58 ミノタウロスの宴
木をなぎ倒して、ソレが現れた。
3メートルを超す巨体、鉄塊のようなハンマーを片手に持った、牛人――ミノタウロスである。白い二本の角、ぎょろっとして、血走った赤い目。荒い息遣いと同時に、鼻からは炎が、ボッ、ボッと噴射している。
「早速ビンゴだ!」
ガリバーが大剣を構えた。
その光を見て、ミノタウロスの目が怒りに燃える。
「見るからに、強そうだね……」
「まぁ、普通のプレイヤーにとっちゃそうだろう。前回来た時は、6人のパーティーでここまできて、ここでこいつと遭遇して、4人がやられた。俺が他の一匹を相手にしている間にな」
「これが、二匹同時か……」
「あぁ、結局俺が二匹とも倒した」
「じゃあ一匹なら――」
「まぁ、見てな」
ガリバーはミノタウロスとの間合いを詰めた。
ミノタウロスは、グオオオと叫び、ハンマーを振り下す。
そのハンマーの柄を、ガリバーの剣が叩き切った。
ハンマーの巨大な重りが、支えを失って、近くの木に激突した。木はばきりと幹の真ん中から折れ曲がった。
ガリバーは身を沈ませ、ミノタウロスの顔の前に跳び上がった。
腰のひねりを加え、脇を閉め、体ごと剣を振るう。
――ガチャリと音がして、ミノタウロスの太い首が、一刀で両断された。
その巨大な体は赤く内部から燃え上がるようにして炭になり、風化していった。
今度は、カナエが拍手をする番だった。
一般的なパーティーでこのような大物を倒す場合、まず包囲して、遠距離攻撃を主体に戦ってゆく。前衛はあくまで、後衛に魔物の攻撃を行かせないために置くに過ぎない。致命傷を与えるのは、ソーサラーなどの大火力の後衛だ。
しかし、もう一つ戦い方がある。
前衛に、大物を倒せるほどの一撃を持つベルセルクがいる場合だ。その場合は、後衛は魔物の注意をそらすために攻撃を加える。それによって生まれた隙をついて、前衛のベルセルクが、必殺の一撃を叩きこむ、というものだ。
現在主流は前者、なぜなら、大物を葬る一撃を持ったベルセルク――一般に「スレイヤー」と呼ばれている、そういうプレイスタイルのプレイヤーは、多くない。巨大な武器は、小物を相手にするには都合が悪く、PVPなどではほとんど勝ち目がないからである。
小さい武器と使い分ければいいという意見もあるが、実際にやってみると、それが至難の業だということに皆気付く。一つの武器を「扱える」ようになるには、それなりの経験が必要で、その「それなり」には底がない。中には、四つも五つも、状況によって武器を変えるスタイルのプレイヤーもいるが(主にベルセルクである)、それはごくごく少数で、そのプレイスタイルが、特別「強い」というわけでもない。
ミノタウルスは、ネストの深部に近づくごとに、どんどん出現した。
ガリバーは真正面から立ち向かい、打ち倒した。ガリバーに言わせると、これは一瞬の勝負で、やるかやられるかの紙一重の戦いだから、決して「楽勝」ではないということである。しかしカナエには、ガリバーにはまだまだ余力があるように見えた。
「さて、40匹討伐だ。これでクエスト報酬がっぽりだぜ」
「ミノタウロス40匹なんて、個人向けのクエストじゃないね」
「あぁ、狂ってるとしか言いようがない。かといって、3人以上で行っても、さほど旨くない。要するにこれは、一人から二人PT推奨ってことだな」
「そうだろうね」
「今日はしかも、お前のおかげでやたらとやりやすい。いつもならこの倍以上時間がかかるんだが――カナエ、まだ時間大丈夫か?」
「もう一杯付き合うよ」
「そうこなくっちゃな」
結局その狩りで、二人は120匹のミノタウロスを倒して、メサイオンに戻った。
〈ミノタウロスの心炭〉というレアドロップもあり、二人はがっぽり儲けることができた。報酬を受け取った後、二人は〈ピクシー・ガーデン〉で、一杯やることになった。
「山分けだ」
ガリバーはそう言って、金貨の入った袋をカナエに渡した。
「山分け?」
当初は、金貨三枚と聞いていた報酬である。
それが、山分け。
袋の中では、金貨がじゃらじゃら音を立てている。
「いや、お前みたいな凄腕は、流石に金貨三枚じゃ雇えない。俺は金は好きだが、不当なのは好きじゃない。受け取ってくれ」
「ありがとう」
「いや、礼はいらないさ。それよりも――」
「ガリバー」
「なんだ?」
「フレンド登録をしてくれないか?」
「おぉ、俺も今、それを言おうとしてたんだ」
二人は、互いに〈フレンドリボン〉を交換した。
「今度は、もう少し奥に進もう。クレイジーなクエストがある。俺一人じゃ無理だ」
「うん、喜んで。――今後ともよろしく」
カナエは、ガリバーに手を差し出した。
ガリバーはカナエの手を、がっちり掴んだ。




