45 グレムリンネスト③
リアムの足元で、ブレードクラウンが風化してゆく。
氷の粒子が、キラキラと光って、風に溶けてゆく。
ロッテは、リアムを見上げた。
リアムは、背中と手から白い湯気を出していた。
――血湯気である。
プレイヤーの肉体は、血を出さない代わりに、白い湯気を発する。
リアムも、無傷ではなかった。
依然囲まれているリアムは、次の攻撃に備えて、ブレードクラウンの動きに神経を集中させた。
そんなリアムを見上げていたロッテは――思わずその、ふわふわした兎の尻尾を触ってしまった。
「ひゃんっ!?」
リアムは、背筋をのけ反らせて、悲鳴を上げた。
「あ、ご、ごめん! つい……」
謝るロッテ、顔を真っ赤にするリアム。
ブレードクラウンが、無防備になったリアムに襲い掛かかった。
二人を助けたのは、ミレンだった。
ミレンは、車輪のように回転しながら飛びかかるクラウンを、側面から飛び蹴りで奇襲し、着地までの間に三発の矢を放った。
ブレードクラウンは、矢によって腕と首を失い、倒れた。
ロッテとリアムは、尊敬の眼差しでミレンを見つめた。
エトワがすぐにやってきて、ロッテとリアム、そしてミレンにヒールをかける。
他方カナエはというと、ベンチに腰掛けてメモを取っていた。
今回のグレムリンネスト、カナエにはカナエの目的があった。まず一つは、リアムの実力を知るため。そして二つ目は、GMレポートの作成のため。
一つ目に関して、カナエは大きな発見があった。
リアムが、氷系統の魔法を使うソーサラーだった、ということ。ブレードクラウンに止めを刺したあのスキルは〈フロストタッチ〉、難易度は☆2つのスキルで、触った相手を凍らせる技である。
そしてまた、ブレードクラウンを体術でいなすあたり、何か武術の心得もあるのかもしれないということがわかった。ビギナーだが、将来有望(いろんな意味で)な新人である。
二つ目、GMレポート。
UC課のGMは、月に最低2つ以上、レポートを提出する義務がある。レポートの数に応じて、レポート手当てが発生するため、カナエは、これの提出に熱心だった。
今月三枚目となる今回のレポートは、ずばり〈グレムリンネスト〉についてである。グレムリンネストは、他の6つのネストと違う特殊なネストで、現在運営は、グレムリンネストの内部のあらゆる情報を集めたがっている。
料理によらず、何かの失敗作を作ってしまった時、そこに、「失敗の念」が生じる。それが集まり、形になったものがグレムリンで、グレムリンネストの中心には、その「失敗の念」が集まる仕組みが施されている。
グレムリンネストは、簡単に言えば、グレムリンの避雷針である。
性質上、グレムリンネストのネストランクは常時変化する。
失敗作が少なかった期間では、グレムリンネストの難易度も低く、逆に、失敗作が多くできた期間は、グレムリンネストの難易度も強化される。
そして今、グレムリンネストは、「かなり強化された状態」と言うことができた。
転移ゲート付近にはBランク相当のエリアが広がり、モブの出現率、リンク率もかなり高い。ブレードクラウンに関しては、一匹ずつがB+の上位モブに匹敵する戦闘能力を有している。
「下手すると、A-か……?」
カナエは戦闘を観察する。
カナエの態度に、〈ドハーフ・ハウス〉のベルセルクが怒った。
「お前戦えよ!」
「俺の仕事はアイテムの回収だ。最初にそう決めたじゃないか」
「ふざっけんな! 寄生プレイしてんじゃねぇ!」
激怒するベルセルクたち。
ロッテもぷんぷんしているが、まだブレードクラウンの群れの中である。カナエがクラウンの攻撃を受けないのは、他のメンバーが派手に立ち回って、クラウンの注意をすべて引き付けているからだった。
「カナエ、余裕があるなら援護して!」
ついにミレンからも、カナエに声がかかった。
しかしカナエは、ベンチから動かなかった。
戦闘に参加してこのピンチを突破したとする。そうすると次は、このPTは俺を頼って、さらに奥に進もうとするだろう。この狩りが終わった後、思った以上の戦利品を手に入れた〈ドワーフ・ハウス〉のメンバーは、また俺を頼って、合同PTの話を持ち掛けてくるに違いない。
カナエは、そのような鬱陶しさに潔癖になっていた。
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「ここまでだ、俺は降りるぞ!」
ブレードクラウンの群れを倒した後、ベルセルクの一人が言った。カナエに詰め寄り、胸蔵を掴む勢いだ。
「俺は荷物持ちで、戦闘には――」
「ミレンの指示、聞こえなかったとは言わせねぇぞ」
「はぁ……ここまでだな。これ、おたくらの戦利品」
カナエはそう言って、背負った二つのバックパックのうち、重たい方を、そのベルセルクに渡した。ブレードクラウンからは、例外なく鉄がドロップしたのだった。
「ここまでにしましょう。アイテムも、充分拾えたから、文句はないわ」
ミレンが言い、PTはそこで解消となり、〈ドワーフ・ハウス〉のメンバーは〈帰還転移〉していった。オプションウィンドウからボタン一つで、メサイオンに飛ぶことができる。
「マスタぁー! なんで助けてくれなかったの!」
「倒せたからよかったじゃないか」
「良くないよ! あっちのクランの人たち、怒っちゃったし」
「まぁ、仕方ないね」
「マスタぁーのせいでしょ……」
「カナエ様、何か気に障ることなど、ございましたか?」
「いや、そういうわけじゃ――」
「あ、そういえば! リアム、さっきはありがとうねぇ」
「……っ!」
リアムは、ロッテから数メートルほど慌てて離れ――、
「う、うん……」
小さい声でそう言い、頷いた。
「いくらなんでも逃げすぎじゃない!?」
「怖いんだよ」
「怖くないよ! 私、怖くないよ!?」
「ほら、また魔物が襲ってくる前に、逃げるぞ」
〈ラブ・ネスト〉の面々も、それからすぐに、メサイオンに帰還していった。




