● 041 奇貨Ⅰ(1)
薄明るい廃教会の客間。
扉の向こうから、微かに子どもたちの笑い声が聞こえてくる。
扉のこちら側で、淡々としたエディ君の告白が終わる。ほとんど抑揚なく、信頼していた人たちに裏切られ、追い詰められて自ら命を絶ち、ずっと人間不信になっていたと。言葉に淀みは一つもなく、とても分かりやすくまとめられていた。きっと、トムに話をする直前まで頭の中で話す内容を整理し続けていたのだろう。
「トマス様…」
「どうかトムとお呼びくだされ、エディンデル様…。申し訳ございません…、一番苦しまれている時に、爺は何もできず…、爺は…。」
「うん…、トム。今まで心配をかけてごめん…」
「エディンデル様…」
淡々と分かりやすく語られたからこそ、過去は決して変えられないのだと、エディ君が理解していることを理解する。してしまう。
悲嘆と謝罪、そしてエディ君への親心。頭を垂れてさめざめと泣き続けるトムを見て僕ももらい泣きしそうになる。天使になってから涙もろくなったと思いながら、どうやってトムを慰めればいいのか分からなくておろおろとしているエディ君に笑顔を向ける。
アキラさん、いいアイデアが?
はい、任せて下さい。
アイコンタクトで以心伝心。
両腕を広げてがばっとエディ君とトムをまとめて抱き締める。
やっぱり女の子は有利だね。男だったらこんなこと気軽にできないよ。
「アキラ様…。エディンデル様をお救いになって下さって、本当にありがとうございます…」
「どういたしまして。トムこそ、エディ君を助けてくれて本当にありがとうございます」
「ありがとう、トム。改めてこれからもよろしくお願いします」
エディ君が僕と一緒にトムの大きくて皴だらけの手を取り、心から嬉しそうに微笑んだ。
ちゃんと話せば何とかなるということは分かっている。でも腹を割って話せるようになるまでが本当に大変で。
だから、このひと時は当然の帰結であると同時に、手にして当然の結果ではない。
エディ君が頑張って自ら手繰り寄せたハッピーエンドの一つだ。
本当によかった。
◇◇◇
それから、ようやく落ち着いたトムにウィバク解放という目標について相談すると、抗い難い満面の笑みで「人間同士の暗い争いは爺にお任せ下さい」と、重要な後方支援を請け負ってくれた。
どういうことかと言うと、エディ君と僕がこのままウィバク黄昏領域を無事に解放できた後から始まる、復興や利害関係にまつわるありとあらゆる調整をトムが一手に引き受けてくれるというのだ。なにそれすごい。
戦いが終わっても、ウィバクを復興していくには極めて繊細な政治的判断が要求される。それはそれで途方もない問題だ。折角陰魔から広大な大地を取り返すことができても、その土地を巡って人間同士で争いが起きてしまっては元も子もない。
その解決にはどうしたって大人の人達の協力が必要で、子どもの僕たちには手に余る。
寧ろ、勇者と天使という超常的存在は邪魔にしかならないかもしれない。復興を果たしていくのは現地で生活する、いい意味で普通の人だから。
ウィバクが解放されたら、きっと僕たちはあまり間を置かずにテイガンドを去って別の黄昏領域へと赴くだろう。
だからトムが後のことを引き受けてくれるのは本当に助かる。面倒事が…こほん、後顧の憂いなく旅立てて万々歳である。
きっと、トムができると言うのならできるのだろう。
僕たちにとっては好々爺のお爺ちゃんだけど、本来はこんな寂れた場所にいていい人じゃないというのは分かる。穢れ無き高僧、聖人と呼ぶべき方。それがトムの正体だ。
「ザハー討伐の遠征を控えたテル様から、内密に頼まれていたのです。北神殿の手が伸びる前に南に逃れ、次代の勇者に協力して欲しいと」
僕の表情から疑問を読み取ったのか、トムは沈痛な面持ちでそう告白した。
話によると、トムは巡礼の旅を終えてから長年に渡ってテル様に献身し、女神教から『破門』された今でもテル派と呼ぶべき一派の顔役としてかなりの影響力を持っているそうだ。特に北神殿、大神殿双方の影響力が及びにくいレヴァリア南部地方で各地の権力者と懇意になって、次代で政治的な支援と調整を行うことこそがテル様からトムに託された使命らしい。そしてテル様が表舞台に上がらなくなって二年と二か月近くが経過し、大神殿への不信を抱き始めた人達とのパイプはより太く、より価値を持つようになった。
それは全て、然るべき時――新しい勇者によって黄昏領域が解放された時――に無益な混乱を生むことなく、人々が最大限の恩恵を受けられるようにするために。
人の繁栄と平和のために。テル様の遺志を継ぐために。
「その時はお願いします、トム」
「はい、アキラ様。命にかえてでも、必ずや」
命が尽きる前に、テル様はどこまで未来を予見していたのだろうか。
生前、トムに候補者としてエディ君の名を挙げることは一度もなかったらしい。でも、もしかしたら…。
でも、よりによって身内が組織ぐるみで新しい勇者を監禁してしまうことまでは予想できていなかったのだろう。想像することすら恐ろしい、最悪の悪夢だけは。
「最北端の辺境都市ランビッツには権威ある神学校があり、およそ十数年前、その理事会や教授陣、卒業生の一派が北神殿を掌握したのがことのはじまりです」
「その首謀者が、前にトムが言っていた…」
「はい。ウシガエルと蔑称される、北神殿神官長にしてランビッツ神学校理事長、バギス・セージアンこそが大罪人共の黒幕でしょう」
バギス・セージアン。
それが憎むべき敵の名前だ、と僕の暗い部分が主張する。
「つまり、神学校の上層部が腐敗して…、レヴァリアの守護よりも自分たちの利益を優先していると?」
「仰る通りです、エディンデル様。しかもその腐敗の手は既にランビッツの市議会や裏組織にまで及び、ランビッツ派という派閥を形成するまでに至っています」
「……」
「エディンデル様が聖域の森で復活されてから、ランビッツ派は亀のように北神殿に閉じこもり、真実を隠蔽し続けています。悪事の全てを覆す奇跡を目の前にして、あとは欲に塗れた身を縮めて朽ちていくだけです」
怒りを押し殺したトムの言葉が静かな応接室に沈殿する。
「神子様は、このことは…」
「誠に遺憾ながら、神子様には北の惨状は知らされていないでしょう。大結界を支える神子様の責務はエディンデル様同様にあまりに重く、神子様自らが組織運営に携わる余裕がないのです」
「じゃあ、大神殿は?」
「大神殿の大神官や聖印軍ですら、北に対しても南に対しても、動きが一切見られません。それは何よりも恐れているからでしょう。テル様の昇天と、更には北神殿の大罪すら隠蔽し続けていると暴かれることを…。そして何より、エディンデル様をお救いになられたアキラ様のご威光を」
「当然、大神殿は既にアキラ様とボクのことを知っている…。でも見方を変えれば、絶対に手出しができないから、ボク達は好きなように動けるという訳ですね。良くも悪くも」
「仰る通りです。お二人を害することのできる人間は、あらゆる意味でこの世には存在しません」
全人類の裏切り者となった敵対者とはどのように関わるべきだろうか。もしくは、どのように関わりを避けるべきだろうか。
もちろん、エディ君を虐げた人間を許すことはできない。個人的に報いを受けさせたいという気持ちもある。朽ちていくだけというなら、放置こそが最良だという考えもよぎる。然るべき司法機関に一任できるのならそれもいい。
光の女神様がこの件についてどんなふうに考えているのだろう。歯がゆく思っているだろうか。罪人は報いを受けるべきだと思っているだろうか。
そして、女神様の遣いである僕は…?
天使としての僕が為すべきことは?
僕自身は?
でもやっぱり、最終的にはエディ君の気持ちが一番大事だ。それは揺るがない。
「……」
「……」
そんなふうに考えを巡らせながら、エディ君と手を繋いで週明けの賑やかな大通りを歩いていく。温かくてすべすべな手をにぎにぎする。
うん、落ち着く…。
あれ、そう言えば…。
北にランビッツ派、南にテル派があって、中央の大神殿は沈黙したままで。
女神教、内部分裂しかかってるのでは?
特に尊敬と信奉を集めていそうなテル派。単なる派閥に留まらず『宗派』にまでグレードアップしたら宗教戦争待ったなしだ。ヤバい。しかも『エディンデル派』とか『天使派』とか作られた日には…。
うん、未熟な青少年に政治宗教は無理だ。潔くトムに丸投げしよう。頑張れトム。負けるなトム。
「リリアさんにはどんなふうに話せばいいでしょうか」
「そうですね…」
少し不安げなエディ君。
うん、僕も丁度それを考えていたところだよ。ごめんなさい。嘘つきました。下手な考え休むに似たりで、ひどく物騒なことを考えていました。
次に向かう先は、大通りから外れた小道にひっそりと佇んでいるお洒落な魔女の隠れ家のようなお店だ。
トムの次は、経済的な意味で避けては通れない道になる。
「エディ君。身も蓋もないですが、世界中のお金持ちが人類平和の為に無償で資金提供してくれたら、それだけで問題の大半が解決します」
「確かに身も蓋もないですね」
「つまりは、勇者のパトロンです。そういう奇特な人も世界のどこかにはいると思います。ただ、難しいのは」
「その伝手が全くないということですね」
「はい。トムにそういうことを求めるのは酷だと思いますし」
「それは、まあ…」
経済的に余裕のありそうなリリアさんとは違って、トムは清貧な神官様だからね。人脈と権力はあるけど現金は持ち合わせていない。個人的に孤児院も経営しているため、逆にエディ君が支援するくらい経済的に困窮している。さっきもこっそり金貨を渡してたし。いや、別に僕に遠慮する必要はないんだよ?
トムは腐敗していない立派な神官様なので、彼のお弟子さんや友人知人もきっと清廉潔白な人たちばかりだろう。もしかしたら信仰に篤くて慈善活動に熱心な資産家が知り合いにいたりするかもしれない。でもこの段階でトムからそういう話が一切挙がらないということは、つまりはまあ、そういうことだ。そっち方面では期待できないし、してはいけない。
「なので必然的に、僕たちがリリアさんに期待するのはお金を貸してもらったり、マナ結晶の支払いを出世払いにしてもらったりといった経済的な援助になります。これは本当に大きな問題で、人間関係を一度で破壊しかねない極めて難しい問題です」
「はい。お金の切れ目は縁の切れ目、ですね。最初は正直にボクたちの正体を明かすとしても、その後の話の切り出し方が全然分かりません」
「僕もです。でも、エディ君ならきっと大丈夫です。自信を持って下さい」
「アキラさんがそう言ってくれるなら。でも、自信と言っても、何の自信を持てば…」
「えっと、人たらしの?」
「アキラさん?」
不本意です、と可愛らしく抗議するエディ君。真っ当な評価だと思いますよ、と視線を返す。
僕をこんなに骨抜きにしたんですから、とまでは告げない。それはまだ秘密だ。
「それにリリアさんなら、誠心誠意話せばきっと分かってくれます。最初は正体を打ち明けるだけで、経済的な相談をするのは後日でもいいと思いますし」
「そうですね。リリアさんなら…」
一転、エディ君が納得した様子を見せる。
そうだね、リリアさんは優しくて綺麗な大人の女性だからね。
「? アキラさん、どうしましたか?」
「何でもありません。さあ、そうと決まれば当たって砕けろで行きましょう」
「わっ、あ、当たって砕けたら駄目なんじゃ…!?」
解けないようにエディ君の手をちょっと強めに握り、何かを誤魔化すように元気よく駆け出す。相当に目立つのか、すれ違う人たちが驚いた様子でこっちを見てきている。
こんなことをするなんて、僕らしくないかな?本当に子どもみたいかな?
まあ、たまにはいいじゃないか。事態の好転が続いてテンションアップしたんだから。ずっとハイテンションだって?陰キャな前世とかけ離れて行ってるって?
それでもいいのだ。あるがままに。僕が僕である限り。人の心なんて、環境次第で容易に変わっていくものだから。環境次第どころか、自分はもう小さな女の子だし。リトルレディー!
それに、エディ君が笑ってくれるのなら、きっとこれで正解だ。
◇◇◇
――チリンチリン。
意を決して銀色の鈴を鳴らし、リリア魔法工房に入店する。
不思議な色合いをした岩石に虫眼鏡を向けていたリリアさんが顔を上げ、営業スマイル以上の親しみの籠った笑顔を向けてくれた。
うっ、後ろ暗い思惑を隠し持った人間には、その陽の笑みはあまりに眩しい。
「いらっしゃいませ、ユウ君、アキラちゃん」
「リリアさん、今日は買い物じゃなくて…、その、大事な話があるんです。今までずっと言えないでいたことを話したくて…」
「そうなんだね。うん、分かったよ。それじゃあお店閉めちゃうから、ちょっと待ってて」
「は、はい」
直立不動でかちんこちんに固まって、すごく緊張した様子のエディ君。
一方のリリアさんはいつもと変わらない様子でてきぱきとお店を閉めていく。余裕があって、すごく大人の女性って感じがする。
「立ち話もなんだから、こっちに来て座って。すぐにお茶を淹れるね」
「あ、お、お構いなく…」
「ふふっ、遠慮しないで。ね?」
「は、はい…」
為されるがままにお店の奥のキッチンスペースに案内されるエディ君。ついでに僕。頑張れエディ君。
こっちの緊張を知ってか知らずか、ふんふーん、と気楽な様子で鼻歌を歌いながら三人分の紅茶を入れていくリリアさん。ファンシーな瓶を傾け、湯気の立つ熱湯をカップに注いでいく。コンセントはどこにもなくて、薄い陶磁器製で、真空の断熱構造もない。どうやら正真正銘の魔法の保温瓶のようだった。便利だなあ。と、呑気に少しだけ現実逃避をしてしまった。
「ミルクティーで大丈夫?」
「は、はい」
「僕も大丈夫です」
「よかった。はい、どうぞ。錬金術製のクッキーもあるからたくさん食べてね」
「ありがとうございます…」
「ありがとうございます」
それからしばらくの間、カップが鳴らす音と時計の秒針の音だけが部屋に響いた。錬金術製のクッキーはとても気になったけれど、今は我慢。
リリアさんは待っていてくれている。
僕もエディ君に催促したりはしない。君が頑張って言葉を紡ごうとしているのなら、いつだって、いつまでも待つよ。
ううん、僕だけじゃない。リリアさんだって僕と同じ気持ちのはず。
それにきっと、リリアさんだけでもない。他にもたくさんの人が君の言葉を待っている。そんな気がするんだ。
カップの中の、ミルクティー色としか言いようのない薄い茶色の表面に小さな波紋が何度も生まれては消えていく。
「リリアさん」
「うん。なに?」
「ボクは…、ボクの本当の名前は、クエーサー・エディンデルと言います。本当は、二年前に勇者になったばかりの新米の勇者で、その、少し前からウィバクの黄昏領域を解放するために戦っていて…。それで…、その、だ黙っていてごめんなさいっ」
「そうだったんだね。うん、信じるよ。教えてくれてありがとう」
「あ…、えっと…、信じてくれるんですか?」
「勿論だよ。前から、もしかしたらそうなのかもしれないって思ってたから」
「えっ、そうなんですか?」
「うん。結構前から。それにね、ユウ君はそういう嘘や冗談を言う子じゃないもの。だから、信じる。君が私達のために人知れず戦っている勇者様だってこと」
「あ…。…あ、ありがとう、ございます…」
「こちらこそ。本当にありがとう」
エディ君が我慢し切れないといった様子で赤くなった顔を俯いて隠し、リリアさんが慈母の如き微笑みを浮かべる。
ほっと一息をつく。
よかった。これでまた一歩前進。また一つ好転だ。偉かったね、エディ君。
「あ、でも」
「あっ、なんですか?」
「ユウ君が…、あ、ごめんね。エディンデル君の方がいいかな?」
「ユウで構いません。そっちも、もうボクの新しい名前ですから」
「(素敵な考えだなあ)」
「そっか。じゃあユウ君で。ええと、近くにウィバクがあるし、テル様の安否が二年も不明のままだし、聖樹の森には知る人ぞ知る復活の神殿もあるしで、ユウ君が新しい勇者様かもしれないっていうのは状況的に何となく察してたんだけど…」
「はい」
「(そうだったんだ。知る人ぞ知る、かあ)」
「そんなユウ君といつも一緒にいるアキラちゃんのことが分からなくて。もしかしたらとは思ってるんだけど、私の知る限り、アキラちゃんみたいな子は歴史上一人もいないから」
「ええと…」
「僕は光の女神様の天使です。丁度一月前に、エディ君を支えるためにこの世界にやってきました」
「わあ…。わぁ…。やっぱり、そうだったんだね…」
エディ君に続き、僕も自ら正体を明かす。
天使というのは幾らなんでも眉唾物だから信じられなくても仕方ないとは思ってた。いくら奇跡や魔法がある世界でも、本物の天使が現れるなんて夢物語にも程があるだろう。
でも、リリアさんから疑いの視線は感じない。もしかしたら、やっぱり、とも言っていたからある程度は予想が付いていたのかもしれない。
「五番目の、天使様?」
「多分、そういうことになると思います。僕が天使だって、信じてくれますか?」
「もちろんだよ。うん、そっか。…そっか」
リリアさんはそっと目を伏せ、小さく顎を引いて何度も納得を繰り返しているようだった。
エディ君はそんなリリアさんを見てから、全幅の信頼を込めた視線を僕に送ってくれる。
「ね、アキラちゃんは突然畏まって言われたり敬われたりするのは嫌?」
「えっと、はい。天使だからって、僕のことは気にしないでください。今まで通りが一番いいです」
「じゃあ…、一度だけ。こんなふうに言うのは最初で最後にするから、許してほしいな」
「?」
――「天使様。勇者様と私たちを救いに来てくださって、本当にありがとうございます」
それはまるで、急に訪れた神話のように。
今ここにおいて、遂に天使の僕が正しく認知され、同定された。そう感じた。この世で懸命に生きる人と邂逅し、その瞳と言葉によって見定められたのだと。
エディ君とトムは世界の裏側で戦う聖なる戦士であり、僕と同じように女神様に近い場所にいる。
でもリリアさんは違う。セーラちゃんも。カサンドラさんも。ハンターギルドの人達も、この町の人達も。
一人の人として、ここにいる。
そして今、僕も、ここにいる。
この世界の命運を握る超常的な存在として。天使として。
運命と呼ばれるものの段階が、一つ進む。
だから――
「さて、ユウ君、アキラちゃん。私には数十億レンの資産があります。でもこれだけじゃ陰魔を根絶やしにするには全然足りないから、これからどうすればいいか話し合おうね。あ、リューダ君も呼んでいい?人の好さと口の堅さは私が保証するから。あとはどうしよう、ゼータさんも早めに巻き込んだ方がいいかな。フーちゃん呼ぼうかな。最初は少人数で秘密裏に…」
……。
はい。こちらから相談するまでもなく、率先して今後の算段を付けてくれるのは本当にありがたいです。大人の人脈とか、利害関係の調整とか、子どもには本当に身に余るので。さっきもトムに丸投げしたばかりです。
「リリアさんに打ち明けてよかったですね」
「はい」
頭をフル回転させてぶつぶつと呟くリリアさん。そしてそんなリリアさんを見てニコニコとしているエディ君。
二人とも大物だ。
天使になったばかりの僕なんてまだまだひよっ子。
決しておごらず、これからも内助の功でエディ君を支えていこう。
「ひとまず、マナ結晶は全部タダにするね。ウィバクの解放は100年以上前からテイガンドの悲願だから。テル様への恩返しプラス、滅びちゃったガンドの子孫として全力で支援するよ。だから、じゃんじゃん遠慮なく使っちゃって」
「ええと、タダというのは流石に」
少し修正。リリアさんは大物以上の傑物かもしれない。やっぱり、いざという時に頼りになるのは年の功…、おっと。悪気はないんです、本当です。




