61 ボス・ゴブリン討伐①
ボス・ゴブリンは、片手剣に円盾を装備した、角の生えた巨大なゴブリンである。
その剣は、ガリバーのバスターソードと同じくらい巨大で、盾はアーマーソルジャーの大盾よりも大きい。うっすらと赤いオーラを纏い、狡賢そうな細い目で、挑戦者たちを見下ろす。
「マスター、ボスが出てきたっぽいよ!」
「こっちは手一杯だ。ロッテ、皆で何とかしてくれ」
カナエは、パーティーの一番後ろにいて、背後から迫ってくるボス以外の魔物の相手をしていた。小物から大物まで、わさわさと現れる。まるでモグラたたきのようだった。出てきては撃ち、出てきては撃ち――カバーしなければならない範囲は、パーティー後方180度、難しい戦いである。
「援護、必要!?」
シフォンが、カナエに訊ねた。
カナエは銃を撃ちながら、背後に向かって答えた。
「いや、後ろは引き受けるよ。シフォンさんは、ボスの取り巻きをお願い」
「わかった!」
後方はカナエが一人でカバーする。
しかしボスとその取り巻き、前方からやってくる魔物は、カナエだけではカバーできない。
「ボスはガリバーとロッテ、二人のサポートにミレンとローズ。リアムとシフォンはビット担当、エトワは、全体のフォローを頼んだ!」
「承知いたしました!」
エトワが、戦闘中には珍しく、皆に聞こえるような声量で返事をした。
早速ロッテのダイアル・レイが炸裂した。
ボスは盾でそれを防ぐ。
驚くべき反射神経である。
アイダル・レイを防ぎきると同時にボスの反撃。
一歩踏み込み、空中のロッテに斬撃を浴びせる。
「あ、危なっ!」
ロッテも紙一重で、ボスの剣を躱す。
ガリバーはボスの腕に一撃を叩きこもうとするが、それは躱される。
「大丈夫かなぁ……」
リアムは、ロッテの心配をしながら、その近くで、ビット・ゴブリンと戦っている。体力と防御力の高いビット・ゴブリンは、リアムの攻撃ではなかなか倒れない。しかし、ビット・ゴブリンがリアムを追い詰めることもまた、できなかった。
「おおぉい、ローズ! この雑魚何とかしてくれ! 俺を狙ってる!」
「任せろ!」
ガリバーに近づいてきた中型ゴブリンの群れに、ローズが飛び込む。
ローズがガリバーを狙っていたゴブリンの注意を集めのと時を同じくして、エトワは、ボスに挑みかかるロッテに〈アーマー・ライジング〉のバフをかけた。
「エトワぁ、ありがとー!」
ふわふわと宙に浮かびながら、ロッテが言う。
「おい、礼はいいからボス見ろボス!」
ガリバーに言われ、ロッテはボスに視線を戻した。
「はぁ、やっぱりかわいいわぁ、ロッテちゃん!」
「シフォン、敵!」
シフォンに飛びつこうとしていたゴブリンを、ミレンの矢が射貫く。
そんなやり取りを聞きながら、カナエはひたすら、視野に入ってくるゴブリンを片付ける。果たしてロッテは大丈夫だろうか、シフォンも大丈夫だろうか、心配でしょうがないカナエである。
できるだけ、誰かが死ぬのは避けたかった。
死んでしまったらメサイオンで復活できるが、それにも少し時間がかかる。そして復活した後、ここまで一人で来るのは難しいだろう。つまり死んでしまうと、この戦闘にはもう参加できなくなってしまうのだ。
かといって、カナエは今、パーティメンバーに気を配っている余裕もほとんどなかった。とにかく、数が多い。普通ボスを倒すときには、DPTで行う。
DPT――最大で8人のBPT×10組の80人のPTである。ボス討伐には、最低でも3PTは必要だとされている。1PTが雑魚担当、1PTがボスを相手し、残りの1PTは、それぞれのサポートに入る。尤もそれは、それぞれのPTにしっかりした戦闘力がある場合で、普通ボス討伐というと、4PT以上で行う。
そところが今回、常識外れの1PTでのチャレンジである。
最初は、ボスを討伐するつもりなどなく、「行けるところまで」ということだった。その結果、図らずも、ボスまで来てしまったというわけである。
ゲーム内の常識からすれば、ここまで来られただけでもすごいことである。
しかしカナエは、メンバーを集めた段階で、「行けるかもしれない」と思っていた。
ゲーム内きっての、凄腕ぞろいである。
リアムとロッテも、着実に実力をつけている。
キヒェエエエエエエ!
ボス・ゴブリンの悲鳴が上がった。
ガリバーが、ボス・ゴブリンの左腕を切り落としたのだった。腕を盾ごと失ったボス・ゴブリンに、ロッテがダイアル・レイを放つ。ボスがピンチに陥ると、ビット・ゴブリンたちの筋肉が、ベルセルクのように肥大化した。
「あ、あれ、力が……」
ロッテが地面に着地した。
魔法を使いすぎての体力低下――しかし、それだけではない。ボス・ゴブリンが悲鳴と共に放った毒の波動のせいだった。
波動を受けたのはロッテだけではない。エトワ以外は皆、激しい眩暈に襲われる。リアムは、酔っ払いのよう足取りでロッテのもとに駆けより、ロッテを攻撃しようとする小型のゴブリンの前に立ちはだかった。
エトワは、急いでロッテのもとに駆けより、解毒の魔法をかけた。解毒には十秒あれば充分だが、八人すべてにかけるには、時間的な余裕がなさすぎる。
「エトワ、病人は任せた」
カナエは反転し、ミレンとシフォンに近づいてきたビット・ゴブリンに弾丸の雨を浴びせ、そのままガリバーとローズを脅かしているゴブリンの群れに飛び込む。肘打ちと蹴りでもってゴブリンを倒し、今度はボス・ゴブリンの顔に狙いを定める。
ボスはエトワたちを狙っていたが、横からの銃撃を受け、ムっとしたように、カナエを睨みつけた。カナエもボス・ゴブリンに、視線をぶつける。カナエの背後から、ビット・ゴブリンが襲い掛かる。
「カナエ様、毒は――」
「大丈夫、解毒の時間を稼ぐ!」
「わかりま……――カナエ様! 後ろっ……!」
シフォンが声を上げた。




