49 クラブ12
ネストで狩りを終えた後、エトワ、ロッテ、リアムの三人は、会員制のレストラン、〈クラブ12〉でお茶をしていた。アゼリアの中心部にある、レンガ造りの小さな店である。
店には専属の料理人やパテシエがいて、接客は、猫の紳士がやっている。
テーブルに運ばれてきた、色とりどりの楽しげなケーキに、ロッテとリアムは思わず声を上げた。
まず、ロッテがショートケーキを口に運んだ。
ロッテに続き、リアムは上に小さなミントの葉の乗ったティラミスにフォークを入れる。
二人の目が、キラキラ輝いた。
「喜んでもらえて良かったわ」
エトワは二人にほほ笑んだ。
「本当は、カナエ様も一緒に召しあがっていただきたかったのですけど」
エトワには、それが心残りだった。
ログインしても、最近カナエは、一人でグレムリンネストに行ったり、クランホールで何かレポートのようなものを作成したりしていて、三人とは別行動をとっている。逆にエトワ、ロッテ、リアムの三人は、狩りをしたり、店でお茶や食事をしたり、一緒に遊ぶ時間が増えた。
リアムの女性恐怖症はまだまだ完治には程遠いものの、三人の仲は確実に深まっていた。その分、三人とカナエの間には、マスターとクランメンバーという以上の、「線」が敷かれたような状態になっていた。
「マスターって、一人が好きなのかなぁ?」
「そ、そ、そ、そうなの?」
怯えながら、リアムが言った。
リアムは、ロッテとなら少しずつ、会話ができるようになってきていた。
「だってぇ、いっつも一人でいるでしょ? 私たちの事、嫌いなのかな?」
「そんなこと、な、無いと思うけど……」
ロッテもリアムも、まだ子供である。
しかし子供と言えど、先日のグレムリンネスト、〈ドワーフ・ハウス〉のメンバーがカナエに抱いていた感情が分からないほど幼くもなく、また、それを理解できないほど幼稚でもなかった。
――〈ドワーフ・ハウス〉からは、たぶん二度と合同PTを誘われないだろう。
ロッテとリアムは、そう感じていた。
「マスターって、戦えるの?」
ロッテが二人に質問した。
ロッテはまだ、カナエの戦っている所を、見たことがなかった。何度か、エトワとカナエと三人で狩りに行ったこともあったが、カナエは、荷物持ちに徹して、全く戦わなかった。
一方で、エトワとリアムは、カナエの戦うのを見たことがあった。
リアムは、最初に出会った時に一度だけ。エトワは、何度かカナエの戦いを見ている。
「すごく強いよ、カナエさん!」
リアムが目を輝かせた。
「鬼ごっこは強かったけど……」
「ロッテ様は、まだカナエ様の戦う姿を、見たことがなかったのね」
「そうなんですよ。でもマスター、一緒にネスト行っても、全然戦ってくれないし……」
「カナエ様にも、考えがおありなのではないかしら」
「言ってくれてもいいのに」
ロッテはそう言って、とんがらかせた口にケーキを運んだ。
後味のすっきりした、上品な甘みにうっとりと目を細める。
「目立つのがお嫌いなのよ」
「恥ずかしがりなの!?」
「そうかもしれませんわね」
くすくすと、エトワは笑った。
エトワからすれば、ロッテも随分恥ずかしがり屋だった。それなのに、なかなか大胆なことをするのが、エトワにはとても面白かった。先日開催されたファッションショー、メサコレ。結局ロッテは、そのモデルとしてランウェイを歩いたのだった。
「PV、挑んでみようかなぁ……」
ロッテが言った。
最近、少しずつ自信をつけてきたのだ。〈レビテーション〉と〈ダイアル・レイ〉を使う魔女っ娘ロッテは、一部で密かな話題を呼んでいた。
「リアム、一緒にマスター倒さない?」
「2対1!?」
「だってぇ、マスター強いんでしょぉ?」
「ロッテは、その……なんでそんなに、カナエさんを、倒したいの……?」
「えぇー、だって、なんかぁ……やられっぱなしなような気がして」
「でも、カナエさん、すごく良くしてくれるよ」
「えぇ! そうなの!?」
「うん。魔導学院のお金とか、全部払ってくれてるよ」
「ふぇぇ!? なんで! 私には全然そんなことしてくれないのに!?」
「ロッテは、学院に行ってないから……」
「そういう問題じゃないよ!?」
エトワは、二人のやり取りに笑みを零した。
その時だった。
――突然、店の扉が、周りの壁ごと、爆破されたように吹き飛んだ。扉や壁の破片が、店の中に散らばり、三人の席にも降り注いだ。
「なんだよ、ただのケーキ屋じゃねぇかよ!」
「おっほー、ぶっとぶような美人がいるぜ!」
「すげえなこのゲーム。マジにリアルだぜ。建物でも何でも、ぶっ壊して中に入れるとかよ!」
ガラの悪い3人からなるプレイヤーだった。
真っ先に立ち上がったのは、ロッテだった。
「何、貴方たち!」
「おぉ、ガキンチョのお出ましか」
ゲラゲラ笑う無法者。
ガキンチョと言われて、ロッテもムッとする。
「相手してやるぜ、へっへっへ」
「かわいい声を聞かせてくれよ」
男たちは剣を抜き、ぺろりとその刃を下で舐める。その、獣のような剝き出しの野生に、ロッテはたじろいだ。
その時、リアムが立ち上がった。
リアムはロッテの前に出て、男たちをじっと見据えた。
すでに戦闘態勢のリアムは変身を終えていた。
つまり、黒うさコスチュームである。
男たち、爆笑である。
「なんだよ、ここはそういう店なのか?」
「すげぇな! いや、俺は好きだぜ、そういうの」
「僕の友達が怖がってるから、出て行ってください」
リアムは言った。
その声には、普段のおどおどした調子はなく、恰好はともかくとして、いつものリアムとは別人のようだった。
「出て行く? はっはっは、聞いたかよ?」
「お嬢ちゃん、出て行かせたきゃ力づくで――」
男が言い終わらないうちに、リアムが仕掛けた。
地面を蹴ったリアムは、目にもとまらぬ速さで一番近くにいた男に近づき、その無防備は首に掌撃を叩きこんだ。
「てめぇ――!」
男の一人が、剣を振り下し、リアムに挑んだ。
リアムは男の腕をつかみ、男が剣を振り下ろす勢いを利用して、投げ飛ばした。投げ飛ばされた男は、もう一人のならず者ともつれ合って倒れた。リアムはそこへ、氷の槍〈アイシクルシピア〉を放った。
男たちは串刺しにされ、間もなく三人の男は、氷が割れる様に消えて行った。
「リアム、すごい! カッコいい!」
ロッテが絶賛する。
「か、カナエさんから、喧嘩のやり方を、教わったんです」
振り向いたリアムは、恥ずかしそうにそう言った。
いつものリアムに戻っていた。




