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● 045 奇貨Ⅱ


 おはよう。


 とても気持ちのいい朝を迎えた。


 僕は絶好調だ。

 一方のエディ君はというと、顔を洗った後もぼんやりとした感じ。心ここにあらずといった様子で、朝ご飯を半分くらいを残してしまった。


 完全に昨日のことが後を引いているみたい。

 もう何時間も微熱に浮かされた表情で中空を眺めていて、間欠泉のように時々『ボンッ』と顔を真っ赤にして懊悩している。



「エディ君、大丈夫ですか?」

「~~っ」



 僕が傍に行くと更に赤くなって声にならない声をあげてフリーズするという悪循環が生まれるので手の施しようがない。


 洗面所の鏡を見ると、僕だって顔を赤くしていた。

 真っ赤だ。

 嬉しさと困惑が半々と言った表情で、恋する乙女そのもの。

 エディ君のことは全然言えない。


 勘違いするな、僕。

 エディ君に必要なのは絆。家族の、無償の愛の絆だ。そこに色恋が混ざってしまえば気持ちが濁ってしまう。情欲なんて以ての外。


 あれはおやすみのキスだ。

 あれはおやすみのキスだった。

 つまり親愛のキスであり、ぎりぎりセーフの判定。

 妹ならキスくらい普通のことだから。なのでセーフ。キスはハグは家族でもセーフ。


 そもそもエディ君はロリコンじゃないし。

 僕の一人相撲に決まっているし…。


 だから家族から。健全な家族関係を続けていこう。

 好きなんて言わない。


 でも、多少漏れてしまうのは仕方ない。昨夜のように何かが溢れてしまったら、その時はその時だ。

 そもそも、自分の心なんて制御できるものではないのだから。

 これは断じて開き直りではない。


 よし。


 話し合いが午後からで良かった。お昼までに表情を取り繕えるようになれればいいなあ。

 ちょっと散歩をして頭を冷やそうかな…。


 ううん、やめておこう。こんな浮ついた状態で外に出歩いたらどんなトラブルに巻き込まれるか分かったものではない。

 窓を全開にして換気をするくらいにして、大人しく部屋に籠っておこう。


 ……。



「……」

「……」



 うん。

 まあ。


 ずっと2人きりでいると状況があまり改善しないことが分かった。

 当たり前と言えば当たり前だった。


 寝室に2人きりなのだから、とても自然に昨日のことが思い出されてしまう。ちらりちらりと、自然にエディ君へ視線が吸い寄せらてしまう。それで僕の方を見てきたエディ君と目が合って、二人同時に赤くなって得も言われぬ気まずさを味わうということを何度も繰り返している。


 うむむ。

 こういう時に限って宿暮らしの弊害が出てしまうとは。やっぱり、将来的には僕にもエディ君にも個室が必要だね。僕達がどれだけ仲が良くても、お互い一人きりになれるプライベートスペースは絶対に必要だ。


 観念してエディ君の隣に腰を降ろし、そっと肩に寄りかかる。



「アキラさん?」

「気にしないでください。少しこうするだけですから」


「はい…」

「ありがとうございます」



 どうしたって気まずい時間が続くのなら、思い切って距離を詰めてみようとした次第である。

 そう思った時点で封印が早速決壊寸前で、頭が茹っている。

 押し倒されて丸ごと頂かれてしまっても何も文句が言えないような行い。それでもいいと思ってしまっているので手の施しようがない。

 あり得ないけど。あり得ないけど!


 僕が僅かに身じろぎする度、びくりと体を強張らせるエディ君。体がとても熱い。熱いと感じるということは、僕よりも体温が熱くなっているということだ。

 体温を交換しながら体重を預けていく。

 エディ君からもゆっくりと体の強張りがなくなっていくのを感じる。それがとても嬉しい。

 目を瞑る。カチコチ、と時間が過ぎていく。



「たくさん心配をかけてごめんなさい。もう、ボクは大丈夫です」

「本当ですか?」


「本当の本当です」

「よかった。もう、恐くありませんか?」


「はい。ちっとも。もう独りじゃありませんから」

「絶対にあなたを独りにはしません。死ぬ時は一緒です。女神様のところに行く時も」


「ボクも誓います。未来永劫、生も死もあなたに捧げます。たとえ、世界が終わっても…」



 言葉少なく、二人の手のひらを重ね合わせる。

 カチコチ、と時間が過ぎていった。

 



  ◇◇◇




 大事な話し合いの時間がやってきた。

 曲がりなりにも議長の大役を任されたからには、メリハリをつけて真剣に取り組もう。



「いよいよですね」



 エディ君は大丈夫そう。

 ぽわぽわエディ君はどこへやら、とても凛々しくてカッコいい。


 リリアさんとリューダさんの事実婚カップル(決して軽蔑の表現ではない。見習うべき先輩だ)と合流し、廃教会に向かう。トムとは特にアポイントメントは取っていないけど、いつでも訪ねてくださいって言ってたから大丈夫だよね(※だって連日雨が降ってて外に出るのが億劫だったから…)。



「いい天気だねー。お外でお話するの?」


 

 どうやらリリアさんは市外の草原で内緒話をすると勘違いをしていた様子。盗聴を恐れるなら、確かに思い切って視界の開けた野外に行くのは有効的だ。憶えておこう。



「ほっほ。はじめまして。ようこそいらっしゃいました」

「は、はじめまして…。お邪魔します」

「はじめまして。お会いできて光栄です」



 リリアさんは柔和に笑うトムの顔を見た時にすごく驚いたような顔をして、借りてきた猫みたいに大人しくなってしまった。リューダさんはいつもと変わらない面持ちで丁寧にお辞儀をする。



「ここで暮らしているトム…、トマス様です。リリアさん、どうかしましたか?」

「なんでも…、なくはないけど、うん。大丈夫だよ。ちょっとびっくりしただけ」

「?」


「トマス様は勇者テルを陰から支え続けた神官様で、テル派の首りょ…、とある方面ですごく高名な方だから。それに、案内されてここに足を踏み入れるまで、私はこの教会を認識できていなかったの。とっても高度な結界よ(高速耳打ち)」 

「ここにも、結界が…?」


「はい。最も困難な巡礼を成し遂げた者のみに継承が許された『聖別結界』という聖術です。勇者様が認められた方々だけが入ることのできる小さな聖域をこの教会の敷地に巡らせています」

「なるほど、それで…」

「えっと、トムはこの特別な結界でテル様の遠征を支えてきたそうです。すみません。普段意識することがなくて、アキラさんに説明するのを忘れていました…」


「気にしないでください。僕も全然気づきませんでした。それだけ自然で強力な結界なんですね」

「そうだね…。多分、ここはほんの少し時空とか枠組みとかが高次元方向に浮いてるんだと思う。だから、この場所についての認識も意識から浮いちゃって、誰かに説明しようとする気持ちが起きにくいんじゃないかな(耳打ち続行)」



 時空とか枠組みとか。SF方面には明るくない僕には分かるような分からないような理屈だけど、トムがいつも待っていてくれるこの教会がとても安全な場所だという事はよく分かる。

 でもリリアさん、トムの目の前で僕に耳打ちを続ける意味はないのでは…?多分聞こえてるし…。後ろのリューダさんが溜息をついてますよ。



「…そういえば」

「エディ様?」


「ふと思い出したんです。リアさんのお店を勧めてくれたのもトムでしたよね。僕が初めてここに来た時…」

「えっ、…そうだったんだね」

「ほっほ。そういうこともありましたな。リリア殿はこの街一番の、五つ星錬金術師ですから。お勧めするのは当然のことです」



 そう言って朗らかに笑う好々爺なトム。

 一体どこまで見越していたのか。頼もしくも空恐ろしい指し手の気配がプンプンする。テル派の首領というのは伊達ではないようだ。



「トムは首領で、ボスですか?」

「ほっほっほ。爺は生涯アキラ様、エディンデル様の爺でございます」



 素直に聞いたら笑って誤魔化された。


 それにしても、大結界、聖域の森、光の結界、天盤結界、そして聖別結界と、女神様由来の力には様々な結界がある。どれもが不可欠で、結界こそが女神様の神髄だと言わんばかりに。

 世界を区切り、守るべきものを守り通す為の力…。


 天使としても、どちらかと言えば加護よりも結界の力の方が本分なのだと思う。

 レヴァ様が人類を守り、支え続けているように、僕もエディ君を守り、支え続けよう。

 大丈夫。その覚悟はもうとっくにできている。 

 



  ◇◇◇




 それから各々が改めて自己紹介を済ませ、トムが淹れてくれた紅茶を飲みながら僕がこの世界にやってきてからの経緯をかいつまんで説明した(ただし、僕が別の世界からやって来たという元男という過去だけは秘密だ。エディ君にも。このまま墓場まで持っていく覚悟である)。


 エディ君が監禁されて、自害したことは…、うん、エディ君の方から言うんだね。本当に強くなったね、エディ君。



「…僕の使命は終末戦争が終結するまでエディ君を支えることです。女神様も『私の勇者をよろしくお願いします』と仰って、とても心配しているようでした」

「女神様が…」



 話の流れに合わせて光の女神様の言葉をそのまま伝える。

 トムが密かにまた涙ぐんでしまっていた。

 リリアさん達もとても神妙な表情だ。僕たちの話を疑ってもいない様子。全面的な信頼がこそばゆい。



「…そっか。なるほどね。そのタイミングで、アキラちゃんがユウ君を助けに来て全部ひっくり返しちゃったんだ」

「はい。僕をエディ君の目の前に降臨させるという方法で女神様が介入したことで、最悪の結末は回避されたのだと思います。あとは僕たちの頑張り次第です」

「アキラ様…」

「アキラさん…」

「信じよう」



 僕は皆の信頼に応えたい。身なりは小さい女の子でも、心意気は僕次第だ。



「いつかレヴァリアを開放するために、ウィバクの黄昏領域をはじめとして、多くの問題について一つずつ解決していかないといけません。でも、僕とエディ君の二人だけではあまりにも遠い道のりになります。テル様が遺してくれた黄金の日々を無駄にしないためにも、どうか僕たちに力を貸してください」

「お願いします。どうか皆さんの力を貸してください」

「おお…、アキラ様、エディンデル様…。どうか顔をお上げください。そしてどうか不甲斐ない爺をお許しくだされ…。ずびっ…」

「ふふっ、うん。よろしくね。みんなの為だもの、喜んで協力するよ。ね、リュー君」

「ああ、中々に大それたことだが、結局は自分たちの命と生活を守るためでもある。だから、いつも通りだ」


「ありがとうございます」



 ここからだ。本当にここから。

 たくさんの人を繋いで、たくさんの思いを結び付けて、僕達と世界を救っていこう。


 そうして、新暦5004年6月4日の今日、最初の『レヴァリア解放戦略会議』が開催された。後年の歴史書に載ったりするかもしれない。 

 会議の命名は議長の僕に一任された。ちょっと物々しい名前だけど、名は体を表すというし、このくらいの意気込みは必要ということで。



「――では、改めて。これからレヴァリア解放戦略会議を開催します」



 ぶっつけ本番で議長をこなしていた僕に、主にエディ君やリリアさんから微笑ましいものを見守る視線が向けられていたのは気のせいではないだろう。「世にいう『天使会議』だね」と書記のリリアさん。世にいうってなんですか。全然言われてません。でも正直、そっちの方が浸透しそうで戦々恐々である。


 こほん。一つ目の議題は、喫緊の問題である魔力不足について…。



「はい、私とリューダ君から、共同で。とりあえず3億レン入ってるから。あと、おまけで一等級10個もどうぞ。そのままあげるから返さなくていいからね。ううん、返してきたら駄目だからね」



 会議が始まった直後に事もなげにエディ君へと手渡された、1000万レン金貨が丁度30枚詰め込まれた巾着袋。そして宝石のように綺麗な琥珀色の一等級マナ結晶が詰まった手提げ袋。

 どちらもずっしりとしていて、とても重い。

 リリアさんとリューダさんの結婚資金じゃないのかな、贈与税は払わなくてもいいのかな。



「3億といっても高級品ばかり買ってるとすぐになくなっちゃうから、計画に使わないと駄目だよ」

「受け取れません、とは言えません。本当にありがとうございます。世界解放の為、大切に使います。返礼は、いつか、必ず」

「とりあえず、俺はランクを黄金級に上げて資金を稼いでくる」



 9桁の現金注入のすぐ後、別に大したことではないといった様子のリューダさんが生真面目に間髪入れずに宣言した。

 これ以上の資金援助は…、と内心で冷や汗をかいていると、この子はこういう子だから、というリリアさんの困ったような微笑が向けられてきた。



「リューくんがハンターになったのはね、育ての親でもあり、ひと時の禁断の恋人でもあった私に追いつくためだったの」

「リリア…。お前が言うのか」


「うふふ。でね、その目的は白銀級になった時点で達成されたの。私も白銀級だし、再会してから――」

「待てリリア。…はあ、まあそういうことだ。久しく、狩りで日銭稼ぎをするだけの毎日だった。今までは」


「実力はもう十分に黄金級だよ。それは私のお墨付き」

「首尾よくいったら、レベル8狩猟区に連れていこう」



 その甘言が決定打だった。リューダさんからの提案はエディ君の隠し切れない目の輝きと、それを良しとする僕の天使的ドクトリンによって全会一致で可決された。



「あとは…、そうだね。お金の援助とは別に、ユウ君とアキラちゃん専用に、改良したマナ結晶とか、戦いで役立つようなマジックアイテムの開発に着手するね。店売りのマジックアイテムは魔法院のルールに従う必要があるけど、個人的な使用目的なら独自レシピはセーフだから」

「本当にありがとうございます。でも、個人使用目的のものをボク達に渡しても大丈夫なんですか?」


「…世界平和の為だから」

「なるほど…」



 どこまでも献身的な様子のリリアさんと、そんなリリアさんを横目で見て溜息をつくリューダさん。多分ギリギリアウトだ。

 お疲れ様です、リューダさん。リリアさんの隣にいられるのはきっとリューダさんだけです。自信を持って下さい。


 最後はトムの番。

 極めて政治的な、ウィバク解放後に行われる復興事業のあらゆる調整をお任せする。

 天使の名において全権を委任する、といえばそれっぽいけれど、どう言い繕っても丸投げ以外の何物でもない。


 でも、僕はエディ君専属サポーターなので。どれほど怠け者とか職務放棄とか言われようが、複雑怪奇な政界に関わるつもりは一切これっぼっちもないのである。



「万事、爺にお任せくださいませ。都市長と市議会への根回しをはじめ、テイガンド主要ギルド支部長とウィバク復興について秘密裏に協議し、調整していきます。シェカン他、他都市との連携もつつがなく。北神殿と大神殿が沈黙している今、女神様に仕える者として身命をかけて尽力いたします」

「ありがとうございます。トムの献身にいつも助けられています」

「本当にありがとう、トム。一体、どうやって恩を返していけばいいのか…」



 けれど、これは今回に限った話だ。トムがテイガンドでエディ君を待ち続けていてくれたからこそ実現した、一度切りの裏技になる。



「そのお言葉だけで、爺は充分報われました。それに、一年ほど時間を頂けるなら、これから先も、いかようにも」



 そう思っていたら簡単に覆された。

 よくよく聞くと、世界中にトムのお弟子さん達が散らばっていて、ウィバク解放から数えて少なくとも一年あれば確実にどこか一箇所は無意味な争いごとを起こさずに復興できるよう裏から手を回すことが可能らしい。そしてその次も、またその次も。

 一年をかけ、一つずつ解放可能。


 つまり――



「お願いします、トム。戦うことしかできなくてすみません」

「ほっほっほ。懐かしいですな。テル様もよくそういうふうに仰られていました」


「テル様も…」

「良かったですね、エディ君」


「くす。はい。テル様と同じでよかったです」

「ふふっ。…そう言えば、ギルド支部長と協議するということは、ハンターギルドのゼータさんとも?」


「はい、そうなります。実はゼータ殿とは旧知の仲でして。いたくお二人のことを心配されているようでした。そうですな、少なくともエディンデル様のことは気付かれているでしょう。アキラ様については、ひょっとしたら…というご様子でした」

「そうだったんですね。ゼータさんが…」



 ゼータさんとはギルド会館の中で何度か顔を合わせていて、その度に軽い挨拶や近況報告をしている。

 ほとんどいつも少し抜けた感じで飄々としているか、溜まった書類仕事の愚痴を言っていて、エディ君の正体について気付いているような様子は微塵も見せていなかった。

 書類整理を手伝ったくらいで地下訓練室を極秘で使わせてもらえるようになったのは、やっぱり子どもに甘いなあ、くらいにしか思っていなかったけど。

 そっか。とっくに知っていて、その上でああして…。



「僕たちのことって、どのくらい気付かれているんでしょうか。正体とか、目的とか…」

「……。そうですな…」

「あー」

「ふむ」



 おや、何だろう。大人三人に揃ってそんな反応をされたらちょっと不安になる。

 エディ君…、目をそっと逸らされた。ガーンである。


 あれ?

 そんなにあれ?



「絶世の美少女って時点であれだけど、お人形さんみたいなんじゃなくて、逆に小動物みたいにニコニコ笑顔で愛嬌もあるからね。最強だよね」



 リリアさん、あまり参考にならない貴重な意見ありがとうございます。

 ただ、小動物みたいで愛嬌があるというのは、クールビューティーの立ち振る舞いを心掛けている主観とは若干相違がある。

 エディ君?どうして我が意を得たりと言わんばかりにコクコク頷いてるの?



「…テイガンドの前身であるガンドはレヴァリア創成期から続く、最も古い都市の一つだった。だから、ガンドの民は聖樹の森に勇者が復活する神殿があり、勇者が幾度となく死んで復活していることは知っていた。そして、古来から深い繋がりのあったウィバクもまた、陰ながら勇者を支えていた。二つの古い都市で、歴代の勇者との親交と、勇者への信仰が密かに続いていたんだ。…不運にも、それは100年以上前に一度断ち切られたが…」



 淡々と、しかしはっきりとした口調でリューダさんは語った。



「ガンドとウィバクの子孫はテイガンドに多く残っている。そして、時代を越えて祖先から残されたものは決して消え去らない。だから俺もリリアもすぐに気付いた。ゼータ支部長の祖父はウィバクの名士だったとも聞く。だから、俺たち以外にも少なくない者がユウの正体に気付いているだろう。そして見守っている。間違いなく」



 テーブルの下でそっとエディ君の手を握る。

 すると、エディ君が僕の手をしっかりと握り返してくれた。

 うん。大丈夫だよ。大丈夫。



「それじゃあ、僕は…?」

「もしかしたら…、という半信半疑、いや、そうであってほしいという希望だな。ユウの傍に居続ける姿があまりに…、これ以上は俺からは言わないでおこう」

「うん。もしかしたら天使。ううん、もしかしなくても天使。みんな、いつもユウ君の傍でキラキラニコニコしてるアキラちゃんのことが大好きだよ」

「そうですな。エディンデル様と共にあるアキラ様は、あらゆる意味で天使以外にあり得ませんとも」


「~~っ」

「ふふっ、トマス様も言いますね。もしかしていけるクチですか?」

「ほっほ。実はテル様がそういう文化にも明るい方でして」

「リリア、際どい言葉を使うな…。はあ…」



 エディ君にかかっている重圧を少しでも和らげようと軽い気持ちで聞くと、とんでもない気恥ずかしさに身悶えする羽目になってしまった。オロオロチラチラと心配してくるエディ君の顔を見られない。

 決めた。

 もう絶対、僕の外見について他人に評価を聞いたりしない。

 



  ◇◇◇




 夜。

 

 明日は久しぶりの解放戦となる。使い捨てのベルトポーチは予定通り完成した。見栄えよりも容量と耐久性を重視したので、マナ結晶を10個くらい詰め込んでも破れる心配はない。やればできる子天使の子。

 苦労した分、少し愛着が出てきたのはエディ君には秘密だ。明日はよろしくね。ウィバクを解放できた後、地面に落ちているのを見つけられたらいいなあ。


 エディ君はちょっとトイレに行っている。僕はエディ君のベッドに寝転がっている。

 このままベッドに居座って狸寝入りをするか、行儀よく起きて待っているか、どっちにしよう。


 このまま寝たふりをすれば、エディ君は僕を追い出すことなくそのまま横で寝てくれるだろう。エディ君は優しいので。朝まで同衾コースの誘惑は抗い難い。寝相の調整でハグし放題だし。


 一方、ちゃんと起きて待っていれば、いつも通りハグをして、昨日のようにキスできる。家族だからこそ許されるおやすみのキス。こっちが王道だ。しかしそのまま同衾、という流れに持っていくのは困難だと思う。家族だからこそ節度が大事で、同じベッドはアウト判定されるだろう。エディ君はむっつりスケ…、禁欲的で分別のある人なので。


 キス、同衾、キス、同衾…。


 どうしよう…、どう…し…。


 ぐぅ。










 

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