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第15話 魔剣の復活

なぜか捗った。

キンジが倒れる瞬間、眩い紫色の光が爆発した。


「キンジくん!?」


リリー先生がびっくりしたように素っ頓狂な声を上げながら近寄ろうとする。


「だめだ、リリー。見守ることしかできない」


近寄ろうとするリリー先生を止めるエイジ。


「だって、失敗しちゃったら、魔剣にとりこまれ...て...」


泣きそうな声を出しても、キンジは帰ってこない。


「キンジ君も了承してくれた。俺達は信じることしか出来ないんだ」


エイジ、リリー先生、ソウジ、ボルの4人が心配している目で倒れているキンジを見守っている。


(ごめん、キンジ君。君が無事に帰ってきたら、ちゃんと話すよ)


エイジの足の方がうっすら存在感が無いように、薄れていっているのをキンジは気がついてはいなかった。



~~~~~~~~~~~~~~~



キンジが目を開けるとさっきまでいた場所とは違い薄暗く何もない空間にいた。


「ここは、転送されたのか?いや、違うな」


勇者召喚の時に味わった光と少し似ていたが違うようだ。さっきまで確かにいた場所とは異なるものの、フォールンという名の異世界であることは間違いない。


慣れない空間にキョロキョロと目を急がせていると。頭の中に誰かが語りかけてくるような声が聞こえてきた。


「貴様か、我を復活させようとしているのは」

「っ!?誰だ!!」


周りを見渡すと、鎖に繋がれた黒い巨体がいた。


禍々しいオーラを感じる。鍛え上げられた筋肉のような体をしているその黒い巨体はキンジよりも数倍大きい。


「我に名前などない。あったとしても忘れてしまった」


キンジの「誰だ」という質問に答えてきた。会話をする気はあるようだ。


「お前は魔剣なのか?さっき我を目覚めさせるのは、とか言ってたよな」

「昔にそう呼ばれていたな、でも忘れた。我が覚えているのは憎しみだけ...」

「憎しみ...」


前にエイジが話と同じだ。エイジが魔剣に操られてしまった鍵は憎しみだ。人は誰も憎しみを持っている。嫉妬、嫌味、復讐などの気持ちは心のどこかに存在するのだ。


その憎しみの気持ちが心のだいたいを支配している状態になると危険というわけだ。


「貴様の心は、半々。半分は憎しみ。その半分は、なんだ?」

「さぁてね、俺にもわからんよ。ただ...」

「ただ?」

「俺はお前の力が欲しい」

「なぜ力を欲する?復讐か?それとも...」

「いや、復讐じゃない。自分の目的を果たすためだ。それに守るべき人がいる」


忘れてはいけない。確かに恨むやつはいる。俺を奈落に落とし、殺そうとしたやつを。だが、地球に帰るという目的の方が大きいし、守ってあげたい人がいる、復讐よりも目的の方が重要であり、絶対なのだ。


「ならば、見せてみろ。貴様の心を、貴様の意識を!!」


キンジの目の前に、錆びた剣が現れた。それと同時に黒い粒子が集まって、人の形を作り上げていく。姿、形、身長、どれもがキンジとそっくりだ。どこか違うとしたら体は黒色であの黒い巨体と同じ禍々しいオーラを持ち、その目は絶望して目の光が失われているようだった。


「さぁ、剣をとって戦え!貴様の意思を証明してみろ!」


カァーン


剣と剣がぶつかりあう音。


キンジと黒いキンジの戦いが幕をあげた。


「はあぁぁぁ」


キンッキンッ、カァン


激しくぶつかりあう音が何もない世界に響いている。


「くっ!」


(攻撃がまるで同じだ。防ぎ方や反撃のカウンターまでも、すべてが同じ。剣の攻撃だけでなく、蹴りも混ぜているが、心を読まれているように避けられる。自分を相手にしていると同じだな)


額に汗を出しながら、対策を考えていると今度はあっちから攻撃を仕掛けてきた。


大きく振りかぶり、一気に跳躍し距離を詰めてくる。剣で攻撃を防ごうとしたが、やめて回避する。自分が相手なら防いだ時の対処はどうするかわかる。


横に跳び回避する。剣が地面にぶつかると、大きな音をたてて、ひびが入り割れた。


黒いキンジは攻撃をやめずに猛攻を仕掛けてくる。それを避けるしかない。普通の攻撃がだめなら、ほかのを試す。


一旦バックステップで距離をとり、剣を持っていない左手に魔法を展開する。左手の上で、白と黒の魔法が入り交じり、それを黒いキンジのほうにかざし放つ。


混合光線(ハイブリットバースト)!」


白と黒の光線が、混じり合いながら直撃する。『混合光線』は混合魔法で、『無』と『無散』を混じり合わせたものだ。効果は、触れたものの状態を反対にするというもの。生きているものを破壊し、破壊されているものをなかったように元に戻す。


だが、魔力の消費は凄まじい。片手での魔法なので両手で出すよりも威力は低いものの、混合魔法なので魔法を2つ同時に使っていることと同じ。


相手がその攻撃に耐えるほどの強さを持っているとなると効果は出ない。生半可な魔法じゃ意味が無いとおもい混合魔法を放ったが、黒いキンジが立っている時点で効果はなかったようだ。


黒いキンジの剣を見ると、どす黒いオーラが放たれている。おそらくなにかの魔法を魔力付与したのだろう。


キンジも『無散』を魔力付与し、対抗する。黒と黒、同じ属性同士ぶつかり合い、力が弱い方が押し切られる。剣を握る手に力が入る。


ドッ


2人同時に跳躍し、ぶつかり合う。『無散』の効果で魔法は消したが、こちらも魔法が消えて弾かれてしまった。


やはり力は同等だと、思ったその時。頭の中に再び声が聞こえてきた。しかし、黒い巨体のものでなくいろんな人の声だ。


「憎い、憎い、憎い...」

「殺す、殺す、殺す...」

「死ね、死ね、死ね、死んでしまえ..」


「があぁぁぁ」


頭の中がぐちゃぐちゃにされているみたいだ。気分も気持ち悪くなり、吐きかける。いろんな人の憎しみが憎悪が流れ込んでくる。しまいには、


「殺す、殺す、殺す、殺す!」


自分の声すら聞こえてきた。


思い出されるのは、奈落の底、暗闇に落ちる自分。火竜に殺されかけ、復讐心に囚われている自分。


時間が経つにつれて声が聞こえなくなっていく。


完全に消えたと同時に黒いキンジが再び襲いかかってきた。


剣には先程と同じどす黒いオーラを纏っている。頭がぐちゃぐちゃにされたせいで、まともに動きは取れない。剣で受けることにした。が、それは間違った選択だった。


「うがぁぁ、あ゛ぁぁ」


剣がぶつかり合うとまた、同じことが起きた。再び憎しみの心、声が入り込んでくる。


剣がぶつかり合えば同じことの繰り返しだった。


(このままじゃ、俺の方が負ける。無理でも動かして避けるしかない)


どす黒いオーラを纏った4度目の攻撃。それをなんとか、上体を起こし前転し避けた。なんとか距離をとり、相手がどう出るか見ている。


『無散』がだめだったので、混合魔法をまた使うしかない。しかし、さっきの『混合光線』はくらっていなかった。


あのどす黒いオーラを受けてでも、相手に直接あてるしかないとおもい。左手に白と黒の魔法を展開する。


それを見て隙を伺い、黒いキンジが突っ込んできた。

十分に引き付けて、縦に降ってくる剣を右手に持っている剣で横に流す。


剣同士がぶつかり合っているので、憎しみの声が再びキンジを襲う。しかし、奥歯を噛み締め耐える。そして、左手の混合魔法が展開を完了した。


「はあぁぁぁぁ」


剣を横に流されているので、防御が不可。『混合光線』は黒いキンジに直撃した。


ズドォォォン


体に触れた途端、爆発し、後方にものすごい勢いで吹っ飛んでいった。


「はぁはぁ...」


膝から地面に崩れるキンジ。魔力の消費が高い混合魔法を放てるのは、今の時点では2発。もうすでに2発うってしまったので魔力切れだ。


憎しみの声をなんとか耐えたが、次まともに食らうともう体は限界だった。


しかし、キンジの目に入った光景に絶望する。黒いキンジが立っていたのだ、左腕を失った状態で。


「嘘だろ...」


黒いキンジからはどす黒いオーラが溢れ出し、地面をつたいキンジの方に向かってくる。


魔力切れの影響で体を動かせないでいる。


「くそっ、避けられない!」


どす黒いオーラはキンジのところまでいくと、キンジの体を包み込んだ。


視界が真っ暗になり、昔の記憶が蘇るように頭の中に響いた。


「雑魚が...」

「調子に乗ってんじゃねーよ」

「死ねばいいのに...」


この記憶はフォールンに来る前の教室での誰かの会話だった。そして、フォールンに来た後の記憶も蘇る。人に罵倒され罵られる毎日。


別にそんなことはどうでもよかった。


そして、記憶はだんだんとあの出来事に近づいていった。


「やめろ...これ以上見せるな...」


暗闇の底に沈んでいくキンジ。暗闇の中から無数の黒い手が招くように、こっちにおいで、と誘ってくる。


そこで、ふと黒い巨体の声が頭の中にきこえた。


「貴様も、堕ちるのか?憎しみの心に囚われてしまうのか?」


「憎しみの...心...」


《人は誰も憎しみを持っている。嫉妬、嫌味、復讐などの気持ちは心のどこかに存在するのだ。》


エイジの声が蘇る。


「そうか、人は誰にでも憎しみの心を持っている。憎しみの心があってこそ人だ」


「ならば、その憎しみの心に身を任せるのか?」


「いや、違う!!憎しみの心を誰もが持っているなら、それを打ち消すものがある。だから、人は協力しあい、共に生きることができる!」


だんだん蘇ってくる記憶。初めてこの剣に触れた時、エイジの記憶も見た。


確かにエイジは憎しみに囚われてしまったが、最終的には正気に戻った。そう、愛する妻の手によって。


そして、魔剣の記憶も蘇ってくる。


「俺は憎しみなんかに負けたりはしない。俺の帰りを待っている家族がいる」


目を閉じると、母と父の顔が思い浮かぶ。すると、どこかで見た銀髪の少女が微笑んでいる姿が見えた。


(アリス姫...)


なぜ、今キンジの頭の中に出てきたかはわからない。でも、今憎しみに負けそうなキンジを助けてくれた、というのは変わりはない。


「俺は目的の達成、地球に帰るためなら容赦はしない!たとえ憎しみがなんだろうが、それをも利用してやる」


エイジが人の愛情によって戻ってきたなら、憎しみの心よりも強いものをぶつければいいということだ。


「憎しみに囚われてしまう時があるかもしれないぞ?」


「ふんっ、その時は。俺は勝つ。」


黒い巨体は目をつぶり。一拍置いてから。


「認めよう。貴様が主であることを。そして、剣を取れ。その剣の名前を叫べ!」


「我が前に、姿を現せ。魔剣デュランダル!!」


その名前を言った途端、キンジの持っていた錆びた剣にひびが入った。殻を破るように、バリバリと音を放ち。剣全体にひびが入った瞬間。


バリン


魔剣は生まれ変わった。


300年という長い時をかけて、魔剣デュランダルは復活した。

ブクマ登録、評価、よろしくお願いします。次話は4日以内で...

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