62 ボス・ゴブリン討伐②
カナエに背後から襲い掛かった二匹のゴブリンは、無防備なカナエの背中に剣を振りおろし――豪快に空振りした。スカっと音がしたかと思うと、二匹は余った勢いのまま、互いに頭をぶつけた。
カナエは、背後の二匹に目もくれず、ボス・ゴブリンが吐き出した毒液の球を避けた。人ほどもあるその球は、カナエの背後にいた二匹に直撃した。ぶちまけられた液体は、じゅわっと音を立てて、二匹のゴブリンを溶かした。
ダダダン!
横っ飛び、ゴールキーパーのローリングダウンのような着地、そのまま、片手を軸に側転で起き上がる。二つの銃口がボス・ゴブリンから外れることはない。
ダダン! ダダダン!
打ち込む銃弾。
小さいが、その一発一発は、確実にボス・ゴブリンのアーマー・スキンを削っている。しかし、ゴブリンとはいえボスである。そのアーマー・スキンを剥がしきるのにはひと手間もふた手間もかかる。
強力なアーマー・スキンを持つ魔物を倒すには、多方向から攻撃を仕掛けるのがセオリーだ。一方向、一人だけの攻撃では、強固なアーマー・スキンを破るのは難しい。
「無理だ、カナエ、一人じゃ……」
剣を支えにかろうじて立っているガリバーは、カナエとボス・ゴブリンの戦闘を、揺れる視界の中で見ていた。
「時間稼ぎで良い! カナエェ!」
ガリバーが叫ぶ。
ダン、ダン!
銃弾が、ガリバーに近寄ってきていたゴブリンを弾き飛ばす。
ガリバーとカナエは、一瞬だけ目を合わせた。
ガリバーはそのアイコンタクトで、カナエが時間稼ぎをするつもりがないことを知った。――倒すつもりだ。
「カナエ、持ちこたえるだけでいいっ……!」
ローズが言った。
ローズは、よろめきながら、近寄ってきた小型のゴブリンを追い払っている。
「マスタぁ!」
眩暈の収まったロッテは、ボス・ゴブリンの背後に突っ込み、突進するようにダイアル・レイを放った。ボス・ゴブリンは残った片腕を振り回した。不用意に、ボス・ゴブリンの剣の間合いに近づいたロッテは、その剣の一撃を受けて、カナエの足元まで弾き飛ばされた。
「あっぶ……」
カナエは、飛んできたロッテを背中から抱きとめた。
ロッテは、星型のフォトン・シールドを張って、剣の直撃を免れていた。
カナエは、片腕をロッテの肩越しに伸ばして、銃の引き金は引く。
ダダン、ダダダン!
ボス・ゴブリンが怯んだ。
「無理するなよ、ロッテ。お前は猪か」
「無理してんのマスターでしょ!? 一人でボスと戦うなんて――」
「じゃあ手伝ってくれ」
カナエは、ロッテを抱きかかえていた左腕を、ロッテの腹から離し、怯んだボス・ゴブリンに、再び攻撃を加える。ボス・ゴブリンが、一歩、二歩と後退してゆく。カナエのパーティーメンバーを襲っていた魔物が、ボス・ゴブリンの足元に集結し始める。
「守りに入ったか」
カナエは呟き、にやりと不敵な笑みを浮かべた。
物理的に、自身の周囲を固める、いわゆる「肉の壁」を作ったわけだが、ガンナーには無意味である。妖精の銃弾は、肉の壁たちの頭上を通過して、ボス・ゴブリンの胸や顔や頭に命中してゆく。
リアム、シフォン、ミレンがエトワの解毒スキルによって回復した。
三人はエトワを守りながら、ローズとガリバーのもとに駆けてゆく。カナエとボス・ゴブリンの間を横切る形となる。
「全然、倒れない……」
ロッテは、ダイアル・レイを打ちすぎて、体力が底をつきかけていた。
そもそもダイアル・レイは、体力の消費が激しいスキルである。それを、レビテーションと併用しながら、ずっと使ってきたのである。ロッテの体力切れはしょうがないことだった。
「いいよロッテ、下がってろ。あとは俺が――」
「私もやる!」
「無理するなって」
「私だって、できるもん!」
ガリバーよろしく正眼にロッドを構え、ボス・ゴブリンと対峙するロッテ。
その自信がどこから来るのか、カナエにはさっぱりわからなかったが、ロッテなら何か起こすかもしれないという気も、しないでもなかった。
「マスターは、少しは私にも頼ってよ!」
そう言うと、ロッテはロッドを振り上げた。
ロッテの前方の地面が、虹色に輝く。
ボス・ゴブリンのもとに集結していたゴブリンたちが、ロッテに向かって突進を始めた。
「ロッテ、逃げろ!」
カナエは銃で応戦するも、数が多すぎて倒しきれない。
このままでは、ロッテがゴブリンの群れに押しつぶされてしまう。
しかしロッテは、全く逃げるそぶりを見せなかった。
虹色の光が強くなってゆく。
「私だって、戦えるんだからぁ!」
ロッドを振り下す。
ロッテの前に、虹色の壁が出現したかとおもうと、それが、七色の波となって、向かってきたゴブリンを呑み込んだ。ゴブリンたちは虹色の魔法の波に弾き飛ばされ、押し流され、宙を舞った。
一瞬ののち、あれだけいたゴブリンが、数匹だけを残して、消え去っていた。
ロッテが、ふらあっとよろめき、膝を付く。
変身が解け、もとの服装――桜色のブラウスに白いフリルのスカート姿になる。
「またオリジナルスキルか……すごいな……」
カナエは、ロッテの肩をポンと叩いた。
「ご苦労さん、良い仕事をしてくれたよ」
取り巻きがいなくなった。
エトワが全員の治療を終えた。
ガリバーがボス・ゴブリンに突撃し、他のメンバーがフォローする。取り巻きを失ったボス・ゴブリンは、すでに盾も左腕も失っている。右腕の剣だけを振り回すが、ガリバーの一撃で、右腕も両断される。
ボス・ゴブリンの甲高い悲鳴。
ガリバーの剣が金と銀の、炎のような輝きを放った。
ボス・ゴブリンの長い悲鳴が急に途切れた。
地面に着地したガリバー。
頭を失ったボス・ゴブリンが、ゆっくりと倒れてゆく。
ずしんと地響き。
――ボス・ゴブリンが討伐されました――
ワールド・ログにニュースが流れた。




