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● 029 対話Ⅰ


「エディ様。怒っていますか…?」

「いえ。もう怒っていません」


「ええと」

「…本当です。ボクがアキラ様の立場だったら、きっとボクも同じように失敗していたと思いますから」


「それは…」

「試行錯誤で、新しいことを試すのは大事なことです。何度でも復活できるボクたちにとっては、一層。失敗を恐れて新しいことができないままでは、あの暗黒の大群を打ち払うことはできません。そういう意味では、アキラ様は何も悪くありません」


「……」

「あ…、その、すみません、偉そうなことを言って…」


「謝らないでください。悪いのは僕の方です」

「ボクは、ただ…」


「遠慮しないで下さい。何でも言いたいことを言ってください。エディ様の言うことなら何でも聞きます」

「…アキラ様が潰されて、殺される光景を見てしまって、胸が張り裂けてしまいそうになりました。辛かったんです。あの光景は悪夢そのものでした」


「本当にごめんなさい」

「大事な…、敬愛している方が死んでしまうところなんて、一度だって見たくありません。本当は、一度だってアキラ様には死んでほしくないんです。これ以上…」


「無様に死んでエディ様を苦しめたことは謝ります。……。でも、僕は、天使ですから。諦めずに戦い続ける勇者様を支える、という使命を持っています。だから、エディ様と一緒に死ぬことも、僕の使命の内だと思っています」

「…はい。アキラ様の使命について、ボクに口を挟む資格はありません。全ては光の女神様の御心の…。……。…でも、今日は、一緒に死んでくれませんでした。ただ、辛くて、寂しかったんです。僕の目の前でアキラ様が殺されるところを見せられて、一人きりで死んで…」



 ぎゅっ



「本当にごめんなさい。もう二度と、エディ様を一人にしません」

「約束、してくれますか?」


「はい。約束します」

「ありがとうございます。ボクが戦えるのは、何度死んでも平気なのは、アキラ様が一緒に戦ってくれて、一緒に死んでくれるからです。ボクは弱い人間なんです。アキラ様が思っているよりもずっと…」


「死んで平気な人なんてどこにもいません。…僕だって、死ぬのは辛いです」

「アキラ様でも?」


「はい。もし叶うなら、二度と死にたくないと思っています。それでも前向きでいられるのは、僕だって、エディ様がいるからなんです」

「僕も同じです。アキラ様がいてくれるから…」


「死ぬ時は一緒です。何度でも」

「はい…」



 ぎゅう



「すみません。ボクのことばかりで…」

「謝る必要なんて全くありません。むしろ嬉しいです。エディ様が思っていることをありのまま話してくれて」


「そう言ってもらえると…。…あの」

「はい」


「アキラ様も辛かったらいつでも言ってください。ボクでよければどんなことでも聞きますから」

「はい。気遣ってくれてありがとうございます」


「そんなふうに、何でもないことみたいに言わないでください。アキラ様はその…、女の子なんですから」

「でも、僕は…」


「ボクのことは肯定してくれるのに、自分を否定するのはダメです。ずるいです。アキラ様は、天使でも、一人の小さな女の子なんです。だから、もっと自分を大事にしてください。お願いします」

「はい。ありが――」


「――想像してみてください。まだほんの子どもの、可愛い女の子が目の前で惨たらしく殺されたらどう思いますか?」

「…エディ様?やっぱり怒っていますか?」


「怒っていません。ただちょっと、何でもないことみたいにアキラ様が死ぬところを僕に見せてきたことに憤りを感じているだけです」

「それは怒っているということでは…。それに、わざと死ぬところをエディ様に見せたわけではなくてですね」


「とても恐ろしい光景でした。体が潰されて、バラバラになって。血があんなにまき散らされて…。脳みそだって零れてました。きっと夢に見ます。悪夢そのものです」

「う…。本当にごめんなさい。本当に軽率でした。反省しています。…仲直り、してくれますか?」


「…はい」

「…よかった。許してくれて、ありがとうございます」



 ぎしっ

 ごそごそ



「あの、アキラ様?」

「なんですか?」


「その、えっと…、何でですか?」

「何でというと?」


「で、ですから。どうして同じベッドに…?」

「それはまあ、せっかく仲直りできたので、一緒に寝ようと思って。よいしょ。ん。好きなだけ抱き枕にしていいですからね」


「っ…、で、ですから、いきなりどうして…」

「どうしてと言われると…、まあ、いい雰囲気になったので、別々に寝るのが惜しくなったので」


「……」

「あ、いえ。違います。エディ様が悪夢に見ると言ったので、添い寝をしてできるだけ和らげられたらと思って」


「アキラ様?」

「む…。できれば一緒にいたいというか、それが自然かなと…。そういうこと、ありませんか?」


「そういうことと言われても…。えっと、なくはないと思いますけど…。もう夜ですから、駄目ですよ…?」

「……」


「……」

「……」


「アキラ様?」

「まあまあ」


「まあまあじゃなくてですね」

「どうして夜だと駄目なんですか?お昼寝なら良くて」


「それは…」

「それは?」


「理由を言えないなら、このままです」

「り、理由は前に言いました。お風呂を断った時に…」


「む、そういえばそんなこともありましたね」

「ですから」


「でも、やっぱりこのままです。今だけは無理を押し通します。押しに弱いエディ様に付け込みます」

「り、理不尽です」


「はい、今の僕は理不尽です」

「ええ…?」


「どうしても嫌ならやめます。僕は、エディ様に嫌われたくありませんから。…ちょっと踏み込んだことを言いますね」

「な、なんでしょう」


「前にもちょっと聞いたことがありますけど…。本当は、満更じゃないですよね?」

「っ…」


「よかった。これで間違っていたら、恥ずかしさで死んでしまうところでした。あ、今でも十分恥ずかしいです。勢いで誤魔化しているだけです」

「ボクの方が恥ずかしさで死んでしまいそうです…」


「その時はすぐに後を追いますから、森の神殿で夜を明かしましよう」

「うぅ。酷い冗談です」


「エディ様がそんなに恥ずかしがる必要はありません。恥ずかしいことをしているのは僕の方ですから。一応、馬鹿で破廉恥なことをしている自覚はあります。女の子の特権ということで、ぎりぎりセーフということにして下さい」

「理不尽です…。男の方がこういうことをしたら絶対アウトなのに…」


「くす。そうですね」

「もぅ」


「僕はあなたを支えて、癒したいんです。スキンシップやハグで癒せるのなら、喜んでそうします。そうしない理由がありません」

「…それがアキラ様の使命だからですか? 僕が挫けずに戦い続けられるように」


「天使としては。でも」

「でも?」


「僕自身としては、あなたが一番大事な友だちだからです」

「友だち…」


「はい。かけがえのない親友です。一緒に死地を経験した戦友でもあります。だから効果のありそうなことなら何でも試します。友情を嘗めたらだめですよ?」

「……」


「何でもします。僕にできる範囲で、セーフなら」

「でも、ボクにはあなたに返せるものが何もありません。貰ってばかりです」



 もぞもぞ



「ああ、自分で口にして、やっと自覚できました。僕はそれが一番嫌なんです」

「それは…、返せるものがないことが?」


「はい。僕ばかりが得を…、ええ、はい。もうこの際、得だと言い切ります。わ、笑わないでください…」

「笑ってなんかいません…。ほっとしているだけです」


「もう…。話を続けます。僕ばかりが、その、な、慰められて…、でも、アキラ様は。あなたは、ずっと辛いままじゃないですか…?」

「ふむ…」


「アキラ様?」

「…そうですね。…いえ。正直、僕自身のことはよく考えていませんでした。そう言われてはじめて気付きました。どうなんだろう、と…」


「アキラ様?」

「ふふ、その声色には若干の呆れが混じっていますね」


「混じってます。アキラ様こそゼンマイを自分で巻き続けていませんか?ボクに言ってくれたことなのに」

「どうでしょう。自然体でいようとはしていますが。……。僕は辛いのでしょうか…。ふふっ、こればかりは、いくら辛くないと自分で言っても説得力がありませんね。心の問題は特に。だから、傍にいる人に聞いてみるしかありません。エディ様。あなたから見て、僕は辛そうですか…?」


「…いえ。正直に言うと、ボクに見えているあなたは、辛そうにしていたことはありません。えっと、丁度今日のことを除いて」

「そうですね。…あの手酷い失敗をしてからずっと、申し訳なくて、本当に辛かったです」


「ボクも辛かったです」

「…それは本当にごめんなさい。もう二度としません。…エディ様。普段の僕は、無理をして笑っているように見えますか…?」


「いいえ。そういうふうに見えたことはありません」

「……。…じゃあ、どんなふうに見えますか…?」


「楽しそうにしていたり、嬉しそうにしていたり…、命がけで戦った後も、すぐに前向きになって…。えっと、充実しているように見えます」

「…よかった。なら、それが答えです。……。僕は充実しています。使命感よりも充実感が…。ごめんなさい…、自分本位で…。……。」


「…アキラ様?」

「……。…でも…。…僕も…、あなたに…」


「……」

「…エディ君だから…」


「……」


「…おやすみなさい」










 

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