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79 強襲②

 カナエたちは、ゴブリンひしめく荒野を突破し、森に入った。

 魔法を使って皆を守っていたエトワが杖を下ろし、ほうっと息を着く。


「助かったよ、エトワ」


「お役に立てて、何よりですわ」


 カナエは、もう一度目的地の座標を確認した。

 座標まで直線距離で約10km。今度は見通しの悪い森の中、地面も、突然急斜面になったりする腐葉土の土である。


「くっそぉ、ちびっ子め、楽しやがって」


 木々をすいすいすり抜けるロッテに、ガリバーが言った。

 ロッテはレビテーションのスキルを使えるので、騎獣を必要としない――のだが、それは、本来であれば変な話なのだった。レビテーションは移動スキルでなく、あくまで戦闘用のスキルである。本来は、体力の消費が半端ではない。アクセル全開でランボルギーニを走らせているようなものなのである。


 ところがロッテは、どういうわけか、歩くのと同じような感覚でレビテーションを使うことができる。ロッテは、木々の隙間を抜けながら、「ちびっ子」と言われたことに頬を膨らませ、ガリバーに言った。


「別に楽してるわけじゃないもーん。ガリバーもレビテーション覚えたらいいのに」


「ロッテのレビテーションは、覚えようとして覚えられるものじゃないよ」


 リアムが反応する。

 ロッテと同じソーサラーであるリアムだが、リアムはレビテーション自体使うことができない。そもそもレビテーションは、普通に使うだけでも苦労するスキルである。


「ますたぁ! 何かいるよ!」


「何がいる?」


「何か、緑っぽい……」


「――フォレストゴブリンだ」


「聞いたことねぇなそいつ、強いのか?」


「普通のゴブリンネストだと、出くわすことはほとんどない、レアモンスターだよ。別名〈プレデター〉。映画のそれと、特徴はほとんど同じ。つまり――」


「滅茶苦茶強敵じゃないのかそれ!」


 その通りだった。

 レアモンスターで、ものすごく強い。これを探して仕留めるためのPTもよく組まれているが、実際にフォレストゴブリンを討伐できるPTはごく少ない。見つからずに諦めるか、戦いになって全滅させられるか、大体そのどちらかである。


 ビシイン、ズドドドドン!

 突然、カナエたちの頭上で爆発があった。

 ダイアル・レイである。


「ロッテ! プレデターはほっとけ!」


「でも、レアだよ! 倒そうよますたぁ!」


「俺たちの仕事はボスゴブリン討伐だ!」


「でも――」


「頼むロッテ、マスターの言う事を聞いてくれ!」


「仕方ないなー」


 プレデターを無視して進むと、今度はイノシシの化け物に乗ったゴブリンの群れにぶつかった。群れと言うにはあまりに統率の取れた集団である。乗っているのはイノシシだが、ゴブリンの騎馬隊と言って差し支えない。


「お兄ちゃん、もっと早く走ってよ! 追い付かれちゃうよ!?」


 いつの間にか、オオカカポとカナエは、隊列の一番後ろにいた。

 その後ろから、ゴブリン騎馬隊が迫っている。

 カナエは、カカポに後向きに跨り、ゴブリン騎馬隊に銃を向けた。


 ダン、ダン――一発では仕留めきれなくなっている。

 絶命したゴブリンは、イノシシから転げ落ち、人形の様に回転して、見えなくなってゆく。


「カナエ、池だ! 迂回するぞ!」


「わかった!」


 池を左側に迂回して回る。

 ばしゃばしゃっと、湿地の地面を駆け抜ける。

 カナエは重心を低くして振り落とされないようにしながら、なおも諦めない騎馬隊の相手をする。騎馬隊の先頭とカナエまでの距離は、すでに数メートルを切り、イノシシに乗るゴブリンは剣を振り上げている。


「カナエさん、ちょっと、試してみたいことがあります」


 リアムは、カナエの後ろまでやってくると、両手を突き出した。

 リアムの両手が、白い冷気を放出し始める。

 ぴきぴきと、氷の割れるような音が聞こえ始める。

 はぁあっと、深呼吸のようなリアムの息遣い。


 突然、騎馬隊が一騎、また一騎と、勝手に転倒し始めた。

 イノシシの脚が、もつれている。

 ――いや、滑っているのだとカナエは気づいた。


「フロスト・ベッドか……リアム、助かったよ」


「えへへ」


 カナエは、リアムの頭を撫でてやった。

 女の子よりも男の子の方がかわいいと言う母親の気持ちがわかるような気がした。


 カナエは再び先頭に立ち、目標地点を確認した。

 座標の位置は、ほとんど動いていない。

 あと3km。



 広範囲に及ぶ大魔法。

 その爆発の衝撃と、生み出された嵐のような風と光の中から、ボスゴブリンの巨体がのっそりと姿を現した。


「なんてしぶといのっ……!」


 ソーサラーでGMのルシアが唇をかんだ。

 通常のボスであれば、オーバーキルも甚だしい大火力を、一気に注ぎ込んだ後である。ルシア一人だけではない。最上位のソーサラーがこの場には集まっている。それが一度に、全力で魔法をぶつけたのだ。


 しかし、ボスゴブリンは、倒れなかった。


「全く効いてないわけじゃない。奴のアーマースキンはだいぶはがれてる! 回復する前に倒すぞ!」


 金髪のベルセルク、GMのレクスが、前衛を引き連れてボスゴブリンに特攻した。

 ボスゴブリンの口がガバッと開く。


「ブレスだ! アマ部隊、前に!」


 アーマーソルジャーが、ベルセルクたちの前に出て盾を構える。

 〈ガーディアン・シールド〉――アーマーソルジャーの代名詞と言える、防御のスキルである。


 ボスゴブリンの口から、赤黒い炎が放出された。

 炎は地面に到達すると、ぶわっと広がり、逃げ遅れたプレイヤーを一瞬で灰にした。ガーディアン・シールドでも、練度の低いもだと守り切れず、そこに逃げ込んだベルセルクもろとも、シールドスキルを使ったアーマーソルジャーを一気に燃やし尽くした。


「しゃらくせぇ!」


 レクスは、剣を一振りして炎を割り、道を作った。


「続け! こいつを倒せばヒーローだ!」


「「「「うおおお!!」」」


 死を恐れないベルセルクらしい切り込み。

 数人はボスゴブリンの振り下した腕の下敷きになって死んだが、数名のプレイヤーは、ボスゴブリンに攻撃を加えることができた。そのほとんどの攻撃は、未だ衰えないボスゴブリンの固いアーマースキンに弾かれた。


 しかし、レクスを始め、数名のプレイヤーの斬撃は、交戦以来初めて、ボスゴブリンの黒い筋肉の肌に、裂傷を与えた。


 ボスゴブリンが叫ぶ。

 地面から黒霧が噴出し、形を成してゆく。

 ――ビットゴブリンが出現した。


「レクス! そのまま貼り付いて攻撃し続けろ! 回復をさせるな!」


「言われるまでもねぇよ!」


「もうすぐ強襲部隊が来る! それまで、耐えろ!」


「他人任せか、畜生、性に合わねぇなぁ!」


 レクスが叫んだ。


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