、何かいい材料見つからないかなぁ…



 と、そこまで考えた所で私はベッドから飛び起きる。

 街中を散策するつもりでのんびりしていたけど、食材を探しに行くなら早く行きたい。

 よし、ツァーリ様に声を掛けに行こう。


 お菓子のためなら悩んでたことも忘れて勢い任せに動き出しちゃうのは私の悪い癖だけど、ウダウダしてるよりはいいよね!




 開き直った私がツァーリ様の部屋に突撃すると、ツァーリ様は嫌な顔一つせずに迎え入れてくれた。



「お早いですね。休息はもう宜しいのですか?」

「はい」

「何かしたい事でも見つかったようですね」


 むしろ私の事を把握されていた。

 そんなにわかりやすいのかな、私……


「それで、どこに行きたいのですか?」

「領地毎に特産品が違うって聞いたので、それを探しに行きたいんですけど」

「ふむ。サンレーヌ領は確か粉類が豊富だったかと…」


 粉類か……小麦粉、強力粉、片栗粉は王都で手に入るからそれ以外の物がいいなぁ。

 いい加減ベーキングパウダーと巡り会いたい…

 マドレーヌ食べたいのにベーキングパウダーがないから作れないんだよね。


「では、市場を回って見てみましょうか」

「お願いします!」

「もうお支度はお済みですか?」

「大丈夫です」

「でしたら、フォルティス団長殿にお声を掛けてから参りましょうか」

「フォルティス様は下見には行かれてないんですか?」

「今回の討伐の総司令ですからね」


 そっか、総司令があちこち駆け回ってたら連絡とか困るもんね。

 夕方騎士さん達が下見から戻った頃に行われる討伐ルートや作戦の確認の時間までは自由にしていていいと言われているものの、特にツァーリ様は他の人も用事で捜したりするだろうから出掛けるって伝えておくのは大事。

 居ない人を捜すのは可哀想だ。



 私はツァーリ様の後について団長さんの部屋に向かい、それからウキウキ気分で市場へと歩き出した

読んで下さってありがとうございます!

討伐前に暢気ですねぇ(笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ