48 ボット試験
モンスターハウスの33番ルーム。
三次リミテッドリリースから数日後のその日、カナエはケイからある依頼を受けていた。今回は、個人的な依頼ではなく、GMとしての仕事である。
『もうすぐ準備できます。ええと、今のうちに確認しておきます。今回カナエさんには、ボット01の新モデルと戦ってもらいます。一応これは、メサイオン、アゼリア、グラノーベルの防衛用ボットとして開発されています。――出しますね』
部屋の真ん中に魔法陣が現れ、そこから、立体投影のように、ボット01新モデルの姿が現れた。人型、滑らかなメタリックの甲冑に、両腕は関節より先がガトリングガンのようになっている。腰から下は無く、浮かんでいる。
薄かった姿がだんだんはっきりし始め、魔法陣が消えると同時に、それは完全に実体化した。
『――準備、いいですか?』
「はい」
カナエは、ショットガンを出した。
ボット01の束ねられた7本の銃身が両腕に一門ずつ、計14の銃口がカナエに向く。
ボット01のデジタルなモノアイが、緑から赤に色を変える。
キイインという駆動音。
そして――。
――ババババババババ!
何もかも吹き飛ばす、嵐のような銃撃が始まった。
今となってはもう売られてはいないが、一般的な「銃」は、使用者のエネルギーを放つ「気発式」である。対してこのボット01のガトリングガンは、エネルギーを実弾に込めて飛ばす「気宿式」。威力は、気宿式のほうが高い。
とはいえ、「銃」である。一発ごとの威力は、気宿式の銃弾であっても、他の武器に比べれば非常に低い。それを、最初の零コンマ数秒の銃撃を受けて、カナエは知った。――いろいろと、疑問がわき上がる。
しかしとにかく今は、戦闘中だ。
カナエは、頭を切り替えた。
――銃は弱い。それは、ボット01のガトリングガンも同じらしい。
ゴブリンを倒すのに一千発以上の弾丸を当てなければならない。
しかし、もし、数秒で一千発の弾丸が撃てるとしたらどうだろう?
ボット01の設計構想を見抜いたカナエは、射線か躱しながら、ボット01に接近した。ボット01は、一度射撃を止め、自機正面に現れた撃破目標に、二門の銃身を向けた。
――バババババババッ!
――ズバアアン!
至近距離の打ち合い。
力負けしたのは、ボット01だった。
ショットガンを受けたボットの両腕は肘関節の部分でもぎ取れた。
――ズバアアアン!
がら空きの胴体部に銃口をあてがったゼロ距離射撃。
ボット01は、霊的装甲と物理的装甲を一度に貫かれ、浮力を失った。
ひしゃげた装甲の表面が白く曇り、やがて、バキバキと自壊して消えた。
『さすがですねカナエさん』
「このガトリング、売り出したらかなり強いんじゃないですか?」
『それ、そのボットだから持てる装備なんですよ』
「それは――運営だから、という意味ですか?」
『ええと……?』
「強すぎる武器だから、出したらゲームバランスを崩してしまう、だから販売しない、ということですか?」
『あぁ、違います違います。言葉通りそれは、ボット01じゃないと使えません。それにこのガトリングもボット01も、公立都市の敷地内じゃないと動きません』
「どうして、その外で動かせるようにしないんですか?」
『できるならそうしてるんですけどねぇ……』
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運営局開発センター、第一実験モニタールーム。
ケイとGM統括のライデカー、総務部部長ロト、そして開発センター長のクロップと、白衣の研究員が十数名。研究員は早速、今の戦闘データを解析し始めていた。
「やっぱり彼も不思議に思ってますよ。クロップさん、どうしてこのテスト、カナ君に回したんですか? データは、もう充分とれてますよね?」
「純粋な興味だよ。彼は、ゴン老師から手ほどきを受けた、唯一の人物だ」
「最後の部分、解析できました。1番モニターに出します。」
研究員の一人が言い、正面の大きなモニターの一つに、映像が表示された。それは、戦闘の最後、カナエがボット01の正面に迫り、ボット01が、カナエに二門の銃口を突き付けた場面だった。
「この映像の0,02秒後、〈シャワー砲〉の初弾が発射されます。銃口から攻撃目標までの距離は、右が平均354ミリ、左が350ミリ。そのまま、1,83秒にわたって、フルバーストです。約3500発の銃弾が発射されたと推定されます」
研究員の説明に合わせて、四つの角度から撮られた映像が、ゆっくり動いてゆく。
「〈ABP〉は、推定63±1です」
「……なぜ彼は、立っていられる?」
クロップが質問した。
〈ABP〉が50を超えた時の衝撃は、盾を構えたアーマーソルジャーをのけ反らせることができる。しかし画面のカナエは、ショットガンの銃口を着実に、ボット01に向ける動作を続けている。バランスを失っている様子はない。
「て、訂正します……〈ABP〉、3です!」
馬鹿な、と誰もが思った。
計算間違いをしているのは誰だ、とクロップは研究員たちを見回す。研究員たちも、おろおろとするばかりだった。
「信じられない事ですが……銃弾の九割以上が、外れていました」
それこそ馬鹿な話だった。
0,1秒あれば、100メートル先の野兎を蜂の巣にできるくらいの命中精度を、ボット01は充分に持っている。攻撃も受けていないのに、精度が落ちるわけがない。仮に精度が多少落ちていたとしても、1メートル離れていない目標なら、99%以上を命中させられるはずだった。
「彼は、動いていないように見えるが」
「動いていません。その通りです」
「つまり、何が起きた」
クロップが質問した。
研究員の一人が、こわごわと答えた。
「銃弾が、彼を、よ、避けました……」
皆、沈黙した。
沈黙を破ったのは、ケイの笑い声だった。
「クロップ、我々には余裕がない。彼を研究したい気持ちもわかるが、今は運営のための研究に専念してほしい」
「わかりました」
総務部部長の言葉に、クロップが返事をする。
ライでカーは、モニターに映るカナエをじっと見つめていた。




