82 新たなクエスト
クレーターを駆け上ったカナエたちは、その外の森林地帯で、ソレと出くわした。
ギガマンティスである。
ダンプカーほどの大きさのその魔物は、カナエたちがやってくると、ぶわっと翅を広げて、ぎざぎざの鋭い鎌をぎゅっと縮めた。そのギガマンティスの背には、数匹のプレデターが乗っていた。
「ロッテ、援護を――」
ロッテに指示を出しながら、カナエは後ろを見た。
そこには、すでに臨戦態勢のロッテと、赤鬼を召喚しているアオイ、そして杖を掲げているエトワの姿――はなかった。3人ともカマキリから随分離れた所の木の影に隠れ、顔だけを半分出している。
「えー……」
「お兄ちゃん、虫は、虫は無理……」
アオイの声が聞こえてきた。
アオイは、ある時期から随分虫を怖がるようになった。ゴキブリは当然のことながら、ダンゴムシもカタツムリも、クモも、セミやバッタも、虫という虫は全部苦手である。ロッテもエトワも、それの仲間だった。
女子率の高いPTの欠点、カナエはそこを、見落としていたのに気がついた。
漠然とした不安は、そのためだった。
女の子だけの偏った男女比でPTを組んだ場合、何かの拍子で、一気にPTが崩壊することがあるのだ。その一つが、虫である。
キシシシシシシ!
ギガマンティスが翅を震わせる。
カナエはその翅の起こす風に耐えながら、ショットガンの銃口を向ける。
――発砲。
狙いが定まらない。
バシュ、バシュっと、プレデターの腕の装置から、青い弾丸が放たれる。
カナエは、それを避けた拍子に、風に足元をすくわれ、後方に飛ばされた。
カナエが状態を起こした時には、すでにギガマンティスは、森の木々の上を飛んでゆくところだった。
『ワームネストの転移ゲートが破壊されている! GM各位、すぐにワームネストに向かい、転移ゲートを守ってくれ!』
「くっそ……」
カナエは、ショットガンをしまい、メサイオンに戻った。
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メサイオンギルド会館四階、ミーティングルーム。
開発センター長クロップとロッシュ、そしてカナエの三人が集まっていた。
Sランクゴブリンネストの攻略は終わり、今は、ボスゴブリンの落としたドロップアイテムをめぐってのPK合戦などに、PL課のGMが奔走している。
一方UC課とSS課のGMは、新たな問題への対策に追われていた。
「君の意見を聞かせてくれないか、カナエ」
ロッシュが言い、クロップも頷いた。
カナエも頷き、口を開いた。
「フォレストゴブリンは、最初からワームネストに属する魔物だったのではないでしょうか。強化されたボスゴブリンの魔石を持ち帰ったのは――ワームネストのネストコアを強化するためだった、とは考えられませんか?」
ロッシュとクロップが顔を見合わせた。
クロップは、ゆっくり口を開いた。
「先ほど、ワームネストのネストコアが、我々の管理を離れた」
「それって、つまり――」
「君の推測通りかもしれない。Aランクのネストコアで維持されているネストに、外部から、Aランクでは維持しきれないエネルギー体を入れた場合、ネストコアは、それを維持するために、力を引き上げるようとする。知っての通り、我々が管理できるネストコアの限界はA+ランクで、それを超えると、管理できなくなる。AランクがA+ランクになるくらいは、我々もその可能性を考えていたが、A+ランク以上のネストでそれが起こるとは、考えていなかった」
「ワームネストのゲートは、すでに3分の2が破壊された。今は、GMが残ったゲートを守っているが、ゲートへの攻撃は続いている」
「ワームネストのボスは、クイーンスパイダーですよね」
「そうだ」
「自分が所属するネストから離れて、他のネストの中で行動するのは、そもそも不可能だったんですか?」
「その可能性は極めて低いと考えていた。所属ネストを離れて行動するには、一般的な魔物のコアである魔石では不可能だ。邪石結晶という――ネストコアと同じようなものによって形成された魔物でなければ」
「じゃあ、少なくともプレデターと、ギガマンティスはそうだったということですか」
「プレデターは普通と違う、エネルギーの密度が高い魔石を落とす。プレイヤーからそのことはずっと指摘されていたが、まさか邪石結晶とは思わなかった」
「それは、運営が買い取って、回収した時に分からなかったんですか?」
「魔物が倒されるとその瞬間に、ネストコアは、その魔物のエネルギーを吸う。ゴブリンネストでも同じことが起きた。プレデターが倒されたとき、ゴブリンネストのネストコアは、プレデターの邪石結晶からエネルギーを吸い取る。その結果、プレデターからドロップするのは、邪石結晶ではなく、エネルギーを吸い取られて結合が緩くなった、ただの魔石というわけだ。ただの魔石とはいえ、元が邪石結晶だから、魔石にしては相当密度が高いものになる」
「つまり、運営が買い取る時点ではただの魔石だった。だから、プレデターのコアが邪石結晶だと気付かなかった、ということですか」
クロップは頷く。
「加えて言うならば――A+ランクのネストのネストコアが、邪石結晶をコアとする魔物を作り出すのは、独力では不可能だ。何かが、そうするよう、意図的に力を加えない限りは」
「何か……」
カナエはそこで、以前エルメルに聞いた、「邪悪な妖精」という単語を思い出した。
「ともかく何にしても、ワームネストの攻略が先決ですね」
「その通りだカナエ。あと30分もしたら、ワームネスト攻略のワールドクエストが出される。まだSランクにはなっていないが、何しろワームネストだ、苦戦する」
「また強襲部隊ですか?」
「強襲には強襲だが、今度は先陣を切ってもらう。ゴブリンネスト――いや、もうあそこはネストじゃないな。旧ゴブリンネストには魔石の回収部隊を送っているが、こうしている間にも、旧ネストに散らばった魔石が、プレデターによって、どんどんワームネストに運び込まれている。ワームネストがSランクになるのは、時間の問題だろう」
「わかりました。でも、PTメンバーが集まらないかもしれません。僕のクランのメンバーは、もうログアウトしましたよ」
「それは問題ない。今度のPTは、GMでメンバーを固める」




