51 妖精の銃
アゼリアにオープンしたミムの武器屋。
オープン初日であるその日、カナエはミムに呼ばれて、久しぶりにそこを訪れていた。名目上はカナエのプライベートルームであるが、実際には、ミムの武器屋兼武器工房である。
店の名は――〈ダイアンスミス〉。
「いらっしゃいませ!」
元気よくカナエと、その連れのリアムを出迎えたのは、ミムとルリだった。
実はルリも、この店を手伝っていた。
「素敵なお店ですね」
リアムが、店の外装を見て、そう言った。
クリスマスのようにデコレーションされた煉瓦の壁。花の飾りがちりばめられ、雑草しか生えていなかった店の周りには、色々な花が咲く、健康的な草原になっていた。
扉を開けると、カランコロンという音が店に響き、来客を告げた。
果たして――店には二十種類ほどの武器が展示されていた。剣や槍はない。吹き矢、スリングショット、大きいものだと三日月鎌やバズーカ等々、誰が使うんだよという突っ込みを待っているかのようなクセモノばかり。
何より衝撃的なのは、それら全ての武器のカラーリングである。
――全部、ピンク色なのだ。
「わぁ、可愛いなぁ」
ピンクのヌンチャクを愛でるリアムの後ろで、カナエはこめかみを押さえていた。
目がちかちかする。
本来木であるはずの棍棒も、ピンク色なのだ。そしてよく見ると、可愛らしい妖精の絵が描いてあったり、彫られてあったり、ファンシーな字体の文字が記されていたりする。
「これ、全部、ミムが……?」
「私とルリで造りました」
ルリは、恥ずかしそうに頷いた。
カナエは、近くに展示されていた金剛杵を手に取った。
「これは、何で作ったの……?」
ミムとルリは顔を見合わせた。
「素材は?」
「素材、ですか?」
ミムが、真ん丸の目で、はて、と首を傾げる。
鉄の素材と言えば金剛鉄、灰輝銀、玉鉄の三種類。加工の方法によって、金剛鉄からは黒刃金、銀刃金、白刃金、灰輝銀からは星刃金、玉鉄からは和刃金の武器が、それぞれ作られる。
ちなみに、黒刃金と白刃金はヴァルカン、星刃金はブリードのみが加工できる。
カナエは、武器に関する知識を頭の中から引っ張り出してきた。
黒刃金――重く硬い。黒色をしている。
銀刃金――重すぎず、硬さもそこそこ。最もポピュラーな鋼。銀色。
白刃金――非常に軽く、硬度も低くない。色は白。加工の方法によって、淡色の緑を帯びる。
星刃金――魔物に対して絶大な力を発揮する。普段は銀色、戦闘時は月のような青白い光を発する。
和刃金――刀にのみ使われる。色は銀。
――なんでピンクなんだ?
カナエにはさっぱりわからなかった。ピンク色になる鉄なんて、存在しないはずなのだ。少なくとも、GMの試験本には書いていなかった。
「ケイさん、ケイさん――」
堪らずに、カナエはケイにVCを繋いだ。
『はいはい?』
「ピンク色の鉄ってありますか?」
『ピンク色の鉄? 陽輝銅を微量含んだ合金なら、ピンクっぽく見えるかもしれませんねぇ。あとは、メッキかなぁ。あんまりピンクのメッキって聞きませんけど』
「メッキですか……ありがとうございます」
カナエは金剛杵をもとの場所に置きながらミムに訊いた。
「ピンクのメッキを使った?」
「いいえ、使っていませんよ」
「え、じゃあ、陽輝銅いれた!?」
本来陽輝銅は、武器用の金属ではない。
装飾品ならわかるが、武器としてそれを混ぜるメリットは無いに等しいのであるが――。
「入れてませんよ?」
あれれ、と再び疑問が生じる。
――それなら一体なんだ。
すぐにケイからVCがあった。
『カナエさん、ピンク色の武器、もしかすると妖精メイドのものですかね?』
「あ、そうです!」
『それたぶん、妖精の金属ですよ』
「なんですかそれ……」
『研究室で調査されてはいるんですけど、よくわからない金属です。金属という分類かどうかも疑わしいんですけど、わかっている特徴としてはまず、妖精しか加工できない、ということと、色がピンク色、ということです。あとは、何にもわかってません』
「はぁ……」
『研究室が出した報告書をまとめたの、送りますよ』
VCのあと、カナエのもとに、ケイからメールが送られてきた。
カナエはそれを早速A4の紙に物体化させ、読んだ。
「妖精の金属……通常は金属のような特性を持っているが、状況によっては水に溶けたり、植物が生えてきたりする。妖精はこの物体を加工できるが、加工をした妖精自身は、その加工の方法を知らない、または覚えていない。加工の方法は、一切わかっていない……なんだそれ」
文章をところどころ抜粋して読み上げるカナエに、二人の妖精は首を傾げるのだった。
「それよりもカナエさん! これを、どうぞ!」
ミムはそう言いながら、拳銃を一丁、カナエに差し出した。
ルリも同じように、もう一つを両手に乗せて、差し出している。
いずれも、ピンク色。
グリップにはそれぞれ、二人を象ったような妖精が彫られている。
カナエの心境は、複雑だった。
銃と言えば黒、というハードなものが好きなカナエである、二人の造った銃は、ファンシーすぎた。しかし一方で、久しぶりのハンドガンに、踊る気持ちもあった。水鉄砲以来、ずっとショットガンを使ってきたが、そろそろ拳銃が恋しくなってきていた。
カナエは、両手に銃を受け取った。
「おぉ……」
思わず声を漏らす。
馴染むのだ。
まるで履き慣らしたスニーカーのように、しっくりくる。
「わぁ、可愛いですね、その銃!」
リアムが言った。
「どうでしょうか……?」
二人の妖精は、不安と期待の入り混じったような表情で、カナエを見つめた。
カナエは言葉に悩んだが、よしと頷いて口を開いた。
「今日からこれを使わせてもらうよ」
やった、とハイタッチするミムとルリ。
カナエはショットガンを出して、ミムに渡した。
「手入れをお願いしたいんだけど、いいかな?」
「はい、喜んで!」
ミムはショットガンを受け取ると、とたとたと工房に走っていった。




