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24 バレンタイン・エラー②

 広場中央にできたチョコレートの巨大な沼。

 沼はマグマのように、ボコボコと泡立ち、生き物のようにうねり始める。巻き込まれたプレイヤーが、叫び声とともに消えてゆく。

 甘すぎる香りが、一帯を飲み込んだ。


 そして、ソレは現れた。

 チョコレートの沼から凝縮され、どろっとしたチョコの球体が浮かび上がる。

 球体は見る見る形を変えてゆく。ぐにゅぐにゅと引き伸びてゆきながら、手や、脚が出現する。顔になる部分が出てきて、球体はやがて、ソレの形を形成していった。


 ――翼の生えた巨大なトカゲのような怪物。

 ――ドラゴンである。

 鱗の一つ一つが、綺麗に縁どられたチョコ細工、首筋はホワイトチョコレートでできている。翼は、黒と茶色のチョコの、ひし形を折り重ねた美しい模様が施されている。


「「「「「「「「「「「ドラゴンだ!」」」」」」」」」」」


 プレイヤーたちは、ドラゴンを前に色めき立った。

 カナエも、思わず息を呑む。

 ケイからVCが入った


『カナエさん、そいつ、チョコットドラゴンだ!』


「強そうですね」


『強いよそれ! チョコ大王の塔の隠し部屋に作った裏ボス。テスト担当のGMは勝てなかった。30PTが挑んで、勝てたPTは一つだけ。8人のBPTで、からくもって感じ』


「もうちょっと……かっこいい名前なかったんですか……」


『ネーミングは開発センターのセンター長に言っとくよ。まぁそれは置いといて、そのドラゴン――』


 チョコットドラゴンが、ぐわっと口を開いた。

 次の瞬間――渦巻くチョコレートブレスが放たれた。バリーン、バリーン、プレイヤーの肉体が破壊される音が続けざまに聞こえてきた。


 ブレスに耐えたのは、盾を構えていたアーマーソルジャーだけだった。が、そのアーマーソルジャーも、その甲冑はチョコレートだらけで、濃すぎるその匂いに、ゲホゲホと咽てしまった。


「ブレス、吐きますね」


『その通り。ブレスは三種類。一つは、ミルクチョコレートブレス、食らうと鈍足効果。二つ目はブラックチョコレートブレス、大ダメージに加えてチョコ依存症効果。三つ目はホワイトチョコレートブレス、ほっこり効果』


「ケイさん、鈍足はわかるんですけど、チョコ依存症とほっこり効果って何ですか!?」


『あぁ、そうか――ええとですね、チョコ依存症効果っていうのは、チョコ毒によって引き起こされるもので、名前の通り、依存症になるものです。時間とともに治ります』


「ほっこり効果っていうのは?」


『戦意を失って、のほほんとした状態になります』


 説明を聞いても良くわからないカナエだったが、それらをカナエは、すぐに目の当たりにすることになった。


 ブラックチョコレートブレスが来た。

 ブレスを直接受けなかったプレイヤーは生き残ったが、その飛び散ったブラックチャコがプレイヤーにかかると、プレイヤーたちは、おかしな行動をとり始めた。

 広場に散らばったチョコ片や溶けたチョコのチョコ溜まりによろよろと近づくと、それを舐め始めたのだ。


 次に、ホワイトチョコレートブレスが来た。

 受けたプレイヤーは、死にはしなかった。

 が、起き上がったプレイヤーたちは、武装を解除すると、酔っ払いのようなしまりのない笑い顔を浮かべて、ふらふらし始めたのである。


 他から見れば狂気の沙汰である。

 一心不乱にチョコを舐めとるバーサーカーがいる隣では、焦点の定まらないアーマーソルジャーだった男が、ふらふら楽しそうにしている。


『そのモブはネストコアになる可能性があります。倒してください!』


「やってみます」


 カナエは、ショットガン片手に、チョコットドラゴンに挑んだ。

 ブレスをかいくぐり懐に侵入し、一発、二発、三発、ゼロ距離射撃。が、それくらいで落ちるほど、ドラゴンはやわではなかった。


 チョコットドラゴンの咆哮。

 ドラゴンの周囲にチョコの沼が出現し、そこから、生チョコの塊が吹き上げてくる。カナエは、思わず後退した。


「カナエ様、危ない!」


 エトワの声。

 直後、チョコットドラゴンの尻尾が、カナエを殴打した。カナエは、横から来た尻尾の上に背中を乗せてくるりと躱した。着地と同時に、ホワイトチョコレートブレス。


 それを――。

 二回宙返り半ひねりで躱し、カナエはチョコットドラゴンと向き合う。


「カナエ様、お見事ですわ!」


 カナエの動きに、エトワは思わず声を上げる。

 チョコットドラゴンは大口を上げて咆哮した。チョコットドラゴンの前にチョコの沼が出現し、そこから、チョコの壁が出現した。


 カナエが一瞬、壁に気を取られた瞬間、ミルクチョコレートブレスが壁をぶち抜いて、カナエに襲い掛かった。


「……っ!」


 カナエは、辛くもそれを、背面跳びのごとく躱した。

 そのまま、崩れようとしているチョコの壁を三段ジャンプで登る。チョコットドラゴンの二発目のブレスが、壁を突き破った。

 カナエは、壁が崩れる直前で、そのてっぺんにたどり着き、そこから、大きく跳躍。上からの襲撃に気付いたチョコットドラゴン、尻尾でカナエを叩き落そうとする。


 カナエは飛んできた尻尾を掴むと大車輪を決め、そのままチョコットドラゴンの背中に着地した。


 ズバアアアン!

 ズバアアアン!


 ショットガンのゼロ距離射撃、連射。

 堪らず咆哮するドラゴン。

 体を大きく揺らし、振り落とそうと試みる。カナエは飛び上がり、今度は首筋に着地し、三発の弾丸を浴びせ、そのままするりと、ドラゴンの首の下に入り込んだ。


 ドラゴンはカナエを見失った。

 カナエはドラゴンの顔の真下から、ショットガンを撃ち込んだ。

 チョコットドラゴンはぶわっと翼を広げ、のけ反った。


「逃がすか!」


 カナエ、さらに追撃。

 チョコットドラゴンの懐に再び入り込むと、その首に銃口をあてがい、撃った。チョコットドラゴンは最後の抵抗と、無茶苦茶にブレスを放った。

 カナエは冷静に、その首や腹に、弾丸を撃ち込んでいった。


 キュイイイイイイ……。


 やがて、可愛らしい断末魔の叫びをあげて、チョコットドラゴンは崩れ落ちた。

 カナエは銃をしまい、チョコットドラゴンがココアパウダーのようになってゆくのを見守った。


 ほどなくして、プレイヤーがネストを攻略したというアナウンスが、メサイオンの町に響き渡った。町を襲っていたパンプキンヘッドも、次第にその数を減らしていった。


 チョコットドラゴンが退治された理解の広場では、チョコに飢えたプレイヤーがチョコを舐め、ほっこり毒に侵されたプレイヤーがふらふらする光景が、しばらく続いた。


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