表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/85

52 ヘッドハンティング

 ロッテの〈ダイアル・レイ〉が、正式に、ソーサレスのスキル辞典に追加された。

 どのクラスでも、スキルの九割以上は、運営のスキル研究室で開発されるが、稀に、プレイヤーがスキルを開発することもある。


 今回のロッテのケースは、まさにそれだった。

 開発者にロッテの名前が記され、懸賞金として1000万Mが贈られた。その有用性などによっては、今後さらなるボーナスが支払われる。

 一躍有名になったロッテは、そうして方々のクランからスカウトを受けるようになった。


「んふふ~、困っちゃうなぁ~」


 最近はそんなこんなで、ずっとご機嫌なロッテである。

 〈美の広場〉のベンチで、カナエとロッテは、並んでクレープを食べていた。かつて(と言っても一月前の話だか)5000Mもしたクレープは、今では1200Mという、非常にリーズナブルな価格で購入できるようになった。


「なんだよ、またスカウトされたのか」


「うん」


 子供らしい無邪気な喜び方をするロッテだった。


「月150万Mだって!」


「おぉ……」


 モンスターハウスを禁止されたカナエは、今やこれといった金策の手段を持っていなかった。エトワへの借金は全て返済したが、貯金は今でも少ないままである。


「マスターは、スカウトされたことないのぉ?」


「あるよ」


「引き抜き?」


「どこでそんな言葉を覚えてくるんだ……。――引き抜きのスカウトも、あるにはあったよ」


「受けた?」


「いや」


「なんで? あ、いくらだったの?」


「50万Mくらいだよ」


「そうなんだ」


 ちょっと得意そうな顔をしたロッテに、こいつめ、と思うカナエだった。


「いや、50万Mなんて、昔の俺には大金だったんだぞ」


「マスターって、強いんでしょ?」


「え?」


「エトワさんが言ってたよぉ。あと、リアムも」


「あぁ……」


「クエストやらないの?」


「やる時もあるよ」


「マスター、イン時間長いのに、もったいないよ」


「ははは、忠告ありがとう」


 カナエは、クレープを口の中に突っ込み、もごもごと噛んで、飲み込んだ。ロッテに心配されるなんて、マスターとしてそろそろまずいかな、と少し本気で思うカナエだった。


「マスター」


「うん?」


「私が、他のクランに行くかもしれないってなったらどうする?」


 ロッテは、何気ない調子を装ってカナエに訊ねた。

 いつもやられっぱなしだから、たまには焦らせてみたいという悪戯心と、どういう反応をするのかなという好奇心、そして、胸の内にあった微かな不安が、ロッテをしてその質問をさせたのだった。


「それはダメだ」


 思ってもみない即答。

 ロッテは目をぱちくりさせた。


「お前は、どこにも渡さないよ」


「え、ええっ!? な、なんで!?」


「何でもなにも……――ロッテ、どこか行きたいのか?」


「別に、そういうわけじゃないよ! ただ、ちょっと訊いてみただけ!」


 ロッテが一人、変なドキドキを感じていると、二人のベンチに、数名のプレイヤーがやってきた。法衣を纏った男が二人に、ゆったりしたワンピースドレスの女が三人。


 ロッテは、彼らを知っていた。

 ロッテをスカウトしているクランのうち、最も熱心なのが、彼らだった。〈ソーサリオン〉という、ほとんどソーサラーのみで結成されたクランで、カナエの現役時代からあった老舗である。


「やぁ、ロッテ。この間は、お話を聞いてくれてありがとう」


 羽根つきの帽子をかぶった、穏やかそうな男が言った。

 羽根つき帽子は、次にカナエに目をやった。「二人の関係は?」という質問を含んだ視線を、ロッテに向ける。


「こんにちはぁ」


 ロッテは五人に向かってほんわりと挨拶をして、それから、皆の視線に気づいて、口を開いた。


「あ、私のクランのマスターだよ」


「あぁ、これはこれは――」


 羽根つき帽子が甘い笑みを浮かべながら頭を下げた。

 カナエも、軽く会釈する。


「私はケネス、〈ソーサリオン〉のマスターです。貴方の事は、ロッテから聞いています。名前は確か――」


「カナエです」


「そうでした、カナエさん。――彼女は、素晴らしいですね。あ、彼女と言うのは、ロッテのことですよ? いやはや、とてももったいない」


 ケネスのもったいぶった口調に、カナエはイラ立ちを覚えた。


「何がもったいないんですか」


「才能のあるプレイヤーには、それにふさわしい場所というのが、あると思ってね」


「俺のクランのことを言って――」


「例えば、私のクラン〈ソーサリオン〉には、メサイヤ・オンライン屈指のソーサラーが集まっています。一流のソーサラーです。資質を持った者同士が、日々研鑽を重ねている。そこには、ありがちな、嫉妬というものはない。なぜなら〈ソーサリオン〉のメンバーは誰もが、嫉妬される側の人間であるから」


 いかにもな笑顔を作る羽帽子のケネスを、カナエは腕を組んでじっと見据えたが、やがてそれもばかばかしくなって、小さく笑うのだった。


「お分かり、いただけたかな?」


「貴方の考えは解った。別に聞きたかったわけでもないけどね」


「実は、ロッテを招待している。私のクランにね。まだ返事は貰っていないが、彼女にとって何が良いのか、賢明な貴方ならわかるはずだ。貴方は、この子を引き留めるべきではない。同じクランの、マスターとして、助言しよう」


「いや、ロッテはまだ、俺のクランのメンバーだ。他人にとやかく言われる筋合いはないよ。それが、大手クランのマスターからの、ありがたい助言だったとしてもね」


 ケネスは、一瞬真顔になったが、すぐにそれを、偽物の笑顔で取り繕った。

 鼻腔が開いているのを見て、カナエは、してやったり、と思った。


「彼女を引き留める権利は、誰にもないはずだ。何しろこのゲームは、自由なのだから」


 ロッテは、喧嘩になりそうな二人の横で、おろおろしている。

 押しに弱いロッテのことだ、断るに断れないのだろうと、カナエは思った。


 ケネスの後ろの四人は、蔑むような、あざけるような視線で、カナエを見ていた。

 その視線にあてられて、カナエは、不敵な笑みを浮かべた。


「気を悪くするかもしれないが――貴方の所のプレイヤーは、二流だよ」


「何を馬鹿な――」


「試してみようか?」


 ケネス以下、〈ソーサリオン〉のメンバーの目に、警戒の色が浮かんだ。

 カナエの手が、ピンクの拳銃のグリップを握った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ