64 ショットガンを受け取りに
アゼリアにある武器屋〈ダイアンスミス〉。
アイテムモールの九階の担当をしていたが、階の取りつぶしを受けて辞任。その後、九階の不人気武器が好きすぎて自分で店まで持ってしまった店主の妖精ミム。エトワの霊薬水店で働きながら、空いた時間で店の手伝いをしている妖精ルリ。ダイアンスミスは、妖精二人が経営する店である。
アゼリア郊外の一軒家、店の前の空き地には背の低い草花が生えていて、ウサギやプレーリードックのような動物が、芝の上でじゃれ合っていたりする。シャボン玉が浮かんでいる。
ダイアンスミスで売られている武器は、全てミムとルリが作ったもので、優しいピンク色をしている。妖精の金属という素材を使っているためらしい。
「いらっしゃいませ! あ、カナエさん!」
カナエが店に入ると、早速ミムが出迎えた。
一度工房に入り、すぐにまた戻ってきた。
両手でぎゅっと銃を抱きしめている。ショットガンである。カナエが手入れを頼んだものだ。随分長くかかるものだと思っていたカナエは、手入れの済んだショットガンを見て、納得した。
「ミム、ええと……」
ショットガンは、ピンク色になっていた。
グリップには、妖精が彫られている。
手入れというより、改造である。
ミムは満面の笑みで、ショットガンをカナエに差し出した。
「あ、ありがとう――入念にやってくれたみたいだね……」
「はい!」
ミムには、全く悪気のないことをカナエは悟った。
もともと、黒光りする普通のショットガンだった。どういう手入れをしたらこうなるのかさっぱりわからないが、彼女は妖精、そこに人間の常識を問うてもしょうがないことだろうと、カナエは思った。
あるべきままに、受け入れよう。
カナエはジャケットの中に着けたショルダーホルスターに二丁の拳銃をしまい、ショットガンを、アイテムスロットにしまった。アイテムスロットは一つしかないので、武器を二つ以上持つ場合は、アイテムスロットに入らない他の武器は、実際に装備して持ち歩かないといけない
このあたり、アイテムスロットを増やしてほしいという意見が、運営には多数寄せられている。しかし運営は、一貫して、その仕様を変えるつもりがないことを、ゲーム内外でプレイヤーに回答している。
「売り上げは、どう? やっていけそう?」
カナエはミムに訊ねた。
不動産には毎月、日本で言う所の固定資産税がかかる。土地によって細かい数字は違うが、どの土地でも、地価の0,3~0,5%の税金を払わなければ、土地は運営に没収されてしまう。
ダイアンスミスの場合、月々に支払わなければならない税金は、およそ20万M。
武器は、安い武器でも一つ100万M以上するから、月に一つでも売れれば、それだけでやっていけるが、ダイアンスミスの商品は、売れ筋から外れた武器ばかりである。
棒や十手、鞭、三節混等は、刃のない武器であるため、ベルセルクは使わない。メリケンサックや手甲鉤、鎖鎌などは、扱いが難しすぎて、需要はほとんどない。中には、透明なビー玉にピンクの文字の入っただけの、何に使うのかわからないものもある。
大丈夫なのだろうか?
カナエは心配していた。名目上は、この建物はカナエの所有物である。最近の狩りのおかげで、カナエにも少しだけ貯金ができたが、クランホールに加えてこの土地の税金まで払えるほど裕福になったわけではない。
「はい、結構売れてますよ!」
ミムが明るく応えた。
「え、売れてるの? というか、買う人いるのか?」
「はい」
ちょうど、店の扉が開いて客が入ってきた。
カランコローン、ベルが鳴る。
真っ黒い外套、フードを頭まですっぽりかぶったプレイヤーである。その手に、その人物の身長よりも背の高い三日月鎌を握っている。柄も、刃もピンク色の巨大な鎌である。
「あ、どうも、クロノスさん! お手入れですね?」
微妙に下に傾くフード。
ミムは鎌を受け取って、工房に入っていった。
クロノスと呼ばれたその人物は、カウンターに金貨を三枚置いて、立ち去った。
「あら、行っちゃいましたか」
戻ってきたミムは、金貨を受け取って苦笑した。
「大鎌使いなんて、すごい人がいるもんだね」
「カナエさんも充分すごいですよ」
「いやミム、火器って言うのは、誰でも使えるのが利点なんだよ。そりゃあ、ある程度の慣れは必要だし、練習も必要だけど、威力さえ出れば、火器は簡単だよ。あんな大鎌に比べれば」
「カナエさんは、どうやって銃で、あんな火力を出しているんですか?」
「エネルギーのコントロール、かな。独学じゃまず無理だったと思うよ」
「誰かに、教わったのですか?」
「エネルギーの使い方というのをね、一年かけて教わってた。ゴン老師って、知ってる?」
「ゴン様ですか!? 知ってますよ!」
「知ってる? 有名人だったんだ。老師は、実は妖精だったのかな?」
「妖精ではありません。王国の英雄です。今はどちらに!?」
「病気で、亡くなったよ。一年前、俺がこのゲームを引退する前にね」
「そうですか……。ゴン様は、この国に留まった最後の武人、英雄でした。あの方を慕って、人の町に降りていった妖精もたくさんいます。カナエさんが、ゴン様の弟子だったなんて……」
「弟子なんて大層なものじゃないよ。たった一年間、教わってただけ。血の滲むような修行なんてしてない。こっちじゃあ痛みもないし、死にもしないから、いくらでも練習できた。まぁ、真面目にはやってたけどね、ガンナーになるために」
「それなら立派なお弟子さんですよ。ゴン様の、最後の弟子じゃないですか……」
ミムは、すんと鼻をすすった。
「最後の、弟子?」
「ゴン様には多くの弟子がいたと聞きます。そして皆、この国に残り、魔物と戦い、散っていったそうです。戦いの中で、ゴン様も、もうとっくに大地に還ったものと、皆思っていました」
カナエは、初めて聞く話だった。
ゴン老師は、身の上話などはほとんどしなかったのだ。
銃の練習をしている時、森でたまたま出会って、それから毎日、エネルギーの使い方と言うのを教わっていた。そういう、NPCだと思っていた。
このゲームには一度きりしかなかったり、特定の瞬間にしか発生しないユニークイベントが、あらゆる場所に隠れている。ゴン老師のそれも、そのうちの一つだと、カナエは思っていたのだ。
「ミムの言う通り、どうやら俺は、ゴン老師の最後の弟子らしいね」
ミムはそれを聞くと、カナエの両手を掴んで、「はい!」と元気よく返事をして、目を輝かせた。




