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● 033 継戦Ⅱ


 一つずつ問題をクリアにしていこう。


 先日、リリアさんから魔力の単位について教えてもらい、今現在の僕の魔力容量がおよそ1400~1600エルネあることが判明した。

 目には見えない感覚的なものだけど、さほど的外れの値ではないはずだ。五等級マナ結晶15個分くらいのエネルギーが体内にあると感じる。


 僕とエディ君の魔力、五等級マナ結晶3つ、そして騎士霊様を召喚する守護印があれば陰魔500体は撃破できる。

 内訳としては、兵士級が約300、戦士級が約170、そして騎士級が約30。


 兵士級と戦士級は問題ない。少なくない魔力量を消費するものの、エディ君が無双して鴨打にできる。

 問題は騎士級だ。

 黄昏領域表層部で遭遇する騎士級は、小隊編成で中層部との境界付近を時計回りに巡回しているようだ。

 騎士級小隊は9~15体で構成されている。蹄獣体、翼獣体、爪獣体の三種がおおよそ均等に揃っていて、打撃力と連携力に優れている。結界と加護を有効に使えば互角以上に戦うことは可能。しかし、その分大量の魔力を消費してしまう。追跡から全力で逃げてもいずれは別の騎士級小隊と挟み撃ちにされるのも難点だ。


 しかし、状況は少しずつ改善している。特に今回、エディ君がハンターとして頑張って稼いでくれたお金で4等級のマナ結晶を四つも用意できた。ミスをしなければ間違いなく最高記録を更新できるだろう。


 僕たちは陰魔を倒せば倒すほど強くなる。それが女神様に選ばれた者の強さだ。だから、今はとにかく数を稼いで戦力の増強を図ることが先決だ。騎士級との交戦を回避し、兵士級・戦士級をできるだけ多く狩っていこう。塵も積もれば山となる。


 僕たちはどこまで強くなれる?

 陰魔を1万体倒した時、僕たちはどこまで強くなっているだろう。


 1万どころか、7万8000を殲滅し尽くした時は…。 


 かつて、勇者テルは十三の黄昏領域を解放したという。それがどれほどの偉業なのか、今の僕なら分かる。

 大地を侵す陰魔の大群は地獄の悪夢そのものだ。


 数の暴力そのもののような闇の蠢き。

 一体一体を倒すことは十分に可能でも、大群を殲滅するにはエネルギーが足りなさすぎる。全く足りない。


 強さは火力とエネルギー源によって成り立つものであることを存分に思い知らされた。

 エネルギーとは燃えるものであり、熱や光、運動に変換される『燃料』である。


 よって、端的に言えば強さとは『武器』と『燃料』である。単純な真理だ。人間なら骨肉と食糧。

 火器と火薬。戦車と石油。機械と電気。

 そして、魔法と魔力。


 今、僕は魔力という燃料を猛烈に欲している。


 勇者に、エディ君に無尽の燃料を与えたまえ。一億、一兆の魔力を。されば、世界はたちどころに救われるだろう。


 ……。


 …けれど。


 僕は、その二つだけでは戦えないことも知っている。


 大火力の武器とその燃料を多く保有する者が強者であることは間違いない。弱肉強食の頂点に君臨するのはいつだって圧倒的な暴力だから。


 でも、生き続けるためには精神の強さが必要だ。狂いなく標準を定め、重い引き金を引く意思。狂わずに生きていける心の強さ。重さに耐える意志。そして、抗う意志。だからこそ、エディ君の内面が大事で、まず第一に僕が支えるべきものになる。


 力の行き先を決定し、制御するための心が、彼とこの世界の命運を決定するだろう。




  ◇◇◇




 5月17日、第6回ウィバク黄昏領域解放戦。


 真っ赤な光の聖剣の直線と朱色の光の闘気の曲線が縦横無尽に描かれていく。


 陰魔を撃ち滅ぼす為の力が存分に発揮され、赤い嵐のように黄昏の領域を蹂躙していく。


 僕はそれを見ているだけだ。

 瑠璃色の光の結界と水色の光の加護を展開し、聖剣と闘気を維持するための魔力を途切れなく送り続けることが僕の役割だから。


 見惚れてしまいそうになるくらい、エディ君は強くなった。

 ずっと見てきたからわかる。


 単純に聖剣の威力や飛行速度等が上がっただけではない。戦い方そのものが前よりもずっと洗練されている。


 例えば、下級陰魔の兵士級を倒すには、拳大の闘気のエネルギー弾で頭部を破壊するだけでいい。兵士級一体に対して光の聖剣を振るうのは過剰威力で、魔力の無駄使いになってしまう。

 聖剣を使って陰魔の群れをまとめて倒す場合も同様だ。聖剣を伸ばせば伸ばすほど、刃を伸ばした時間が長ければ長いほど消費魔力が増えてしまうので、相対する群れの密度が重要になってくる。


 だから、兵士級が散開していて群れの密度が低い場合は小さなエネルギー弾を一体につき一発ずつ素早く撃ち込み、逆に群れの密度が高い場合は必要最低限の長さまで伸長させた光の刃によって一気に横薙ぎにしていく。


 相手が戦士級であっても基本は同じだ。大事なのは敵との距離と、敵の密度。一発のエネルギー弾で消費される魔力と、一振りの光の刃で消費される魔力。

 その天秤。

 高速で過ぎ去っていくそれらの選択。


 ――手前のまばらな敵に必要最小限のエネルギー弾を撃ちながら、後方に密集している一群の最前列まで踏み込み、最後列まで伸ばした聖剣で一瞬で輪切りにする。無論、全て必中。


 ――複数の密集した群れが同時に迫ってくる。その全てを長大な聖剣で乱雑に切り払うのではなく、砂丘が連なって高低差の激しい砂漠における敵の進軍速度と位置関係、次第に変化していく群れの形状を考慮に入れながら縦横に飛び、最適な位置から一筋の光の刃を振るい、最小の面積を切り払っていく。


 ――迅速かつ丁寧に攻撃と移動を繰り返す。必要最小限の飛翔で、一つの動きの終点が次の起点となるように、一瞬の淀みも硬直もなく、流れるように。狙撃体すら彼の機動を捉えられず、多くの弾丸が空を撃つ程に。


 眩く輝く光の加護が勇者の戦闘能力を二倍に高め、絶え間なく魔力を供給し続ける。仄かに灯る光の結界が最後まで勇者を守り通す。

 こと戦闘において、この天使の身は女神様の力をエディ君に届かせるための中継器でしかないのかもしれない。

 それでいい。そうだとして、何の文句があろうか。


 エディ君は戦う。一滴の魔力も無駄にしないよう、最大効率を目指した殲滅を続けている。ただひたすら、力尽きるまで。


 それは、技。アーツ。経験によって裏打ちされた、彼自身の戦闘技術だ。


 何度も死と復活を繰り返し、ただ陰魔を滅ぼすためだけに少しずつ洗練され、鍛え上げられてきた。僕と出会う前から、たった一人で何度も死んで。

 武器ともエネルギーとも異なる、彼自身の力。それが今ようやく結実しようとしている。


 なぜなら、聖術の基本的な制御は女神様に依存しているとしても、彼自身の姿勢と聖剣の軌道、エネルギー弾の発射角度、強弱の調整、そしてその発射タイミングの全てはエディ君に委ねられているからだ。


 最適な威力、最適な角度、最適な距離、最適なタイミングが常に追求され、その戦闘経験がフィードバックされ、蓄積され続けていく。

 それらの経験を取り込み、今なお、地獄と真っ向から相対し、エディ君は強くなり続けている。


 強靭な精神によって支えられ、そうして研磨され続けてきた技量によって聖なる力が十二分に発揮される。陰魔がことごとく効率的に斬り捨てられ、撃ち払われ、消え去っていく。


 彼は彼自身の意志によって戦い続けている。僕はそれを知っている。

 役に立ちたい、と彼は言った。まだ小さな彼が。裏切られ、虐げられた彼が。僕は、その言葉をこれからも決して忘れない。


 ああ、今のエディ君は最強だ。

 この黄昏の地獄で、峻烈な意志が赤く輝いている。

 例えるなら、炎の宝石。


 まだ幼くとも、心技体が揃いつつある勇者を一体誰が止められるだろう。


 もし止まる理由があるとしたら、それは燃料切れという酷く単純でつまらない物理的な結果によるものだけだ。

 足りないのはエネルギーだけ。

 だからこそ歯がゆい。あまりにも。


 計12体の騎士級小隊が絵図の端に現れた時点で、撃破数は既に420。兵士級約300体、戦士級約120体を撃破。


 天使の体内に遺された魔力は、感覚的に残り半分。過去最高のペース。


 ここからは第二ラウンド。

 満を持して四等級のマナ結晶を使用する。


 回復量は五等級の二倍。少なくない魔力――『不可視の光』が体内に流入し、自身の力となっていくのを感じる。


 副作用は少なく、軽微の倦怠感が手足に広がっていくだけだ。飛び続けることに何も支障はない。

 僕が結晶を使ったことを察したのか、次の標的を目指して空を飛んでいたエディ君が視線を向けてくる。大丈夫です、と頷きを返す。


 いつも通り、最初の小隊は無視し、このまま結界の壁に沿って時計回りに飛んでいく。

 可能な限り兵士級、戦士級を殲滅。別の小隊が正面に回り込んできたら速攻で迎撃し、挟撃されないようにする。



〈ペースは問題ありませんか?〉

〈はい。このままで問題ありません。そのまま、思う存分に戦ってください〉


〈ありがとうございます〉



 以前、全力で戦い続けていたエディ君が戦闘中に魔力切れを起こし、光の加護を通じて無意識で魔力を送っていた僕に不調が起きてしまったことがあった。

 その過ちを繰り返さないため、体内の魔力に意識を向け、戦闘が始まった直後から支障が出ないぎりぎりのラインで魔力を多めに送り続けている。

 

 キャパシティ、コック、カップ。

 そうした魔力の流れも重要だ。

 魔力残量、魔力放出、聖術維持、全て余力あり。問題なし。


 エディ君の戦闘効率が上がったこともあり、残量にはまだまだ余裕がある。

 今もちゃんと僕の魔力がエディ君へと――



〈アキラ様?〉

〈――エディ様の中の魔力を感じます。こんなことは初めてで、でも、これは確かに…〉



 それは、ふとした気付きだった。

 死闘を積み重ねてきた経験が天使の体内に眠っていた才能を呼び起こしたのか、はたまた、本当に純粋な天啓であり、天恵だったのか。

 あるいは、僕がやっと僕自身を認識できたからなのか。


 僕とエディ君の魔力を同時に意識した瞬間、僕はエディ君の魔力がすぐ傍にあることを現実として把握した。



 ――《天眼水晶》



 それは、4つ目の聖術。

 天使が扱う3つの聖術とは別の、僕自身の。


 光の女神様から一人の『アキラ』へと与えられていた天恵魔法。天使の魔法だけではなく。


 一瞬でも気付けたのなら、あとは簡単だった。俯瞰視点で、見えないはずの『不可視の光』の塊が二つ、空を真っ直ぐ飛んでいる。僕とエディ君の光だ。

 そして僕から流出した『不可視の光』の一部がエディ君へと流入し、彼の体内の塊と混ざり合っていくのを感じる。


 ぼやけていた認識が瞬く間に研ぎ澄まされていく。

 そして、僕は理解する。


 不可視の光の塊はただの塊ではない。

 それは、体内で明るく輝く『不可視の線分』の集合体だ。


 不可視の線分は両脚ではまるで根のようにほぐれていて、体幹の真ん中で一本の幹のように束になり、鳩尾当たりから三方向に枝分かれをして頸部と両肘辺りまで進み、緩やかに曲線を描いている。

 まるで樹のように。


 そして今、明るい樹の一部から魔力が流出して魔法になり、その分だけ部分的に暗くなっていく。樹を構成する不可視の線分は暗く沈んだ領域と明るく輝く領域に分かれていて、魔力を使えば使う程、樹の暗い部分が増えていく。


 不可視の光である魔力は、体内の不可視の樹に宿っている。


 つまり、その線分の全長が魔力容量と等しく、明るい線分の全長が現在の魔力量に等しい。線は線であるが故に幅がなく、二次元の数直線のように体内に存在している。線の長さと、その明暗だけが可変量である。


 故に、物理的には不可視であっても、魔力は十分に計測可能だ。

 僕はそれを感じ、理解した。


 この感覚は正しい知覚であり、現実に存在するエネルギーを正しく把握できていると。

 僕はこの世界に生まれてきたのだと。


 新しい理解と歓喜を得て、確信を持ってもう一度四等級マナ結晶を使用する。


 このエネルギー量が、200エルネ。

 この長さが、200だ。

 そしてこの半分が100。


 なら、僕の不可視の線の全長、すなわち魔力容量はおよそ1400エルネだ。

 もっと細かく見れば――1483――10エルネどころか1エルネ単位まで計測できるけれど、そこまでこの『天眼水晶』を駆使すると精神力と魔力の消耗が一気に増大するようだ。魔力を観測するために魔力を消費する…。

 戦闘中は100エルネ単位でも十分な精度だ(そもそも、この計測は天上で女神様が処理した結果が僕の脳内に出力されたものなので、僕にできるのは対象の選択と魔力の支払いだけだ。そして、計測可能な対象は魔力だけに留まらない。実数を持つ、計測できるものであれば何でもいい。例えば、僕の身長は136cmで、飛行速度は116km/h。特に意味のない計測をするのは魔力の無駄遣いだけど)。


 そして今、結晶を使って残存魔力は約1300まで回復した。その長さまで、暗く沈んでいた線分が明るく活性化した。エディ君への譲渡と、結界や加護に維持で魔力量が継続的に減り続けていることも感じ取れる。


 エディ君の魔力の樹も感じる。計測可能。エディ君の魔力容量は約800、残存魔力は約500。


 この全く新しい感覚と天使の頭脳をもってすれば、こうして百の位までなら魔力容量と魔力量を容易に把握できる。

 そして、得られた感覚をそのまま僕たちの外側に向ける。

 そうすることができると確信したからこそ。


 灰色の砂漠を見下ろすように、天上の視点で闇のうねりが視えた。


 黄昏の空間で闇の魔力が嵐のように渦巻いている。不可視の光ならぬ、不可視の闇。

 それは暗い空間というよりも黒い線分のうねりであり、あまりにも不吉な暗黒のエネルギーだった。

 無数の暗黒の線がギザギザに折れ曲がりながら渦巻き、波打ち、流動し続けている。あまりにも不規則で混沌めいた暗黒の折れ線。時に激しく枝分かれし、時に折れ曲がって逆流しながらも全体としては時計回りに砂漠を這い進み、一部は大気にも浸透し、無数の陰魔と繋がっている。


 兵士級、戦士級の体内には黒い魔力の塊が存在している。歪んだ線分が一塊に圧縮された、魔力塊と呼ぶべきもの。それら全てが灰色の砂漠の表面全体を覆う黒い膜状の流れと繋がっている。翼獣体の魔力塊が大気中の魔力を纏い、黄昏の空を自由自在に操って飛行している。蹄獣体の魔力塊が砂漠から大量の黒い魔力を吸い上げ、槍の先端へ収束させていく。

 天盤結界に閉じ込められた黄昏領域全体が無尽蔵の暗黒の魔力が蓄えられた巨大な貯蔵庫と化していた。そして闇の魔力は闇の魔法となり、陰魔の大群を一塊の群体へと成らしめている。


 けれど、あのような暗黒の魔力が光と同等のものだとは思えない。あの闇の線分はただ黒く、ひたすら暗い。内包するエネルギーは僕たちの魔力の百分の一、いや千分の一にも満たないだろう。あんなにも大きく渦巻いているのに、さして重圧は感じない。万能性が闇によって失われ、変質してしまったのだろう。そう直感する。


 魔力の実在。世界に存在している非物質的エネルギーの形象と流動。その知覚と俯瞰に成功した、のだと思う。この視点を上手く言語化できない。女神様が持っている感覚器官の極々一部を間借りし、全事象に付随した不可視の数値を見ることができるようになった。その認識が限界だ。


 天眼水晶。全てを見通す天上のレンズ。すなわち、女神様のレンズ。

 固定観念を取り払わなければならない。この、頭脳自体が感覚器か受信機になったような感覚には僅かに心当たりはある。仙術。その六覚から派生する念話。似ている。 


 この聖なる天恵魔法は、仙術の第六感ととても似た性質を持っている。エディ君の光の闘気が仙術の闘気と極めてよく似ているように。恐らく、そのようにデザインされている。


 ――だから、きっとこの感覚は念話を通じてエディ君と共有できる。

 女神様から送られてくるこのビジョンを、映像出力だけに限定して僕からエディ君に送信するイメージで――


 ――できた。



〈エディ様。女神様が与えてくれた新しい聖術で、俯瞰的に魔力を感じることができるようになりました。僕たちの光も、陰魔の闇も〉

〈はい。今、ボクもその光景を感じています。アキラ様と繋がった感覚を通じて〉


〈このビジョンは役に立ちそうですか?〉

〈天の恵みのように。闇の流れは群れと同期しています。敵位置の正確な把握も予測も、今までに比べて格段に容易になりました〉



 陰魔の大群は暗黒の魔力のうねりに沿って移動している。この砂漠が暗黒の魔力に満ちた完全な敵地であっても、逆にその流れを読み取ることで敵の進軍方向を見破ることも、突撃をかわして側面から大打撃を与えることも簡単になるだろう。

 しかも、エディ君の手元には天球絵図の光球もある。天眼水晶と比較すると、索敵範囲と地形把握は絵図の方が優れている。エディ君だったら、二種類の聖術を上手く使い分けて更に戦闘効率を上げられる。


 前方から2つ目の騎士級小隊が接近。守護印のペンダントから三人の騎士霊が出現する。


 白い勾玉の内部では明るい不可視の光が真円を描いていて、その魔力が騎士霊のエネルギー源となっていることも自然と理解できた。

 トムの魔力で作られているからか、丸い形の魔力からはとても穏やかで老成したイメージを受ける。

 キャパシティは丁度600エルネ。騎士霊の召喚と維持にも魔力を消費するため、残量は550ほど。


 進行方向に回り込んできた13体の騎士級が光り輝く魔力と衝突する。


 騎士霊様が防御姿勢を取って爪獣体を押し留めている間、翼獣体の黒炎弾と蹄獣体の黒閃槍は光の結界で防御する。僕だって強くなっている。多少集中攻撃をされても防ぎ切ってみせる。

 黒ずんだ爆炎が晴れ切らない内に、光の加護の輝きを背に纏ったエディ君が力強く空を舞い、翼獣体と蹄獣体を次々と撃破していく。エディ君の剣技には一片の曇りもない。聖剣に籠められた内包魔力も十分に足りている。


 無傷で切り抜けたものの、この戦いだけで二人合わせて200弱の魔力を消費。四等級マナ結晶を使用。

 騎士霊様が爪獣体を打ち倒した時、守護印の魔力も100近く目減りしていた。



〈最後まであがいてみせます。見ていてください、アキラ様〉

〈はい。最後まで見ています、エディ様〉



 まだまだ魔力は残っている。

 今日はどのくらい飛び続けられるだろうか。




  ◇◇◇




「行きましたね、一気に1000。今までの倍です」

「はい。今までの苦労が嘘みたいです」


「苦労が実を結んで突き抜ける時は、案外そういうものかもしれません。それに、魔力不足が解決するなら何倍も戦えることは分かっていましたから」

「そうですね。魔力さえあれば、ボクとアキラ様なら…。でも、副作用は大丈夫でしたか?アキラ様が新しく使えるようになった聖術の負担も…」


「この調子なら6個くらいまでなら大丈夫です。新しい聖術も、負担にならない程度に範囲を絞ったので問題ありません」

「それならよかったです」


「ただし、四等級マナ結晶は、6個で48万ウェン必要です」

「はい…」 


「マナ結晶と金貨が世界の命運を左右することになるなんて、女神様も頭を抱えているかもしれませんね」

「それは割と、笑い事ではないのでは…?」



 いつものように復活の神殿で裸で抱き合って、体に力が入るようになるまで復活後のコミュニケーションを楽しむ。

 死んだばかりだというのに、予想以上の大戦果を得られて二人ともご機嫌なイージーモードだ。



 **


 兵士級 648

 戦士級 257

 騎士級 98


 **



 撃破数、計1003。

 騎士級については、最終的に約100体、小隊9個を撃滅する大戦果。騎士霊様が光に還ってからも無我夢中で激戦を繰り広げ、今までの積み重ねが遂に花開いたかのような、文句なしの結果となった。最後の方はテンションが上がりすぎて、光の乱舞の中でエディ君と一緒に踊っているみたいだった。ラストアタックは菫色の流星でフィニッシュ。


 騎士級との立ち回りに大きな反省点はなかったと思う。天のレンズにより闇の魔力の流れを読み取り、騎士級小隊の進攻方向や攻撃タイミングを予測し、連携の取れた猛攻を上手く捌くことができていた。

 更に、聖剣最長射程、338メートルを記録。これは蹄獣体が放つ黒閃槍の最大射程303メートルを超える値であり、攻撃を受ける前に逆にこちらから切り伏せられるようになったことも大きい。

 

 ただし、全力で戦った分、騎士級に対する消耗は大きい。計算上、兵士級や戦士級なら一体につき2~3エルネ程度の魔力で倒せている一方で、騎士級に対しては理想的な展開でも一体につき20エルネの魔力を消費してしまった。善戦ではあるが、惜しいものは惜しい。

 激戦に次ぐ激戦でペース配分も難しく、できるだけペースを抑えても、エディ君の魔力消費速度が僕からエディ君への魔力供給速度を何度も超過しそうになった。


 やはり騎士級が格段に強すぎる。ある程度は対応できるようになったとはいえ、数的優位を維持した上での遠距離攻撃は依然として脅威で、防御に湯水のように魔力を使わされてしまう。


 そして、以下が復活してからレンズで詳細に計測した最新キャパシティ。



 ――エディ(エディンデル)、974エルネ。(アキラ)、1841エルネ。



 復活直後に肉体や体力だけでなく魔力も最大まで全快しているのは本当にありがたい。しかも今回の戦闘で成長した分も足されている。

 今更だけど、このエネルギーはどこからきているのだろう。きっと女神様のポケットマネーからだ。ありがとうございます、女神様。


 当初の目標は楽々と達成できた。

 エディ君の戦いぶりもすごかったし。


 あんなにすごい戦いを間近で見られるなんて、実は僕って役得ではないだろうか。

 溜息が出るくらいカッコよくて、綺麗で…。


 余韻に浸りながら、今回判明した情報の要点をエディ君にも伝えていく。情報共有は大事だ。



「エディ様?ぼんやりしてどうしましたか?」

「あ、いえ。アキラ様がこんなふうに理詰めの考え方をするのはちょっと意外で…、いつもは…、えっと、……」



 おや?



「いつもは?」

「いえ、その、なんでも…。あの、そろそろ体が動くようになるので…」


「そうですね…。でも、もうちょっとこうしていましょうか」

「えぇっ!?えっと、アキラ様…!?」


「まあまあ。いつものように、体を張ったスキンシップでエディ様を慰めたいなと思っただけなので」

「……!?大丈夫ですからっ。本当に、ひゃっ!?」


「くす。遠慮しないでください。エディ様の言う通り、理詰めで堅苦しい分析をするより、こっちの方が僕らしいなと思っただけですから」

「そこまでで言ってませんから…!理詰めでも全然大丈夫ですから…!」


「大丈夫です。これは単なる添い寝です。やましい気持ちは一切ありません」

「うぅ…、全然大丈夫じゃありません…」


「ハグもおまけで」

「ぁぅ…」



 勢いでぎゅうっとするとエディ君はたちまち観念してしまった。すべすべ。ぬくぬく。

 そのまま、本能の赴くままにすりすりしてみた。


 ちょっと過激すぎたかな?


 過激すぎました。

 また夜まで口をきいてくれなくなりました。

 ハイテンションで思い付きのまま行動すると碌なことにならない。猛省しよう。










 

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