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私の中の私  作者: 胡蝶蘭
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私は昔から人の顔を伺いながら生きてきた。

笑顔の仮面を被って生きてきた。

段々と限界になってきたけど、私はその方法しか知らない

小さい頃から家に一人で留守番をしているのが当たり前だった。

両親は共働きで激務だったのもあり、なかなか帰ってこれず、両親からお願いされたのか、すぐ近くに住む父方の祖父母がよく見に来てくれた。小さい私を年老いた大人が面倒見るのは大変だったと思う。段々と大きくなっていくに連れて、家にいてくれる時間も短くなっていく。祖父母だってもう年だ。段々と私が大きくなっていくにつれて

「かなちゃんは大丈夫だもんね?」

いつも同じ台詞を言って早々と帰っていく。私はいつも笑顔で大丈夫と言い見送る。

玄関が締まる瞬間、祖父母がもう一度振り向いてくれることを期待したが、今の今まで1度も振り向くことはなかった。

たった1度だけ、1度だけ振り向いたことはあったが、その表情は冷たく、じっと冷たい目線で睨み付ける無表情の顔だった。


それからは、必死にいい子でいようと努力した。祖父母に迷惑かからないように。我が儘も言わず、祖父母の顔色を伺ってはどんな事があっても笑顔で取り繕った。学校では常に成績トップ、運動神経も良くなるよう努力し、地区大会で優勝したりと、努力に努力を重ねた。そんな私を祖父母は、誉めちぎり、とても可愛がってくれた。両親は祖父母から私の話題が上がる度に喜んで頭を撫でたり、プレゼントを送ってくれたりしたが、一緒にいてくれようとはしなかった。

一緒に誕生日を過ごしたいと我が儘をいったこともあったが、仕事を理由に一緒には過ごせれず1人ベットに潜って涙を流して耐えていた。

友達もろくに作れない、作れない私はいつも1人だった。


だが、今までの行いは無意味ではなかったようで、いつのまにか周りを見渡せば、私のことを好意を持つ人で一杯になっていた。幸せだった。こんなに私のことを大勢の人が好きでいてくれるなんて思わなかった。

特定の友達も出来始め、毎日が楽しかった。

ある日、教室に忘れ物した私は、帰路を急いで引き返し教室へ向かっていた。ドアに手をかけ、開けようとすると教室の中で声が聞こえた。

友達の声だった。友達以外にも複数名の声が聞こえる。聞き覚えのある声で最近私と仲良しになった子達だ。その声を聞くだけで嬉しくなった。まだ帰ってなかったんだ、一緒に帰らないかな?と期待を込めて、少し開けると話する声が聞こえ手が止まった。


その内容を聞くや否やいつの間にかいつもの帰路と反対方向を息を切らしながら全速力で走っていた。心臓が大きく鼓動する。全身で息をするかのように、鼓動が大きく聞こえた。頭の中が真っ白になる。フラフラと河川敷の土手で座り込む。

あれは夢だったのか?

そう思いたいほどの悪夢だった。

今の今までどうして仲良くしてくれていたのかようやくわかった。

外だけ良くしても、中を見てくれない。

私の中の私なんて、他人にはちっぽけな物だったんだろう。

どうして今まで気付かなかったのだろう。

他人が私を見る目は私が期待していた以上に残酷だった。その日は日が沈むまで大声で泣き叫んだ。


次の日からあの人達とは別行動をとった。あの人達は不思議がり何度か声をかけたりしてくれるも、昨日の出来事が忘れられず、ずっと気付かない振りをしたり、離れたりした。あの人達も何か察したのかそれ以降話しかけてくることもなく、ただのクラスメートとして過ごすことになった。

クラスメートとして、あの人達と話すときは私の態度が以前と比べて極端だったことで、あちらはとても戸惑ってはいたが、私の態度が変わらないことに察してか私に近づいてくることもなくなった。私からも近づくこともなくなり、

関係は終わった。


また1人になった。本当に表向きだけ仲良くしようとしてくる人ばかりだった。私は人のステータスでしかない存在で、私が側にいるだけで、話題になる。花になる。たったそれだけの存在に過ぎなかった。

それを知れば知るほど、思い知らせられるほど、ただただ私の心の中は黒く得たいの知れないモノが心の回りにとぐろを巻いて、締め付けられ、耐え難い激痛が走り、の垂れ苦しんだ。

孤独がさらに孤独になるように、ずっと今まで本当の私を知ろうとしてくれる人はいなかった。私も人を知ろうとも思えなくなった。でも、それでも、私は人の顔を伺いながら、笑顔を取り繕うことはやめなかった。



学校に通っていても、友達がいてもいなくても、恋人がいてもいなくても、誰でも本当の私を知ろうとしてくれる人なんかいない。


顔色を伺って、笑顔を取り繕ろえば誰でも嫌な顔されずに好きでいてくれる、敵ではなく味方のように接してくれる事がわかってからは、常にそうなるように癖がついてしまった。嫌いな筈の相手でも同じように接してしまうのだから、私は本当に臆病者なのだ。


ふとある日

通学途中で見つけた裏道がとても気になった。いつも通っていた筈の道。いつも素通りしてた裏道が何故かとても気になった。

ふと気が付くと、裏道から抜けた先が小さな祠があり、その目の前にぼーと突っ立っていた。

小さな祠には、誰かが毎日御供えしているであろう、両端に白い小さな花瓶に綺麗な花と団子が一本置いてある。

真ん中にはお地蔵さまが幸せそうな顔で手を合わせている。

しゃがみこみ、じっとお地蔵さまの顔を覗き込んだ。その顔は本当に幸せそうに穏やかな表情をされていた。まるで心配事もなにもないような、本当の幸せな笑顔のように見えた。


「私もこんな幸せそうな顔ができたらいいのにね。こんな取り繕ったような笑顔で、毎日いるの疲れたよ・・・。」


本音が漏れる。

急にポロポロ涙が溢れ、今まで我慢して苦労してきたことがどんどん溢れだす。

本当に疲れた

それが本心だった。

いつまで私は、こんなことしないといけないんだろう?いつまで私は、私らしさを取り戻せるんだろう?私らしさってなんだろう?いつまで人の顔を伺いながら暮らしていかなければならないの?ずっと苦しくても辛くても笑顔でいなければならないの?

色々思えば思うほど、涙が止まらない。

苦しい

苦しい

辛い

誰か助けて

叫んでしまいたいほどの苦しみが襲ってくる。

あの1人で泣いた暗い暗闇の中で、私はずっといないといけないの?

両手で涙を無理やり拭くが、涙は溢れるばかりで止まらなかった。


「・・・・めずらしい。こんなとこにまで参拝にくる人がいるんだね。」


ふと後ろで人の声がし、振り向くと、小さい花束と手提げ袋を持った人が優しい微笑みで私を見下ろしていた。


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