乗馬
100話!です!特別感はないけど、さすがに討伐の話で100話も味気ないなと思ってデートの話になりました。
「ねぇ、ユーカ。次の非番に二人で王都の外に出掛けないか?」
「えっ?」
討伐訓練で忙しくなったけど、その合間にもアルバート様とは会っている。
今もこうして仕事終わりに部屋に来てくれて、ソファに二人並んでお茶してるんだけど。
急にどうしたのかな?
次のアルバート様のお休みの日は、ちょうど討伐もなくてツァーリ様も用事があるとかで反省会も無い。
だから翌日に反省会と訓練をまとめてやろうって話になってるんだよね。
久しぶりの丸一日休みがアルバート様のお休みと被るなんて滅多にない事だから、ゆっくり会えるのかなって期待してたのは事実なんだけど、どこかに行こうって誘われるのは珍しい。
市街や市井くらいは時々一緒に出掛けるけど、王都の外なんて初めてじゃない?
「あまり気乗りしないかな?」
「ううん! そんなことない!」
「それなら良かった」
王都の外なんてクライス領と討伐くらいしか行ってないから、私はただその日を楽しみにしていた。
そして当日。
いつものようにアルバート様がお迎えに来てくれて、市街の方へと歩いていく。
王都の外というと、市街の外れから馬車に乗っていくのだろうと予想しながらエスコートされるままに着いていったら、何故か騎士団の詰所に来ていた。
あれ?
「何で騎士団?」
「今日は馬で行こうと思ってね」
「え!? 私乗れないよ!?」
「大丈夫だ。悪いが少し待っていてくれ」
どういうことなんだろう。
アルバート様は私が慌てていても笑うだけで教えてくれない。
もしかして、乗馬の訓練でもさせる気かな!?
それはそれでやってみたい気もするけど、それでいきなり王都の外に出るのは無理だと思うよ…?
そんなことを考えながら入口で大人しくしていると、すぐに馬を連れたアルバート様が戻ってきた。
馬は…一頭だね…?
どうする気なのかなぁ…?
「さ、乗って」
「え?」
「私が支えてあげるから」
「えぇ? …って、わぁ!」
アルバート様は、困惑している私を軽々と持ち上げて馬に横乗りさせ、自分もその後ろにヒラリと乗り上げる。
の、乗ってって、こういうこと…!?
自転車の二人乗りならぬ、馬の二人乗り…
漫画では見たことあるけど、いざ自分がってなるとめちゃくちゃドキドキする。
密着するし、馬に乗ること自体初めてだし。
二重の意味でドキドキだよ…!
手綱はアルバート様が握ってくれているから、実際腕の中に囲われている感じではあるんだけど、どうにも怖くて私はギュッとアルバート様の服を掴んでいた。
「怖かったら私の腰に手を回してしがみついていて」
そう言ったかと思えば、そのまま私の手を腰に誘導される。
自分から抱きつくのはまだ恥ずかしいけど、怖いドキドキより恥ずかしいドキドキの方が耐えられるかもしれないと、私はアルバート様の腰に回した手に力を込めた。
「では行こうか」
アルバート様が手綱を引くと、馬はゆっくりと歩き出す。
そのまま、討伐で使う王都の出入口に向かい門を出た。
途中で会った騎士さん達にはからかわれたり羨ましがられたりしたけど、相変わらずアルバート様は気にした様子もない。
いつも思うけど、そこまで気にしないでいられるのも凄いよね。
まぁ、周りにどう見られているのか興味がないだけなんだろうけど。
「ユーカ、顔を上げてごらん」
「え………? うわぁ…!」
それまで怖くてじっとアルバート様にしがみついて顔も上げれなかったのに、勇気を振り絞って一度顔を上げてみたらその景色に圧倒されて怖かったことも忘れてしまった。
すごい……突き抜けるような青い空に、限りなく広がる草原。
もう随分と王都から離れたのか、お城が小さく見える。
吹き抜ける風も気持ち良くて、何だか心が踊るのが自分でも分かる。
「すごい……」
もうそれしか言えないよ。
こんなに開放感に溢れた場所、私は知らない。
「それは良かった。ユーカは王都の外に出ても馬車からの景色しか見えないだろう?」
一度この景色を私に見せたくて強行したのだとアルバート様は言う。
馬に不慣れなのに無理に乗せて怖がらせて悪かったと謝られてしまったけど、アルバート様の馬はきちんと調教されているのか大人しいし、何よりこの景色でそんなこと全然気にならなくなったから大丈夫だと笑って見せた。
「ここから少し走らせよう。絶対落としたりしないから、ユーカも安心して景色を楽しんで」
「う、うん…ありがとう…!」
「馬を走らせると、風が凄く心地良いんだ。爽快だよ」
「そうなんだ!」
それは楽しみかもしれない。
今でさえ爽やかな風が通り抜けて気持ちいいのに、もっとって言われたら気にならない訳がない。
私が腰に回す手に力を入れたのを確認したアルバート様は、グッと手綱を引いて馬を走らせた。
最初はゆっくり、慣れてきたらだんだんスピードを上げて。
私の反応をちゃんと見ながら怖くないように調整してくれてるみたい。
どこに向かってるのか、どこかに向かってるのかもわからなかったけど、馬に乗って感じる風はアルバート様の言う通り本当に爽快で、澄み渡る空と併せて私は全身で楽しんでいた。
そうしてどのくらい走っただろうか。
速度を落としたからどこかで休憩でもするのかなと思った時、ふと後ろを振り返るともうお城は全く見えなくなっていて、もしかして討伐に出ていた森よりも遠くに来ているのではないかと思うくらい。
辺りは遠くに森が見えるくらいで何も無い。
本当にどこに行くんだろう…?
「どうした? 疲れたか?」
「あ、ううん!」
「そうか。もう少しで着くけれど、疲れたなら休憩を入れるから遠慮せずに言ってくれ」
「ありがと」
私が急に動かなくなったからか、アルバート様が心配そうに覗き込んできた。
もうすぐ着くって言ってたから、目的地はあるってことだよね。
でも見渡す限り本当に何も無いんだけど、目的地になるような場所なんてあるの?
不思議に思いながらもまぁいいかとお任せしていると、今まで走っていた広い草原から外れて少し茂った小道に入っていく。
この先に目的地があるのかな?
草原に比べて木々が多いから何となく薄暗くて先の方が見えにくいんだけど、この小道結構長いなぁ。
大分進んだと思うのに小道はまだ続いている。
どこまで続くんだろうと思った頃、何やら道の先に薄ら光が見えた。
「アルバート様、あれ…」
「ああ、もう着くよ」
どうやらあの光の射す所が目的地のようだ。
光が見えるってことは茂みから抜けるのかな。
どんな所なんだろう。
拓けたところなのか、それとも隠れ家みたいな小さな場所なのか。
想像しながら目的地に近付くのはすごくドキドキした。
そして辿り着いたのは…
「泉…?」
水面に太陽の光が反射して美しく揺らめく大きな泉だった。
泉を囲うように色とりどりの花が咲き乱れている。
こんな綺麗な場所があったんだ…
その神々しい風景に思わず口を開けて見入っていると、アルバート様が馬を止まらせて先に下り、それから私を下ろしてくれた。
「綺麗だろう?」
「うん……幻想的で綺麗…」
「良かった。一度連れてきたかったんだ」
この泉はさっきの小道からしか行く方法がなく、道幅的に馬車では通れないため、馬に乗れない私を乗せて来てくれたんだって。
そうやって私のことを考えてくれるのが嬉しいし、この綺麗な景色に心洗われるようで何だか疲れが取れるというか、気分が明るくなったような感じ。
「最近は討伐ばかりで疲れているだろう。気晴らしになればと思ったのだが…」
「ありがと…」
「ユーカが頑張っているのは知っているから。そんなに気負わなくていいんだよ」
「うぅ…」
アルバート様は私が“聖女”というプレッシャーに押し潰されそうになってもがいているのがわかってたんだね。
だからこうして気分転換に連れ出してくれたんだ。
その優しさに目が潤むけど、何とか堪えてアルバート様の胸にそっと頭を預ける。
そのまま引き寄せられて力強く抱き締められて、私は改めて自分を見ていてくれる存在の大きさを実感した。
アルバート様に会えて良かった。
本当に心から感謝しながら、私もその広い背中に腕を伸ばした。
読んで下さってありがとうございます!
そして、長々とお付き合い頂いてありがとうございます!
思いつきで書き始めた話で、ただダラダラと続いているような感じですが、たくさんの方に読んでいただけて嬉しく思っております。
佑花とアルバートにはまだまだやってほしいこともたくさんあるし、もっと色んなキャラを登場させてあげたいのでまだしばらくは続くと思います。
毎日更新出来るかはわかりませんが……
気が向いた時にでもお付き合い頂けますと幸いです。




