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60 PTリーダー

 ――ゴブリンネスト、Bランクエリア――


 アシュラゴブリンと羽ゴブリンの大きいのが、それぞれ取り巻きの小さいゴブリンを連れてやってきた。人間の匂いを嗅いで、近くの他のゴブリンたちも、ぞろぞろと集まってくる。


 エトワの〈エンハンスド・スキン〉が、パーティーの8人のメンバーにかけられた。このスキルは、それぞれが元来持っている霊的防御力――〈アーマー・スキン〉を強化するもので、ハイプリーストが、ここぞという時に味方にかけるバフとしても有名である。


 パーティーメンバー、8人の内訳はこうである。


エトワ(ハイプリースト)/ラブネスト

リアム(氷ソーサラー)/ラブネスト

ロッテ(光ソーサラー)/ラブネスト

カナエ(ガンナー)/ラブネスト

ガリバー(大剣ベルセルク)/無所属

ローズ(剣ソーサラー)/バスティーユ

ミレン(アーチャー)/ドワーフ・ハウス

シフォン(ベルセルク)/ヴィクトリア


 今回のパーティー、メンバーを誘ったのはカナエだった。

 言うまでもなく、五月末にあるというSランクネストに向けたシミュレーションである。勿論、まだ一般のプレイヤーにそのイベントの事は発表されていないので、そのことは言わない。


 『BPTでゴブリンネストに行きませんか』という、名目上はありきたりな企画である。とはいえ、クラン外のメンバーを誘うのは、カナエにとって、勇気のいることだった。


 ミレンに関しては、以前の事もあって、まず詫びから入った。ミレンは快くそれを受け入れ、今回、カナエの企画したこのPTに参加したのだった。そして今回は、カナエは最初から銃を抜き、先頭に立って魔物と戦った。


 まずガンナーであるという事。

 そしてその殲滅力――強さに、皆驚かされた。小さなゴブリンなどは弾丸の一撃、中堅のゴブリンでも一発か二発のうちに倒し、大型でも、一体なら10秒とかからない。


 今回集まったメンバーは、誰もが名の知れた、いわゆる「凄腕」プレイヤーだった。エトワやローズなどは誰もが知っている超一線級のプレイヤーで、ガリバーやミレンも、その道では知らない者がいない。ヴィクトリアのマスターとして、シフォンも有名人である。そのベルセルクとしての実力も確かである。


 ロッテとリアムは、そんなメンバーに囲まれながら、どんどん前に出て、自分をアピールしていた。特にロッテは、近頃では、ルーキーとして知名度もぐんぐん上がっている。


 〈レビテーション〉で浮かびながらの〈ダイアル・レイ〉。

 アシュラゴブリンを圧倒するその戦いぶりに、皆、目を見張った。その近くではリアムが、ロッテに飛びかかろうとするゴブリンの動きを氷の魔術スキルで封じ、体術によって一匹ずつ確実に倒している。


 可愛い二人の連携に、シフォンはうっとり涎をたらしそうになり、ガリバーは「なかなかやるな」と唇を釣り上げてニヒルな笑みを浮かべるのだった。


「おら、シフォン、後ろにデカブツ二匹、火吐く奴だ、ローストされちまうぞ」


「あ、あぁ! 危ない危ない」


 ガリバーの忠告で我に返ったシフォンは、さっと、〈フレイム・ゴブリン〉の炎を避け、反撃した。シフォンの得物はショートソード、左手には肘までの円盾を装備している。


 ザクザクっと、飛びかかってきた二匹のゴブリンを斬って倒し、シフォンはそれからガリバーに声をかけた。


「ガリバー、フレイム・ゴブリンお願い!」


「無理だ、こっちも手が離せない」


 ガリバーは、全身メタリックの大型ゴブリン――〈メタリック・ゴブリン〉を、三匹同時に相手していた。


 ガリバーの代わりに、フレイム・ゴブリンに対処したのは、カナエだった。火力がないという弱点を除けば、銃は近距離から中距離、場合によっては遠距離までをカバーする、非常に優秀な武器である。そしてカナエの場合は、銃の致命的な「火力」という弱点を克服しているために、カナエの銃は全範囲をカバーする非常に強力な武器となっている。


 カナエは、小さなゴブリンはリアムとローズが相手をしているので、戦闘開始時から、さほど動き回らなくても良かった。状況を見ながら、必要な瞬間に、必要な攻撃を繰り出す。


 フレイム・ゴブリンの一匹はカナエが倒し、残りの二匹がカナエをターゲットにしたところで、その背後から、ロッテがダイアル・レイを撃ち込んだ。


「大物、15匹目~♪」


 ほわほわした声でそう言いながら、ロッテは地面を蹴り、再びレビテーションで次の「大物」に挑んでいった。その後を、リアムが付いていく。まるで小さい子の悪戯回りに付き合う兄のようである。


 やがてパーティーは、ゴブリンネストの最深部――A+ランクのエリアに到達した。ここまで来ると、出現する魔物のほとんどは、赤いオーラを纏った〈クリムゾン・モブ〉である。


 魔物は、次から次に襲ってくる。


 魔物を倒したり、クエストをクリアしたりすると、メサイヤ・ポイントが手に入る。今はまだ実装されていないが、メサイヤレベル(仮)というようなものが、今後実装を予定されている。メサイヤ・ポイントを得ることによって、より上位のレベル、ランクに昇進する制度である。運営は早い段階からそのことをプレイヤーに仄めかしていたため、今のうちにメサイヤ・ポイントを貯めておこうというプレイヤーも多くいて、「レベリング」の概念はしっかり、このゲームにも存在していた。


 黙っていても次々に魔物が殺到してくるネストの深部は、まさに最高のレベリング・エリアだった。――殲滅が追いつけば。


「カナエさん、なんか来ました! すごく、大きいです!」


 カナエは、リアムの言葉に、森の奥を見た。

 巨体が動いているのを認めた。

 森の中から、小型のゴブリンが、豆まきの豆の様に、わっと現れた。現れた小型ゴブリンは、形こそ普通のゴブリンだが、その体力、防御力は、普通の小型とは比べ物にならないほど強化されているようだ。


「おいおい! 勘弁してくれよ!」


 ガリバーが声を上げる。

 小物は苦手である。

 ロッテも、体力がなくなってきている。〈カイリー・ラッシュ〉の光刃がひゅんひゅん飛び回って小型ゴブリンにダメージを与えるが、倒しきらない。


「これは……ビットか」


 カナエは呟いた。


 ボス級のモンスターは、自らの意思で魔物を生み出すことができる。その生み出された個体は、自分の体の一部の様に動かすことができ、それは実際「ボスの一部」なのだが、外見上は別の個体であることから、それらのモンスターは「ビット」と呼ばれている。「ビット」の一般的な、最もわかりやすい特徴は、「小さくて」「強い」ことである。


「なにこれ、固い!?」


 シフォンは、現れた小型がビットだと気付いていなかった。一撃で倒しきれるはずが、ダメージを与えたに過ぎなかったことに驚きを隠せない。一方ローズの光剣は、スパッとバターを着る様に、ビット・ゴブリンを一撃のもと切り裂いた。


「怯むな! 戦うのだ! 私に続け!」


 ローズが声を上げ、ビット・ゴブリンに突撃する。

 ミレンの矢が、ローズを阻むビット・ゴブリンを貫く。矢じりから発せられた白黄(はくおう)色の残光が、飛行機雲のように、戦場に橋を架ける。


「ガリバー、あとは俺が受け持つよ。大将が出てきた」


 ガリバーが相手をしていたメタリック・ゴブリンに、カナエは数発の弾丸を浴びせた。メタリック・ゴブリンの注意を引く。


 ガリバーは振り向いて、状況を理解した。

 トロールのような巨体、緑の肌――〈ボス・ゴブリン〉がついに現れたのだ。


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