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37 ミムの提案

『カナエさん、私です、九階武器エリア担当の、ミムです』


 泣きそうな声で、カナエのもとにVCがあった。


「どうしたの?」


 すでに、ショットガンの修理費30万Mは支払い済みである。

 一体何だろうかとカナエは眉を顰めた。


『妖精の分際で図々しいのは百も承知で、お願いします。カナエさん、相談に乗ってもらえませんか』


 ――というわけで、二人は〈美の広場〉にあるライブバーで落ち合うことになった。


 ちなみに、〈美の広場〉は〈石柱広場〉の真南にあり、画廊などの展覧会館、メサイヤACTシアター、最近では被服品のみを総合的に扱う、ファッションモールという建物ができた。


 ライブバーは混んでいた。

 2月のアップデートで衣装が作れるようになって以来、〈美の広場〉にもプレイヤーが集まるようになっていた。


「カナエさん、ありがとうございます。すみません、わざわざ……」


「全然いいよ」


 若い4人組ロックバンドの演奏が始まった。

 ノリノリの曲に、店内のプレイヤーや、音楽を聴きに来ていた妖精が体を縦ノリに揺らし始める。


「今月いっぱいで、武器モールの九階がなくなります」


「え!?」


「各フロアが拡張されて、九階にあった武器の半分は、下の階に移されます」


「あとの半分は……?」


「処分です……」


「ええと……銃は?」


「無くなっちゃいます……」


 近々、モール内の売れ残りアイテムを処分するため、メサイヤ広場において、ミニゲームイベントが開催される。くじ引きやら輪投げやら、ビンゴゲームやらの屋台が出て、モールの処分品は、その景品として出されるのだ。


「それは、困るよ……」


「すみませんすみません、私の力が及ばず」


 カナエは、頭を抱えた。

 ミムが悪いのではないことはよくわかっていた。何が悪いといえば、「銃」の性能を低く設定しすぎた運営である。こうなることは、予想できなかったのだろうかと、今や運営側のスタッフでありながら、憤るカナエだった。


「ってことは、もう銃を、買えないってこと?」


「はい……」


「メンテナンスは!?」


「できなくなります」


「嘘だろう……」


 恐らく、銃が無くなったところで、メサイヤの99.999パーセント以上のプレイヤーは、困らないだろう。「銃」というカテゴリーがこの世界から消えたことすら気づかないかもしれない。


 しかし、カナエにとっては死活問題だった。

 メンテナンスができなければ、今持っている銃もいずれは使えなくなる。世の中には自己再生能力を有する武器や防具もあるが、銃に限って言えば、そんな銃は、ある二丁を除けば、皆無である。


「何とかならないかな」


「……」


「頼むよミム、俺、何でも――うん、できる限り何でもするよ。真面目に、銃が無くなったら生きていけないよ」


「本当はいけない事なのですが――」


 そう前置きして、ミムがある紙をテーブルの上に出しだ。

 それは、今月いっぱいで無くなる武器のリストだった。

 トンファー、ヌンチャク、棍棒類、吹き矢、手裏剣、チャクラム、鎌等々……――いずれも、素人では扱えないような武器である。そして銃も、しっかりそのリストに入っている。


「九階がなくなったら、君はどうするの?」


「私は、一階の槍コーナーを任されることになっています」


「それはそれは、大出世だね……」


「いいえ、カナエさん。私は……私はやっぱり、九階の武器が恋しいです」


「でも、無くなるんじゃ仕方ないよね……」


「アイテムモールには、もう場所がありません」


「うん」


「でも、場所は作れると思うんです」


「――それはつまり……?」


「銃をはじめ、今回追い出される武器を作る武器職人を募り、店を出すんです」


 カナエは、再び廃品武器一覧に視線を落とした。

 隙間市場を一手に引き受けるというのも、経営戦略としては悪くない発想なのかもしれない。しかし、とカナエは思うのだった。そういう武器を使ったプレイスタイルで、稼げるほどのプレイヤーがどれくらいいるのだろうか。


 その武器で稼げないということは、武器そのものの価格も安くしなければいけないということである。そして当然、品物を安くすれば、それだけ職人の稼ぎも少なくなる。稼ぎが低いのを承知で、そんなニッチ武器を生産する物好きが、果たしてどれくらいいるだろうか。


「カナエさん――」


「いや、俺は無理だよ。武器を作るなんて……」


 しょんぼりするミム。

 しかし次の瞬間、ミムは再び顔を上げた。

 その目は、決意に満ちていた。


「わかりました。職人は、私が何とかします」


 何かあてがあるらしかった。

 ミムは言った。


「私たち妖精は、建物を買うことができません。カナエさん、力を貸してもらえないでしょうか」


「店を――建物を購入してほしいということか」


「はい。どうか、お願いします」


 すっと頭を下げるミム。

 カナエは、困ってしまった。「よし、やってみろ」と、潔く札束を(ここでは金貨だが)を放ってやれるほど、カナエには金銭的な余裕がなかった。余裕がないどころか、今はエトワに借金中の身の上である。


 しかし、銃がないとなれば、困るのはカナエである。活動できなくなってしまう。そうなるとそのうちGMを辞めさせられるかもしれない。それはつまり、会社をクビになるのと同じことだ。


 会社をクビになったらどうなるか。

 どうにもならなくなる。

 リアルが無理ゲーになってしまう。


 まずい、ミム以上に、俺の方が遥かにまずい。

 カナエはそれに気づき、真っ青になった。


「協力させてください!」


 カナエは、ミムに思い切り頭を下げた。


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