44 グレムリンネスト②
体中に矢を受けたポットタンクが、ついに浮力を失って地面に落ちた。
もともとどんな原理で飛んでいたのかはわからないが、ポットタンクは、体内の緑の溶液を失うにつれて弱くなり、地面に落ちると、もう身動きが取れなくなってしまった。
ミレンは機械のように矢を射続けた。
ポットタンクはやがて、ぶふうっと口から空気を吐き出し、しぼんで消えた。プラントボアは、三人のベルセルクからの集中攻撃を受け続け、体中草だらけになっていた。
プラントボアも、ポットタンクに続いて、倒された。
皆、ドロップアイテムを拾って、エトワのもとに集まった。
ロッテの治療も終わり、ロッテは目をぱちくりさせながら、エトワの膝枕から上半身を起こした。
「ここは誰! 私はどこ!?」
古いギャグを言いながら、ロッテが正気を取り戻す。
戦利品は魔石の他に、プラントボアからは種、黒炭ゴブリンからはスプーンやフォーク、そしてポットタンクからはポーションの材料となる薬草や実などがドロップした。鉄や鉱石ではないので、全て〈ラブ・ネスト〉の取り分になる。
PTはさらに奥へと進んだ。
何度か黒炭ゴブリンの襲撃もあったが、大したピンチにもならなかった。
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暫く進んだ一行は、突然森を抜け、遊園地の門の前に出た。
遊園地と言っても、遊園地の、廃墟である。
なぜこんなところに遊園地があるのか、誰にもわからない。しかしとにかく、目の前に遊園地の廃墟が、突然姿を現したのである。
入り口のゲートの手前からは、さび付いた観覧車と、ジェットコースターのレールが見える。灰色の曇り空、薄い霧――肝試しなら最高のシチュエーションである。
カナエもベルセルクの三人男も、その廃墟の不気味さに、恐怖を覚えた。
しかし、来てしまったものはしょうがない。
ミレンを先頭に、一行は遊園地に入ってゆく。
コーヒーカップ、錆が血の涙を流しているように見える、リスの描かれた廃バス。メリーゴーランド。
――テッテレレーレ チャラララ ラ~ラ……。
突然、音楽が流れ始めた。
安っぽい電子音のBGM。
メリーゴーランドが、がたがたと動き出す。
ぎゅっと抱き合うエトワとロッテ。ベルセルクの3人とミレンは、二人を守るようにひし形の陣を敷き、武器を構えながら周囲を警戒する。
「リアム、そろそろ変身した方がいいぞ」
カナエは、不安そうにきょろきょろと辺りを見回しているリアムに言った。
「でも――」
「大物が来る」
「……変身!」
リアムが叫ぶと、その体が光に包まれた。
そして――光が収まると、黒うさコスのリアムが姿を現した。
「うぉぉぉおお!」
「おおおお!」
魔物の声ではない。
ベルセルクだ。
リアムの黒うさコスを見て、興奮が抑えられなかったらしい。
イッヒッヒッヒッヒッヒ。
イッヒッヒッヒッヒッヒ。
イッヒッヒッヒッヒッヒ。
低い笑い声と、高い笑い声が、重なり合って聞こえてきた。
声の主は、すぐに姿を現した。
ソレは建造物の屋根や、物陰からぞろぞろと出てきた。黄色と赤のパッチワークの服に、帽子をかぶった、ピエロである。脚と腕は、サーベルのような刃物になっている。
「〈ブレードクラウン〉だ!」
ブレードクラウンは、空中に跳び上がり、くるくると回転しながら、8人に襲い掛かった。エトワは、ロッテを抱き寄せて、物理的な侵入すら防ぐ強固な守りの結界〈セイントバリア〉を展開した。
ガチン、ガチン――と、〈セイントバリア〉に攻撃を加えたブレードクラウンが、自分の力に跳ね返される。
「ミレン、これはダメだ、逃げよう!」
ベルセルクの一人が言った。
ミレンは、クラウンの攻撃を躱し、矢で反撃をしながら言った。
「もう囲まれてる! 私たちにはエトワがいるのよ、落ち着いて!」
ブレードクラウンは、動く刃物そのものだった。
俊敏で、一撃必殺の攻撃力を持ち、ゴブリンなどを遥かにしのぐ防御力を持っている。――強敵である。
ロッテが、恐怖から立ち直って、やっと戦いに参加した。
〈レビテーション〉から、得意の〈ダイアル・レイ〉。13本の虹色光線が、ブレードクラウンに突き刺さる。決まれば一撃必殺、恐ろしい威力である。
が、ブレードクラウンは一匹や二匹ではない。
派手な攻撃を仕掛けたロッテに、複数のブレードクラウンが反応した。いわゆる、〈タゲ〉がロッテに集中した状態である。
「ちょっ……ふぁっ!」
浮かぶロッテに、ブレードクラウンが体当たりを仕掛ける。体当たりと言えど、全身凶器であるブレードクラウンのそれは、斬撃と同じようなものである。
避けきれない体当たりを、ロッテは〈フォトンシールド〉で防いだ。星型の障壁が出現し、ブレードクラウンの刃をとめる。が――。
……ピシピシ。
バリンッ!
〈フォトンシールド〉は、押し負けて砕けてしまった。
衝撃を受けて、そのまま地面に落下するロッテ。地面にぶつかる手前で、ふわりと魔法の力が働き、小さくぽすんと、尻もちをつくように墜落する。
落下ダメージは免れたロッテだったが、ブレードクラウンは、ロッテをあっという間に取り囲んだ。
「ロッテちゃん!」
そこへ――黒うさソーサラーこと、リアムが飛び込んでいった。
目にもとまらぬ速さで、倒れたロッテの前に立ち、周囲を囲むブレードクラウンを見渡す。すうっと息を吸い込み、構える。
その立ち姿は、いつもの臆病で恥ずかしがり屋のリアムとは別人だった。
相手を穏やかに見つめながら、風にそよぐ野草のような自然体。
それでいながら、その身体の中には、苛烈な炎が渦巻いている。
ブレードクラウンの一匹が、リアムに飛びかかった。
鎌のようになった腕を振り下ろす。
リアムは自らその体を、ブレードクラウンの懐に滑り込ませた。右手をクラウンの首に入れ、腰を入れながら、一本背負いのような形をとる。ブレードクラウンの身体が弧を描き、背中から地面に叩きつけられた。
キヒキヒキヒキヒ……。
ブレードクラウンの鉄の身体が、白くキラキラと輝き始める。
リアムはブレードクラウンの胸部を手で圧迫し続ける。
ガチ、ガチっと音がして、ブレードクラウンの身体にヒビが入り――砕けた。
クラウンを倒したリアムは、すっと立ち上がった。
次の相手は誰だ――リアムの眼光は、そう言っていた。




