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80 強襲③

『ボスゴブリンがビットを出した。カナエ、急いでくれ』


「もうちょっとで着きます。ボスゴブリン、強いですか?」


『アーマー・スキンが剥がせない。今のところ火力はさほどではないが――強敵だ。Aランクまでのボスとは、一線を画している』


 ロッシュとのVCが切れる。

 カナエの強襲PTは、崖をくだろうとしていた。

 半径1kmほどのクレーター、その中心部にボスゴブリンがいる。義経の逆落としよろしく、一気に崖を下る。カナエたちを追っていたゴブリンは、そこに崖があることも知らずに飛び出し、ごろんごろんと転げ落ちる。


 ――遠くに、ボスゴブリンの巨大なシルエットが見えた。

 ドーン、ドーンと、大きな音が空に響き、間延びして聞こえてくる。


「あれか! 今までのボスゴブリンとは比べモンにならないくらいデカいな!」


「大きいだけならいいんだけね。さて、今のうちにあれの情報を、わかってるだけ伝えておくよ」


 カナエが言うと、皆は力強頷いた。


「まず、ファイヤーブレス。半端なスキルじゃ防げないらしいけど、エトワのカーテンなら大丈夫かもしれない。ただ、保証はないから、基本的には、避けたほうがよさそうだ」


「避けるって、どう避けるんだよ。ロッテはいいかもしれないが――避けられるようなブレスなのか?」


「受けてみないと何とも言えないね」


「受けたが最後だろ?」


「まぁ……もうそこは、運と状況判断でいこう」


「それ作戦って言わねぇだろ……」


「あとは、両手の大剣。それから――」


『GM各位、ボスの野郎、メテオストーム使ってきやがる! くっそ、今のでだいぶやられた』


『ロッシュ、増援が必要か』


『今のままじゃ、厳しい……』


『強襲部隊はどうした!』


 GM統括、ライデカーである。


「もうすぐ着きます! い、一分で着きます!」


 カナエはそう答えるとVCを切り、身震いした。

 ボスゴブリンよりも、ライデカーのほうがよっぽど恐ろしい。


「ボスゴブリンは、メテオストームを使う! 皆、気を付けて!」


「だから、どう気を付ければいいんだよ!?」


「避けられるものは避ける、どうしょうもない時はもう、どうしょうもないな。とにかく、頑張ろう」


「あぁ、ったく、大したリーダーだ」


 カナエたちの視界に映るボスゴブリンが、どんどん大きくなってゆく。



 カナエはオオカカポから飛び降りた。

 着地と同時に転がり、転がりながら銃を撃つ。ビットゴブリンが脳天を打ち抜かれ倒れる。カナエはそのまま跳び上がり、ボスゴブリンに向かって駆けてゆく。


「おいおい! 待てよ、作戦もなしに特攻か? 俺は、カミカゼアタックなんて御免だぜ!?」


「ますたぁ! どうするの!?」


「今思いついた! ブレスとメテオが当たらない場所がある――あいつの、足元だ!」


「あ、なるほど!」


「確かに、足元なら、ブレスもメテオも怖くありませんね!」


「待て待て! そりゃあそうだが、あのデカブツの足元に張り付くってのか!?」


「カナエ様! ボスゴブリンが、口を開いています!」


「ブレスか……エトワ、何とかできる?」


 走りながら、カナエたちは会話をする。

 ゲームの中、ヴァーチャルの身体――そうは思えないほど、皆、息が弾んでいた。心臓が鳴る。


「はい、何とかします!」


 エトワは白翼馬に乗ったままカナエの前に出、杖を掲げた。

 白いカーテンがカナエたちを包み込む。

 直後、ボスゴブリンがブレスを放った。


 聖なるオーラに守られて、カナエたちPTは、燃え盛る炎の中を突き進んだ。

 炎が消えると、6人はもう、ボスゴブリンの眼前にいた。


「助かったよ、エトワ!」


 カナエはそう言うなり、ボスゴブリンの顔に銃口を向け、引き金を引いた。

 ボスゴブリンが、カナエを見下ろす。

 大仏に見下ろされているような感じであるが、ボスゴブリンは、大きさこそ大仏だが、その恐ろしさは、大仏を遥かにしのぐ。


「これと戦うのか……」


 カナエは、ボスゴブリンに銃口を向けたまま、固まってしまった。

 恐怖と、そして、自分の小さな銃が豆鉄砲のように思えて、引き金を引けなくなってしまったのだ。


 ボスゴブリンが足を振り上げ、振り下ろした。

 ズガアアンと、カナエのいた地面が押しつぶされ、周囲の土地にひびが入る。

 大砲のような爆発。

 周りにいたプレイヤーが跳ね上げられる。


 グオオオオオオ!


 ボスゴブリンが、両手の大剣を振り回す。

 宙に投げ出されたプレイヤーが、大剣の餌食になってゆく。

 ボスゴブリンの目が、カナエを捉えた。

 ――殺られる。


 カナエは、咄嗟に、両の銃口をボスゴブリンに向けた。

 ボスゴブリンが剣を振り上げる。


 カナエは、引き金を引いた。

 圧縮されたエネルギーの光波が、銃身に亀裂をいれる。

 大砲のような二発の弾丸が放たれた。


 グアアアアアッッッ!


 二丁の拳銃から放たれたピンクの銃弾が、ボスゴブリンの左肩と左胸に直撃した。

 ボスゴブリンは大きくのけ反り、左の剣を投げ出して、そのまま仰向けに倒れた。

 一気にエネルギーを放出し、カナエは意識を失いかけた。

 それを――


「ますたぁ!」


 ロッテが空中で捕まえた。

 ロッテはカナエを掴んだまま地面に降りた。


「ボスのアーマー・スキンが剝がれたぞ! やれ! 今だ! やれやれ!」


 プレイヤーたちが、菓子に群がる蟻のごとく、倒れたボスゴブリンに攻撃を仕掛けた。ボスゴブリンはプレイヤーを振り落としながら立ち上がり、ぐおおっと赤黒い雲に咆哮した。


 その頭に――GMルシアのスレイヤー・アローが放たれた。

 大爆発とともに、ボスゴブリンが再び倒れる。

 プレイヤーたちが、我こそは、我こそはと、ボスゴブリンに止めを刺しに走る。


「ますたぁ! しっかりして!」


「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」


 ロッテとアオイの声に、カナエは意識を引き戻された。


「別に、本当に死ぬわけじゃないんだから……」


 カナエは頭を押さえながら、妹をかき分けて、倒れたボスゴブリンを見た。

 じたばたもがくボスゴブリン。

 魔法と剣の光がちかちか光っている。


「お兄ちゃん、大丈夫、なの……?」


 アオイが、兄の顔を覗き込む。


「アオイ、ここはゲームの世界だぞ。大丈夫も何も、死んだって死なないんだから」


「それは、そうなんだけど……」


「ロッテ、とどめさして来いよ。まぁあれじゃあ……難しいか」


 ロッテの派手な魔法なんて放ったら、プレイヤーを何人巻き込むかわからない。

 尤も、もはやあの場のプレイヤーは、誰がボスゴブリンを討伐するかと、いかにしてそのドロップアイテムを手に入れるかということに力を注いでいる。先ほどまでの、プレイヤー間の協力プレイは、いつの間にか崩れ去っていた。


「どけ! 俺がLA取るんだ!」


「ふざけんな! PKすんじゃねぇよ!」


「間抜けはどいてろ!」


『プレイヤーの統率が取れない! GM各位、協力してくれ!』


『PKプレイヤーは殺して構わねぇ! 判断は、各自に任せる!』


『おらおらおら! 邪魔だどけ、愚図野郎! 俺が止めを刺してやる!』


『レクス! 仕事に戻れ! お前がプレイヤーと一緒になってどうする!』


 ――ズドーーーン!


『ルシア、お前がPKしてどうするんだ!』


『私はGMである前に、一人のプレイヤーよ!』


 やれやれと、カナエはVCを切った。

 ほどなくして、ボスゴブリン討伐を知らせるニュースが流れた。


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