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67 アオイの冒険②

 試験場を出たアオイの手には、サマナー試験合格の賞状が握られていた。もう片方の手には、幻想短杖から昇華(エンチャント)した錫杖。

 召喚した鸞――アオはアオイの肩に乗っている。

 そしてアオイの隣には、サマナー試験に落ちてしまった新米プレイヤー、フツがいた。フツとアオイは同じ歳で、軽い自己紹介を終えると、二人はすっかり仲良くなっていた。


「アオイちゃん、今日が初めてなんだ」


「うん」


「すごいなぁ、いきなりサマナーになっちゃうなんて」


「そうなのかな?」


「うん、難しいんだよ、サマナーになるのって。才能がないと、どんなに勉強してもなれないんだって。私も初心者だから、詳しいことは知らないんだけど」


「フツも、サマナーになりたかったの?」


「うん。というより、ベルセルクになりたくなかっただけなんだけど……」


 ベルセルクという響きと、フツという人物が不釣り合いすぎて、アオイは苦笑いを浮かべた。フツは、アオイよりも背が低く、童顔で、アニメに出てくる女の子のような、高くて可愛らしい声をしている。


「確かにフツにベルセルクは似合わないかも。でもクラスって、他にもあるよね?」


「他には、プリーストとソーサラーと、アーマーソルジャーがあるんだけど……プリーストは、試験が難しすぎで受からないと思うの」


「ソーサラーは?」


「衣装が、恥ずかしくて……」


「そうなんだ……」


「アオイちゃん、あのね――」


「どうしたの?」


「フレンド登録、してもいいかな?」


「あ、私からもお願い。ええと、フレンドリボン――これね」


 二人はフレンドリボンを交換し合った。

 互いに、初めてのフレンドである。

 それから二人は、サマナーとベルセルクになるための聖約を交わすため、それぞれのクラスの神殿に向かった。そのあとで二人は、メサイヤ広場で落ち合うことにした。



「わぁ、可愛い」


 サマナーの新しい衣装を着たアオイを見て、フツは少女らしい声を上げた。

 アオイは、三蔵法師のような白い袈裟に、白と金の僧侶頭巾を被っている。一方フツは、色気のない足軽のような恰好になっていた。腰には太刀と小刀、片手に薙刀を持ち、肩に担いでいる。


「フツ、ど、どうしたの、その――」


 ベルセルクを嫌っていた割には随分本格的だなぁと、アオイは思った。

 武器もすでに、三つ持っている。

 一つは神殿で貰えるにしても、あとの二つはどうしたのだろうか。買ったのだろうか。でも武器は、ものすごく高いと聞いている。


「知り合いが贈ってきてくれたの……だから、使わないのも悪いから……」


「あぁ、なるほど……そうだよね、そういう場合はね……」


 可哀そうに、とアオイはフツに同情してしまった。

 それから二人は、折角クラスも決まったことだしと、早速クエストを受けて、狩りに出ることにした。ビギナー御用達、ゴブリン・ネストである。



 転移ゲートからゴブリン・ネストへ。

 初めての転移に、二人はそれだけで、きゃっきゃと騒ぐのだった。

 ――草原。

 ちらほらとプレイヤーがいて、ゴブリンと戦っている。


「戦う?」


「そうだね。戦おう」


 アオイは、錫杖を掲げた。

 アオイの数メートル先の地面の草が、ぎゅっと押し付けられたように倒れ、ぷす、ぷすと、見えない力で燻されてゆく。草の上に魔法陣が、黒い炭の焼き印のように出現しはじめた。


 一瞬、魔法陣がぶわっと広がった。

 その中央に、蝋燭の火のような火柱が、ゆらりと上がった。

 ゆらり、ゆらりと炎が揺らめいたと思うと、いつの間にか炎は、二本脚の野獣――溶岩のような肌の色をした鬼に変わっていた。


 グオオオっと、赤鬼は両手をめいっぱい広げ、叫んだ。

 鬼の頭の上に魔法陣が現れ、そこから、金棒が落ちてきた。

 赤鬼はそれを掴むと、ごきり、ごきりと首を鳴らした。


 近くにいたゴブリンが、勇敢にも、赤鬼に襲い掛かった。

 体格差は大人と子供。

 トロールほどもある赤鬼は、金棒をぶんと振るって、ゴブリンを一撃でぺしゃんこにした。赤鬼の二本の角が、少しだけ大きくなった。


「ア、アオイちゃん、何を、何を召喚したの!?」


 恐々と、フツがアオイに訊ねた。

 アオイは、出てきた赤鬼の迫力に呆然としていた。


「たぶん、赤鬼……」


 アオイは、見たままに答えた。

 アオイは、図鑑に載っているいずれかの召喚獣を見て、「これを召喚しよう」と思って召喚したわけではなかった。強い召喚獣を呼び出そうと思い、アオイの中の、その「強い」というイメージを具現化したものが、「鬼」に似ていたのである。


 赤鬼は、容赦なかった。

 向かってくるゴブリンをどんどん倒してゆく。ゴブリンのみならず、近くを通ったプレイヤーも、構わず倒してしまう。このエリアにいるのはほとんどがビギナーである。赤鬼の一撃を避けることなど、到底できなかった。


 赤鬼は魔物を倒し、PKもしながら、ずんずん進んでゆく。

 アオイとフツも、それを追いかけるように進む。

 召喚してしまった手前、放置するわけにもいかない。


 ぶん、ぶんと金棒を振るう赤鬼。

 無慈悲な金属音、ボゴっという生々しい音。

 中型のゴブリンも、力任せに殴られて、ひとたまりもない。


 ところが、無敵に思える赤鬼だったが、だんだん動きが遅くなってきた。

 赤鬼は、魔物やプレイヤーを倒すと角が少しずつ大きくなる。角は、何者かを倒すたびに、どんどん成長してゆくのだ。10匹、20匹、30匹……――赤鬼の角が、その身体の三分の一ほどにまで成長した。


 角の重さに、赤鬼は猫背になり、首を垂れる。

 その状態で魔物を倒すと、さらに角は大きくなる。

 ――ついに赤鬼は、角の重さに負けて両手を地面に着いた。すると、赤鬼の身体から真っ赤な炎が噴き出した。赤鬼は苦悩する哲学者のように、自らの宿命を嘆くように、両手で頭を包み、そのまま燃えて、消えて行った。


 赤鬼がいなくなると、その覇気の裏に隠れていた魔物の瘴気が、アオイとフツにとっては、急に漂い始めてきた。初心者が到達することはできるはずのないエリアへと足を踏み入れていたことに、二人はその時初めて気が付いた。


 殺気を含んだいくつもの視線。

 二人は、顔を見合わせた。


「アオイちゃん……」


「うん、逃げよう……」


 アオイは錫杖を掲げた。

 魔法陣が現れる。炎が揺らめく。

 ――〈麒麟〉が召喚された。


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