第21話 予兆
アリスと出会ってから次の日。
冒険者ギルドを訪れ、依頼完了の報告と報酬を貰いに来た。
なんだか今日は冒険者ギルドの中がいつもより騒がしくなっていた。
いつも騒がしいのだが、なにか今日はいつも通りではない気がした。
「イリーナさん、どうしたんですか?」
いつもお世話になっている受付嬢に質問してみる。
「あっ、キンジさん。ちょうどいいところに!!」
焦ったように近づいてきたと思ったら、いきなり手を掴まれカウンターの奥の部屋へと連れていかれた。
奥の部屋は、きちんとした椅子やソファ、大きな机に、綺麗な装飾が飾れた部屋で客を招いた時に使うような場所だ。
その部屋の中にいたのは、四十ぐらいの筋肉もりもりおじさんと2人の騎士兵だった。
「いったい、これは...。」
嫌な予感がものすごくぷんぷんと漂ってきている。
「君が昨日、姫様を助けたという者か。」
「姫様の勅命である。騎士勇姿大会に出てもらいたい。」
「は?」
キンジの嫌な予感が的中した。とは言ってもなにを言っているのかわからないが、自分になにも得がないやつだろう、多分...。
ずっと腕を組んでいるおじさんが口を開いた。
「騎士勇姿大会。それは、各国から腕試しに来る者が競い合う大会だ。そして、優勝した者には騎士の称号が贈られる。」
「あのー、イリーナさんあの人は?」
「あぁ、そういえば最近入ったキンジさんはわからないですよね。あの人は、冒険者ギルドのオーナーである、ガルドさんです。」
そういえば、ここではイリーナさんとかしか会話しないので知らなかった。
重々しい図太い声が責任感を感じさせる。
「姫様がこんなに動くのは珍しいことだ。予知でなにかのお告げがあったのに違いない。キンジくんお願いできないかな?あまり話したことのないおじさんが言うのは信用できないだろう。だが、この通りだ!!」
頭を深々と下げ頼んでくるガルド。それに対してキンジは...。
「2つ聞きたいことがある。」
「頼んでいるのはこちらだ、かまわん。なんだ?」
「なぜそんなに頭を下げてまで頼むんだ?」
「私は昔、幼い姫様の護衛騎士だった。姫様を守ろうとしていろいろ頑張ってきたが、だがやつがきてからその職から落とされたのだ。」
予知の能力は誰もが欲しいであろう能力。最初は伏せられていたが、どこからか情報が漏れそれを手に入れようと暗躍したのが今の大臣だ。
専属の護衛騎士が邪魔になり、なんの罪のないガルドに罪を擦り付け追い出されてしまったという。
気になったのでただ質問をしてみただけだが、ここで思わぬ情報が入った。
もう少し時間がかかることだろうと踏んでいたが、丁度いい。
「そいつが姫様を管理し始め、予知の能力を悪用しようとしている。だからどうか姫様を解放してやってほしいのだ。」
ガルドの必死な頼みに対し、顔の表情なにひとつ変えないで次の質問をした。
「優勝して騎士の称号を貰えるといったな。それでなにができると?」
「莫大ば金額の報酬。あわよくば、姫様の専属の騎士になれる。」
「だがそれをしようとしても、大臣が止めると思うぞ。」
「あの数年間様子を見ていた姫様が動いたんだ、それなりになにか策があるのだろう。」
よく考えると、自分がこの世界ですべきことは決まっているし、ここで優勝するれば大きく目標に近づくことが出来る。
魔剣がそろそろ有効活用するべき時がくるのはたぶんこの騎士勇姿大会だ。
「よし、決めた。いいよ、受けるよそれ。でも、大会に来る人はみな強いのだろう??」
「今回はこのまえ来たばかりの勇者様も出てくるらしい。君は、勇者様たちに勝つことができるのかい?」
キンジはにやりと笑う。
彼らはキンジを見捨てて逃げた。別に復讐とかは考えていないが。この世界の魔物たちにも飽きてきたので、人で強いやつと戦ってみたいという欲がでてくる。
(あいつらは、どこまで強くなったかな。)
頭によぎる心配をしている天音の顔。目をつぶり、やると決めたらやる、ということを心に刻む。
「大丈夫だ。勝てるさ。俺はやつらをよく知っているからね。」
魔剣を撫でながら、キンジの心がどんどん高揚していくのわかった。




