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興味

アルバート視点です。

 ある夜番の巡回で出会った変わった女性。

 あの日団長に報告した時に話を聞いていた通り、やはり彼女が聖女として召喚された人物だったそうだ。


 近年の魔物の増加に伴い、騎士団の派遣もひっきりなしになっている。

 今でこそ頻回な討伐で何とか抑えられているが、これが更に増えた時どうなるのか。

 それは火を見るよりも明らかだろう。

 騎士団の派遣を増やせばその分王都が手薄になる。

 しかし、派遣を減らせば地方が壊滅の危機に陥ることになる。

 そこで、伝説とされている召喚術を使って聖女を喚ぶことにしたらしい。



 それからというもの、私は彼女を団長の元に連れて行って以来顔を見ることも無く、通常通りの仕事に戻っていた。


「アルバート様!?」


 だからその数日後に不意に顔を合わせるなどと思っているわけもなく、休憩中に街を歩いていた時に声を掛けられたのには驚いた。

 驚いたのと同時に、私のことを覚えていてくれたことが何だか嬉しい。

 更に以前の御礼にと異国の食べ物を戴いたのだが、これがまたこの国にはないサクサクッと音がするような軽い食感に優しい甘さの食べ物で、初めての美味しさに私はユーカ殿の前で戴いた分を全て食べ切ってしまっていた。


 そしてその日の夕刻、訓練場でいざ訓練を始めた時、自分の身体に何となく違和感を感じてステータスを開いてみた。

 違和感と言っても悪いものでなく、調子が良くなったと感じたものだから特に問題はないのだが。


「………ん?」

「どうした? アルバート」


 突然剣の素振りを止めてステータスを見る私に、隣で同じように素振りをしていた同僚騎士であるディガーが不思議そうに尋ねてくる。


「いや、どことなく調子が良くなっている気がしてステータスを見ていた」

「調子が良い?」

「ああ。原因はわからないが、何故かHPの最大値が上がっている」

「何だそれ!?」


 その反応は無理もない。

 私も同じ気持ちだ。

 ディガーに肩を竦めて見せると、それまで目を見開いていた彼は急に真面目な顔で私の方を見た。


「…ちょっと待て。私も今日は妙に疲れにくいなと思っていたが、もしかして関係があるのか?」

「そうなのか? ステータスはどうなっている?」

「『ステータス』………んん?」

「どうした?」

「回復薬も飲んでないのにHPが回復してるんだが…」

「回復…?」


 どういうことだ。

 私だけでなくディガーもステータスに変化が出ているとは。


 少し気になった私は、訓練場にいた他の騎士達にも聞いてみることにした。

 その結果、そこに居た全員のステータスが変化していることがわかった。


「何でだ…!?」

「HP上げるのは嬉しいが、原因がわからん!」

「今日何か変なことあったか?」

「でもここにいる全員同じ行動なんて取ってないぞ?」


 全員が同じ行動……まさか、とは思うが、


「この中で聖女様が差し入れてくれたくっきーを食べた者は?」

「「「食べた! 美味かった!!」」」


 食べ物にそんな効果をつけるなんて有り得ないとも思ったが、何せ作ったのが聖女であるユーカ殿だ。

 全くないとは言い切れない。


 私は「さすが聖女様!」「すごいな!」とただ喜び騒ぐ同僚達を後目に団長へ報告を上げに行ったのだった。




 そしてその翌日。

 巡回から帰ってくると、詰所の大広間に何やら人が集中していた。

 何かを囲むように集まっているようだが、騎士の巨体に阻まれてここからでは中央は見えない。

 本当にこの騎士団の面々は元気だなと呆れながら何を群がっているのかと彼らに声を掛けると、少しの隙間から見えた中央の黒いものが振り返った。

 そして黒い瞳と目が合う。

 どうやら黒いものはユーカ殿の髪だったようだ。


 何故彼女がここに…と思いながら周りに目を向けると、少し離れた壁側に魔道士団副団長の姿を見つける。

 どちらにしてもここに居るのは珍しい人物だ。


「ユーカ殿にツァーリ殿?」


 二日連続で会うと思っていなかったユーカ殿と、基本的に魔道士団か王宮以外は出歩かないと有名なツァーリ殿が騎士団の詰所にいることに疑問を隠せない。

 失礼を承知で疑問をそのまま尋ねると、ツァーリ殿はどこか楽しそうに理由を教えてくれたが、くっきーの効果を聞いてくる辺り昨日のステータスの上昇はそれが原因で間違いないのだろう。


「それにしてもHP上限に、MP上限、HP回復、MP回復、疲れにくいとこれだけ効果があるとなかなか焦点を絞るのが難しいですね」


 顎に手を当てて考え込むツァーリ殿。

 その横ではうーんと唸っていたユーカ殿が何か思いついたのか、あ! と声を上げた。


「もしかして、なんですけど」

「何か心当たりが?」

「いえ、あのクッキーは五種類作ったんです。もしかして、種類毎に効果が違う、なんてことは…」

「なるほど! あるかもしれませんね!? くっきーの残りはありますか!?」

「え? あ、えと、一種類ずつでよろしければ自分の分が…」

「ではそれを拝借します! 私は調べることが出来たのでこれで失礼致しますね! また明日お伺いしますので!」

「え? え!? あ、あのっ! ツァーリ様!?」

「………行ってしまいましたね」

「ええぇぇ…」


 あんなに声を張り上げて話すツァーリ殿は初めて見た。

 すっかり剣幕に押されて口を挟むことも忘れて見守っていたら、ツァーリ殿はユーカ殿を置いて急ぎ足で詰所から出ていってしまわれた。

 残されたユーカ殿は頭を抱えている。


「どうされたのですか?」

「いえ、その…私、帰り道わからなくて…」

「ああ、なるほど。でしたら私がお送りしましょうか」

「えっ!? で、でもお仕事が…」

「巡回は終わってますし、この後は訓練場に行くだけでしたので大丈夫ですよ」


 王宮は道が入り組んでいるし、詰所から王宮に行くにも街を通って行く必要がある。

 この国に来てまだ数日のユーカ殿が道を覚えられないのも当然だろう。

 それを知ってか知らずか一人残していくツァーリ殿の方が問題だ。


 遠慮するユーカ殿を椅子に座らせ、団長に話を通してくるから少し待っていてほしいことを伝えると、彼女は大人しく頷いてくれた。



 団長に事情を話すと、ため息をつきながら聖女様をよろしく頼むと任じられて大広間に戻る。

 団長によると、ツァーリ殿は普段は冷静沈着な方だが自分の興味のあることになると周りを忘れて暴走しがちらしい。

 私は魔道士団と深く関わることがないから知らなかったが、あちらでは公然の周知だそうだ。





 王宮までの道のりに馬車を用意するか尋ねると、ここまでも歩いてきたから徒歩で良いとのことで私はユーカ殿を連れて歩くことにした。


「こちらでの暮らしは慣れましたか?」

「少しだけ…やっぱりマナーが慣れません」

「ユーカ殿の故郷には貴族制度がないと仰っておられましたね」

「そうなんです。こんなドレスを着て歩くようなこともないですし」

「確かに、初めてお会いした時の貴女の服装はこちらにはないものでしたね」


 ですが今着ているドレスもとてもお似合いですよと何気無しに言うと、ユーカ殿は頬を赤らめて躊躇いがちに礼を口にした。

 その反応は可愛らしく、つい口元が緩んでしまう。


 この国では社交辞令として女性の身嗜みは褒めるもので、女性側としても当たり前に受け止めるため彼女の反応が初々しくて好感が持てる。

 それにドレスも淡い水色の落ち着いたデザインで、派手すぎず地味すぎず、そして彼女の綺麗な黒髪を引き立たせていて美しいのだから間違ったことは言っていない。


 照れているのかまっすぐこちらを見てくれないユーカ殿に小さく笑みを零し、そこでふと彼女に興味を示している自分に気付く。



 有難いことにご令嬢方からのお誘いはよく戴くし、手紙や贈り物も頻繁に届くがそれだけだ。

 戴いた物には丁寧にお返しするのは当然のこと、お誘いには騎士団の職務を理由に丁重に辞退させてもらうのみで応じたことはない。


 正直な所、私は色恋事への興味が薄いのだろうと思う。

 兄が領地を継いでいることから私は無理に婚姻を結ぶ必要もないという考えが抜けないためか、縁談話が出てもやんわりお断りし続けている。



 そんな自分が女性に興味を持ったこと自体、我が事ながら驚いたのは仕方がないと思う。

 ユーカ殿に対しての興味が色恋沙汰の興味とは限らないが、もう少しその人のことを知ってみたいと思ったのは初めてだった。

読んで下さってありがとうございます!

実は前話で佑花が「聖女様!」と騎士の皆に囲まれる事態になったのはアルバートのせいでした。

ようやくアルバートの方が少し変化が出てきましたね。

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