57 デミヒューマンネスト
ガリバーとカナエは、〈デミヒューマンネスト〉にやってきていた。
通称、「デミネスト」である。
ネストの奥、Bランクエリアのあたりに出現する、大きな亜人系モンスターが、メインターゲットである。それらの亜人は、ガリバーにとって相性が良く、ざくざく倒せる割に、それらをターゲットにするクエストの討伐報酬が高額なのである。
ガリバーはベルセルクである。
武器は、バスターソード。リアルの人間ならば、重すぎて扱えない。ゲーム世界でのみ存在が許された、巨大な武器である。その用途は対人ではなく、大きな魔物を倒すためのもので、人間サイズほどの相手だと、攻守において小さな動きに対応できないため、分が悪い。
そのために、ガリバーは、ネストの深部に行くまでの露払いを必要としていたのだった。デミネストのDランクやCランクエリアには、人間サイズや、それより一回りか二回り大きいくらいの――バスターソードでは相手にしにくい魔物が出現する。ガリバーは、大物討伐においては名うてのプレイヤーだが、小物が相手となると、その名が泣くような迷闘を繰り広げる。
早速、リザードマンが現れた。
トカゲのような人型の魔物で、矛や剣を持っている。毒の唾を吐き出したり、3メートルほど伸びる舌を絡みつかせたりしてくる。亜人系のモンスターとしては、最も有名な一種である。
カナエは懐に両手を滑り込ませ、妖精の銃を召喚した。
銃を握り、引っ張り出し、向かってくるリザードマンの群れに銃口を向ける。
キラリと、ピンクのスライドプレートが日の光をはじく。
――ダンダン、ダン、ダダダン。
石楠花色の弾丸がリザードマンを貫いた。
リザードマンは次々とのけ反り倒れ、地面に転がった。
群れは、あっという間に倒された。風化してゆく。
小さな魔石を拾うカナエの背中に、ガリバーは拍手を送った。
「すごいな。いや、脱帽だよ。こりゃあ、報酬を弾まなきゃな」
「そうしてくれると嬉しいな」
カナエは、魔石を拾いながら、ガリバーを見上げた。
その腕があったら、そんなちんけな魔石なんて拾わなくてもいいだろうにと思うガリバーだった。
リザードマンをはじめ、コボルトの大きいのや、ろくろ首のような首長の魔物、赤い毛を持つ獣人などが、次々に襲い掛かってきた。彼らは決まって群れで出現し、進めば進むほど、その数は増え、包囲も四方を塞がれ八方を塞がれ、逃げ場のない包囲戦になっていった。
ガリバーもついに剣を出した。
灰輝銀から造られた白刃金の刀身が、青白い光を帯びる。魔物には致命的な力を持つ白刃金の淡い輝きに、亜人たちもたじろぐ。
「こりゃあ確かに、一人じゃ厳しいな」
「だろう? いや、二人だって普通は無理だ。かといって、三人以上になったら、報酬の旨味がない」
カナエは脇を閉め、両方の銃口を天に向けるような形で構えている。
ガリバーは剣を正眼に構え、じろりと魔物を見渡す。
「俺は、殺られないので精いっぱいだ。カナエ、これ――いけるか?」
「うん、死んだらごめん」
言うが早いか、カナエは両の銃口をライカンに向けた。
身体能力の高い亜人たちは、武器を手にカナエに襲い掛かる。それをカナエは、自ら魔物の密集の中に飛び込み、飛び込みながら一気にその塊を制圧した。
銃弾に撃たれ、宙に投げ出される魔物の隙間から、カナエは次の獲物を睨み据える。カナエには、銃口から伸びる射線が見えるようだった。20メートル圏内であれば、その物体がある程度の物理法則に則った動きをしている限り、命中させられる自身があった。
ダン――。
放たれたピンクの一撃は、魔物の間隙を貫いて、ガリバーに毒を吐こうとしたリザードマンの額に直撃した。
「あとで一杯驕るぜ!」
ガリバーが叫んだ。
その大剣をぶんと一振りし、近づいてきた魔物をけん制する。
「そろそろ閉店だよ」
カナエは、最後のひと塊を崩し、ガリバーを囲んでいる魔物を倒すと、銃をしまった。それからカナエは、方々に散らばった魔石を、律儀に回収し始める。
「チャンピオンの姿とは、思えないね」
「夢を壊したなら、謝るよ」
「いや、俺はPVPには興味がないから、一向構わないよ」
カナエは魔石を拾う手を休め、ガリバーを見つめた。
「どうして狩り専門に?」
「俺からすれば、どうしてこの世界にまで来て、PVPなんてするのか、理解できないね」
ガリバーは言った。
「神話に出てくるような魔物を倒して英雄になる、それが、このゲームの正しい遊び方さ。PVPは、おまけだよ」
「じゃあどうして、あの酒場に?」
「パーティーメンバーを探すためさ。俺はデカブツ専門。PVPに強い奴は、小物との戦いが得意だったりする」
「なるほど……」
ガリバーのようなプレイヤーばかりだったら、運営はもっと楽なのだろうと、カナエは思った。狩り専門で遊んでいるプレイヤーは、全体の二割ほど、PVPに特化しているプレイヤーも、それくらい存在する。
運営がPVPの要素を取り入れたのは単なる客集めで、本当は全てのプレイヤーに、「狩り」をしてほしいのだ。その点で言えば、ガリバーは模範的なプレイヤーである。
「さて、Bランクエリアに入った。こっからは、俺の出番だな」
こきりこきりと、ガリバーは拳を鳴らした。
森の奥の方から、野太い雄たけびが木霊してきた。




