● 023 狩猟Ⅰ(1)
準備万端。エディ君の調子良し。
意気揚々と朝一でハンターギルドに到着する。
一階フロアに足を踏み入れる。ハンターの朝は早い。ガヤガヤと活気溢れる喧騒を抜け、そのまま受付へ向かう。
「おはようございます」
「おはようございます」
エディ君と二人で朝の挨拶をする。エディ君が少し大きめに声を張っていたから、僕も心持ち強めに声を出した。
受付では大柄な妙齢の女性がシャランさんと談笑をしていた。きっとこの人だ。朗らかな笑顔を向けてきてくれて、それだけで『この人がいい』と思ってしまった。
「おはようございます。ユウ様、アキラ様」
「おはよう。キャリアーギルドのカサンドラだよ。よろしくね」
「ユウと言います。ハンターになったばかりでご迷惑をおかけすると思いますが、どうかよろしくお願いします」
「アキラです。よろしくお願いします」
「ユウとアキラだね。ははっ。うん、よろしく。そんなに畏まらなくてもいいよ」
今朝のシャランさんはお姉さんモードと営業モードを足して二で割った感じだった。
そして、初対面のカサンドラさんは、力強さと陽気さを併せ持った社交的な感じで、語弊を恐れずに言うなら女傑という印象がぴったりの女性だった。ベリーショートの赤茶色の髪と覇気に満ちた双眸。革製の分厚いコートに隠れていても筋骨隆々の体つきが見て取れる。運搬業ではなく、一流の戦士だと紹介されても信じられるくらいだ。
「ん、気になる?ほらっ」
「わっ」
僕の不躾な視線に気づいて、カサンドラさんが陽気に腕まくりをして力瘤を作ってみせてくれた。レザーコートの下は頑丈なジーンズ製の作業服のような出で立ちで、登山家が使うような二本のトレッキングポールが腰に差されている。
威風堂々。筋肉を隆起させる彼女の立ち姿には一種の美しさが宿っているように思えた。
腰を屈めてくれたので遠慮なく手を伸ばしてぺちぺち叩く。
あっ、という表情をしたエディ君が視界の隅に映って正気に戻る。
しまった、いきなりなんてことを…。
同じジョセイとして感銘を受けたからとはいえ、ほとんど無意識でセクハラみたいなことをしてしまった。
「ごめんなさい。急に触ってしまって…」
「あはは、気にしなくていいよ。かちかちだろう?」
「はい。かちかちです」
「アキラはこんなに綺麗なのに、素直でいい子だねえ。あたしなんか、ガタイだけならまだしも、口の悪さも手遅れになっちまった。こんなのでも勘弁してくれるかい?」
「カサンドラさんはとても綺麗でカッコいいと思います」
「おや。ははっ。ありがとう」
カサンドラさんは快活な笑顔を浮かべる。表情筋もすごい。
うん、好きだなあ、こういう人。
思わず僕の顔が緩んでしまう。
「ふふ、ニコニコして可愛いなあ、アキラちゃん。まるで天使みたい。ね、お兄ちゃん?」
「あっ、えっと、はい。アキラさんを見ているだけで幸せになります。僕は世界一の幸せ者です」
「ユウ君も言うね」
「すすみません。つい…」
視界の隅では早くもチョロお姉さんモードに堕落したシャランさんがエディ君に絡んでいた。エディ君は至って真面目に惚気ている。それを直接僕に言ってほしいな。
それにしても…。
朝から言いもん見れたぜ、早起きは三文の得だな、子ども欲しくなる、色々教えたいんだけどなあ禁止令がなあ、お前みたいな奴らが殺到するから禁止令出したんだろ、見守るのが吉、二人とも逸材だぜ俺には分かる、撮影も禁止されてるのが辛い、盗撮は普通に犯罪だろ、ギルド公式でブロマイド出してくれないかな、ユウ君とのツーショット希望、マスコット化必至、ナデナデしたい、変態、等々、周りのロビーではちょっと品のない寸評会が始まっていた。
悪意は感じられず、僕達を出汁にして軽いノリのコミュニケーションを楽しんでるような雰囲気がある。ハンターの皆さんは独特な風土をお持ちのようだ。耳がいいから全部聞こえてるってこと教えた方がいいんだろうか。
というか、ブロマイドって。この世界にもカメラあるんだ。
◇◇◇
カサンドラさんとの顔見せが無事終わり、報酬を含めた小難しい契約もエディ君が難なく終わらせてしまった。こっちを騙すような契約はしてこないという一定の信頼があるし、それにエディ君は頭もよく、僕が出しゃばる余地はない。決して面倒なことを彼に丸投げしているわけではない。僕は勇者を支える天使であるからして、主体はあくまでもエディ君なので。
そうして、新しくカサンドラさんをメンバーに加え、僕たちはそのままハンターの初仕事に向かった。
――昨日の疲れはありませんか?
――大丈夫です。絶好調です。
視線を合わせてエディ君の意志を確認。絶好調こそが怖いのだけど、うーん、まあ今日はモチベーションを尊重してイケイケでいいか。あとでたくさん労わろう。
「おっと、こっちだよ」
昨日も一昨日も通ったテイガンドの東市門が見えたところで、カサンドラさんに案内されて進行方向を直角に曲げる。その先には、大通りと直結したキャリアーギルド集積所という場所が広がっていた。
その敷地内にはかまぼこ型の形をした大きな倉庫があり、その横の空き地に直方体の木箱が所狭しと縦横と上方向に並べられ、積み重ねられていた。箱の形状と大きさは様々で、横に長い物もあれば縦に長い物もある。小さいものでは僕でも抱えられるくらい、大きいもので両手を広げた僕が5人は必要なくらい。
「もしかして、これを…?」
「そう。背負うのさ。あたし達はこの箱をコンテナって呼んでる。で、ハントでよく使われてるのがこの規格のコンテナさ」
そう言ってカサンドラさんはやや横長のコンテナを選び、集積所の職員さんを呼んでテキパキと準備を進める。
僕が何もできずにぼんやり突っ立って見ている間に、素早く特殊な器具を背中側に装着し、同じ形のコンテナを二つ重ねて固定し、軽々と背負ってしまった。
カサンドラさんによると、コンテナの大きさは縦横1.0メートル掛ける1.25メートル。高さは0.75メートル。地球の段ボールをそのまま大きくしたような形状の木箱だった。
板の厚みを考慮すれば、収容できる容量は800リットルくらい?
――ちなみに、この世界の単位と地球の単位はほぼほぼ一致している。
例えば、1メートルの昔の定義は赤道から北極までの弧の長さを基にした長さで、1キログラムの定義は水1リットルの質量だったと思う。
それはこちらでも同じなようだ。似たような世界なら、ものの比率や考え方が一致してもおかしくはない。閑話休題。
「これ2箱でグラスウルフが20匹は入るよ。灰石級だとそんだけ狩れりゃ十分さ」
「20匹も」
逞しい体をしているとは言え、一人の女性が人よりも大きなコンテナを軽々と背負っている。それは全く予想もしていなかった光景であり、今までの魔物や陰魔との戦いとはまた別のベクトルの異様さであり、ファンタジーだった。
重心とかどうなってるんだろう。後ろ側にひっくり返ったりしないのだろうか。
「まるで魔法みたいです。そんなに大きいのに、どうやって背負ってるんですか?」
「あはは、そう、魔法だよ。なんてことはない。運搬用の便利な魔法を使ってるのさ。じゃないと、いくらあたしでも帰る前に潰れちまうさ」
「運搬用の便利な魔法」
「そういう使い方は初めて聞くかい?例えば、今使っているのは仙術の闘気さ。背負っている荷物ごと体を闘気で覆って、体を強化すると同時に少しだけ全体の重量を軽くする。ただそれだけ。それだけだが、そういった便利な魔法を使いこなしてお宝の詰まったコンテナを運ぶのが、あたしたちキャリアーの仕事だよ。世界中の物の巡りをよくするためにね」
「大事な仕事なんですね」
「そうともさ」
そういう魔法。そして、そういう仕事。魔物と魔法が存在する世界の発展の仕方に感心する他ない。なるほどなあ。
「一級のキャリアーともなれば、山のようなコンテナをまとめて運ぶこともできるからね。百人力だよ」
「それはすごいです」
「はは、アキラ嬢ちゃんは素直だね。おっと、ここでグズグズしてたら邪魔になるし時間がもったいない。何もかも初めてなんだろ?あたしがテイガンド初心者ハンター用のお勧めルートを案内してあげるよ。横長だからね、箱の角にぶつからないように注意しておくれ」
「はい」
あはは、とカサンドラさんが陽気に笑って先導してくれる。本当にいい人だ。
そして、口にはしないけれど、僕たちのことを慎重に見定めようとしている気がする。色々と噂を聞いていてもおかしくないのに、僕たちの事情を詮索しようとせず、そして自分の身の上話もせずに、ただ仕事に注力しようという姿勢だった。
半分引退状態の熟練者、とシャランさんは言っていたね。
この世界で、どんなものを見てどんなふうに生きてきたんだろう。
◇◇◇
東門から草原と街道だけの平野に出る。ここからは大自然と魔物の世界だ。
しばらくの間、通行人や馬車がまばらに行き交う街道を東に進む。
隣町まで何キロあるだろう。自転車も車もない世界の人達は健脚だなあ。地図が欲しい。商店街の本屋さんに売ってるかな。
等々とつらつら考えていたら、わいわい雑談しながら歩いている同業者の先輩ハンターのグループが視界に入った。褐色のレザーアーマー、銀色のプレートアーマー、黒色のローブ、パステルカラーの魔法少女風戦闘衣装(大分見慣れてきた。僕たちの天衣もこの種類だし。ああいう衣装の正式な名前はなんて言うんだろう)、そして大きなコンテナを背負ったキャリアーさん。
物凄く目立つ魔法少女風なマジカルガールが僕の視線に気付き、ぶんぶんと大きく腕を振ってくる。よせよ、と苦笑いしている古き良き鎧姿の男性2人。ローブ姿の女性はあまり興味がなさそう。そしてキャリアーの人も振り返ってきて、少し驚いたような表情をしてぺこりとお辞儀をしてきた。背中のコンテナが大きくて脚しか見えていなかったので、この時点でようやくその人が若い青年だと分かった。
無視するのは悪いので僕もお辞儀をする。エディ君も一泊遅れてお辞儀。
カサンドラさんは軽く片手をあげていた。もしかしたら、あの青年はカサンドラさんに挨拶をしていたのかもしれない。
ハンターの四人組の人たちとキャリアーの青年の関係は悪くなさそうだった。男性たちがキャリアーの青年に話しかけ、三人で笑い声を出しているのが聞こえた。女性たちも辺に遠慮をしている様子はない。
「ハンターだけだと折角狩った魔獣を持ち帰るのが大変なので、キャリアーの人がいないと困るんですね。契約しているハンターの成果も、大勢の人の生活も左右する大事なお仕事だと思います」
僕が思っていたことをエディ君がほとんどそのまま代弁してくれた。
「ユウは賢いねえ。最初からそれを分かってくれてるなら、あたしから言うことはもう何もないね」
「みんなができることを分担して協力すれば、大体のことは上手くいくと思います。ちゃんと公平に分担できるかは別として」
「ぷっ。あっはっは。世の中の真理だね。そう、協力する以前に、とにかく仕事の分担が難しい。アキラは立派な管理職になれるよ」
抽象的過ぎる上に、皮肉を利かせすぎたかな?
初めてのハンターの仕事で、舞い上がってしまって、らしくなくつい口が滑ってしまった。
エディ君が苦笑いしている。カサンドラさんには大ウケしたから良しとしよう。
何の苦労もしていなかったらこの年恰好でハンターになってる訳がない、ということは大前提として、カサンドラさんは僕たちのことをどういうふうに見ているだろう。
見た目に反してひねた態度の子どもだ、くらいなら全然OKなんだけど。
「ああ、笑った笑った。おっと、ここで街道から逸れて北上するよ。どれだけ準備が万全でも魔物の大群やはぐれの高レベルモンスターにあっけなく殺されるのがハンターだからね。警戒は勿論、いつでも逃げられるよう心準備をしておきな」
「逃げられるように…。はい、分かりました」
「ええと、そういう場合はキャリアーの人はどうするんですか?」
「心配無用さ。あたしなら、低レベルの魔物ならこのポールでどうとでもなるし、いざという時のための魔物除けの香と笛、閃光石も持ってる。でも、それを使わせちまったら、キャリアーを危険に晒したペナルティで狩りは失敗、即帰還になるから気を付けな」
「分かりました」
「まあ、ギルド長お気に入りのあんたたちなら…、おっと、すまないね。なんでもないよ」
「ええっと、はい。あとで魔除けの道具を見せてもらってもいいですか?」
「それくらいならお安い御用さ。街に帰った時にね」
会話が弾んでうっかり僕たちの事情に踏み込みそうになったのか、カサンドラさんが手をひらひら振って話を引っ込めてしまった。別にいいですよ、と言えたらどんなに楽か。
出来るだけ嘘はつきたくない。でも勇者と天使の事情を誤魔化しながら身の上話をするのは不可能だ。どこから来たのかとか、今までどうやって生活してきたのかとか、きっとどこかでボロが出る。だから正直、カサンドラさんの距離の取り方に対してありがたいとも思ってしまう。
うん、実はこれって相当大きな問題だ。
僕たちの正体を明かさない限り、誰とも深い信頼関係を築けない。
だから、僕たちの仲間と言える人は未だにトム一人だけ。そして、これからもずっとそのままかもしれない。
それを是とするか、改善するか。
うーん…。
エディ君の心理状態を考えたら…。見た目上ではとても紳士的に振舞っていて、問題なさそうだけど、多分、エディ君は他人に対して…。
うん、しばらくは現状維持で行こう。焦る必要はない。一歩ずつ、一歩ずつ(だから、ゼータさんが出した接近禁止令は本当にありがたかったりする。あの人の思惑はどうあれ。感謝)。
「アキラさん、カサンドラさん、敵です」
街道に端に長々と設置されている灰白色の石柵を乗り越え、街道から見て聖樹の森とは反対方向に広がる北側の草原に足を踏み入れてからしばらくした後、エディ君が息を潜めて端的に注意を促してくれた。手元には聖術の立体地図はない。
出掛ける前に、ハントの仕事では闘気と結界以外の聖術には頼らずに戦いたいとエディ君は言っていた。特に聖剣は誰にも見られたくないと。
僕はその選択を尊重したいと思う。
「右手の草むらに、おそらくバイオレントラビットが潜んでいます」
「どうしますか?」
「目視しないと風魔術を外す恐れがあるので、一度軽く牽制して、わざと攻撃を誘発させてカウンターで本命を当てます。念のため、アキラさんは結界を張ってください」
「分かりました」
エディ君の指示に従い、もしもの場合を考えて光の結界を使う。エディ君は光の闘気を纏う。余程この体と聖術の相性がいいのか、もう無詠唱くらいはお茶の子さいさいだ。
二人の体に淡い瑠璃色と朱色の光が重なる。瑠璃色の結界は絶対的な防護となり、朱色の闘気は身体能力を全体的に引き上げる。僕たちが突然二種類の光を纏い、カサンドラさんがかなり驚いているようだった。
正直な所、赤い聖剣と水色の加護なしでも、この二つの聖なる魔法があればよほどの敵でなければ殺されないという自信はある。今の僕たちで、何レベルのモンスターまで倒せるだろう。
「アキラさん、あの辺りに水球を思い切り飛ばしてくれますか?」
「分かりました。《ウォーターボール》」
言われた通り、エディ君が指差している草むらに向かって水球を勢いよく飛ばす。距離は約15メートル。
危機的状況でない限り、聖術以外は魔法を詠唱して使うという取り決めも事前の打ち合わせ通り。敵に発声を聞かれることよりも、味方同士の連携を重視する。モンスターハントでは、黄昏領域での戦闘とはかなり違った戦い方になるだろう。
――バシャン。
草むらの上で水球が派手に弾け、冷たい飛沫を四方八方に撒き散らした。
その直後、額に二本の尖った円錐の角を持つ大きな兎が思い切り飛び出してきた。決して侮れない初速で、あっという間にトップスピードに乗る。先頭にいるエディ君を狙って猪突猛進の如く突進してくる。
「《ウィンドエッジ》」
極めて殺傷力の高い風の刃が吹き、スパンと角付き兎の首が刎ねられた。何度見ても衝撃的な光景だ。
相手が人を殺そうとするモンスターであっても、僕にはこんなに思い切り殺すことはできない。見慣れた動物に近い生き物ならなおさら。
やっぱり、エディ君は強い。力そのものではなく、心の在り方が。敵を容赦なく殺せる強さがあると思う。
「お疲れ様です。お兄ちゃんなら楽勝ですね」
「あ…、いえ。アキラさんがいてくれるからこそです」
「暴れ兎くらいじゃまるで相手にならないみたいだね。その奇跡みたいに綺麗な魔法については詮索しないさ。ああ、いいよ。ここからはあたしの仕事だ。すぐ終わるからちょっと待っててな」
そう言って、カサンドラさんがコンテナを一旦地面に置き、こと切れた兎に手のひらを置いた。
すると、数秒もしない内にまだ柔らかな死骸がみるみるうちにカチンコチンに冷えて固まっていく。
「見ての通り、温度操作の錬金術だ。触れたもの熱したり凍らせたりできる便利な力でね、これがあたしの天恵魔法さ。あとは血統魔法としてはまあまあの仙術とこのガタイがあったからあたしはキャリアーになれたんだ。若い頃はハンターもしてたけど、長く続けることはできなかったね。残念ながら血統の才能は最後までまあまあ止まりで、道半ばですっぱり諦めたよ」
「カサンドラさんでも、まあまあなんですか?こんなにも力持ちなのに」
「そりゃそうだよ。どれだけ筋肉がついても、これだけじゃあ柔らかいタンパク質にしか過ぎない。どでかい魔物に潰されてお終いだ。だから高ランクハンターで前衛を張るには『剛体』っていう古い仙術が必要なのさ。闘気も勿論有用だけどね。より根本的なのはそっちの方だ。あたしはその血が薄くてすぐに才能に限界が来ちまった。それだけの話さ」
そう言って懐かしそうな表情をするカサンドラさん。
自虐的な言葉の割には、ネガティブな感情は一切見えない。余裕すらうかがえる。本当に大人の人だ。子どもの僕は尊敬の念を憶える。
「あたしはもうあんた達の実力を疑ってない。一目見りゃ分かる。どこまで駆け上がっていくのか楽しみにしてるよ」
「えっと…、楽しみ、ですか?」
「ああ。キャリアーとして、贔屓のハンターが出世して活躍するのは嬉しいことさ。期待しちゃダメかい?」
「いえ、そんなことは」
エディ君が少し戸惑った様子で問いかけ、意外な答えを貰ったとばかりに驚いたような顔をしていた。
でも、ちょっと嬉しそうだ。
よかった。エディ君は期待されることはそれ程重荷に感じないようだ。
何気に相当ストレス耐性高いよね、エディ君。
どんなに辛いことがあってもうじうじしないし、やさぐれず、優しくて温かな心を保っている。強く、しなやかだ。ぶっちゃけ好き。
…でも、だからこそ騙されそうになるんだけど。
エディ君は本当に強い。傷が、とても上手く隠されている。強すぎて逆に損をしてしまっている。
僕の方こそ、彼の強さに甘え過ぎないようにしないといけない…。
「さ、いこうか。テイガンドの北側は大規模な魔法栽培の農地になっていてね、その周りをぐるっと一周するだけで餌につられて集まってくるモンスターを適度に狩れるって寸法さ」
「魔法栽培。それも色々凄そうです。ハンターも農家もいい思いができて…、えっと、ウィンウィンって言うんですよね?」
「古い言葉をよく知ってるね。そうそう、ウィンウィンさ。ウィンウィン」
「くす。何事にも万が一はあります。ウィンウィンのまま終われるよう、安全優先で行きましょう」
「はい。気を付けます」
カタカナ言葉に相当する古代語でウィンウィン言ってみる。エディ君が機嫌よく僕たちに合わせてくれる。
獲物は弱くて、草原は心地いい。
僕はハードな状況も強大な敵も求めていない。
彼が酷い目に合わずに済むのなら、それ以上は望まない。
こういうのでいいんだ。こういうので。




