68 アオイの冒険③
金色の鱗に赤い炎を纏った霊獣――麒麟は、そのまま美術館に飾れるほど美しい姿をしていた。
アオイとフツは、麒麟に乗った。
麒麟は、飛び出してきたゴブリンを飛んで躱し、そのまま、ゲートに向かって駆け出した。走り出した麒麟の上の二人は、その乗り心地に、驚いた。馬のようなものだろうと思っていたが、全く違っていた。
麒麟は地面すれすれの宙を蹴って走った。
そのために、全く振動がない。すいーっと、新幹線に乗っているような感覚である。その速さのために打ち付けるはずの風は無く、「乗っている」という感覚はほとんど感じられない。
ゴブリン・ネストの転移ゲートまでは、ものの数分とかからなかった。
麒麟はゲートの近くまでやってくると速度を緩め、頭を下げた。
アオイとフツが麒麟から降りると、麒麟はゆらめく炎の様に、消えていった。
「すごかったね」
フツが言った。
アオイは頷いた。
「あいつらだ!」
近くから声が向かってきた。
二人はふと、その声のする方を見た。
そこには――6人のプレイヤーがいた。ベルセルク、ソーサラー、アーマーソルジャー。皆、二人の方を見ている。臨戦態勢である。
「な、なんだろう……」
「わからないけど、良い感じじゃないよね……」
アオイの予感は的中していた。
ソーサラーが、何の宣告もなく、炎の矢を放ってきたのだ。
「……っ!」
アオイは、体をすぼめた。
矢はまっすぐに、アオイに飛んできた。
それを――カチン……。
フツが、薙刀で弾いた。
「うおぉぉぉ!」
ベルセルクとアーマーソルジャーが襲い掛かってくる。
4人のベルセルクと、1人のアーマーソルジャー。
「はっ!」
空気を切り裂くフツの声。
一瞬、くるくるとフツの薙刀が回った。
薙刀の刃は一人目のベルセルクの胴を裂き、次に飛び込んできたベルセルクの両小手を切り落とした。突進の勢い任せで三人目がフツの頭に剣を振り下す。それをフツは、一瞬後ろに引いて避け、そのまま薙刀の柄で、相手の喉元に突きを見舞った。
四人目はフツの背後から襲い掛かったが、フツがくるりと回転しただけで、ベルセルクの剣は目的を失って宙を斬り、次の瞬間、薙刀はその空振りした腕を両断していた。
アーマーソルジャーは盾を前に突き出し、フツの攻撃をけん制する。
ソーサラーが次の魔法を準備している。
前衛で足止めをして、後衛の大火力で一気に勝負をつける。テンプレート通りの戦い方である。魔物に対しても、プレイヤーが相手でも、非常に有効な戦術である。
対してフツは、アーマーソルジャーを素通りして、ソーサラーのもとに走った。薙刀をアイテムスロットにしまい、駆ける。アーマーソルジャーは、疾走するフツの進路を阻むことができない。
ソーサラーは、用意していた大技を捨てて、慌てて炎の矢を放った。
飛んできた炎の矢を、フツは片手の掌を突き出して、防いだ。
〈アーマー・スキン〉を掌に集中させた、地味な大技である。
フツはそのままソーサラーの懐に入り込むと同時に、目にもとまらぬ居合の早業で、ソーサラーの胴を薙いだ。
カチャリと、太刀を鞘に納め、フツが振り返る。
ソーサラーがどさりと倒れた。
仲間をすべて失ったアーマーソルジャーは、変身を解いて、ゲートに逃げていった。
フツは深呼吸をして、ほっと溜息をついた。
アオイが駆け寄る。
「すごい! フツ、強いんだね」
「家が、そういう家だから……」
「そうなんだ。――でも、なんで私たち、襲われたんだろう。今の、PKっていうやつだよね?」
「うん。もしかしたら……さっき赤鬼に倒された人たちかも」
「あっ……」
二人はゲートを抜け、メサイオンに戻った。
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ゴブリン討伐の報酬を受け取り、その金で、二人はピクシー・ガーデンに入った。
二階席、猫紳士によって運ばれてくるワイン。
二人は日本人の未成年なので、ワインを飲んでもその味は薄い葡萄ジュースとしか感じられないようになっている。
しかし二人は、ピクシー・ガーデンの中にいるということだけで、満足できた。トランペットにピアノ、ギター。女性ジャズシンガーの歌声。それを聞きながら、ワイングラスを傾ける。
「なんか、大人になった気分だね」
アオイが言った。
フツは、可愛らしくこくりと頷いた。先ほど、あの立ち回りを演じた女剣士とは、到底思えない。
「アオイちゃん、大人っぽくて、いいな……」
ワイングラスを傾けるアオイを見て、フツが呟いた。
フツから見ると、アオイは随分とお姉さんに映るのだった。
「え、私、大人っぽい??」
アオイは、そんなことを言われたのは初めてだった。
家では、兄にも父にも、なんだかんだで子ども扱いされているアオイである。「大人っぽい」なんて言われるとドギマギしてしまって、変に緊張してしまう。
そこへ、兄カナエからVCが入った。
『アオイ、お兄ちゃんだけど、今何してる?』
「お友達と、ピクシー・ガーデンにいるよ」
『もう友達ができたの?』
「うん。すっごく可愛い子」
『へぇ』
「お兄ちゃん、仕事終わったの?」
『でも、とりあえず会議は終わったから、そっち行くよ』
「観光したい!」
『あぁ、じゃあ、石柱広場で落ち合おうか』
「え、狩りに行くの?」
『別にそれでもいいけど――アオイは、アゼリアとかグラノーベルに行きたいんじゃないか?』
「そういうネストがあるの?」
『町だよ。アゼリアは煉瓦っぽい西洋風の町で、グラノーベルはまぁ、西洋風の港町』
「行きたい」
『とりあえず石柱広場で』
「わかった」
兄とのVCを切り、アオイはくいっとワインを飲んだ。
フツが不思議そうにしているので、アオイは笑って説明した。
「お兄ちゃんに誘ってもらったの。これから町を案内してくれるって言うんだけど、フツも来る?」
「いいの?」
「うん。一緒に行こ」
「うん!」
フツは、ぱあっと笑顔になった。




