43 グレムリンネスト①
3月のアップデートで、ネストも一つ追加されていた。
〈グレムリンネスト〉――七つ目のネストである。
ネスト入り口のゲートから、8人のプレイヤーが姿を現した。〈ラブ・ネスト〉の4人と、そして、〈ドワーフ・ハウス〉の4人。合同PTである。
〈ドワーフ・ハウス〉は、その名の通り、鍛冶士を多数抱えるクランである。新しいクランだが、その創設メンバーは、皆ベテランである。
「私はマスターのミレン。よろしくね」
〈ドワーフ・ハウス〉のマスターはドワーフ的な筋骨隆々の男だと思っていたカナエは、驚いた。マスターのミレンは、ドワーフよりもむしろ、エルフである。白い肌、雪山に住む狼を思わせる銀の髪。
「カナエです、よろしく」
ミレンとカナエは握手を交わす。
ミレンとエトワはフレンドで、今回の合同PTは、その関係から持ち上がった話だった。
グレムリンネストのモブは、鍛冶で使う金属を落とす。ネストの奥に行けば行くほど大量の、または希少な金属が手に入るが、このネストのモブは、特に攻撃能力に優れ、プリーストなしでは思うように狩りができない。
そこで、ミレンからエトワに誘いがあったわけである。
それなら、とエトワが合同PTを持ち掛け、ミレンがそれを了承した。
「最初に、ルールの確認よ」
ミレンはそう言うと、メンバーを近くに集めた。
〈ドワーフ・ハウス〉のメンバーは、皆、男ベルセルクである。来ているメンバーは〈ドワーフ・ハウス〉の戦闘要員で、鍛冶士の免許を持っているのは、ミレンだけである。
「ドロップアイテムのうち、鍛冶に使う金属や鉱物は、〈ドワーフ・ハウス〉が、それ以外は全て〈ラブ・ネスト〉が所有権を有する。ここまではいい?」
一同、頷く。
「荷物持ちは〈ラブ・ネスト〉のマスター、カナエが担当する。彼は、積極的に戦闘には参加しない」
カナエは深くうなずいたが、ドワーフ・ハウスの面々は、首を傾げた。
なぜマスターが荷物もちなんだ、と皆が思っている。構成を考えれば、後方支援のエトワか、ビギナーのリアムが妥当である。
「PTの指揮権は私が持ち、メンバーはそれに従ってもらう。――大体こんなところだけど、大丈夫かしら?」
「荷物持ちは、彼でいいのか?」
ベルセルクの一人が言った。
カナエは、背中に大きなリュックを背負い、腰にもポーチをつけ、やる気満々である。スーツに登山家、あるいは山菜摘みのお婆ちゃんのようなその恰好は、ナンセンスとしか言いようがない。
「しっかりやるよ」
カナエは答え、いよいよ8人はグレムリンネストに踏み入った。
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ネストの始まりは、廃村のような地帯だった。
石造りの廃墟が、森の中にぽつん、ぽつんと点在している。ネストというよりも、心霊スポットである。エトワとロッテは、互いに手を握り合いながら、ミレンと二人のベルセルクの後に続く。
まだ変身していないリアムは、ロッテとエトワの後方を、ベルセルクを挟んで付いて歩いている。カナエは、一番後ろ、しんがりのポジションに落ち着いた。
炭のようなゴブリン――〈黒炭ゴブリン〉が、廃墟の中から登場した。
物陰から弓を放つ〈黒炭ゴブリン・アーチャー〉もいる。
エトワが〈セイント・カーテン〉を敷き、安全なエリアを作った。柔らかそうなセイント・カーテンのオーロラのような帯は、見た目に反して、ゴブリン・アーチャーの矢を全く寄せ付けなかった。
ベルセルクは、セイント・カーテンの中に突っ込んできたゴブリンを相手した。
ミレンは、ショートボウと矢筒を召喚した。二つで1セットの武器アイテムである。
ヒュン、ヒュン、ヒュン……。
引いて射る、引いて射る、引いて射る……無駄のない、確実な動作で放たれた矢は、その矢じりに一瞬の銀光を纏い、ゴブリン・アーチャーの額を貫いた。
「おぉ!」
カナエは、ミレンの戦いに、思わず声を上げた。
珍しい、〈アーチャー〉である。
何となく、ミレンに仲間意識を持つカナエだった。
モブとの最初の遭遇からほとんど間をおかずに、次のモブが廃墟の影から出てきた。
黒炭ゴブリンと、今度は新種が二匹。
一匹は懐中電灯のような光る眼をした大きなイノシシで、その四本の脚は、獣のそれではなく、蔓の束である。耳の部分には、黄色い花が咲いている。
もう一匹は、風船に翼が付いたようなモブで、ゆらり、ゆらりと翼をゆっくり動かしながら、浮遊している。スイカの種のような小さな黒い目があり、身体は青から緑、緑から黄色へと、ゆっくりと色を変化させている。象の鼻のようになった口が、ぶらーん、ぶらーんと揺れている。
カナエはオプションウィンドウを開いて、モブ辞典を出した。
イノシシのほうは〈プラントボア〉。風船の方は〈ポットタンク〉という名前であることが分かった。
「イノシシは任せて!」
プラントボアの突進を〈レビテーション〉で軽々と躱しながら、ロッテが言った。
「飛んだ!?」
「レビテーションか! すごいな!」
ベルセルクたちが、口々にロッテを褒める。ロッテはえへへーっと分かりやすく照れたが、そこへ――。
ブシャアアアアア!
ポットタンクが、そのホースのような口から、緑の液体を噴出した。気を緩めていたロッテは、液体を頭からかぶり、墜落した。
「ロッテ様!」
エトワが駆け寄る。
さらに追撃しようとするポットタンク。
その膨らんだ体に、ミレンの矢が放たれた。
矢は、ぶすっとポットタンクの腹に突き刺さり、そこから、緑の液体がぴゅうっとこぼれ始める。ポットタンクの体の色が真っ赤になった。
「こっちよ」
ミレンは続けざまに矢を放つ。
ポットタンクは、ミレンにタゲを移して、液体を放水した。
「こいつは俺たちがやる!」
ロッテを狙って鼻息を荒くしていたプラントボアに、ベルセルクの一人が斬撃を浴びせた。プラントボアの傷口から、ぶわっと雑草が出てきて傷を塞いだ。
「あ~~、目が回るぅうう~~」
ロッテは、幻覚を見ていた。
ぐわんぐわんと頭を揺らしている。
エトワはロッテの額に手をかざし、解毒魔法スキル〈キュア〉をかけ始めた。
カナエは、オプションタトゥーで、現在位置のエリアランク情報を取得した。
――エリアランクB。
一般的なネストであれば、ゲート付近のエリアはDランク程度である。ところがこのネストは、ゲートからさほど進んでいないこの位置で、すでにBランク。
日によってエリアランクが大幅に変わる、ランク変動性のネスト。
あらゆる意味で、グレムリンネストは、特殊なのであった。




