42 初対面
黒うさソーサラーの男の娘――リアムに妙に懐かれてしまったカナエは、流れで、彼をクランホールに連れてきたのだった。
クランホールは、なかなかファンシーなことになっていた。
もともとここはカナエのプライベートルームだったが、今やカナエに、部屋の管理権はない。ぬいぐるみやらクッションやらの可愛いものは、ロッテである。モールや露店でお気に入りを見つけると、すぐに買ってきて部屋に飾るのだ。
繊細な銀線細工の小物や皿、ティーカップやポットは、エトワである。最初にカナエが買った小さなテーブルには白のテーブルクロスが敷かれ(裾の部分には金の刺繍が入っている)、テーブルの真ん中には、お菓子を乗せる三段の銀のトレイが置かれている。トレイには、マカロンとクッキーが入っている。
「うわぁ……」
リアムは、ロッテの買ってきたぬいぐるみや、エトワの選んだ瀟洒な食器などを見て、感動していた。
リアムが女の子に見える理由は、その外見もさることながら、中身の女の子っぽさなのではないかと、カナエは思った。
「いいですね、このクランホール」
「お菓子食べていいよ。マカロンは違うけど、そのクッキーは、うちのメンバーが作ったやつだから」
「いいんですか!?」
「どうぞ」
リアムは席について、リスの様にちっちゃくクッキーを齧った。一つ、300Mのクッキー。値下がりしたとはいえ、ぼったくりだろうとカナエが思っている、ロッテのクッキーである。
「おいしいです」
「そりゃ……良かった」
でも本人には言うなよ。勘違いするから。
――なんてことを思うカナエだった。
そこへ、二人が帰ってきた。
エトワとロッテは、すっかり仲良くなって、最近はよく、二人でネストに行ったりしている。
「あ、お客さんだぁ」
ロッテは、ふんわりした笑顔をリアムに見せた。
するとリアムは――。
「ひぃ!」
ものすごい勢いで、俺の後ろに隠れた。
ガタンと、バランスを失った椅子が、倒れる。
「……ロッテ、お前、この子に何をした」
「何にもしてないよ!? な、何で逃げるの!」
ロッテが、カナエと、カナエの後ろのリアムに近づく。
リアムは、ふるふると震えて、ぐいぐいと、カナエの袖を強く引っ張った。なんだかよくわからないが、本気で怖がっているのを感じて、カナエはショットガンを出すと、ロッテに向けた。
「なっ何!? なんでぇー!?」
「それ以上近づくな!」
「ひどいよ!? エトワさん、マスターがひどいよ!?」
「何か事情が――」
「クラメンに銃を向けるって、どんな事情なの!? な、なんでそんなに怯えてるの……!」
ロッテの言葉に、びくっと肩を震わせるリアム。
カナエはショットガンをしまい、頭を掻いた。
「森の中でワルに襲われてたんだ。名前はリアム、ビギナーだよ」
「ねぇ、それ答えになってないよ! 私はワルじゃないよ!?」
「こらロッテ、少し落ち着きなさい」
「だって……!」
「あと、この子は、男の子だ」
「嘘でしょ!?」
「まぁっ!」
紹介されると、リアムは顔を赤らめて、ひしっとカナエに抱きついた。
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部屋の片隅にカナエとリアム、その対角線の隅にロッテとエトワ。二者の真ん中にはテーブルがぽつんと置かれている。何ともおかしなことになったなと、カナエは思うのだった。
「女性恐怖症?」
「はい……」
リアムは、カナエに打ち明けた。
「お、女の人が、怖いんです……」
「なるほど」
ロッテとエトワは、ショックを受けたようだった。
「ごめんなさい、良くしてもらって、クランホールにまで入れてもらったのに、こんな――」
「いや、気にすることはないよ。誰だって苦手の一つや二つはある」
「そうだよ! リアム君が私の事を苦手でも、私、だ、大丈夫だよ!」
涙目のロッテであった。
ロッテが励まそうと言葉を発するたびに、リアムが震える。それを見てロッテは、さらにショックを受けるという悪循環。
「……本当は、それを克服するために、このゲームを始めたんです。ゲームでなら、女の人とも、お、お話ができるんじゃないかと思って。でも、やっぱり僕は――」
「まぁまぁ、諦めるのはまだ早い」
「でも――」
「リアム、このクランに入ってみないか。メンバーは、俺と、ロッテと、エトワだけ。俺はいいとして、ロッテもエトワも、ひどいことはしないよ」
「僕なんかが、いいんですか!?」
「いいよ!」
答えたのは、ロッテだった。
身を乗り出したロッテに、リアムは怯えてカナエの後ろに隠れる。
「じゃあ決まりだ。この子の育成係は――」
カナエは、後ろに隠れているリアムを前に出した。
「ロッテ、任せた」
カナエはそう言うと、リアムの両肩を後ろから掴んで、ぐいぐいと真ん中のテーブルまで進んだ。ロッテは椅子から飛び降りて、それこそ兎のように、テーブルに近づいた。
緊張してしゃべれないリアムに、ロッテは笑顔を見せて、
「よろしくねぇ」
言ったのだった。
「ロッテ」
「なあに?」
「先輩風を吹かせようとしている所悪いけど、たぶん、この子の方が年上だぞ」
「え!」
カナエの見立て通り、それは事実なのだった。
真っ赤になって俯くリアムは、ロッテよりもちょっとだけ背が高い。
「よ、よろしく……」
リアムは、蟻のような声で言った。
ロッテはそれに感動して、ばっと手を差し出した。
リアムは、その差し出された手に――怯えてカナエの後ろに隠れた。
「私、ま、負けないからね!」
決意するロッテであった。




