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39 カナエ、7日で家を買う

「どうよ、ミム」


 アゼリア郊外の一軒家。

 煉瓦の街並みの外側に、その家はあった。この度、カナエが購入したプライベートルームである。もともと二階建ての物件だったが、その用途から、平屋にしてもらった。


 ミムは目をキラキラ輝かせて、建物を見つめていた。

 テッシュ箱に三角い屋根をつけたような、ざっくり言ってしまえばそんな形をしている。正面玄関は通りから向かって左の隅、玄関の右には等間隔で四角い窓が五つ取り付けてある。


 ミムは階段を上がり、大きめに作られた白い扉を押し開けた。

 キーっと、蝶番(ちょうつがい)が擦れる音がする。


 ガランとした四角い部屋。

 建物の3分の2ほどは武器売り場、残りの部分は、作業部屋となっている。売り場と作業部屋は壁で仕切られ、二つの部屋は、カウンター奥の扉のない四角い出入り口で繋がっている。


「ありがとうございます、カナエさん!」


 ミムは、透明な四つの翅を、小刻みに動かして喜びを表現した。

 一方で、ミムには疑問もあった。


「でも、どうやってこんなに早く――」


 ミムは、カナエに金がないのを知っていた。

 ショットガンの修理費30万Mを後払いにしたくらいである。100万のショットガンを衝動買いのように買っていったのにも驚いたが、そこはミムも商売をしていた妖精で、プレイヤーの懐具合は、言動や立ち居振る舞いで何となく察することができた。


「まぁ、いろりろとね」


 おかげでまた、すっからかんだよ、という言葉は飲み込んだカナエだった。

 とはいえ、一週間で350万M――カナエは、我ながら大儲けできたものだなと、ある種の満足感も味わっていた。


「――それで、職人の方は見つかった?」


 カナエが質問すると、ミムはおもむろに、ピンク色の金づちを取り出した。


「……え?」


「私が作ります!」


「え!?」


「頑張りますからぁ!」


 雲行きが怪しくなってきたが、カナエはもう、後には引けなかった。二階建てを一階建ての平屋にして、内装も変えてもらった。この建物を明け渡して売ったとしても、大赤字である。


「うん……ミム、俺、信じてるよ」


 そう言って、カナエは顔を手で覆った。



「ついに来ましたね、カナ君。ほら、見てくださいよこれ」


 ケイは、金髪ツンツンヘアーのベルセルクに話しかけた。

 UC課に所属するエージェント、レクス――元プレイヤーである。


「ほぉ……」


 モニターの一つに映し出されているランキング表を見、そこに表示されている「カナエ」という名前に、少なからず興味を抱いた。


 先週のモンスターハウスのSランク。

 そのクリアタイムにおいて、全ての日で1位を取っているプレイヤーがいた。


 ――カナエ。

 7日連続一位、自動的に、ウィクリーランキングでも1位。

 GMのエージェントといえども、そう簡単に達成できる記録ではない。


「それから、これです」


 ケイは、別のモニターに、ある戦闘の映像を映し出した。

 コロシアム。

 デュエル・アリーナ個人戦。


 カナエと対峙するもう一人――金髪縦ロールのツインテールソーサラー。

 太腿の中ほどまでの丈の、ぴったりした黒のワンピースを着、尖った襟の長袖の革ジャンを羽織っている。銀のネックレスが垂れ下がった胸元は、その谷間の際どい部分が露わになっていて、彼女が少しでも動くと、豊富な二つの胸が、ぼよんと、その弾力を見せつけるように揺れる。


「ルシアじゃねぇか……これ、戦ったのか!?」


「えぇ、昨日」


「賞金戦か?」


「100万M賭けてます」


「賞金戦にしちゃ高額だな」


「カナ君が値を釣り上げたんです」


「仕掛けたのは、こいつなのか?」


「いえ、賞金戦の募集を出していたのは、ルシアさんです」


「あいつ、定期的にやってるからな」


 戦いが始まり、二者が動いた。

 ルシアは、炎の魔法を使うソーサラーである。

 早速、アリーナの上空に無数の赤い魔方陣が現れ、そこから、大量の火球がカナエめがけて降り注いだ。炎ソサといえばこのスキル、という有名どころ、〈メテオストーム〉である。


 カナエはそれを、飛んだり跳ねたりして躱し始める。

 今度は地面に、無数の魔法陣が光り始めた。

 直後、その魔法陣から火柱が上がった。〈フレイムタワー〉、通称「火柱」というスキルである。


 カナエは、ルシアを中心に、円を描くように走って逃げている。

 〈メテオストーム〉の火球の雨と〈フレイムタワー〉が持続的に発動する中、ルシアはさらに、〈ファイヤーアロー・ラッシュ〉を使った。ルシアの周囲に、無数の火の矢が現れ、それが、一斉にカナエ向かって放たれた。


 カナエはそれを、地面にぱっと伏せてやり過ごした。

 地面につけた胸の下には、すでに〈フレイムタワー〉の魔法陣が光っている。カナエは転がって火柱を避け、飛んできたメテオを、立ち上がりざまの後方宙返りで躱した。


「おぉ、マジかよこいつ!」


 レクスが叫んだ。


「カナ君、ガチで体操やってたらしいですからね」


「おいおい、まさかこれ、ルシア負けるんじゃねぇだろうな!?」


 カナエは、ひたすら逃げ続ける。

 〈メテオストーム〉、〈フレイムタワー〉、〈ファイヤーアロー・ラッシュ〉に加えて、さらに火の竜巻〈ギドラ〉が追加された。砂が舞い飛び、暴風は、カナエを竜巻の中に引きずり込もうと吹き荒れる。


「いつ見ても、ホント派手ですよね、ルシアさんの魔法」


「あいつ、よく生きてるな。逃げ足だけは感心するぜ」


「そうですね」


 ケイが笑う。

 ルシアは、もう一つ〈ギドラ〉の炎渦(えんか)を増やした。

 もはや、カナエに逃げ場はなかった。

 さらにルシアは、逃げ場が無くなり、竜巻に挟まれるようにして立ち止まったカナエに向けて、両手を突き出した。その先に赤く巨大な魔方陣が出現し、次第にその光を強めていった。


 ルシアが何か叫んだ。

 声は、暴風とメテオの落ちる音でかき消されて聞こえない。

 地面が揺れ、魔法陣から光が溢れる。


 ――そして。

 モニターが光で満たされた。


「オーバーキルだぜ、ルシア……」


 レクスが呟いた。


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