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78 強襲①

 ついに、Sランクゴブリンネストの攻略イベントが始まった。

 GMの指揮のもと、プレイヤーたちは集い、一斉にゴブリンネストに向けて、ゲートをくぐっていった。この二日間で、ゲートのいくつかはネストの魔物の攻撃によって潰されてしまったが、攻略に支障が出るほどの損害は、運営が何とか防いだ。


 ゴブリンネストへの転移ゲートも転移広場そのものも、この日の為に拡張されている。日本時間で深夜2時からのスタート。日本から接続するユーザーには甚だ不評を買っているが、それ以外のユーザーにとっては、時差の為に丁度良い時間設定である。


 さて、ラブネストのメンバー6人(・・)は、転移ゲートの前に集まっていた。フツは、外出の許しが出なかったということで、不参加である。そのことについて、ガリバーが嘆いたのは言うまでもない。


 ロッテ以外の5人はそれぞれ騎獣に乗り、ゲートの前で待機している。

 Sランクネスト特別対策室から「GO」が出たタイミングでゲートをくぐり、目標地点を目指す。とにかく強襲であるため、「速さ」が命であるが、カナエの騎獣は、いつもの通り、オオカカポである。


「マジでそれで行くのか?」


 ガリバーの指摘を受けるも、カナエは笑いながら頷いた。

 オオカカポは、全ての騎獣の中で、最も遅い部類に入る獣である。「速さ」という所で考えれば、エトワの白翼馬(ペガサス)やアオイの召喚獣である麒麟というような特殊なものはともかくとして、フツが普段乗っている闘馬やリアムの大関走鳥(モア)、ガリバーの帝狼(ワヒーラ)のような騎獣を選択すべきところである。


「でもかわいいよねぇ、カカポ」


 ロッテが、カカポの丸くなった黄色い嘴を撫でる。


「可愛いからってな……大丈夫なのか、カナエ」


「この世界のルールは訳が分からない。時速30キロの車と100キロの車、走ったら100のほうが勝つのがリアルだけど、この世界だと、必ずしもそうはならない。この世界じゃ、理屈とか合理性とかは、当てにならないよ」


「なるほどな……まぁいいや、お前がそう言うならそうなんだろう。俺たちは予定通り、お前の後に続いていけばいいのか、リーダー」


「うん、予定通りで行こう。フツがいない所は、ロッテ、カバーできる?」


「任せて!」


 役割を明確にし、その時を待つ。

 戦況は刻一刻と変化をしていて、その断片的な情報を攻略ログから、カナエはそれに加えて、GMから届くVCから知ることができた。現在10万のプレイヤーがログインしていて、そのうちの7万が、実際にゴブリンネストで攻略活動を行っている。


 7万……カナエはその数を聞いた時に、このイベントも30分くらいで、強襲部隊の出番もなく終わるだろうと思っていた。


 ――ところが。


『プレイヤーが言う事を聞かない。あぁ、これだからアメリカ人は!』


『ネストの中に小さなネスト状のエリアがある! 本体はここを潰してからだ!』


『おいおいおい! 本部! A-3ゲートに巨大ゴブリンが接近してる! アシュラゴブリンのデカブツだ!』


『戦車だ! ゴブリンの野郎、戦車持ってるぞ!?』


 攻略部隊は、ネストの五合目までたどり着くのに1時間を要した。

 予定通りなら、最初の30分で7~8割を攻略し、1時間以内には強襲部隊の出番があるはずだった。予定通りいかないのは、ゴブリンが戦車のようなものを持っていることや、大物がエリア関係なく徘徊していること、そして、ネストの中に小さなネストがいくつも存在しているというような、イレギュラーな条件のためだった。


「ケイさん、まだ出番、来なさそうですか?」


『前線、だいぶてこずってますね。でも、たぶんもうすぐ、GOが出ると思います。さっき、ボスゴブリンが見つかったらしいので』


 ケイとのそのVCの直後、まさにケイの言った通り、GOサインがロッシュからのVCによって、カナエにもたらされた。


『カナエ、出番だ! 座標を送る。できるだけ早く来てくれ! 目標は、ボスゴブリンだ!』


 ――戦闘開始から1時間30分が経った頃だった。


「連絡が来た! いくぞ!」


 カナエは掛け声をかけ、ゲートに入っていった。

 クランの5人がそれに続いた。



 カナエたちが出てきたのはB-2ゲートだった。

 カナエたちがゲートを潜り抜けたその瞬間、何とそのゲートが、木っ端みじんに吹き飛んでしまった。爆風に煽られながら砂塵の幕を抜け、一同は息を呑んだ。


「冗談じゃねぇぞ、おい……」


 ガリバーが呟いた。

 100や200ではない。草の禿げた一面の草原地帯に、びっしりとゴブリンがいた。それぞれのゴブリンは軍隊のように統率された様子はなく、群れごとにバラバラに行動しているようだったが、その圧倒的な数に、皆、血の気を失った。


 ウィイイイインと、不吉な音がする。

 その方向をカナエは見た。

 そこには、木で組まれた戦車のような機械があった。その突き出した、戦車で言う所の主砲の口の部分に、赤い光が集まって、だんだん大きくなっている。


「森まで走れ!」


 カナエは声を上げ、前方のゴブリンを撃ち倒した。

 戦車の主砲から、赤い球体が放物線を描いて、ゲートの残骸付近に飛来した。

 ドドオオオオンと、地面を揺らすほどの大爆発が起こった。


「なんだよこれ、勘弁しろよ!」


 ガリバーが叫ぶ。

 ガリバーからすれば、ここは地獄である。もっとも、ガリバーでなくても、この量はさばき切れない。「うわぁ、すごおい」と、空を行くロッテは、心までふわふわして危機感がない。


「ますたぁ、邪魔なゴブ、一気にたおそっか?」


「いや、魔法はあとで嫌ってほど使うことになる。今は温存な」


 ロッテにそう言って、カナエは、先頭を走りながら、カカポの頭上からひたすらピンクの弾を、ゴブリンの群れに撃ち込む。弾丸は、Sランクの邪気の力で強化されたアーマー・スキンを突き破り、小さいゴブリンならやはり一撃で、絶命させた。


「カナエ様、ここはわたくしが受け持ちます」


 エトワはそう言いながらカナエの隣に白翼馬を寄せ、杖を掲げた。

 杖から、オーロラのような白いカーテンが現れ、6騎を包み込んだ。ゴブリンたちはその光が苦手なようで、光が近づくと、ゴブリンはフナムシのように、ささあっと逃げていった。


 一行は、そのまま森の入り口に到達した。


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