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25 ココア

 なぜバレンタインデーのイベントに、ハロウィーンモブが混じっていたのか、プレイヤーたちは酒場で、その疑問を面白可笑しくしゃべるのだった。


 一方メサイヤ運営局、会議室。

 局長、局長補佐、ジェネラルと呼ばれている総務部部長の局三役、そして、メサイヤオンライン事業部の部長は、テーブルを囲んでいた。


「――疑問の声もありますが、事業に支障の出るレベルのものではありません」


 事業部部長が発言した。

 皆、ほっと胸をなでおろす。


「ですが、今回は運が良かっただけです。資料でも確認しましたが、なぜこのようなことが起こったのか、分析はできているのですか?」


「ヒューマンエラーです」


 ジェネラルが答えた。


「どのようなエラーをすれば、チョコがカボチャに変わるんですか」


 事業部部長の突っ込みに、局長補佐が笑う。

 いや、笑い事ではなかった。


「承知の事とは思いますが、2月には二つのアップデートがありました。一つはバレンタイン企画、もう一つは、職業システムの実装。職業システムに費やすタスクが多すぎて、バレンタインイベントに関するデバック作業が不十分になってしまいました」


 それを受けて、局長が運営部部長に言った。


「前に提言した通り、スタッフが不足しています」


「スタッフを増やすことはできません。次回リミテッド・リリースに向けて、多少の枠は確保できますが」


「4月は無謀です」


「次回リリースは4月、これは社の決定です。知っての通り、すでに外部には、そのように発信しています。間に合わせてもらいたい」


 局長、局長補佐、ジェネラルの三者は、苦い顔をして腕を組んだ。


「できなければ、事業そのものの継続が危ぶまれます。来年初めまでには、100万ユーザーを獲得する。それができない場合には、本社はこの事業を回収すると、先日の会議で、私も念を押されました」


 会議室に、沈黙が流れる。


「今回の4月も、本当は今年の1月予定でした。私にできるのは、ここまでです。あとは、皆さんの仕事です。よろしくお願いします」


 そう言って、部長がログアウトした。

 局三役は、はあっと、椅子の背もたれに体を預けた。


「まったくあの鉄仮面……」


 局長補佐が言うのを、局長が宥めた。


「いや、彼女はあれで、この世界が好きなんだ。まぁ、なんとかするしかないだろう。ミスタージェネラル、実際どうなんだ?」


「差し迫った問題は、武具が不足していることです。修理に三日以上かかって、プレイヤーにストレスを与えています。リミテッド・リリースを考えると、問題は深刻です」


「鍛冶を、プレイヤーの手に預ける、か」


「職業システムを実装したのに、なぜ鍛冶屋が出ないんだ、という意見もだいぶ出ています」


「そりゃあ、いずれ鍛冶もプレイヤーにやらせた方がいいに決まってる。が、そう簡単じゃないんだろう?」


「ジェネラル、3月にできないか?」


「来年の、ですか?」


「いや、今年だ」


 局長の言葉に、局長補佐とジェネラルは言葉を失った。


「ひと月で、鍛冶システムを構築しろ、ということですか?」


「そうだ」


 頭を抱え、半笑いの局長補佐。

 ジェネラルは顎に手を当て、それから答えた。


「やるしかないですね」


 苦境に立たされたジェネラルの瞳に、炎が宿った。



 カナエとエトワは、クッションの上に置いた、チョコレートの卵をじっと見つめていた。先日倒したチョコットドラゴンからのドロップ品である。アイテム鑑定所では、〈卵型のチョコ〉と鑑定されただけだった。


 が、カナエは何か違うものを感じていた。

 食べるには忍びないと感じさせる何かが、この卵にはあった。


「あっ……今、今、動きましたわ!」


 エトワがはしゃぐ。

 確かに、卵は、ほんのちょっとだけ動いた。卵はひとりでに、小刻みに何度か動き、やがて――ヒビが入った。


 ピキシ、ピキシ、ヒビが広がってゆく。

 こつんこつんと、中から嘴でつつくような音。

 パラパラと、卵の一部に、小さな穴が開いた。

 コツン、コツンと音がするたびに、穴は広がってゆく。

 やがて――ぼろっと大きな穴が開いた。


「ピーピー」


 そこから顔を覗かせたのは――真っ白いヒヨコっぽい何かだった。

 パキパキと卵を半壊させ、そこから体の半分を出した、ヒヨコっぽい何かは、半身をクッションの上に乗せ、眠った。卵を壊して、疲れたのかもしれない。


「な、なんて可愛いのでしょう……」


 エトワが感動して声を上げた。

 幼鳥とトカゲを合わせたような、不思議な外見をしている。翼っぽいものもあるが、手や足もある。エトワは、興奮した声でカナエに質問した。


「カナエ様、飼ってもよろしいかしら」


「どうぞどうぞ」


 ごくごく一部のプレイヤーは、妖精やモブに好かれて、それを育てたり、一緒に行動したりしているという。そういう話を、カナエは聞いていた。隠しクラスじゃないか、ということで、そういうプレイヤーは〈テイマー〉などと呼ばれている。


 エトワが恐る恐るソレに指を近づけると、ソレはエトワの体温を感じ取ったのか、目を閉じたまま、エトワの指にまとわりついた。


「まぁ、普通に考えたら、チョコットドラゴンからドロップしたということは、チョコットドラゴンの幼体、ということになるよね」


「まぁ!」


「本当にこのゲーム、何でもありだな……」


「お名前、どうしましょう……!?」


「つけたらいいよ」


「いいえ、お名前は、カナエ様が」


「じゃあ――そうだなぁ……。ココアで」


 チョコといえば、という連想でカナエはすぐに決めた。〈ビター〉とか〈カカオ〉よりもいいだろうという脳内判断があった。


「ココア様! うふふ、貴方は今日からココア様です。よろしくお願いしますね」


 ココアを手に乗せて、ちゅっとキスをする。

 ココアもそうだが、エトワが反則的に可愛らしかった。


「カナエ様! この子、甘い良い香りがしますわ!」


「そりゃあ、チョコだからね……」


 思いもよらぬバレンタインデーのプレゼントだった。


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