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55 アリーナ談義

 第19回ワン・チャンピオンシップで優勝したプレイヤー、ベルセルク男のハルバというキャラクターは、名前の示す通り、ハルバード使いだった。


 『槍』の武器カテゴリーに分類されているその武器は、槍と斧を組み合わせたような形状の、長い柄を持った得物である。ハルバードは、槍の中でも扱いが難しいが、極めれば「突く」だけの単純な槍より、幅広い戦い方ができるということで、人気がある。


 ハルバは、その「ハルバード」という武器の、第一人者である。

 鎖帷子に腕、肩、脛にはプレートを付けている。ベルセルクの場合、体を覆うような甲冑姿になると、その戦闘能力は大幅に落ちる。一方で、そこまでゆかない多少の防具の装着は、むしろベルセルクの戦闘能力を向上させた。


 アーマーソルジャーの〈ビルキン〉というプレイヤーとハルバの一戦。

 トーナメント、準決勝である。


「この戦いは、PVPにおいてとても価値のあるものだった」


 アリーナ通の一人が言った。


「ハルバの功績はここにこそあるね」


「この戦いで、ハルバは、ビルキンを寄せ付けなかった。ビルキンは、前回大会でもトーナメントに残っている、実力者だ。装備は〈ブレイバーワン〉、アマソルの最も標準的な、そして最も安定した性能を誇る霊約霊装――」


 戦闘開始の鐘が鳴る。

 ハルバは地面をひと蹴りして、一気にビルキンに接近し、ハルバードを振り下す。

 ビルキンは下がりながら、盾によってそれを受け止め、同時に、〈シールドバッシュ〉を放つ。盾から放たれたエネルギーの波動が空気を揺らす。

 しかしハルバはすでに、その波動の通り道にはいない。

 ハルバードの刀身が青い光を帯びる。

 ビルキンは、ハルバの攻撃を盾で受け止め、再びシールドバッシュ。


 しかしハルバは、攻撃と同時に少しずつ移動していて、ビルキンのシールドバッシュは、すべて空振りになった。そのためにビルキンは、防戦一方である。


「彼はどちらかというと、攻撃的な戦闘スタイルなんだ。まず盾で攻撃を防ぐ、防ぐと同時に、〈シールドバッシュ〉あたりでジャブを入れる、相手に隙ができた瞬間を狙って、剣での反撃に転じる。いらゆる、カウンター戦法だね。アマの基本だよ」


「でも、ほら――ハルバにはそれが通用しないんだ。彼は、一撃ごとに、微妙に位置をずらしている。獲物を中心に、弧を描くように移動しながら、一撃ごとに、微妙に角度の違う場所から攻撃を加えている」


 アリーナ通は、画面を見ながら、それぞれの思ったことを口にする。その実況は、日本の某フットボール実況者なんかよりも、よほどわかりやすく、専門的だった。


 ビルキンが攻撃に転じた。

 ハルバードの突きを盾で逸らし、その柄を跳ね上げて、突進しながらハルバの懐に入り込む。同時に、斬撃。

 ――ハルバは、体をくるりと回転させながらビルキンの剣を躱した。

 ビルキンは、突進の勢いを殺しきれなかった。回転扉に突っ込んだように、一歩、二歩と強く踏み出してしまう。

 ハルバはビルキンの背後に正対していた。

 その無防備な後ろの首に、一撃を浴びせる。


 ドンと、衝撃を受け、ビルキンが前のめりによろめく。

 よろめきながらも、盾を後方にやり、次の攻撃に、かろうじて備える。

 しかしハルバの攻撃の手は緩まなかった。

 ビルキンは半身の状態、盾をハルバに向けてくる。その瞬間無防備になる腰部に、ハルバは斧の一撃を浴びせた。さらに、脚を突き刺し、鉤の部分で膝をからめとる。


 バランスを崩したビルキンの盾が甘くなる。

 ハルバは、ビルキンの脚から顎に向けて、ハルバードを振り上げた。

 ガツンと、重い一撃を貰い、ビルキンはバランスを失い、のけ反った。


 ビルキンに頭上に振り上げられたハルバードは、くるりと向きを変え、その刃をビルキンの頭に向けた。

 ザシュン――。

 振り下ろされたハルバードは、ビルキンの兜にさく裂した。


 それでも死なないのは、流石アーマーソルジャーの防御力だった。

 が、すでに防御を崩されたビルキンに、巻き返しのチャンスは訪れなかった。

 ハルバは次の一撃でビルキンの喉を甲冑ごと貫き、それで勝負が決した。


「これは一般論だけど、ベルセにとっての大敵は、アマなんだ。ビルキンが攻撃的なスタイルのアマだったとしても、ベルセがこういう勝ち方をしたということが重要なんだ。この勝負には、そういう価値があった」


「ここまで勝ち上がって来るアマも珍しい。そういう点においては、ビルキンも充分、優勝に相応しい実力を持っていた。大抵アマは、どこかでソサに負けてしまうからね」


「そうそう、ワンアリーナの本選に挑戦するアマは、実は少ないんだ」


「ノックアウト方式は、アマには不利なのさ」


「いや、それでいいんだよ。だからこそ、アマなんだ。死なないという点においては、アマは最強だよ」


「そう。だから俺は、むしろここまで来たビルキンを評価してる」


「同感だね。ビルキンは強いよ。優勝はハルバだが、実力はビルキンだと、俺は思ってる」


「いやいや、やっぱりハルバの方が上だよ。アマの防御を破った、そこにハルバのすごさがある。ソサならともかく、彼はベルセだからね。戦闘の駆け引きで、彼はビルキンから、勝利をもぎ取ったんだ」


 議論が始まる。

 冗談を言い合い、酒を飲みながら、それぞれの弁が熱を帯びてくる。

 クラスの教科書的な知識はカナエにもあったが、アリーナ通の彼らは、それ以上の事を知っていた。実践的なこと、体系的なこと、これからのPVPがどうなるかという展望。


 強者の情報を仕入れに来たカナエだったが、いつの間にか、そのことはそっちのけで、通たちのPVPをめぐる話を聞くのに熱中していた。


 モニターは、ハルバの次の試合――決勝の映像を映し出していた。

 ソーサレスとの対決。

 この試合に勝利してハルバはワン・チャンピオンシップのタイトルを獲得する。だが、通からするとこの決勝の試合は、それほどのものでもないらしかった。

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