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75 カナエプラン

 カーンとの戦いの後、メサイヤ広場に死に戻ったカナエは、カーンにメッセージを送ると、すみやかに、今度はロッシュにVCを繋いだ。


『カナエか、どうした?』


「スリンガーのことで、報告があります」


『――わかった。アルノの店で会おう』


 VCが切れた。

 カナエはその足で、アルノの料理屋に向かった。



 料理屋の壁際、奥の一画。

 カナエが着席して待つこと10分、ロッシュがやってきた。ロッシュは泥まみれで、自慢のサングラスにはヒビが入っていた。


「どうしたんですか?」


「ワームネストのバグを処理してきたんだが、いや、参ったぜ」


「ワームネストの、バグですか?」


「あぁ、二つの意味でな。ネストを出ようとするカマキリの化け物がいたんだ」


「それは、バグなんですか? 確かネストは、もともと範囲なんて設定されていないんですよね」


「ワームネストならワームネストの、ネストコアの力が及ぶ範囲がある。普通ネストの魔物は、その範囲を超えて活動できない」


「そのお化けカマキリは、それを無視したんですか」


「あぁ、今研究室が、慌てて解析をしてる。――それで、スリンガーの件とは、何だ」


 カナエはロッシュの問いに、ダイアンスミスで貰って来ていた妖紋石をテーブルの上に出すことで答えた。


「これは?」


「妖紋石です」


「知らないな」


「僕の管理している武器屋があるんですけど、そこで、妖精を雇っています。その妖精が、作っていたものです」


「ただの石じゃなさそうだな。この模様は?」


「模様の意味までは」


「これと、スリンガーと、どう関係が?」


「この石は、投げて使います。スリンガーがやっているのと同じように」


「ただの石とは違うわけか」


「はい。この石は、ちゃんとした使い手が使えば、攻防一体の、万能な武器として機能します」


「万能と言うのは、どの程度のことを言っている」


「さっき、これの使い手と戦ってきました。スプリガンの、カーンというプレイヤーです。はっきり言って、並のプレイヤーと比べれば、その戦闘能力は、かなり高いレベルにあると思いました」


「ほぅ……スリンガーにおけるトッププレイヤーだと、そういうことか。だがそれは、運営としては困った話だ。お前が戦ったスリンガーが強かったとしても、その他のほとんどのスリンガーは、どんなに経験を積んだとしても、あるレベル以上には強くならない。運営がガンナーを推奨しない理由は、知っているだろう? はっきり言えば、お前も、そのカーンとかいうプレイヤーも、運営からすれば、迷惑な存在だ」


「カーンは、スリンガーじゃないんですよ。スリンガーと戦い方は同じでも、その質が全然違う。妖紋石は、妖精の加護を得たプレイヤーでないと、使えないんです」


「妖精の加護?」


「スリンガーはものすごい早熟で、伸びしろが無い癖、最初のひと月を比較すれば、どのクラスのプレイヤーも、金も経験もほとんど必要ない石を投げるだけのバトルスタイルに負けてしまう。それを、スリンガーが強いと思い込んで、スリンガーになろうとするプレイヤーが増えていくのを、運営は、危惧しているわけですよね」


「そうだ。最初だけは強いが、スリンガーはあるレベル以上に強くはなりえない。それからもう一つは――手軽なクラスゆえか、スリンガーは、秩序を乱すような行動をよくする。暴動は、今日が初めてじゃない。小さな騒ぎは、常に起こしている」


「運営としても、ああいう暴動は困ると」


「プレイヤーには、できるだけ狩りに専念してほしいと考えている」


「妖精が犠牲になるのも避けたいんですよね?」


「そうだ。妖精は、NPCとは違う」


 NPCは死んでも、時間の経過で、同一のものが復活する。対して妖精は、その個体が消滅すれば、もう二度と、復活することはない。ではなぜそのような難儀な設定にしたのか? カナエは、ロッシュにその質問をしないでも、答えがわかるような気がした。


 ――運営がそう設定したわけではなく、この世界を作り出したエヴォリューション・エンジンが、そういうルールでこの世界を運用してしまったのだ。

 運営はこの世界を作っているのではないのだ。運営は、この世界とうまく折り合いをつけて、ゲームを続けられるように調整しているという、そういう立ち位置にあるのだろう。


「全ての問題が綺麗に収まる、良いプランがあります」


 カナエは言った。


「妖紋石を使える新しいクラスを作るんです」


「随分大胆な提案だな」


「妖紋石を使うには、妖精の加護を得る必要があります。――つまり、妖精に危害を加えるようなプレイヤーは、そもそもこれになれません。むしろ妖精を守るような行動をするプレイヤーでないと」


「妖精を英霊の代わりに立てる、ということか?」


「妖精を英霊にすることはできないんですか?」


「それは――新しい発想だ」


「スリンガーと同じようなバトルスタイルで、かつスリンガーよりも強くて、伸びしろがあるクラスができれば、スリンガーになるプレイヤーもいなくなると思います」


「妖紋石使いがそこまで強いなら、確かにお前の言う通りになるだろう。――検証する価値はありそうだ」


「手伝えることはありますか?」


「やらなければならない事は二つだ。まず一つは、英霊を立てること。妖精が英霊になりえるのかを含めて、研究室に調べさせる。そして次には、幾人かのテストプレイヤーを使い、妖紋石使いの強さを検証する。充分に強ければ、クラスとして打ち出すだろう」


「急いだほうがいいですよ」


「その通りだ。このままスリンガーを放置すれば、プレイヤーの総戦力の低下につながる。今日の内に提案しよう。だがお前は、Sランクネストに備えてほしい。新クラスの件は、こちらで進める」


「わかりました」


 話が終わり、立ち上がりかけたカナエを、ロッシュが呼び止めた。


「カナエ、その調子で頼む」


 カナエは、ニヤリと笑い、


「はい」


 答えた。


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