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● 022 再戦(3)


〈騎士霊様は霊体の形を保てなくなると空の宮殿に戻られます。でも大丈夫です。守護印が手元にあればまたいつでも現れて下さいますから〉



 3名の騎士霊は翼獣体の攻撃を光り輝く盾で凌ぎ切っていた。

 地上へと急降下し、そのまま、空中へと躍り出ていた爪獣体三体を強襲し、一気呵成に攻め立てていく。


 白刃の霊剣と黒刃の長爪がぶつかり合い、重い金属音が灰色の砂漠に鳴り響く。

 地表すれすれの空中で白い円弧の軌跡と黒い鋭角の軌跡が絡まり合い、砂煙がもうもうと舞う。

 三対三。

 騎士霊は堅実に爪獣体を一体ずつ相手取り、互角以上に渡り合っていた。


 しかしここで、砂丘頂上に陣取っていた蹄獣体四体が眼下の騎士霊へとランスの照準を向けた。僕たちの前に出て、攻撃を引き付けてくれた?だめだ、このままでは回避が間に合わない。

 

 ――このままで構わない、と背中を向ける騎士霊の一人に言われたような気がした。


 ――蹄獣体のランスから四本の真っ黒なレーザーが一斉に発射される。最大出力の即死級威力。その瞬間、爪獣体は左右に飛びのいてレーザーの射線から逃れていた。


 ――騎士霊の体全体が一斉に白く発光し、鎧に宿った強い輝きがレーザーを弾き返していた。その直後、同じように強く光り輝く剣から放たれた波動が左右の爪獣体を十字に断ち割った。


 エディ君はその隙を見逃さなかった。

 跳ねるように飛翔し、前方200メートル、高度100メートルまで上昇。渾身の力を込め、真っ赤なレーザーのように伸ばした聖剣で上空の翼獣体を二体両断し、返す刀で残り一体を仕留めた。

 残り、蹄獣体4体。


 すごい、と驚嘆と感謝の念と共に僕が一瞬呆けてしまい、その間にもエディ君が全速力で蹄獣体のいる砂丘へと飛び込んでいく。まるで自ら落下するように。一瞬遅れ、騎士霊もエディ君の光を追う。僕もまた。


 蹄獣体は僕の背丈と同じくらい大きな黒い盾を掲げつつ、数秒の充填で短距離レーザーを放った。全くの同時に、エディ君が真っ赤な閃光の一撃を煌かせていた。彼を包む光の結界には4つの小さな穴が穿たれ、蹄獣体は騎士霊が放ったエネルギー波によって下半身の四脚をまとめて切り払われた。無傷のままのエディ君が連撃を続けて放ち、四体分の頭部を宙へと斬り飛ばした。


 致命傷を受けた陰魔の全てが黒い塵となり、あっという間に溶け消えていく。騎士級十体の殲滅に成功。


 ほぼ同時に、ピピピ、と再び女神様が光球を通じて危機を教えくれた。


 今度は十五体の騎士級が隊列を成して全速力で向かって来ている。


 激戦になるだろう。

 魔力は残り僅か。

 望むところだ。




  ◇◇◇




 再び、様々な形状をした光と闇のエネルギーが複雑に錯綜した。


 数々の三角錐のミサイルが螺旋を描いて飛来し、幾本もの漆黒のレーザーが並行して発射され、合計五十本を超える黒刃の爪がジグザグに迫ってきた。

 エディ君と僕が何かをする前に、三人の騎士霊が瞬く間に散開し、盾を掲げてそれらに一人ずつ対応した。

 彼らがもう一度強く発光した直後、ミサイルが暗い紫色の爆炎を咲かせ、レーザーが散らされ、爪が砕かれた。僕たちに直撃する攻撃だけが正確に防がれるか逸らされたのだと理解できた。轟音と共に、致死的な黒いエネルギーが結界を掠めて背後に流れていく。


 白く輝く騎士霊がなおも果敢に三方向へ突撃する。そして、その動きに合わせるようにエディ君が渾身の斬撃を放つ。250メートルを超える最長最速の聖剣が黄昏の空間に鮮やかな真紅を刻んだ。

 黒いエネルギーが切れ切れに散らされ、赤と白の軌跡が空と地上で交差する。その一瞬で十五体の内の過半数が大破し、黒い塵となって消えた。


 パキン、と胸元のペンダントが砕けた。三種の騎士級と相打ちになり、三名の騎士霊がほとんど同時に消滅し、守護印を刻んだ白い石がいくつもの破片になって零れ落ちた。


 それを見てやっと、エディ君がなぜこのペンダントを身に付けていないのか分かったような気がした。身に付けられないのだと分かった。トムもこの守護印はエディ君に手渡せない。仕方ないと思うし、それでもいいと思う。人一人、どうしようもないことだってある。あるがままに。


 ただ一つ確かなのは、騎士霊様はとても頼りになるということだ。騎士級を倒せるくらいに強いだけでなく、強力な盾となって敵の致死的な攻撃を引き付けてくれる。ゲームで言えば敵のヘイトを集めるタンク役に当たる。自分の攻撃力と防御力を爆発的に引き上げるスキルも持っている強キャラだ。ゲームで、キャラだなんて。非現実的な連想に思わず笑ってしまいそうになった。


 死んだ後も守護者となって助けに来てくれた、尊敬すべき先達に心からの感謝を。

 本当にありがとうございます、聖騎士様。…泣きそうだ。駄目だ、泣いてはいけない。

 敵は未だに健在なのだから。


 でも、そういえば、と思い出し。

 ここまで来たら一か八かで試してみようと思った。



〈エディ様、今からあなたの聖剣に加護を重ねます〉

〈あなたの思うままに。アキラ様〉



 不思議と、前回の死に際と同じことがもう一度できると理解していた。

 きっと、僕の体も力も女神様からの贈り物だからだろう。

 

 思うままに力を込める。

 衛星のようにエディ君の周りを巡る六枚の水色の花弁を集め、エディ君が掲げる真っ赤な光の刀身に集中させる。すると、全ての花弁が自然と吸い込まれていき、聖剣が菫色の光に変化した。



〈この紫の光は…〉

〈太陽のように強く輝いて…、でも優しい感じもします〉


〈そうですね。優しくて柔らかい光です。目が眩むくらい明るいのに、全然怖い感じがしません〉

〈聖なる光の花…〉



 蓮華に似た、大きく花開いた紫の花が灰色の砂漠の上で燦然と光り輝いた。

 僕を狙って至近距離まで接近していた爪獣体が光の圧力を受けて消滅した。離れた位置にいる翼獣体も蹄獣体も、周囲の数百数千の大群も、まるで強烈な光を嫌う様に動きを止めてうずくまった。


 勇者の赤と天使の青が混ざったこの光にはどんな意味があるのだろう。どうして――


 ――。


 そこで僕は遂に意識を手放した。その直前に、この光の花は全ての魔力を吸い取るだけではなく、僕たちの命を代償にして造られるものだと理解した。




  ◇◇◇




 そして、三度目の復活を迎える。

 横になったまま、エディ君が無言で薄緑色の光球を灯し、その横に示された結果を確認した。


 ――『兵士級225』『戦士級116』『騎士級25』


 上々だ。

 それに、今回は深手を負っての激痛に塗れた死ではなかったので気分は悪くない。僕だって痛いのは痛いし、痛いのは怖い。

 


「まるで眠るような死でした」

「はい。心地いい感じすらして、死んだとは思えないくらいです」


「…エディ様。ボクはあなたに言わないといけないことがあります」

「何でしょうか。アキラ様の言うことなら何でも聞きます。ボクにできることならなんでもします」


「反省はいいですが、自分を罰するのは駄目です」

「えっ…、でも…。ボクが馬鹿なことをしてアキラ様を苦しめてしまったので…、罰を受けるのは当然のことですから…」


「駄目です。分かってくれるまでこうして抱きついていますから。そうですね、それが罰ということにしましょう」

「ええっ!? そんな」


「分かってくれないなら、このままエディ様の体をくすぐります。そろそろ体を動かせるようになりますね」

「……!?」


「5、4、3…」

「ま、待って下さいっ。わ、分かりましたから…」


「するのは反省だけと誓いますか?」

「誓います…」


「よかった」

「うぅ」



 聞き分けのいい子でよかった。


 そんなこんなで、体が動くようになってから僕から先に起き上がり、宝箱の横で下着を身につける。天衣を纏い、予備で仕舞っていた守護印のネックレスを首にかけ、薄墨色の法服に袖を通す。

 騎士霊様、また次も助けてもらってもいいですか?


 エディ君は神殿の上で裸のまま目を瞑って待っててくれている。律義で紳士だ。風邪をひいたらいけないからちょっと急がないと。

 着替えを終え、神殿の反対側の死角まで回り込んでから、もういいですよと声をかける。今度は僕がエディ君の着替えを待つ番だ。

 この一連の流れも今後はルーチンワークになるのだろう。


 小龍の宿で寝泊まりをして、テイガンドの南にある聖樹の森に向かい、空を飛んで黄昏領域へ。そこで命が尽きるまで陰魔の大群と戦い、聖域の神殿で復活し、服を着て町に帰る。おっと、聖樹の葉を拾い集めてリリアさんのお店で買い取ってもらうことと、廃教会に行って新しい服とネックレスをもらうことを忘れずに。


 うん。いいんじゃないかな。いい流れだ。



「帰りましょう、エディ様」

「はい。アキラ様」



 頭に思い描いていた通り、為すべきことを為していく。

 

 今日の葉っぱの成果は90枚と88枚。

 葉っぱ拾いに精を出し過ぎると、町に帰り着くまでに最初の方に拾った葉っぱからどんどん傷んでいってしまう。だから欲を出さずに適度に切り上げる必要があるんだって。エディ君は色々なことに気が付くなあ。

 素直にそう誉めると照れていた。可愛い。


 帰り道で魔獣に襲われることはなかった。テイガンドと聖樹の森の間に広がる草原も半分聖域のようなものらしく、ネコやイヌ、スズメ、リスといった小型の自然動物とあまり変わらない最下級の魔物しか寄り付けないのだそうだ。過去に魔物が溢れたモンスターハザードの時ですらこの辺りの草原だけ無事で、多くの人たちが命からがら避難できた。なので人間にとってこのシロツメクサの草原は半分不可侵の非常に大事な場所で、食糧不足に陥っても農地として開墾することに市民から根強い反対があったらしい。なるほど、そんな事情が。エディ君は物知りだなあ。

 素直にそう誉める。


 ボクがつけ上がってしまうのでこれ以上誉めないで下さい、と恥ずかしそうに言われた。エディ君は謙虚だなあ。

 素直にそう誉める。

 もう…、と赤い顔で軽いジト目をされた。天丼してしまってごめんなさい。


 葉っぱは無事にリリアさんのお店で換金された。178枚で4300レン。前は167枚で4000レンだったから、一枚当たり24レン前後の計算だ。サービス込々で。正体を隠して、子どもの姿のままで贔屓を受けてごめんなさい。いつかちゃんとお返しします。

 ニコニコ笑顔のリリアさんに灰色のハンターカードを見せるとすごく驚いて喜んでくれた。



「おめでとう。でも、絶対無理しちゃダメだよ」



 ニッコリ笑顔のリリアさん。


 金髪碧眼の優しくて美人なお姉さんが人気がないはずないんだよね。もし僕がオトコのままだったら…、ゴホンゴホン。リリアさんの隠れファンがたくさんいると見た。


 あと、マナ結晶なる魔法の品が店内の陳列棚にあることを確認。両端が尖った六角柱の形をしていて、色は透明な黄色。僕の小さい掌に収まるサイズだ。形が歪で一番色が薄い最低級のものでも、お値段なんと30000レン。宝石のような最高級はなんとなんと5000000レン。五百万レン。うっそ(ゼータさんの真似ではない)。

 魔法の成長薬についての相談は…、今はまだ時期尚早だろう。そんなことをいきなり聞いても不審に思われるだけだ。もっと信頼関係を構築しなければ。それに、成長しないと決まった訳じゃないし…。


 次は廃教会へ。今日も礼拝堂にはトム一人だけだった。でも、建物の裏手から微かに元気な子どもたちの声が聞こえる。

 呑気な好々爺のスタイルを崩さないトムに、ハンターになったこととウィバク黄昏領域で300体以上の陰魔を倒したこと、そしてピンチになった時に騎士霊様が助けに来てくれたことを報告し、新しい予備のネックレスを頂いた。



「アキラ様。清らかな聖騎士と神官の魂は、空の宮殿で聖なる霊獣と共に終末の果てを待ち続けていると言われています」

「空の宮殿…。終末の果て…」


「はい。闇の脅威が討ち払われ、人が天地の全てを取り戻す日を。白き守護者として現れる方々は、死を迎えた後も正しき者の味方となる為、自ら地上と天上の境に留まられているのです」

「とても立派な人たちなんですね」



 結構デリケートな話題なはずなのに、リリアさんとはまた違ったニッコリ笑顔のトム。

 釣られて僕も顔が緩んでしまう。

 

 ちょっと真面目に女神教の歴史とか組織について聞こうと思ってたのだけど…、まあ今度でもいいか。エディ君がてっともいい笑顔でニコニコしているし。


 ニコニコしたまま手をつないでハンターギルドへ。

 昨日の今日なので先輩ハンターからの注目度は高い。僕たちを初めて目撃した人も多いようで、既に知っている人からドヤ顔で説明されていた。ナンパ禁止令がギルド長から出ているという話も聞こえてくる。ありがとうございます、ゼータさん。狙ってやっているわけではないだろうけど、昨日から評価が乱高下でせわしない人である。

 そんな話を小耳にしながら 受付のお姉さんであるシャランさんのもとへ直行する。



「すみません。キャリアー契約について相談したくて…」

「ご安心ください。既に支部長がキャリアーギルドと交渉し、ユウ様、アキラ様と良い関係を築けると思われるキャリアーをご紹介して頂いています。第一候補の方は三級キャリアーの女性です。最近は半分引退状態で契約を取っていなかったのですが、長年キャリアーを務めてきた熟練者で、腕は確かとのことです」


「えっ、ありがとうございます。昨日の今日なのに。何から何まで…」

「ハンターの方々の手間を省くギルド業務の一環ですから、気になさらないでください。今後も困ったことがあればいつでも気軽にご相談ください」



 真っ当な業務に当たるからか、受付さんモードのシャランさんが丁寧に教えてくれた。



「ゼータさん、甘々ですか?」

「うふふ」



 思わずそう言うと、モードを維持したままお上品に微苦笑をするシャランさん。器用だ。ロリコンでもショタコンでもないから安心して、と目線で教えてくれる隣の受付のエリーゼさん。変に遠慮するのも悪印象になるかな。見た目麗しい十二歳と十歳のペアであることを忘れてはならない。我思う、ゆえに我あり。甘んじて厚意を受け取ることにしよう。



「アキラさん、どうしましょうか」

「お兄ちゃんのしたいように。僕はそのお手伝いをしますから」


「ありがとうございます。それじゃあ、善は急げで明日会いましょう」

「はい」



 熟練の女性という安心材料が決め手となって即決。明日の朝一番にギルドで僕たちと契約してくれるキャリアーさんと対面することにした。問題がなければそのまま初仕事に行ってもいいとのこと。


 何度もお礼を言ってハンターギルドを後にする。

 お散歩気分、ルンルン気分。天気が良くて嬉しいな。


 分かっている。戦って死んで、森で復活してから、僕もエディ君も何気に滅茶苦茶ハイテンションになっている。なんとかハイというやつだ。

 仕方ないよね。あれだけの激戦だったんだから。

 魔法が存在するこの世界でも、あんなに綺麗で苛烈な戦いを目にする人間はごく限られているのではないだろうか。光と闇の交錯と破裂が何度も頭の中でリフレインしている。


 もし僕たちが健全な大人だったら、テンションが上がるだけじゃなくてエロイ意味で体を昂らせるんだろうなあ。

 でも幸か不幸か二人ともほんの小さな子どもなので、あんなことやそんなことはないのだ。

 

 昼食には遅すぎて、夕食には早すぎるおやつの時間だったので宿に帰る前に大判焼きを買った。あずきと白あんを一つずつ買って半分こにする。熱い。でも美味しい。

 趣味にお金と時間を費やせる日はいつになるだろう。しばらくは余裕のない日々になりそうだ。

 方々から注目されることにも段々慣れてきたような気がする。実害がなければ気にする程のことでもない。我ながら現金なことだ。




  ◇◇◇




 夜、宿で二人きりになってから今日の戦いの振り返りを行った。


 エディ君が戦っている途中で魔力切れを起こしていたことに気付かなかったのは反省点として、それ以外は文句なしの大成功だったと結論した。

 

 懸念は三つ。

 僕たちの成長速度と、マナ結晶についてと、あの紫色の光の花について。


 最初の疑問についてはエディ君の回答によってあっさり解決した。

 女神様から先天魔法として聖術を与えられた者は、陰魔を倒せば倒すほど強くなるらしい。その成長速度は普通の魔法使いを何倍も上回る。つまりは女神様のブースト付きのレベルアップだ。しかし、それでも陰魔の大群との戦いは熾烈を極めてきた。本当にギリギリのラインで、何千年も昔から絶滅の瀬戸際に何度も追い込まれてきたという。


 二つ目のマナ結晶ついては、実はエディ君もまだ使ったことがないそうで、後日リリアさんに直接聞くことにした。購入した場合、優先的に使用するのは魔力タンクの僕になるだろう。最底級のマナ結晶一つで僕の魔力をどのくらい回復するのか試さないといけない。値段に見合う効果があればいいなあ。


 そして、三つ目の疑問。

 エディ君の聖剣と僕の加護が合体して生まれた、スミレ色の透明な光の花。

 あれは本当に何だったんだろう。明らかに残りの魔力全てがあの花に自動的に注ぎ込まれて、最終的には命も吸い取られた。そういう確信があり、それについてはエディ君も同意してくれた。


 言うなれば、勇者と天使の合体魔法になるのか。

 すぐ近くで強烈な光を浴びた騎士級があっという間に消滅して、周りの陰魔の群れも動きを止めていた。陰魔の密集地点で一度だけ使える切り札として考えるなら有効かな。安楽死もできるという点も何気に大きなメリットだ。やっぱり痛い目に遭って死ぬのは嫌だからね。女神様が与えてくれた僕たちだけの本当に特別な魔法だとしたら、他にも何か意味があるかもしれない。そんな予感がする。

 

 取り敢えず、そんなところかな。

 騎士霊として現れたかつての聖騎士様については話題にしなかった。過去の聖騎士と今の聖騎士。過去の女神教会と今の女神教会。

 トムと、トムが作った守護印から現れる守護者は味方だ。それだけ分かっていればいい。


 もう一つ補足。

 エディ君は僕と出会う以前から陰魔と戦っていた。何度も戦い、何度も死んでいた。

 そして、一人きりの戦いの後、緑色で示された文字と数字を記憶に刻み込んでいた。


 その合計、兵士級357、戦士級93。


 今回は二人で兵士級225、戦士級116、騎士級25。

 前回は兵士級128、戦士級63、騎士級9。


 全てを合わせて、既に合計1016体の陰魔を減らすことができている。

 はじめ、あの黄昏領域には約78000。

 残るは約77000。

 

 この世界の一年は370日あるから、一週間で2回戦うとして…。



「とても順調だと思います。一歩ずつ前進できています。これからも、一歩ずつ進みましょう」

「はい。一歩ずつ」

 


 今日もとても有意義な一日だった。


 寝る前に、忘れずに日課のハグをする。

 ベッドの縁に腰かけるエディ君にこちらから近寄り、立ったまま頭を抱きかかえる。

 さすりさすりと優しくエディ君の背中を撫でる。



「今日もよく頑張りましたね。エディ様は立派です。本当にお疲れ様でした…」

「ありがとうございます…」



 エディ君の腕は僕の背中に回ってこない。体から力を抜いてリラックスしてくれているのは分かるので、これ以上は望まない。



「おやすみなさい」

「おやすみなさい」



 別々のベッドに分かれる前、はにかんでおやすみの挨拶をしてくれた。今日の努力が報われたような気分になった。これが幸せか。幸せだ。


 明日も頑張ろう。


 心の中でもう一度。

 おやすみ、エディ君。











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