表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/85

43 グレムリンネスト①

 3月のアップデートで、ネストも一つ追加されていた。

 〈グレムリンネスト〉――七つ目のネストである。

 ネスト入り口のゲートから、8人のプレイヤーが姿を現した。〈ラブ・ネスト〉の4人と、そして、〈ドワーフ・ハウス〉の4人。合同PTである。


 〈ドワーフ・ハウス〉は、その名の通り、鍛冶士を多数抱えるクランである。新しいクランだが、その創設メンバーは、皆ベテランである。


「私はマスターのミレン。よろしくね」


 〈ドワーフ・ハウス〉のマスターはドワーフ的な筋骨隆々の男だと思っていたカナエは、驚いた。マスターのミレンは、ドワーフよりもむしろ、エルフである。白い肌、雪山に住む狼を思わせる銀の髪。


「カナエです、よろしく」


 ミレンとカナエは握手を交わす。

 ミレンとエトワはフレンドで、今回の合同PTは、その関係から持ち上がった話だった。


 グレムリンネストのモブは、鍛冶で使う金属を落とす。ネストの奥に行けば行くほど大量の、または希少な金属が手に入るが、このネストのモブは、特に攻撃能力に優れ、プリーストなしでは思うように狩りができない。


 そこで、ミレンからエトワに誘いがあったわけである。

 それなら、とエトワが合同PTを持ち掛け、ミレンがそれを了承した。


「最初に、ルールの確認よ」


 ミレンはそう言うと、メンバーを近くに集めた。

 〈ドワーフ・ハウス〉のメンバーは、皆、男ベルセルクである。来ているメンバーは〈ドワーフ・ハウス〉の戦闘要員で、鍛冶士の免許を持っているのは、ミレンだけである。


「ドロップアイテムのうち、鍛冶に使う金属や鉱物は、〈ドワーフ・ハウス〉が、それ以外は全て〈ラブ・ネスト〉が所有権を有する。ここまではいい?」


 一同、頷く。


荷物持ち(バックパッカー)は〈ラブ・ネスト〉のマスター、カナエが担当する。彼は、積極的に戦闘には参加しない」


 カナエは深くうなずいたが、ドワーフ・ハウスの面々は、首を傾げた。

 なぜマスターが荷物もちなんだ、と皆が思っている。構成を考えれば、後方支援のエトワか、ビギナーのリアムが妥当である。


「PTの指揮権は私が持ち、メンバーはそれに従ってもらう。――大体こんなところだけど、大丈夫かしら?」


「荷物持ちは、彼でいいのか?」


 ベルセルクの一人が言った。

 カナエは、背中に大きなリュックを背負い、腰にもポーチをつけ、やる気満々である。スーツに登山家、あるいは山菜摘みのお婆ちゃんのようなその恰好は、ナンセンスとしか言いようがない。


「しっかりやるよ」


 カナエは答え、いよいよ8人はグレムリンネストに踏み入った。



 ネストの始まりは、廃村のような地帯だった。

 石造りの廃墟が、森の中にぽつん、ぽつんと点在している。ネストというよりも、心霊スポットである。エトワとロッテは、互いに手を握り合いながら、ミレンと二人のベルセルクの後に続く。

 まだ変身していないリアムは、ロッテとエトワの後方を、ベルセルクを挟んで付いて歩いている。カナエは、一番後ろ、しんがりのポジションに落ち着いた。


 炭のようなゴブリン――〈黒炭ゴブリン〉が、廃墟の中から登場した。

 物陰から弓を放つ〈黒炭ゴブリン・アーチャー〉もいる。

 エトワが〈セイント・カーテン〉を敷き、安全なエリアを作った。柔らかそうなセイント・カーテンのオーロラのような帯は、見た目に反して、ゴブリン・アーチャーの矢を全く寄せ付けなかった。

 ベルセルクは、セイント・カーテンの中に突っ込んできたゴブリンを相手した。


 ミレンは、ショートボウと矢筒を召喚した。二つで1セットの武器アイテムである。

 ヒュン、ヒュン、ヒュン……。

 引いて射る、引いて射る、引いて射る……無駄のない、確実な動作で放たれた矢は、その矢じりに一瞬の銀光を纏い、ゴブリン・アーチャーの額を貫いた。


「おぉ!」


 カナエは、ミレンの戦いに、思わず声を上げた。

 珍しい、〈アーチャー〉である。

 何となく、ミレンに仲間意識を持つカナエだった。


 モブとの最初の遭遇からほとんど間をおかずに、次のモブが廃墟の影から出てきた。

 黒炭ゴブリンと、今度は新種が二匹。

 一匹は懐中電灯のような光る眼をした大きなイノシシで、その四本の脚は、獣のそれではなく、蔓の束である。耳の部分には、黄色い花が咲いている。


 もう一匹は、風船に翼が付いたようなモブで、ゆらり、ゆらりと翼をゆっくり動かしながら、浮遊している。スイカの種のような小さな黒い目があり、身体は青から緑、緑から黄色へと、ゆっくりと色を変化させている。象の鼻のようになった口が、ぶらーん、ぶらーんと揺れている。


 カナエはオプションウィンドウを開いて、モブ辞典を出した。

 イノシシのほうは〈プラントボア〉。風船の方は〈ポットタンク〉という名前であることが分かった。


「イノシシは任せて!」


 プラントボアの突進を〈レビテーション〉で軽々と躱しながら、ロッテが言った。


「飛んだ!?」


「レビテーションか! すごいな!」


 ベルセルクたちが、口々にロッテを褒める。ロッテはえへへーっと分かりやすく照れたが、そこへ――。


 ブシャアアアアア!


 ポットタンクが、そのホースのような口から、緑の液体を噴出した。気を緩めていたロッテは、液体を頭からかぶり、墜落した。


「ロッテ様!」


 エトワが駆け寄る。

 さらに追撃しようとするポットタンク。


 その膨らんだ体に、ミレンの矢が放たれた。

 矢は、ぶすっとポットタンクの腹に突き刺さり、そこから、緑の液体がぴゅうっとこぼれ始める。ポットタンクの体の色が真っ赤になった。


「こっちよ」


 ミレンは続けざまに矢を放つ。

 ポットタンクは、ミレンにタゲを移して、液体を放水した。


「こいつは俺たちがやる!」


 ロッテを狙って鼻息を荒くしていたプラントボアに、ベルセルクの一人が斬撃を浴びせた。プラントボアの傷口から、ぶわっと雑草が出てきて傷を塞いだ。


「あ~~、目が回るぅうう~~」


 ロッテは、幻覚を見ていた。

 ぐわんぐわんと頭を揺らしている。

 エトワはロッテの額に手をかざし、解毒魔法スキル〈キュア〉をかけ始めた。


 カナエは、オプションタトゥーで、現在位置のエリアランク情報を取得した。

 ――エリアランクB。

 一般的なネストであれば、ゲート付近のエリアはDランク程度である。ところがこのネストは、ゲートからさほど進んでいないこの位置で、すでにBランク。


 日によってエリアランクが大幅に変わる、ランク変動性のネスト。

 あらゆる意味で、グレムリンネストは、特殊なのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ