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一文字タイトル・1,000文字小説シリーズ

作者: 日下部良介

 久しぶりに帰省した。関門海峡を渡り九州へ入ると、そこで過ごした頃の記憶がよみがえってくる。結婚する前に妻を連れて帰って以来だから8年ぶりか…。


「そろそろ着くよ」

 初めての長旅で娘は疲れてしまったのか座席で眠っていた。新幹線で博多まで来て、それから在来線に乗り換えて1時間ほど。日田について駅の改札を出ると父が迎えに来ていた。

「おじいちゃん!」

 父の姿を確認した娘が駈け出す。

「おう、すみれちゃん。大きゅうなったねえ」

 娘を連れて帰ったのは初めてなのだけれど、七五三のお祝いの時には両親を東京へ招待した。

「義父さん、ご無沙汰してます。お元気そうでなによりです」

「桂子さんも相変わらずキレイやな」

 そう言って父は妻の手を取りぎゅっと握りしめる。

「親父、俺が運転して行こうか?」

「何を言よるんね。東京から来て疲れちょるっちゃけん、無理せんでよかよ」

「いや、そうじゃなくて親父もいい歳だし…」

「バカにせんばい。まだバリバリの現役やき」

 そんな父親の車で実家に到着した。最近、リフォームしたという実家は見違えるようにきれいになっていた。


 実家には親せきも集まっていた。年末恒例の餅つきをしているところだった。

「おう、大輔。早よう来てつかんね」

 着いて早々、杵を渡された。

「パパ、頑張って!」

 娘が目を輝かせている。よし、たまには格好いいパパの姿を見せてやるか。


 餅をつき終えると男たちは縁側に座って酒盛りが始まった。女たちはつきあがった餅を丸め始めた。妻も娘も餅つきの場に居合わせるのは初めてだと楽しそうに餅を丸めている。鏡餅を作るときには娘が自分用にミニチュア版の鏡餅を作った。

「これ、持って帰る」

 作業が落ち着くと、僕らのところにも餅が振る舞われた。砂糖醤油と黄粉をまぶした餅。それを見て妻と娘が驚いている。

「えっ? 砂糖醤油? えっ?黄粉も?」

 東京では醤油は醤油、黄粉は黄粉。何よりも驚いていたのは砂糖醤油だった。娘が恐る恐るその餅を口に運ぶ。

「あっ!これ美味しい」

 どうやらこの田舎の餅を気に入ってくれた様だ。そして、何かを感じたのか、娘が僕に耳打ちをした。

「のし餅が無いよ」

「ああ、こっちでは餅は丸餅なんだ」

「そうなんだ! でも、私はこっちの丸い方がいい」


 年が明けて三日に帰京した。帰りの新幹線の中で娘はタッパーに入った鏡餅を眺めて微笑んでいる。

「また日田に行きたい」

 初めての田舎は娘にとって好奇心を満たすのには充分だった様だ。





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― 新着の感想 ―
[一言] 砂糖醤油、地方の文化らしいですね。 私のところは当たり前にあったのでスタンダードではないことに驚きました。 のどかな気分にさせてくれる優しい作品でした。
[一言] 読んでて、子供のころを思い出しました。餅つきは年末の楽しい行事でした。つくほうは、腰を痛めたりしたようですが。
[一言] 東京って砂糖醤油が珍しいんですね。 出張などで東京に行くことがあったけれど、お餅事情については初めて知ることばかりで新鮮でした。 お雑煮は、都道府県でかなり違うのは知っていましたが。 ご近所…
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