66 アオイの冒険①
兄と別れたアオイは、観光気分で店や建物を見て回った。
猫の紳士、妖精、映画の中でしか見たことのない西部劇風の酒場、武器を携えたプレイヤーたち。見るものすべてに、アオイは感激するのだった。
――向こうの住人になる危険があるんだ。
何を言っているのよと、兄にそう言われたときは思ったが、実際に来てみると、その言葉の意味が理解できた。これは確かに、のめり込むのもわかると、アオイは思った。
歩いてゆくうちに、アオイは〈理解の広場〉にやってきた。
メサイヤ広場とは全く雰囲気が違う。プレイヤーはいるが、メサイヤ広場のような賑わいはない。ベンチには本を片手に難しい顔をしたプレイヤーがいる。マップを見て、アオイはなるほどと思った。理解の広場には、試験場が並び建っているのだ。
アオイは、何となく建物の一つに入ってみた。
クラス試験場――プリーストとサマナーの試験が行われている。
「試験ですか?」
受付の妖精が、アオイに声をかけた。
「あ、いえ! ちょっと、来てみただけです」
「試しに、受けてみますか?」
「いえ、そんな……勉強なんて全然してないし……」
「サマナーの実技試験だけ、なんてどうですか。試験が0点でも、実技試験で良い結果を出せば、サマナーになれるかもしれませんよ」
「そうなんですか!?」
「変な話なんですけどね。サマナーの試験、受ける人が少ないので、もし良かったらどうぞ。受験料は、サービスしておきます」
「いいんですか?」
「ビギナーズラックです」
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて」
アオイは、気づくとサマナーの実技試験の会場に案内されていた。
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実技試験会場は、アイテムモールのTU室と同じ形をしている。アリーナを小さくしたような部屋である。そこに、試験を受けにきた6人のプレイヤーと、そしてアオイが集まった。
それぞれに、サポートスタッフの妖精から杖が配られる。
配られる杖は、長さも装飾も、ばらばらである。アオイに配られたのは、可愛らしいきらきらした装飾の施された短杖――幻想短杖だった。ロッテの使っている杖のような、ファンシー系の杖である。
次に、アオイには幻獣図鑑の簡単なものが配られた。
他の受験者はすでに図鑑を持っていて、勉強済みである。
図鑑を受け取ったアオイに、妖精は耳打ちした。
「この試験で、一回でも幻獣を召喚できれば、合格です。この中から召喚したい幻獣を選んでください」
アオイは、図鑑を開いた。
100匹の幻獣が収録されている。形状、性質による分類が不可能と思えるほど、幻獣はそれぞれに特徴的だ。
早速試験が始まった。
一人目が杖を振る。何も起きない。不合格。
二人目、何も起きない。不合格。
三人目も四人目も不合格。
召喚魔術は、失敗すると、空しいほどに本当に何も起きない。魔法陣が出たり、地響きが起こったりもしない。「おしい」という概念は、サマナーにはないらしかった。
結局、アオイ以外の全員がやってみて、誰も何も起きなかった。
試験で良い点を取ったプレイヤーもいたが、実技で何も召喚できなければ、不合格である。スライムくらいでも召喚できれば、試験の点数によっては、合格できたかもしれない。しかし、何も召喚できないのでは、やはり不合格なのである。
アオイの番が来た。
試験に落ちてとぼとぼ部屋を出てゆくプレイヤーたち。一人だけは残って、アオイの試験を見守った。
アオイは、図鑑をパラパラめくって、幻獣を決めていた。
小さい頃から童話やファンタジーが好きだったアオイには、この世界も、そして図鑑に載っているどの幻獣も、魅力的に映った。
「この図鑑の幻獣って、本当に召喚できるんですか?」
「はい、素質があれば、できます!」
妖精が答える。
アオイは目を輝かせた。
「素質があれば」という部分に関して、アオイは、最初から自分にはそれが備わっていると思い込んでいた。
アオイは、杖を掲げた。
杖に変化があった。金色と銀色の光の糸が、幻想短杖の周りをくるくる回り始める。アオイはそのまま、杖を振り下した。
杖が光った。
杖を持っているアオイも、その光の強さに、目を背けた。
やがて光が収まり、アオイは、視線を自分の杖に持っていった。
「あれ?」
幻想短杖であった杖は、進化していた。幻想短杖は、アオイの方より少し低いくらいの、錫杖になっていた。磨き上げられたような木製の柄、その杖頭は金の輪形になっていて、輪形には8個の金の遊環が通してある。
――そしてもう一つ驚くべきことがあった。
その杖頭の示した先には、鮮やかな青の羽を持った鳥がいた。すくっと立っているその姿は、鶴のようである。尾は長く、鶏のような鶏冠がある。
青鳥は翼を開いた。
鮮やかな藍の、美しい翼である。
青鳥は一度だけ翼を羽ばたかせた。するとその体は、綿のようにふわっと宙に浮かび、糸で引かれるようにして、アオイの肩に乗った。
アオイは最初驚いたが、もともとが動物好きである。
アオイは青鳥のお腹を撫でた。絹のような触り心地、人肌のような温もり。
「すばらしい!」
試験官の男が叫んだ。
「すごおい!」
アオイの試験を見守っていた女の子のプレイヤーも声を上げた。
「その召喚獣は、鸞という」
「可愛いですね、鸞」
アオイは、鸞の腹を撫で、喉を撫で、指先でその嘴と戯れる。鸞はその頬を、アオイの頬に擦り付けた。
「青いから、アオちゃんね」
早速鸞に名前を付けるアオイだった。




