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29 ロッテ

 カナエは、アゼリアに来ていた。

 王立第二番目の都市で、町の規模はメサイオンや、港町グラノーベルには及ばないが、その街並みの美しさから、アゼリアを拠点にするプレイヤーも少なくなかった。


 アゼリアは、川と緑の町である。

 赤土色の、レンガ造りの建物が連なり、町の中央広場にはギルド会館の時計塔が建っている。川沿いの道は石畳が敷かれ、街路樹が並んでいる。小さな庭や花壇が、町のそこかしこにある。


 カナエは、アゼリアは初めてだった。

 ゲートを出て最初に感じたのは、空気の美味しさだった。アゼリアは、高地に開かれた町で、三方を山に囲まれている。雲が、とても近くを流れている。


 それなりに人通りはあるが、メサイオンに比べると、静かな町である。

 カナエは広場を出て、川沿いの道を歩いた。

 川の音が寒々と続き、絶え間ない流れを感じさせる。


 暮らすには良いが、冒険には物足りない場所だなと、カナエは思った。

 しかしメサイヤ・オンラインのプレイヤーが皆、バトルの為にログインしているかといえば、そういうわけでもない。旅行、観光というスタンスでこの世界にやって来るプレイヤーも、一定数存在する。そういう人たちは、メサイオンよりも、こっちのほうが好みだろう。


 街角に、店が出ていた。

 クレープ屋だ。

 ――なんと、クレープ屋である。


 2月のアップデートにより、食材アイテムが追加された。モールで買うか、農士から買うかだが、農士の少ない今は、食材はモールで買うのが主流だ。その食材を利用して、プレイヤーは料理をすることができるようになった。

 料理好きのプレイヤーは店を買い、そこで料理人プレイをすることもできるが――どうやらこのクレープ屋は、そういうプレイヤーの店らしかった。


 店はガラス張り。

 中を覗き、カナエは、探していた人物を発見した。

 カナエは店に入り、その人物のテーブルに近づいた。小学校高学年くらいの女の子である。いや、彼女が11歳だと、カナエは知っていた。冒険者が最初に貰う布の服を着て、小さなお口でクレープを食べている。


「こんにちは」


 カナエは、声をかけた。

 少女は――少女の名前はロッテという。ロッテは、突然声を掛けられて、ほぇとカナエを見上げた。


「こ、こんにちは。ええとぉ……」


「今ちょっと、クランメンバーを探してるんだ」


「は、はぁ~……」


「うちのクランに、入らない?」


「え……?」


 まずい、完全に困らせていると、カナエは気づいた。しかしそれ以上に、カナエの方が困っていた。ロッテが、どこのクランにも所属していない、フリーであることは、すでに知っている。だが、だからといって、勧誘すれば必ず入ってくれるわけでもない。


「〈ラブ・ネスト〉ってクランなんだけど……」


 沈黙はいけないと思い、とりあえずカナエは、クランの名前を出してみた。そして、すぐに猛省した。クランの名前を言った瞬間、ロッテが引いた。


「いや、そういうクランじゃないよ。今メンバーは俺ともう一人で、あぁ、そうだ、俺の名前はカナエ、ごめん、言い忘れてた」


 ロッテ、かなり困っている。

 そこへ、部外者がやってきた。


「おい、嫌がってるだろ、やめろよ」


 ブロンド髪のベルセルクだ。

 まさか自分がこのセリフを、言われる側になるとは思っていなかったカナエは、すさまじく動揺した。


「嫌がってはないだろ!」


 そう、嫌がってはないのだ、彼女は、たぶん。

 ただ、困惑しているだけで。


「その辺にしておけよペド野郎。とっとと失せな」


 別のテーブルでクレープを食べていた集団の一人が、カナエにそう言った。しかしカナエは、ここで引くわけにはいかない理由があった。そしてまた、自分の名誉のためにも、引くわけにはいかなくなった。

 ――俺は、ペド野郎なんかじゃ、断じてない。


「いや、ロッテ! この世界は、君みたいな小さい子には危険なんだ。乱暴な人もいっぱいいるし、君みたいな可愛い子を誘拐しようとか考えてる、怪しい大人だっているんだよ。〈ラブ・ネスト〉に入れば、そういう心配をせずに、心置きなくメサイヤライフを満喫することができるんだ!」


 身振り手振りで説明するカナエ。

 ロッテは、怯えてた瞳で、カナエに質問した。


「なんで、私の名前を、知ってるんですか……?」


「いや、それはその……いろいろ聞いてて……」


「聞いたって、誰からですか!?」


「あ、いや、その関係者から」


「関係者って誰!?」


 周りにいたプレイヤーが、武器を持って立ち上がった。

 少女を守れ。

 合言葉は、「YES ロリータ NO タッチ」。


「ちょ、待って待って、本当に誤解なんだって! ねぇロッテ、俺怪しくないよ!?」


「わかったわかった、言い訳は署で聞く」


「まぁまぁ、アンタまだ若いんだから」


 両脇を押さえられ、ロッテから引きはがされるカナエだった。


「や、やめろ! 前たちには関係ないだろう!」


 カナエは邪魔を振りほどいて、再びロッテのもとに駆け戻った。が、アーマー武装したプレイヤーが、カナエの前に立ちはだかった。


「マナー守れよ変態野郎」


「誰が変態だ。俺はあの子をクランに勧誘してるだけなんだぞ。邪魔するなよ」


「ほぅ、年端も行かない少女を、か。このド変態が!」


「変態言うな! いいからどいてくれよ」


「ここを通りたければ、俺を倒してかr――」


 ズバアアアン……。

 ガシャリ……。

 先手必勝。カナエのショットガンが火を噴いた。


「やりやがったな! 殺せ、この変態をぶっ殺せ!」


「「「「YES ロリータ NO タッチ」」」」


 カナエは一瞬で包囲された。

 ロッテが、走って店を出てゆく。


「あぁ、待って! ロッテ、カムバーク!」


「行かせるか!」


「「「「YES ロリータ NO タッチ」」」」


「何なんだよお前ら!」


 戦いが始まった。


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