54 勝利の広場
『カナエさん、近々大規模な戦闘があります』
ケイからカナエへ、そのVCが入ったのは、四月の終わり頃だった。
第三次リミテッド・リリースで、新規プレイヤーがドカっと入ってきて、メサイヤ・オンラインは今、かなり盛り上がっている。テレビでも、ゴールデンタイムにCMが流れている。
「新しいネストでもできるんですか?」
カナエは、ケイに質問した。
ネストが新設される場合、GMは運営サイドのプレイヤーと、あるいは、一般のプレイヤーと共に、そのネストを調査しに行く。いわゆる、デバック作業のようなものだ。そこで、モブの強さだったり、地形だったり、運営の定めた20ほどの要素を評価し、局にレポートを出す。このレポートは、提出数に応じて手当が出るので、カナエにとっては、かなり美味しい仕事だった。
『ネストを一つ、Sランク化します』
「え?」
『ネストは今、全部A+の状態にとどめているんですよ。グレムリンネストは別ですけど』
「プレイヤーのレベルが上がってきたからですか?」
『うーん、というより、必要に駆られて、ですかね。どのネストをSランク化するかは、今協議中なんですけど、5月の、遅くても末までには、やると思います。GMには正式に通達があると思いますけど、一応、準備しておいてください』
「準備、ですか……」
『Sランクのネストは、かなりハードになると思います。ソロじゃあとても踏破できないので、最低でも、8人からなるBPTを作っておいてください』
「それは、最深部まで行って、ボスを倒すための、ですか?」
『そうです。結構マジで集めてくださいね。Sランクにした時点で、そのネスト、こっちで制御できなくなっちゃうんで』
「え?」
そういうわけで、よろしくお願いします――とVCが切られた。どうしたものかと、カナエは考え込んだ。エトワとロッテとリアム、そして自分、4人はもうそれで良いだろう。ロッテとリアムが、ケイをして「ハードな」と言わしめるSランクになったネストで戦力になるかどうかはわからないが、そこは深く考えないカナエだった。
あと4人。
本気でクリアを考えるということは、ある程度の「強者」を引き入れないとならない。カナエは、フレンドリストにある「ローズ」の名を思い出した。〈ベルバラのローズ〉。剣ソサの先駆者の一人であるという彼女の評判は、カナエもあれから、知ることとなった。
ローズには、それとなく連絡を取ってみようとカナエは一人頷いた。
それにしても、あと3人。誰でも良いわけではない。エトワの知り合いならそういうプレイヤーがごろごろいそうだなと、そこまで思考が流れた所で、カナエはふと、ミレンのことを思い出した。
ミレンのネストと合同PTを組んだ折、カナエは、ミレンたちを怒らせてしまったのだ。ミレンは、怒った様子こそ見せなかったが、解散のときは、目も合わせてくれなかった。そういえばそうだったと、カナエは手で顔を覆った。
「(あれは、思えば、エトワの顔に泥を塗ったようなものだったのかもしれないなぁ)」
今になって、もう少しうまくやる方法があったのではないかと、カナエは反省した。そういうことも、GMには必要になるのではないか。
エトワには、おそらく「強い」の友達がいるに違いない。エトワに言えば、快く、引き合わせてくれるだろう。しかし、それはあまりに、都合の良い考えではないか?
「(自分で見つけよう……)」
そう決めて、カナエは、〈勝利の広場〉に向かった。
勝利の広場にはコロシアムがある。コロシアムで、強そうなプレイヤーに声をかけようという見積もりをしたのだった。
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勝利の広場には、コロシアムの大きな建物が、一棟だけ、ででんと建っている。
一棟だけでは、今や60万人に増えてゆくというメサイヤ・オンラインのプレイヤーの数に対応できないではないか、という疑問は、実際に中に入れば解消する。
コロシアムに入ると受付があり、受付の右手の空間には、100ほどの扉が、扉だけで存在している。扉は、転移ゲートになっている。それぞれの扉の横にはモニターがあり、その扉からどのコロシアムに行くかを選ぶことができる。
実は、コロシアムはメサイオンにあるものの他に、299存在している。
勝利の広場にあるコロシアムは、〈コロシアム001〉――通称〈メインコロシアムであり、他コロシアムへの転移ゲートを備えている。メインコロシアムのアリーナは、運営の公式イベント等で使われるのが主で、基本的には、普通のPVPで使われることはない。
勝利の広場には、メインコロシアムの他に、アリーナ観戦居酒屋がある。
大画面のモニターを持つ酒場で、アリーナのライブ映像や、過去のアリーナ戦などを、皆でわいわい騒ぎながら、見ることができる。
カナエは、そんな観戦居酒屋の一軒に足を運んだ。
過去のアリーナ戦を見るだけなら、メインコロシアムの地下にある、アリーナ視聴室のほうが手軽だが、今現役でいるプレイヤーの情報は、ただ過去の映像を見ているだけではわからない。そこでカナエは、居酒屋を選んだのだった。
観戦居酒屋は、メサイヤ広場付近にある酒場に比べれば客は少なく、さほどの賑わいもない。そんな店の中で、数人の客が、酒を飲みながらモニターを見ている。ここに集まる客はいわゆる〈アリーナ通〉で、プレイヤーのことをよく知っている。
カナエもテーブル席に座って酒を注文した。
木のジョッキが運ばれてきた。中身は、ビールである。
店員に銀貨を渡して、とりあえず一杯飲んだ。
わああっと、モニターから観戦者たちの声援の音が流れた。
「この試合は?」
カナエは、近くに座っていた、髭面男に、それとなく質問した。
「ワンチャンピオンの19回目だ。ハルバが優勝した」
ワンチャンピオンシップの19回大会は、去年の12月に行われた大会である。決勝戦は月の最終週に行わる。ちなみに今月の大会は、第24回大会になる。
「なかなか粒ぞろいの良い大会だった」
髭面が言うと、他のアリーナ通たちも、その話に乗ってきた。




